岡本全勝 のすべての投稿

魅力のない東京駅

テレビで世界の鉄道や駅を旅する番組があります。例えば「NHKヨーロッパ発 駅ロマン」。中には、立派な駅があります。建物が立派なだけでなく、広々として、開放的な空間があります。新しくなった広島駅の路面電車乗り場もきれいなようです。
それに対して、東京駅です。丸の内側の正面外観は風格があります。もっとも、これを見るのはニュースくらいで、多くの人はこれを見ずに駅の中を移動します。

では、構内はどうなっているか。みなさんは、どのような印象を持ちますか。私は、混雑した通路としか思えません。
利用客は、当初の想定をはるかに上回っているのでしょう。人とぶつからずに歩くのが難しいくらいです。しかも、不案内な旅行客や、大きな荷物を持った客も多いです。
広い空間や高い天井の空間はありません。せいぜい、丸の内側の北と南の入り口、六角形の場所くらいでしょうか。あとは、低い天井の通路だけです。待合場所も狭いです。
絵になる場所、写真を撮りたい場所がないのです。

そして、やたらと売店が並んでいます。駅というより、商店街です。鉄道会社が業績を上げるために、できる限り店を入れているのでしょう。
その意図はわからなくはありませんが、「公共空間」「出会いの場」といった価値は忘れられています。駅には美術館も作られていますが、ちぐはぐです。あるいは、言い訳でしょうか。
新幹線は快適な乗り心地や時間の正確性を誇り、特急列車も外観に力を入れているようです。しかし、駅に関しては、通路・通過点と商店街でしかないようです。

このような公共空間の素晴らしさは、広さと高さ、意匠などにあります。それは無駄かもしれません。しかし、魅力とはそのようなものでしょう。東京駅には、それを期待できません。
駅は、出会いや別れの場です。でも、映画の撮影には、使われないでしょうね。利用した人は、国の内外を問わず、東京駅に特別な印象や記憶を持つことはないでしょう。残念なことです。

バブル崩壊後の経済改革がもたらしたもの

10月11日の朝日新聞読書欄、諸富徹・京大教授の「戦後80年、経済 バブル崩壊後の改革こそ検証を」が、勉強になります。ぜひ全文をお読みください。

・・・エズラ・F・ヴォーゲルによる『新版 ジャパン アズ ナンバーワン』は、日本の経済的成功の秘密を探った大ベストセラーである。
本書によれば日本企業は、長期的利益を重視する点に特徴があった。それが可能だった第1の要因は、短期利益を追求する株主でなく、メインバンク制の下で、銀行が息長く企業の成長を支えた点にある。第2の要因は終身雇用制の下で、若手社員を育成して能力を引き上げ、年功序列で昇進・昇給させたため、社員に帰属意識が芽生え、忠誠心を獲得できた点にある。幹部と一般社員の待遇格差は海外企業に比べて小さく、組織的な一体感を醸成し、厚みのある中間層の形成に役立った。

これを一変させたのが、1990年のバブル崩壊だ。宮崎義一『複合不況』(中公新書)は、その本質を摘出した名著である。それまでの不況は、モノの市場で需給バランスが崩れることで起きていた。だがこの不況は、資産(土地・不動産)市場で起きた金融ショック(資産価格の急落)が実体経済に波及し、不況が引き起こされる新しい現象だと指摘した。本書の真骨頂は、90年代初頭における日米同時の複合不況の背景に、80年代以降に始まった国際的な資本移動や金融の自由化があることを見抜いた点だ。

バブル崩壊後の日本は、巨額の不良債権処理と低成長にあえぐ。世界を制覇した製造業は競争力を失い、中国、韓国、台湾の企業に敗れた。
高度成長を可能にしたシステムに自信を失ったばかりか、それこそが成長の桎梏だと認識した日本は、二つの大きな改革を行った。一つは「コーポレートガバナンス(企業統治)」改革であり、経営者の使命を「株主価値の最大化」に据えた。もう一つは、製造業への派遣労働の解禁だ。これによって非正規雇用が大幅に拡大、現在では約4割にまで高まった。

前者によって経営者は、株主への配当支払いを高め、株価の維持に汲々とするようになった。ヴォーゲルが称賛した日本企業の「長期的利益の視点」は弱められた。たしかに後者によって日本企業は、人件費を抑制して利益を確保することが容易になった。だが賃金は上がらなくなり、インフレで実質賃金はむしろ低下、我々は貧困化した。河野龍太郎『日本経済の死角』(ちくま新書)は、これを「収奪的システム」として厳しく指弾する。
その行き着いた先が格差の拡大であり、橋本健二のいう『新しい階級社会』(講談社現代新書)だ。彼は、2022年の3大都市圏調査に基づいて、「アンダークラス」の実態を明らかにした。パート主婦以外の非正規雇用労働者で、平均個人年収は216万円。男性の未婚率は4分の3に達し、少子化を招いている。「厚みのある中間層」は、解体の危機だ。

