年別アーカイブ:2026年

しっかり稼いで、社員を好待遇

2026年2月27日   岡本全勝

2月12日の日経新聞夕刊「私のリーダー論」、西浦三郎・ヒューリック会長の「しっかり稼ぎ好待遇」から。

・・・ヒューリックは報酬や福利厚生など社員への手厚い待遇でも知られる。事業規模に比べて社員数は約230人と少数精鋭で、2025年の平均年収は2295万円と国内トップ水準だ。西浦三郎会長は「社員がしっかり稼いでくれるから、目指す経営を実現できる」と語り、人材への投資を重んじる。

―社員の給与や福利厚生の向上に力を入れています。
「対外的には言いにくいのですが、あらゆるステークホルダーのなかで、場合によっては従業員が一番上です。彼ら彼女らの満足度を高め、しっかり働いて稼いでくれなければやりたい経営はできません」
「給与、フリンジベネフィット(給与以外の便益)、オフィス環境の3つを重視してきました。社内カフェの朝食や昼食、飲料は無料です。住宅ローン金利で1%を超えた部分は会社が負担します。あらゆる面で『ヒューリックは良い会社だ』と思ってもらいたい。経営者として当然の望みです」

―こうした待遇に社員が慣れ、パフォーマンスが落ちることはありませんか。
「一定の成績を上げると賞与の支給月数を増やすなど、成果を上げた社員に還元し、モチベーションを高めています。能力がある人は積極的に評価します。女性社員が育児休業で1年休んでも、復職後の働きぶりを見て能力が変わっていなければ、飛び級で昇格させてブランクを防ぎます」
「この仕組みは公務員の方に『一番欲しい制度だ』と言われたこともあります。人口減少をなんとかしなければならないという問題意識があるので、出産や育児をする社員を支えて言行を一致させています」

―20年前の社長就任後は、銀行出身の執行役員全員から辞表を取る大胆な人事改革もしました。反発は恐れませんでしたか。
「(当時の)東証1部上場を目指して組織を大きく変える必要があり、執行役員を一般社員にしました。不満はあったかもしれませんが、僕の耳には聞こえてきませんでした。離反する社員に忖度(そんたく)するより、会社を良くするための決断をしました」
「今も人事部門には、退職者の引き留め工作をするなと言っています。人生は一度きり。本人がやりたいことを尊重したい。他の環境を一度経験するのはその人にもプラスになるでしょう。僕のところに退職の挨拶に来たときは『転職先が合わなかったらまた戻っておいで』と声をかけます。優秀な社員だけね(笑)」

―経営者に向いている人材をどう考えますか。
「考える力があるかどうかです。社員に対しても、これまでと同じビジネスを提案してきたら突き返します。コピーならAI(人工知能)でもできる。不動産の取引一つでも自分なりの工夫をしたり、問題の解決につながる方法を考えたりする姿勢が大事です。変化の激しい時代に持ち合わせているべき資質です」
「経営者は会社が誰に支えられているのかを一番に理解していなければなりません。お客や株主、取引先、社員に有益なことを考え続けることです」

連載「公共を創る」第250回

2026年2月26日   岡本全勝

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第250回「政府の役割の再定義ー気付きにくい経済と社会の実体的な変化」が発行されました。日本社会が、昭和の働き方から「男女共同参画で仕事も私生活も両立させる暮らし」への転換途中にあることを説明しています。

アジアやアフリカの発展途上国政府幹部に、日本の行政と社会の発展を講義する機会がたびたびあります。当初は、国と地方の行政制度と政策、経済発展と政府の役割を話していたのですが、彼ら彼女らと議論するうちに、日本が成功した要因は行政の有能さだけでなく、それが可能となった社会があったからだと気が付きました。
これまで政府は、モノやサービスの提供に力を入れてきました。しかし現在の大きな課題は、経済停滞と社会の不安です。地域の活力低下と少子化がその象徴です。政府の役割と政策を根本的に変える必要があることは、まだ多くの国民に理解されていません。官僚たちも同様です。モノや制度をつくることに慣れていて、意識や仕組みを変えることを、政府の役割とは理解できていないのです。
ところが、この変化は一部で現実のものとして進みつつあります。男女共同参画、子育て、働き方に関する社会の意識と仕組みは、この30年間に大きく変わりました。

