カテゴリーアーカイブ:人生の達人

ジョブ型雇用、専門性と技術の向上へ

2020年12月16日   岡本全勝

12月7日の日経新聞経済教室「ジョブ型雇用と日本社会」、本田由紀・東京大学教授の「専門性とスキルの尊重を」から。

・・・注目が高まっているジョブ型雇用だが、言葉が広まるとともに多くの誤解も生まれており、中心的に提唱してきた濱口桂一郎・労働政策研究・研修機構労働政策研究所長が、自身のブログや諸所のメディアで懸命に誤解を正している。
要点を復習すると、ジョブ型雇用は(1)成果主義ではなく(2)個々の社員の職務能力評価はせず(3)解雇がしやすくなるわけではなく(4)賃金が明確に下がるわけではない――ということだ。この点に関しては、紙面でも「労働時間ではなく成果で評価する。職務遂行能力が足りないと判断されれば欧米では解雇もあり得る」などと間違った説明がされており、反省を求めたい。

ジョブ型雇用とは、職務記述書(ジョブディスクリプション)で規定されたジョブに、それを遂行するスキルをもった働き手を当てはめるやり方だ。そのジョブを支障なく担当していれば、成果や職務遂行能力のこまごまとした評価は行わない。社内にそのジョブが存在しなくなった場合も、欧州では他のジョブへの変更を打診するよう定められており、使用者側の都合による解雇は厳しく規制されている・・・

・・・正しいジョブ型は、むしろ働き方を改善するためのものである。鶴光太郎・慶応大学教授らの研究「多様な正社員の働き方の実態」などによると、ジョブ型雇用の正社員は従来型のメンバーシップ型雇用の正社員に比べ、仕事内容や労働時間に関する満足度が高く、ストレスや不満は少ない。
輪郭が明瞭なジョブに専心できるという働き方は、使用者のフリーハンドで仕事内容が量・質ともに無限定に変化・増大する従来型の雇用に比べ、働き手にとっての負荷や不確実性が軽減される。加えて、もっとも重要な点は、ジョブ型雇用ではジョブに即した専門性やスキルが発揮しやすく、それをさらに向上・更新させることへの働き手の動機づけにもつながりやすいということである。従来型の働き方では、これらの点が不足しやすく、それが日本の雇用や経済にとって重大な弱点となっている。

厚生労働省の「平成30年版 労働経済の分析 ―働き方の多様化に応じた人材育成の在り方について―」は、経済協力開発機構(OECD)の「変化する、求められるスキルの評価と予測」に基づき、国際比較を行っている。
その結果、日本では労働者のスキル不足を感じている企業の割合および労働者の教育経験・専門分野・スキルと仕事のミスマッチが生じている割合が突出して高く、それにもかかわらず企業の能力開発費が国内総生産(GDP)に占める割合が他国と比べて著しく少ないことを指摘している。
この点については、筆者の「世界の変容の中での日本の学び直しの課題」でも論じている。OECD国際成人力調査(PIAAC)の結果から、日本の成人の「学び直し」が他国と比べて少なく、また職場や労働市場においてスキルを発揮できている度合いも国際的に見て低いことがわかる・・・

ジョブ型は成果主義じゃない

2020年12月15日   岡本全勝

12月7日の朝日新聞「ジョブ型は成果主義じゃない」「広がりどうみる――名付け親・濱口桂一郎さんに聞く」から。
・・・「ジョブ型」と称した人事制度を採り入れる企業が増えています。日立製作所などの大手も導入し、日本型雇用が本格的に崩れるとの見方もあります。「ジョブ型」の名付け親として知られ、労働政策研究・研修機構で研究所長を務める濱口桂一郎さんは「ジョブ型は『成果主義』の代替用語ではない」。一体、どういうことなのでしょうか・・・

――「ジョブ型」を打ち出す企業が増えているのはなぜでしょうか。
「多くは単に成果主義の賃金・人事制度を『ジョブ型』と称しているに過ぎない。20年前に失敗した成果主義導入のリベンジ(雪辱)を果たしたい企業が、今度は、JD(ジョブ・ディスクリプション・職務記述書)を物差しにして社員を評価しようとしているのだろう。だが、そもそも誤解がある。ジョブ型は、一部の例外を除いて、労働者を評価なんてしない仕組みだからだ」
「ジョブ型は、その人がその仕事をできるかどうかは、ジョブに当てはめる前に評価する。やらせると決めた後は評価しない。あとは、その人がJDに書かれたことをやればJDに書かれた給料が支払われ続け、できなければ能力不足で解雇になる可能性があるだけで、評価や査定という話にはならない」

――配達員が会社と雇用契約を結ばず、個人事業主としてネットで仕事を請け負う飲食宅配の仕事は、もはや「ジョブ」ですらないという指摘もあります。
「ジョブは、多くの『タスク』の束だ。会社は一つひとつのタスクまで働き手に指揮命令していたら大変なので、タスクをまとめたジョブを、きちんと雇った労働者に任せ、その様子を監督することで、取引コストを低減してきた」
「ところが、情報通信技術や人工知能(AI)の進展で、プログラムさえ組んでおけば、人間が指揮監督しなくても個々のタスクをコントロールするメカニズムが可能になった。その代表例が、個々の運搬作業だけを任されているウーバーイーツなどの宅配や運輸の分野だろう」
「この仕組みが、もっと高度な仕事にまで入ってきたらどうなるのか。ジョブ型どころか、仕事はタスクにばらけ、人々は単発のタスクを請け負う『デジタル日雇い』として働く世界が来るかもしれない。欧米では、『雇用の時代』が終わり『請負の時代』が始まるという議論も起きている。仕事のタスク化は日本でも始まっており、決して人ごとではない深刻な問題だ」