バブル崩壊よりも、それを契機として実行された改革こそが現在、日本企業の競争力低下、格差拡大、少子化など、我々が直面する諸問題の原因となっているのではないか。「失われた30年」をそうした視点で検証し、次の展望を描く必要がある・・・

480万番達成

この画面の右上につけてあるカウンター。今日10月24日午後に、480万番を達成しました。早朝にはまだ479万8千台で、明日に達成かなと思っていたら、いつの間にか急速に増えたようです。
ところで、最近はふだんの2倍も3倍も増える日があるようです。想像ですが、人工知能などが私のページを訪問しているのではないでしょうか。
470万番は8月12日でした。「カウンターの記録、その2

本音は排外的でない日本人

9月28日の読売新聞1面コラム「地球を読む」、大竹文雄教授の「外国人受け入れ」から。

・・・今年7月の参院選では外国人労働者の受け入れに慎重で、規制強化を掲げた政党が票を伸ばした。海外では以前から反移民の政党が支持を高め、日本でも外国人労働者の扱いが主要争点になりつつある。
アフリカと国内4都市の交流を促す国際協力機構(JICA)の「アフリカ・ホームタウン事業」は、反対や懸念の声が多く上がり撤回された。
背景には、1990年に1%未満だった日本の外国人の人口比率が昨年は約3%に達し、10%を超える市区町村もあるという急速な日本社会の変化がある。
製造業、介護、物流、農業など人手不足の現場で多くの外国人が働き、地域経済に活力を与える一方で、急激な変化に不安を覚える人々も少なくない。
ただ、経済学の実証研究では、外国人労働者が自国の労働者の雇用や賃金に深刻な悪影響を与えることは観察されていない・・・

・・・・大阪大の五十嵐彰准教授らは、市区町村単位のデータから、外国人比率が上昇すると排外感情が強まるが、10%を超えると逆に寛容さが増える傾向があることを見つけた。接触が日常化すると脅威感が和らぎ、共生意識が高まる可能性を示唆している。
五十嵐氏の著書「可視化される差別」は、外国人差別の実態を多角的に解明した。労働市場や住宅市場、シェアエコノミーについて調査し、同一条件で応募しても外国人名だと不利に扱われることが確認された。
外国人への職務質問を日本人が正当化する背景に、外国人犯罪率を実際より過大に認識していることがあると示した。「差別はなぜ悪いのか」との問いに五十嵐氏は、賃金や教育水準の低下、健康悪化、他者への信頼喪失などの不利益を定量的に示した。

とりわけ興味深いのは、社会規範と人々の態度のズレを明らかにした点だ。回答者への直接質問と匿名性の高い質問の結果を比較したところ、日本では直接質問の方が排外的な回答が多く、匿名性を担保すると寛容な回答が増えたという。海外とは逆のパターンだ。
これは「本音は排外的でない人が、排外的であるべきだという“社会規範”に合わせて回答している可能性」を示している。排外的な発言が目立つ環境が、排外的意見が多数派だと人々に誤認させ、態度表明をゆがめている恐れがある。
これは多元的無知と呼ばれる現象に近い。「周囲は外国人に否定的だ」と人々が思い込み、自分も“社会規範”に従う。結果的に排外的意見が多数派のように見え、社会全体が実際以上に排外的に映る悪循環が生じているかもしれない・・・

機械は人を楽にしない

人類は、仕事を楽にしようと、道具や機械を作り改良してきました。電気は灯りをともし、自動車は人を運んでくれます。パソコンのワープロソフトと印刷機は、手書きより早く、きれいな活字で文章を印刷してくれます。インターネットは世界中とつながり、情報を集めてくれます。電子メールや携帯電話は、遠くの人と話をしたり、文章のやりとりができます。

では、これで、私たちは楽になったのでしょうか。
電灯が普及するまでは、日が暮れたら寝ていたのでしょう。電灯が普及して、人は夜遅くまで活動するようになり、させられるようになりました。
携帯電話の普及は、いつでもどこでも遠くの相手と話ができ、文章のやりとりができるようになりました。それは、いつでもどこでも、相手から呼び出しを受けることにもなりました。休日でも、夜間でもです。ひっきりなしに送られてくる電子メールは勉強や仕事が中断し、すぐに返事しないと気を悪くする相手もいます。
映画やテレビの時代は、視聴時間と場所が限られていました。ビデオや動画配信が普及して、いつでもどこでも見ることができるようになりました。好きな人は、睡眠時間を削ります。勉強や仕事の時間を削る人もいます。

便利になることと、楽な暮らしが実現することとは、別のことのようです。この項続く。