大きな政策の進め方、各論優先の失敗

3月20日の日経新聞経済面コラム「大機小機」、「誤った人口減少対策の手順」から。

・・・この提言のおよそ1年前の2023年1月、岸田首相は「異次元の少子化対策」に取り組むと表明した。
この時に筆者は、政府がいよいよ人口減少問題に本格的に取り組むと期待した。ところが、その後の議論は児童手当拡充など子育て支援策とその財源手当てなどに集中し、外国人労働者を含めた労働力の確保や人口減に対応した経済・社会構造の改革という骨太の議論にならなかった。

その理由は、岸田政権が選挙をにらんで児童手当を人気取り政策のひとつとして考えていたためではないか。その結果、人口減への危機感の共有が十分に進まなかったと考えられる。
本来は今回の人口戦略会議で示しているように、まず問題意識の共有と国家ビジョンを策定してから児童手当拡充など各論に行くべきだったのに、国民にお金を配る児童手当に話が先に行ってしまった。手順があべこべなのだ・・・

回想「第1次地方分権改革・三位一体改革期の政策決定過程」

地方公共団体金融機構の「平成5年度若手研究者のための地方財政研究助成事業」、原田悠希・東海大学政治経済学部政治学科特任講師の「社会保障制度に関する政府間財政関係の改革-第1次地方分権改革・三位一体改革期の政策決定過程分析-」の研究過程で、当時のことを聞かれました。その記録が載りました。
私が話したのは1992年と2004年のことです。もう20~30年も経つのですね。歴史になったということでしょうか。聞き取りのうち、それらの改革について、私が役に立ったと思っている二か所を引用しておきます。

・・・地方分権については、五十嵐先生や中澤先生から呼ばれて「手伝って欲しい」ということでした。我々自治省は分権を進める立場ですから、願ってもない話です。ただ、地方分権の中身の話となると私の能力を超えるので、当時行政課にいた1年年次違いの佐藤文俊君に、声をかけて手伝ってもらいました。だから、分権推進法などの中身は、五十嵐先生と佐藤君が考えたといえます。
私がお役に立てたのは進め方の部分で、地方分権推進法案をどうやって国会を通していくかということを、先生と一緒に考えました。地方分権というと、大蔵省を筆頭に各省庁が反対をするわけです。また、野党の社会党から法案を出すと、与党の自民党は良い顔をしない。そうした中で、推進法の前に分権推進の決議をするという案を二人で考えました。「こういう手順で本当に動くかどうかはやってみないと分かりませんね」と五十嵐先生と話をしていたことを思い出しますが、とりあえず決議をやってみようということになりました。
実際には、この決議に「地方分権を積極的に推進するための法制定」が盛り込まれたことで国会の約束になり、推進法が制定され、物事が進みだしたのだと思います。行政改革とは違って地方分権推進については反対勢力も多かった中で、決議を先に出したというのは一つの工夫だったと思います・・・

・・・官房総務課長になってから三位一体改革で関与したことの中に、国庫補助負担金の廃止リストの案を地方六団体に提案して貰うという案を考えたということがあります。小泉純一郎総理から廃止対象補助金を各省に出しなさいと指示を出しても、各省は抵抗して出してきませんでした。麻生総務大臣は小泉総理と、閣議の後など、しばしば一対一で総理執務室で話をされていました。三位一体改革に限らず、様々な案件に関してだと想像します。ある日、各省から補助金廃止のリストが出てこないことが論点になって、このままでは前に進まないけれどどうするのかという宿題を、麻生総務大臣が小泉総理から貰ってこられました。
総理との会談後に、麻生大臣から私が大臣室に呼ばれて、この話になりました。私はとっさの思いつきで、「地方団体に案を出して貰うという方策はどうでしょうか」と進言しました。麻生大臣が目でニヤッと笑われたのを覚えています。
この案の意図するところは、補助金を貰っている地方団体が不要だというものについては、各省がそれ以上抵抗できない。もし地方団体の側が廃止リストの案を出せなかったら、補助金廃止を主張する地方団体は口先だけということになって、それ以上は進まない。どちらに転んでも小泉総理としては自分はやるべきことをやった、進まなかったのは自分のせいではないと言える。この案を麻生大臣が小泉総理のところに持って行って、2004(平成16)年5月28日の経済財政諮問会議で小泉総理が地方団体に案を出して貰うということを発言されました・・・