第36回と第37回で「この国のかたち」を変えるためには、国民の意識と生活を変える必要があること、そしてその対象として三つを指摘しました。「国民の政治参加と社会参加」「働き方」「多様性と変化への覚悟」です。また、第149回と第150回で、戦後の日本政治と学問を規定した対立軸が過去のものとなったこと、しかし社会と政治の新しい対立軸の設定に失敗していることを指摘しました。そこで私は、現在の対立軸として、「非正規格差」、昭和後期には適合していましたが現在は足かせになっている社会の慣行についての「保守と革新」、排斥か包摂かという「多様性への対応」の三つを挙げました。これらについての認識と改革が必要なのです。
省庁改革では「この国のかたち」の転換に取り組みました。しかしその省庁改革から四半世紀もたつのに、そしてバブル経済崩壊から35年も経つのに、経済や社会の行き詰まりを解決しようという課題への取り組みは好転しないのか。それは、その後の議論が間違っていたからです。

ところで、「第4章 政府の役割再考」が100回になりました。執筆に着手する前に、大まかな構成を考えたのですが。書いていくうちに、どんどん広がりました。特に「3政府の役割の再定義」(第151回~)が、予想以上に膨らみました。こんなに多くなるなら、章を分割すべきでした。でも、もう少しで完結します。

0は、「ゼロ」か「れい」か。

2026年2月26日   岡本全勝

2月12日の朝日新聞夕刊「夕刊 ことば係」は「ゼロかレーか」でした。

・・・「郵便番号、150(イチゴーレー)……」。小学生時代、NHKの子ども向け番組をよく見ていた。当時、番組が視聴者から意見や感想を募る主な方法ははがきだった。私はアナウンサーが読み上げる宛先を書き取り、記念品を期待して感想をせっせとしたためた。
静かな口調でゆっくり読み上げられる「レー」が好きだった。「ゼロ」とは違う新鮮な響きと非日常感からくるワクワクがあった。

だが、レーがここに来て押され気味だ。
昨年10月、NHKの放送用語委員会は電話番号や郵便番号を読む際は「ゼロ」をまず推奨すると決めた。ゼロと読む派が電話番号で86%、郵便番号で77%に上る直近の調査結果などを踏まえた。レーの使用も否定されない。

薄情なようだが、今は私もゼロ派だ。レーは「例」などに音が似て、少し紛らわしい。
イチ、ニ、サン……は中国伝来の漢字(一、二、三……)の音読みで、それにならうと零も音読みでレイ(レー)となる。ゼロは外来語であり、ここに入ると統一がとれない。NHKはそんな考え方をしてきたという・・・

政府に「公文書等」はあるが「公文書」はない

2026年2月25日   岡本全勝

変な表題ですね。でも、次のようなことなのです。役所が扱う文書について定めた法律に、「行政文書」「公文書等」は出てくるのですが、「公文書」という言葉は出てこないのです。もし間違っていたら、すみません。

コメントライナー2023年5月11日号に「「行政文書」は正確か」を書きました。昔は、現在の「行政文書」という言葉はありませんでした。職員が作った文書は、「公文書」といわれる保存を前提とした重要な文書(決裁を受けた文書)と、それ以外の執務の過程で作ったメモなどに区分されていました。「行政文書」という言葉は、1999年に制定された「情報公開法」で作られました。同法では、行政文書には公文書とそのほかの文書の両方が含まれることになりました。ここで、法律上は「公文書」という言葉がなくなり、役所で作る文書と扱う文書は「行政文書」という言葉に変わりました。

ところが、「公文書等」という言葉は残ったのです。「公文書等の管理に関する法律」は、「行政文書管理法」という名称ではありません。
第1条 この法律は、国及び独立行政法人等の諸活動や歴史的事実の記録である公文書等が、健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源として、主権者である国民が主体的に利用し得るものであることにかんがみ、国民主権の理念にのっとり、公文書等の管理に関する基本的事項を定めること等により、行政文書等の適正な管理、歴史公文書等の適切な保存及び利用等を図り・・・
第2条第4項 この法律において「行政文書」とは、行政機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書(図画及び電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られた記録をいう。以下同じ。)を含む。第十九条を除き、以下同じ。)であって、当該行政機関の職員が組織的に用いるものとして、当該行政機関が保有しているものをいう。ただし、次に掲げるものを除く。
第8項 この法律において「公文書等」とは、次に掲げるものをいう。
一 行政文書
二 法人文書
三 特定歴史公文書等

行政機関の保有する情報の公開に関する法律
第1条 この法律は、国民主権の理念にのっとり、行政文書の開示を請求する権利につき定めること等により・・・
第2条第2項 この法律において「行政文書」とは、行政機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書、図画及び電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られた記録をいう。以下同じ。)であって、当該行政機関の職員が組織的に用いるものとして、当該行政機関が保有しているものをいう。ただし、次に掲げるものを除く。