職場の失敗、社長は辞任すべきか

2020年12月14日   岡本全勝

12月9日の日経新聞夕刊コラム「十字路」は、「東証社長は辞任すべきだったか」でした。
・・・なんとも後味の悪さを残す処分だった。東京証券取引所のシステム障害と売買停止の責任を取り、宮原幸一郎社長が11月30日付で辞任した。本人が強い意志を固め、自ら辞任を申し出たという・・・それでも、果たしてトップが辞任する必要があったのかは議論の余地があろう。
海外取引所もたびたびシステム障害を起こすが、トップの辞任に発展した例は聞かない。11月にほぼ終日売買を止めた豪証券取引所は、おわびのリリースを出しただけだ。
東証は過去に大規模な障害を起こした反省から「ネバーストップ」をスローガンに掲げ、絶対に止まらないシステムの構築を目指してきた。
だが絶対に止まらないシステムなど存在しない。止まるたびにクビを差し出していては、いくらクビがあっても足りない。東証自身もいうように、障害が起きた際の「回復力(レジリエンス)」を高めることの方がより重要だ。

今回の東証のトップ辞任の根底にあるのは、常に完全無欠のシステムを求める日本社会に特有の暗黙の前提だ。それが東証の萎縮や過剰な品質を招きかねないリスクに、我々は目を配るべきだろう。
今回の売買停止に対し、内外の投資家からは不満はほとんど出ていないという。金融庁は「投資家の信頼を著しく損なった」と東証を批判したが、そもそも投資家が寄せる期待はそこまで高くなかったということだ。市場の魅力を高めるために、やるべきことは山積する。東証に萎縮している暇はない・・・

同感です。失敗や不祥事が起きると、おわびの記者会見があり、その際に「今後二度とこのようなことのないようにしてまいります」と発言があります。それを見ていて、時に「そんなの無理だよな」と思うことがあります。
原発事故は起こしてはなりませんが、自動車事故はしょっちゅう起きます。職員の不祥事も、職員数が多いと完全に防ぐことは無理です。
記者会見で社長を追求している記者さんだって、属している会社が「絶対不祥事を起こさない」とは考えていないでしょう。

低い在宅勤務の生産性

2020年12月13日   岡本全勝

12月9日の日経新聞経済教室「コロナ危機と生産性」、森川正之・一橋大学教授の「在宅勤務の適切な利用カギ」から。
・・・以下、アフターコロナの生産性向上のために求められることを考察したい。
第1は在宅勤務の適切な利用だ。緊急事態宣言前後から大企業のホワイトカラー労働者を中心に在宅勤務者が急増し、オンライン会議などデジタル技術の活用が進んだ。しかし筆者が経済産業研究所で就労者および企業を対象に実施した調査によれば、在宅勤務の生産性は職場に比べて平均で3~4割低い。在宅勤務の生産性は、業務の性質や労働者の属性による分散が非常に大きく、ごく少数ながら在宅の生産性の方が高い人もいる。だが感染抑止のために半強制的に実施された在宅勤務の生産性は、少なくとも平均的には職場の生産性に遠く及ばない。

デジタル化が進んだとはいえ、対面での緊密な意思疎通の効率性は高いし、雑談から新しいアイデアが生まれることも多い。また職場内訓練(OJT)や組織内の擦り合わせは遠隔では難しい面がある。在宅勤務の生産性には突然始まったことに伴う調整コストも影響しているので、学習効果や自宅の情報通信インフラへの投資を通じて改善するはずだが、職場並みの生産性になることは期待しづらい。実際、コロナ前から在宅勤務をしていた人でも、職場に比べると在宅の生産性は平均で2割ほど低い・・・

・・・職場か在宅かの二者択一ではなく、リアルとオンラインの長所・短所を考慮して業務の性質に応じて使い分ければ、本来はトータルでの生産性にプラスになる。ただし職場の方が効率的な業務の存在を考えると、完全在宅勤務が最適な労働者は例外的で、在宅勤務者でも週2~3日は職場に出勤するといった形での利用が主流になるのではないだろうか・・・

話しかけられて嫌なときほどうれしそうな顔をしろ

2020年12月7日   岡本全勝

12月3日の日経新聞夕刊、私のリーダー論は、野島広司・ノジマ社長の「部下の声にうれしい顔を」でした。

――理想のリーダー像はありますか。
「やはり部下から尊敬されていない人はリーダーとしては不適格だと思います。尊敬されるというと言い過ぎかもしれませんが、上司の悪い点を部下が言いやすい環境をつくらなくてはなりません。部下の意見などを抑え込む人はリーダーとしてよろしくないと思います」
「親子関係もそうです。親に何でも相談できる性格の子と、できない子がいますよね。でも子供が相談できないのは半分以上、親が悪いのだと私は思います。ですから『話しかけられて嫌なときほどうれしそうな顔をしろ』とリーダー候補と思う人には言っています。そうすると部下の姿が見えるようになります」

――でも、忙しいときに話しかけられるといらつきませんか。
「イラッとします。会社でも私が出かけようとするときに限って話しかけてきて了承を求める社員もいます。イラッとして『こんな忙しいときにまた持ってきて』と言葉に出しちゃいます。本人に面と向かって言うのが私のスタイルなんです」
「人を叱るときはオープンな場で叱ります。一対一で叱れ、と言う人もいますが、他の人が聞いている方がいいと思います。言い過ぎたと思ったときには謝ります。この年になって、その加減がようやく少し分かってきました」