カテゴリーアーカイブ:人生の達人

育児をする社長は社員の信頼を得る

2022年2月3日   岡本全勝

1月25日の日経新聞夕刊「カジダンへの道」、青野慶久・サイボウズ社長の「家事・育児で社員の心つかむ」から。

・・・僕が家事や育児をしていることは、社員からの信頼を得るという意味でも貢献してるかもしれない。選択的夫婦別姓について訴えたときもそうだったが、特に結婚した女性からの反響が大きい。「この人は味方ではない」と思っていた人が味方に立ってくれたという感覚なのだろう。「社長なのに家事や育児をするパパ・ママの気持ちを分かってくれる」と認識してもらうことは、仕事上の武器になっていると思う。
社内のSNS(交流サイト)に「子どもが熱を出したのでお迎えに行きます」と書き込むと、親近感をもった社員から「青野さん頑張れ!」などと反応がある。狙ったわけではないが、働くパパやママが「共に戦う社長だ」と思ってくれるのはありがたい。

新型コロナウイルス禍で在宅勤務が増えたとき、社内で一部のパパ・ママから悲鳴が上がった。保育園も小学校も休業になり、小さい子どもがいる家庭では在宅勤務しようにもパフォーマンスが出せない。ビデオ会議をすると小さい子どもが走り回って邪魔するし、泣いたり、けんかしたりして辛いという悩みだ。
それを聞いて、「我が家も一緒だ。3人子どもがいて大変なことになっている。僕も全然パフォーマンス出せていないから、気にするな」と書き込んだら、「青野さん、分かってくれてる」と喜ばれた・・・

・・・サイボウズでは、「100人いたら100通りの働き方がある」という理念を掲げている。最長6年間の育児・介護休暇制度をはじめ、通学や副業のためといった個人の事情にも対応し、勤務時間や場所を決めることができる。
もともとは、離職率が高かったのを改善しようとして始めた取り組みで、仕事大好き人間の自分が利用するつもりはなかった。けれども、僕自身も子どもを持ち、仕事一辺倒では立ちゆかない環境になってしまった。子どもが生まれるたびに育児休暇をとり、今は在宅勤務をしながら家事や育児にも取り組む。この制度があって助かったと、後になって気づいた。

仕事人間だったころは「人生の幸せは野望をもって実現していくことだ」と思っていたが、家事・育児をするようになって意外に近くに幸せはあると気づいた。家事に取り組むことに抵抗のある男性はいまだに少なくないが、家事をやっておいたほうが、人間としての引き出しが増える。世の男性にも勧めたい・・・

数学者の孤独

2022年1月26日   岡本全勝

加藤 文元ほか著「人と数学のあいだ 」(2021年、トランスビュー)に、次のような話が載っています。90ページ「作家の孤独」以下。

数学者は難しい問題を、多くの場合一人で解きます。孤独な作業です。他方で、それを他人に理解してもらわなければなりません。証明を説明しなければならないのです。そして、それを理解できる人が必要です。文中では、共鳴箱と表現されています。
それは、結論を得る過程でも必要なことでしょう。間違いを指摘してくれたり、違った角度から意見をくれたり。
孤高の天才で終わっては、社会に認められません。分かってくれる人がいないと、大きな仕事はできないのです。

デジタル化の壁、中間管理職

2022年1月23日   岡本全勝

1月19日の日経新聞に「DXの壁は中間管理職? 40代「関わりたくない」4割」という調査結果が載っていました。
・・・大企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)は中堅社員がボトルネックとなっている可能性がある。DXに関する意識調査で40代の4割が「関わりたくない」と回答し、世代別で最多だった。中間管理職は短期で成果を求められることに加え、失敗しても挑戦を評価する人事制度がないことが少なくない。前向きにDXに取り組む動機づけが課題となる。