正確には、「公文書館法」は公文書を題名に使っていて、と第2条に「公文書」という言葉も出てきます。ただし定義はありません。
第1条 この法律は、公文書等を歴史資料として保存し、利用に供することの重要性にかんがみ、公文書館に関し必要な事項を定めることを目的とする。
第2条 この法律において「公文書等」とは、国又は地方公共団体が保管する公文書その他の記録(現用のものを除く。)をいう。

国立公文書館法」も、公文書という名称を使っています。

なお、刑法には「公文書偽造等」という言葉があります。第155条の見出しです。ただし、法文には出てこず、定義もされていません。
(公文書偽造等)
第155条 行使の目的で、次の各号に掲げるいずれかの行為をした者は、一年以上十年以下の拘禁刑に処する。
一 公務所若しくは公務員の印章若しくは署名(以下この章、第百六十五条及び第百六十七条において「印章等」という。)を使用して公務所若しくは公務員の作成すべき文書若しくは図画(以下この章において「文書等」という。)を偽造し、又は偽造した公務所若しくは公務員の印章等を使用して公務所若しくは公務員の作成すべき文書等を偽造する行為・・・

危機に求められる女性リーダー?

2026年2月25日   岡本全勝

2月8日の読売新聞「あすへの考」、小久保みどり・立命館大特任教授の「女性よ 危機こそチャンスだ」から。
・・・女性の社会進出に関する障壁を「ガラス」に例える言葉がある。有名なのは「ガラスの天井」だが、昨年10月、憲政史上初の女性首相が誕生した際は、「ガラスの崖」が話題になった。組織が危機的状況に置かれた時、女性がリーダーに選ばれる傾向があることを指す。
組織心理学を専門とし、緊急事態にある組織のリーダーシップについて研究してきた立命館大の小久保みどり特任教授は、15年前にこの言葉に関心を持ち、国内で調査を進めてきた。国際的にみて、特に政治、経済分野で「指導的地位」に就く女性の割合が低い日本。「危機の時は女性にとってチャンスでもある」と語る小久保さんの考察から、女性リーダーを待ち受ける障壁の正体と打開策を考える・・・

・・・「ガラスの崖」という言葉は2005年、英国の大学の研究者の論文で初めて使われました。「ガラスの天井を破ってイギリスを代表する企業の取締役に就いた女性たちは、業績に多大な損失を与えた」。そう指摘した新聞記事に疑問を感じた研究者が、株価のデータや女性が取締役に任命された時期、その前後の業績などから事実関係を検証しました。その結果、関係は逆でした。女性が取締役に就いたから業績が悪くなったのではなく、業績が悪くなった時に女性が取締役に選ばれていたのです。
誰がリーダーになっても失敗するリスクが大きく、いつ足場が崩れるかわからない「崖っぷち」の状況で、女性にリーダーの役が回ってくる。そんな状況を「ガラスの崖」と名付けました。これまでよく耳にしてきた「ガラスの天井」は女性がリーダーになる道を阻む、透明の強固な壁で、同じ「ガラス」でも意味が異なるのです。
「ガラスの崖」現象はあちこちで起きています。不祥事が相次いだことを受け、22年に日本大学理事長に林真理子さんが就任したのはその一例でしょう。海外では、新型コロナウイルス禍に首相官邸で催したパーティーを巡る不祥事で辞任した首相の後を継いだ、リズ・トラス元英首相らがいます。彼女の在任期間はわずか49日でした・・・

・・・(「ガラスの崖」現象が生じる)要因の一つは、現状維持を望み、変化を避けようとする心理の裏返しです。歴史を振り返ると、男性リーダーが多かったため、組織運営が順調である限り変化の要求はなく、男性をリーダーに選びます。しかし、男性が組織を危機的状況に陥れた場合、女性をリーダーに選ぶことで現状を変化させようとするのです。
リーダーの特性に対する固定観念も影響しています。「自信がある」「意志が強い」などの「作動性」という特性は、多くの人が思い浮かべるリーダー像です。これは男性の特性とも認識されがちで、成果を上げている組織では作動性を持つリーダー、つまり男性を選ぶ傾向があります。
一方、女性の場合、「思いやりがある」「温かい」などの「共同性」という特性を持つと思われています。危機や変化にさらされると、仲間を励まして共に行動できるような共同性のあるリーダーが求められ、女性が選ばれやすくなります・・・