ジョブ型雇用、専門性と技術の向上へ

12月7日の日経新聞経済教室「ジョブ型雇用と日本社会」、本田由紀・東京大学教授の「専門性とスキルの尊重を」から。

・・・注目が高まっているジョブ型雇用だが、言葉が広まるとともに多くの誤解も生まれており、中心的に提唱してきた濱口桂一郎・労働政策研究・研修機構労働政策研究所長が、自身のブログや諸所のメディアで懸命に誤解を正している。
要点を復習すると、ジョブ型雇用は(1)成果主義ではなく(2)個々の社員の職務能力評価はせず(3)解雇がしやすくなるわけではなく(4)賃金が明確に下がるわけではない――ということだ。この点に関しては、紙面でも「労働時間ではなく成果で評価する。職務遂行能力が足りないと判断されれば欧米では解雇もあり得る」などと間違った説明がされており、反省を求めたい。

ジョブ型雇用とは、職務記述書(ジョブディスクリプション)で規定されたジョブに、それを遂行するスキルをもった働き手を当てはめるやり方だ。そのジョブを支障なく担当していれば、成果や職務遂行能力のこまごまとした評価は行わない。社内にそのジョブが存在しなくなった場合も、欧州では他のジョブへの変更を打診するよう定められており、使用者側の都合による解雇は厳しく規制されている・・・

・・・正しいジョブ型は、むしろ働き方を改善するためのものである。鶴光太郎・慶応大学教授らの研究「多様な正社員の働き方の実態」などによると、ジョブ型雇用の正社員は従来型のメンバーシップ型雇用の正社員に比べ、仕事内容や労働時間に関する満足度が高く、ストレスや不満は少ない。
輪郭が明瞭なジョブに専心できるという働き方は、使用者のフリーハンドで仕事内容が量・質ともに無限定に変化・増大する従来型の雇用に比べ、働き手にとっての負荷や不確実性が軽減される。加えて、もっとも重要な点は、ジョブ型雇用ではジョブに即した専門性やスキルが発揮しやすく、それをさらに向上・更新させることへの働き手の動機づけにもつながりやすいということである。従来型の働き方では、これらの点が不足しやすく、それが日本の雇用や経済にとって重大な弱点となっている。

厚生労働省の「平成30年版 労働経済の分析 ―働き方の多様化に応じた人材育成の在り方について―」は、経済協力開発機構(OECD)の「変化する、求められるスキルの評価と予測」に基づき、国際比較を行っている。
その結果、日本では労働者のスキル不足を感じている企業の割合および労働者の教育経験・専門分野・スキルと仕事のミスマッチが生じている割合が突出して高く、それにもかかわらず企業の能力開発費が国内総生産(GDP)に占める割合が他国と比べて著しく少ないことを指摘している。
この点については、筆者の「世界の変容の中での日本の学び直しの課題」でも論じている。OECD国際成人力調査(PIAAC)の結果から、日本の成人の「学び直し」が他国と比べて少なく、また職場や労働市場においてスキルを発揮できている度合いも国際的に見て低いことがわかる・・・