「上から『とにかくやれ』と言われても何から手を付けていいか分からない」。大手製造業で働く40代社員はこぼす。40代は自ら業務をこなしながら、部下の育成や労務管理をするプレイングマネジャーは多い。子育てや介護もある。デジタルを使った新規事業の開発など成果が出るまで時間のかかるDXに時間を割く余裕はない・・・

・・・日本の中堅社員のDXに対する後ろ向きな意見は世界でも突出している。米IT(情報技術)企業のABBYYが実施した調査で自社のデジタル化について聞いたところ、「十分に準備している」との回答は日本の中間管理職(マネジャー)が37%と、米国(75%)やドイツ(61%)を大きく下回った。パナソニックの玉置肇最高情報責任者(CIO)は「欧米企業は意思決定がトップダウンなのに対し、日本はボトムアップも重視するからだ」と説明する。
経営者の決めた方向性に向かってベクトルを合わせて一気に走る欧米企業と比べると日本は合意形成に時間をかけ、スピードが遅い。経験豊かな中堅社員は仕事のやり方を変えるのが簡単ではないことを熟知しているからこそ、後ろ向きな声が多いという見立てだ・・・

桜宮高、不祥事からの再生

2022年1月19日   岡本全勝

1月15日の朝日新聞スポーツ欄に「9年前の激震地で進む改革 大阪・桜宮高校長「変わった姿をみて」」が載っていました。
・・・9年前のあの痛ましい出来事の舞台が、部活動改革の最前線を歩んでいる。
大阪市立桜宮高。
男子バスケットボール部主将が、顧問から受けた暴力などを理由に自死したことが明らかになったのが、2013年1月。スポーツ界で暴力撲滅への本格的な努力が始まるターニングポイントとなる激震だった。
以来、二度と同じことが起きない学校づくりを進めてきた。
生徒の約4割が人間スポーツ科学科。15の運動部活動は今も盛んで、全国大会や近畿大会に出る部も珍しくない。
「勝つことは目指します。でも、それ以上に、生徒が自分たちで考えられる力をつけることを、各部の顧問が意識しています」と森口愛太郎校長。勝利至上主義ではなく、生徒主体のプロセスを重視することで、暴力との決別を図ってきた・・・

・・・そんな中、桜宮高では昨年11月から休日に都島区の中学生を対象としたスポーツ体験会を始めた。バスケットボール、サッカー、バレーボール、陸上、ボートの五つ。各部の顧問と部員たちが手本を見せ、アドバイスなどをする。11月は93人、12月は52人の中学生が参加した。
これは中学の部活動を地域に委ねる実践研究の一環だ・・・
・・・桜宮高も歓迎する。「授業の一環でもあるコーチングの実践になる」という同校の指導者の声が、今月13日に開かれた市の有識者会議でも報告された。高校生が下の世代の指導に携わり、その難しさと面白さを知る。勝つことだけでない、スポーツを通じた視野が広がる。
森口校長は言う。
「どこかで体罰事案があれば、今もうちの名前が出る。それは仕方ない。だからこそ、ありのままを見ていただきたいのです。これだけ変わってきたということを」・・・

長谷川真理子「私が進化生物学者になった理由」

2022年1月12日   岡本全勝

長谷川真理子著「私が進化生物学者になった理由」(2021年、岩波現代文庫)をお勧めします。長谷川真理子さんは、元早稲田大学教授、総合研究大学院大学学長。その半生記です。生物好きの少女が、生き物を対象とする研究者になります。しかし、そう簡単な道のりではありません。

今では考えられない「男社会」の中を、生き抜いていきます。女性には、学者や研究者の門が閉ざされていたのです。長谷川さんも、研究をあきらめ、教育者として生きていきます。
さらに、「既存学界」の壁にもぶち当たります。通説を批判すると、長老たちから笑われ、無視されるのです。それも理屈ではなく、「長老たちのお師匠さん」を批判することは許さないという理屈です。
日本の学界、それも自然科学の分野で、こんなことがあったのだと驚きます。その意味でも、貴重な記録です。