情報機器での情報漏洩

4月3日の日経新聞「クラウド漏洩、「凡ミス」多発」が参考になりました。
・・・人材管理システムのカオナビ子会社が運用するクラウドサービスで、個人データの漏洩が判明した。運転免許証やマイナンバーカードの画像を含む15万人超の情報が流出。個人情報の漏洩リスクが高まる中、誤った設定や操作など企業側の「凡ミス」も目立つ。
カオナビは3月29日、子会社が運用するシステムのクラウドで管理していた氏名や性別、住所、電話番号のほか、マイナンバーカードや運転免許証など身分証明書の画像が外部から見られる状態だったと発表した・・・
サーバーには本来なら外部からアクセスできないように設定しなければならないのに、誤設定で第三者から閲覧可能な状態になっていて、既に15万人の情報がダウンロードされていたとのことです。

記事では、情報漏洩のケースとして、次の3つが挙げられています。
・不正アクセスなどによる「被害型」
・社員が情報を持ち出す「不正型」
・今回のような設定ミスや誤操作による「過失型」
人間がすることですから、失敗もあります。しかし、情報機器は大量の秘密情報を扱っている場合があり、失敗が大きな被害をもたらします。

連載「公共を創る」執筆状況

久しぶりに、連載「公共を創る」の執筆状況報告です。かつては、しょっちゅうぼやいていたのですが、最近書いていませんでしたね。調べると、前回は10月10日でした。
それから約半年、執筆が順調に進んでいたわけではありません。相変わらず、締め切りに追われる日々を送っています。ひとまず、4月25日発行分を編集長に渡して、今週は乗り切りました。

原稿の内容は、私の経験や考えてきたことを基に、全体構想に沿って文章にするのですから、「大発見」というような難しいことではありません。問題は、執筆に専念する時間が取れないことです。
本業があり、お呼びがかかる講演の準備や、ほかに引き受けている原稿などもあります。原稿執筆は集中すればはかどるのですが、ほかの案件で細切れになり進まないのです。時間があっても、暴走する好奇心でいろいろなことに手を出してしまいます。あれも読みたい、これもしたい・・。『明るい公務員講座』で、だめな仕事の進め方としてお教えしたことです。反省。

でも、締め切りがあるので、穴を空けないように自らに鞭を打ち、暖かくなってきたので時には早起きして頑張っています。
忙しい中、手を入れてくれる右筆のおかげで、締め切りを守ることができています。

いつの日にか「今週は原稿締め切りがないぞ」と、心安らかな土曜日を迎えたいです。と、土曜の朝に書いています。ホームページ加筆も、時間がかかるのですよね。苦笑。
そして土日には、原稿執筆より重要な孫の相手があります。キョーコさんの料理で飲む日本酒はおいしいし、これからはビールもおいしいです。

社員の技能を可視化

3月20日の日経新聞に、「日本特殊陶業、全社員7000人のスキル可視化」が載っていました。

・・・エンジンの点火プラグで世界首位の日本特殊陶業は全社員、7千人のスキルを可視化している。プラグがいらない電気自動車(EV)の普及とともに市場は縮む見通しだ。車部品業界トップの収益力がゆえに、危機感の浸透や事業転換が壁となる。一人ひとりの目指す姿と今のギャップを鮮明にする仕組みで、学ぶ意欲や新事業への攻めの志を養う・・・
ソフトウェア開発、セキュリティー技術など6項目で、1(未経験)から5(社外で講師ができる)の5段階があります。社員が自ら評価し登録します。上司が修正します。

私が職員研修などで取り上げている、「採用されれば、人事異動や昇進は人事課任せ」「自ら技能を磨かない」という日本型職場慣行の欠点を埋める、よい取り組みだと思います。