年別アーカイブ:2026年

上司と部下の一対一対話

2026年2月14日   岡本全勝

1月20日の日経新聞夕刊「「1on1」惰性にしないコツ」から。1on1って、一対一対話のことですよね(日本語もここまで来たか)。

・・・職場での新しいコミュニケーションの形である「1on1(ワンオンワン)」に工夫を凝らす企業が増えている。一方通行ではなく双方向のやりとりとして注目されているが、形式的な導入で効果を疑う見方も根強い。鍵となるのは1on1にどのような役割を持たせるかという明確な目的意識の違いだ。

「取引先との商談中にフォローしてもらえなくて悲しかった」「小さな成果だったけど褒められてとてもうれしかった」――。人材サービスのエンの営業部門で2人の部下を持つ小林菜津子さんは毎月末、1カ月の業務を振り返る1on1の中に部下から「うれしかったこと」「悲しかったこと」を聞く「キモチ伝達タイム」を組み込んでいる。
5〜10分程度だが、伝えることをためらいがちな人でも専用の時間をつくれば言いやすくなる。部下は気持ちを率直に言葉にするだけで、上司はあくまで聞き役に徹する。

エンでは社員に求める業務遂行能力の一つに「キモチ伝達力」を定めている。感情を言葉にすることで、チームメンバーの考え方の違いをお互いが理解して、わだかまりをできにくくする狙いだ。
小林さんの部下で新卒1年目の白石彩絵さんは「業務が逼迫してつらいとき、『つらい』ということを言っていいのか分からなかった」と入社当初を振り返る。素直に感じたことを伝えたことで、業務の優先順位を整理するなど具体的な解決につながった。
小林さんは「部下の関心や適性を把握して、今後のキャリアプランを考えることにもつながる」と副次的な効果も実感している。

パーソル総合研究所の調査によれば1on1はおよそ8割の人が経験済みだが、部下の3割は「効果を感じられない」と答えた。月1回などの高い頻度で開かれ、人事評価には直結しないといった点が考課面談とは異なるが、それだけに目的が曖昧なままでは意義を実感しにくい。

面談相手の「指名制」を採る企業も増えている。
教育システム開発のロゴスウェア(茨城県つくば市)は1on1を「ひとりで解決できないことを相談して、解決の方向性をつくる場」(高濱洋子・最高人事責任者)と位置づける。上司や部下に限らず、部門や立場の上下を超えて誰に対しても面談を申し込める点が特徴だ。この仕組みは新しい事業を立ち上げる際のチームづくりに効果を発揮している・・・

スティグリッツ著『資本主義と自由』

2026年2月13日   岡本全勝

知人に勧められて、ジョセフ・スティグリッツ著『資本主義と自由』(原著2024年。邦訳2025年、東洋経済新報社)を読みました。内容も難しくなく、訳も読みやすいです。とはいえ本文は約400ページ、分厚いです。2度ほど半分くらいまで読みすすんだのですが、他の案件で忙しく中断。すると、読んだ内容を忘れていたので、3度目にようやく読み通しました。

著者の主張は、ごく短く言うと次の通りです。私の関心からですが。
新自由主義資本主義は、過去40年間にわたり欧米諸国を支配してきたが、失敗だった。成長率がそれ以前の数十年よりも低下し、格差が拡大した。さらに、社会を分断し、国民の間の信頼関係を損なっている。
フリードマンやハイエクは、経済を自由化すれば経済は発展し、自由も広がる、政府の介入はそれを損なうと主張したが、間違いだった。彼らや経済学が主張しているのは、現実とは離れた「理想的な状況」での競争である。「全員が平等で、完全な情報を得て、対等に交渉する。時間はかからず、即座に均衡に達する。個人の判断は一生変わらない」とする。しかし現実は違う。成功した者は努力の結果だと言うが、親から引き継いだ有利な条件があったからこそ成功している。自由で平等な競争ではない。そして何より、外部経済を無視している。
自由主義経済と言うが、契約を実行しない場合に履行させること、独占を排除することなど、政府が規制をしているから「自由な経済活動」ができる。しかも、2008年の金融危機が起きると、政府の支援を求めた。
行きすぎた経済の自由化は格差を生み、社会を分断させた。トリクルダウンは起きなかった。富裕層とソーシャルメディアは、それを加速している。そしてそれは国内だけでなく、国際的にも広がっている。貿易の自由化はすべての国を豊かにすると言うが、貧しい国はいつまで経っても貧しいままである。アメリカの製造業が中国に移動した。アメリカで失業した労働者はより高い賃金の職を得たかというと、そうなっていない。

公正な社会をつくる経済システムはどのようなものか。これが、著者が経済学を志したきっかけだそうです。
経済学の教科書を読んでいて物足りないのは、本書が指摘しているように、ごく抽象的な状況での経済均衡を分析しているからです。現実は、「雑音」が多くて、そんなに簡単なものではありません。本書はその経済学の限界を指摘し、外部経済を扱うこと、そして政治の役割を縷々述べます。私が、共感を覚えたのは、この点です。
内包と外延、企業評価」の続きにもなります。これは、経済学にも当てはまります。

新自由主義的改革は日本でも支配的な言説となり、国民の頭に入るとともに、多くの改革が行われました。日本にとっても必要だったと思いますが、それが長く流行し、他の問題に取り組まなかったことが問題です。それは、連載「公共を創る」で書いています。
アメリカでは、富の格差がとんでもなく広がり、それは社会と政治の分断を招いています。日本は、まだそこまで行っていないようですが、非正規労働者が4割近くなっています。今後この分断と対立が明らかになるでしょう。

わかりやすい文章と議論なのですが、もう少し短く書くことはできませんかね。せっかくの良い主張なのに、多くの人は最後まで読まない、あるいは分厚さを見て読むことを躊躇するでしょう。

次世代へ投資する社会保障

2026年2月13日   岡本全勝

1月16日の朝日新聞オピニオン欄「ほころぶ社会保障」の続きです。橋本努・北海道大学教授の「次世代へ投資、少子化対策にも」から。

―社会保障に対する不安が高まっている背景には何があるのでしょうか。
「少子化による人口減への不安です。人口減によって国力や経済力が落ちていくことが明らかだからこそ、社会保障を維持できなくなるのではないかという不安が引き起こされている、という構図でしょう」

―昨年刊行の共著「新しいリベラル」で発表した意識調査が注目を集めましたね。日本の有権者がどのような福祉国家を求めているのかを探る調査でした。
「私たちの調査が可視化したのは、『子ども世代や次世代に投資する』という形の新しい社会保障の実現を求めている人々が2割以上いるという実態でした」
「もちろん2割は多数派ではありません。しかし、これまで見えていなかった2割の存在が可視化されたことには意味があります」

―どういう特徴を持つ人々だったのですか。
「従来の『弱者支援』型の社会保障とは異なり、個人の成長を支援する『社会的投資』型の社会保障を求める人々でした。個人の潜在能力の成長を可能にする社会的環境は『自由』の基礎です。それを求める人々という意味で『新しいリベラル』と名付けました」
「また調査では、従来型のリベラルには高齢世代への支援を重視する傾向が見られた半面、新しいリベラルの人々は子ども世代や次世代への支援を望んでいました。具体的には、子育てや教育などへの支援です」

―社会保障というと、年金や医療を思い浮かべる人が多そうですよね。
「ええ。欧州の国々と比べたときの日本の社会保障給付の特徴は、年金と医療の占める割合が高く、それ以外の割合が低いことです。次世代への投資は『それ以外』にあたります」

―調査結果の分析は、「新しいリベラル」の人々の社会保障ニーズに応える政党は存在していないと結論づけられていました。
「政党や政策について尋ねましたが、積極的に支持されている政党は見当たりませんでした。調査時期が2022年だったことには注意が要りますが、子どもや次世代への社会的投資が必要だと思う人々のニーズをすくい上げる政党がなかったことを示しています」

自治大学校で講演

2026年2月12日   岡本全勝

今日2月12日は、自治大学校で講演をしてきました。第1部、第2部、第1部・第2部特別の3課程合同の講演です。合計170人の研修生が聞いてくださいました。
私は、2010年夏から2011年春まで、校長を務めました。3月11日に東日本大震災が発生し、その1週間後に首相官邸から呼び出しを受け、被災者支援にあたり、戻ることはありませんでした。

研修生たちは、今後、各自治体の幹部になる人たちです。そこで、「未来の自治体幹部に望む」と題してお話ししました。仕事をしていく上で考えてほしい「日本の現状」を述べ、良い管理職になるだけでなく幹部にさらに首長になってほしいと話しました。人数が多いので、班別討議など参加型の研修は断念し、質疑の時間を長めに取りました。
幹部候補なので、みなさん熱心に聞いてくれました。質疑も大いに盛り上がりました。

補足、お詫びの仕方はこちら

若い世代の低福祉・高負担感

2026年2月12日   岡本全勝

1月16日の朝日新聞オピニオン欄は「ほころぶ社会保障」でした。
・・・人生のさまざまなリスクに備える「安心」のための仕組み、社会保障。しかし近年は、制度の持続性や個人の負担に対し、不安や不満が広がっています。なぜ今の社会で安心感を持てないのでしょうか。「支え合い」の制度を、立て直す道筋は・・・

宮本太郎・中央大学教授の発言「若い世代に「低福祉・高負担感」」から。
―社会保障への不満や不安が現役世代に強まっています。世代間対立や利用者への偏見をあおるような主張も見聞きします。
「暮らしの困難が増している時に、頼りになるはずの社会保障への支持がなぜ揺らいでいるのか。ここにさまざまな問題を考えるヒントがあります。私は不満が強まるのはむしろ当たり前と考えています」

―なぜでしょうか。
「この約30年、日本の実質賃金は上がっておらず、最近は物価高で生活が苦しい人が増えています。給与明細を見ると、支給欄の金額はあまり増えない分、控除欄で差し引かれた社会保険料や税金が大きく感じられる。このお金がどこに行っているのか、誰でもいぶかしみます」
「特に現役世代は社会保障の給付が少なく、恩恵を実感しにくい。なぜこうなるのか考え、たどり着くネット情報には、誤解や誇張、偏見も少なくありません。高齢者や生活保護受給者、外国人らが不当に大きな給付を得ていると考えてしまう人も出てきています」

―問題をどこから解きほぐせばよいでしょう。
「日本の社会保障の水準は国民全体で見れば、先進国の中で『中福祉・やや低負担』ですが、若者にとっては『低福祉・高負担感』なのです。この落差を解消していくためにも、負担と給付それぞれの中身を詳しく見ることが必要です」

―どんな状況ですか。
「まず『能力に応じた負担』の原則が徹底されていません。社会保険料は料率が一律で低所得層の負担が重くなる逆進性がある。1990年代以降、社会保障費の増加に応じて負担が引き上げられましたが、税ではなく社会保険料が中心で、偏りが拡大しました」
「給付の方も現役世代向けは『必要に応じた給付』になっていない。全世代型社会保障として強化されてきた子育て支援は、現役世代を支える決定打のはずでした。ところが、経済的事情で結婚できない、子どもをもてない層が増えており、最近、この層を中心に、健康保険料への上乗せで財源負担を求められることに反発が出ています」

―制度が社会情勢に合っていないのでしょうか。
「そう言わざるを得ません。もともと日本の社会保障は、男性の稼ぎ手が安定的に働く想定のもと、現役時代は勤め先の年功賃金で家族を扶養し、社会保険は定年退職後の生活や病気などへの対応に重きを置く構図でした。ところが90年代以降、このやり方を支える前提が覆った。非正規雇用やひとり親世帯など、所得が低いのに社会保障の支援を受けられない生活困難層が急増したのです」

―改善にはどんな視点が大切ですか。
「まず社会保障と雇用政策の連携です。ポイントは、介護・医療や保育といったエッセンシャルワークに就いて暮らしていける条件を整えること。働き手の処遇を改善し、サービス量の確保をはかる点で社会保障政策ですが、地域を支える雇用政策でもあります」