連載「公共を創る」第146回

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第146回「サービス提供における官民関係の変遷」が、発行されました。
行政の手法について、説明しています。モノとサービスの提供手法においても、公私二元論が変更されている例を取り上げました。行政が企業や住民と一緒に規制を考える手法です。

官共業三元論でサービス提供を見ると、どのように位置づけられるか。模式図で説明しました。この図は、大震災復興の過程で考え、講演会で使っているものです。好評で、自信を持っています。

法に縛られない権力者の孤独と不安

3月3日の朝日新聞オピニオン欄、池田嘉郎さんの「ロシアの破局的な時間」から。

・・・いまやらねば全てが失われ、破局が到来するという切迫感が、ロシアの歴史にはしばしば影を落としてきた。それは「破局的な時間」とも呼ぶべき時間観念である。「時間」のような普遍的に見える概念さえもが、ロシアでは権力者の存在や、権力の行使の在り方と緊密に結びついている。その不可解さは長い固有な歴史で培われたもので、文化史的観点で見ないとわからない・・・

・・・ロシアにおける権力者の地位について、米国の歴史家R・ウォートマンは著書(2013年、Russian Monarchy: Representation and Rule)で、西欧諸国では18世紀初頭から王位継承法が成立して、君主の地位や継承順を規定したのに対して、ロシアでは皇帝はそうした法には縛られなかった、と論じている。
権力者の無制限な力はその後、政治体制の変化にかかわらず、ソ連時代から現代ロシアに至るまで引き継がれる。その地位は法や規約で定められてはいない。いや、それがないわけではないが、ルールを自分でつくり、かつ一方的に変えられる点にこそ、権力者の権力者たるゆえんがある。

近代以降の西欧では、非人格的な法による支配が確立していったため、法が権力者の上位にある。別の言い方をすれば、権力者は個人としてではなく法人として存在している。この「法人概念」が西欧を特徴づけることは大澤真幸と橋爪大三郎の「おどろきのウクライナ」(集英社新書、22年)でも強調されていたが、ロシアでは事情は異なる。皇帝も書記長も大統領も、権力者は個人として力を振るっているのだ。

だが、これは彼らに重い孤独を強いる。ロシアの権力者は、非人格的に続いてゆく法や制度に未来を託すことはできない。個人の有限の人生において何事かを成し遂げねばならないからだ。
継承法や憲法が彼らの地位を担保することがないロシアでは、権力者は「超越的な力」を示すことで地位を維持しようとする・・・

自治体での昇任試験

コメントライナー第9回「人事評価、職場と職員を変える手法」にも書いたのですが、職員の昇任試験が行われている自治体があります。その数は、5都府県、369市区町村です。昇任試験の実施状況については、総務省が調査しています。「地方公共団体の勤務条件等に関する調査」の17。

昇任試験は優秀な職員の選抜のためですが、機能はそれだけではありません。合格しなかった職員に、その後の処遇を納得させる機能も果たしています。人事評価だけでは、「上司と人事課は、私の能力を正当に評価してくれない」と不満がたまりますが、客観的な試験に落ちれば、その点について本人は納得せざるを得ないでしょう。

他方で、情実人事を防ぐ役割も果たしています。
かつて聞いた話ですが、役場幹部や議員から「特定の職員を昇任させるように」との圧力がかかる場合があります。きっぱりと断ることができればよいのですが、なかなかそうもいかない場合もあるようです。
その場合に昇任試験があると、「彼は試験に受かっていないので昇任させることができません」と断ることができるのです。その目的のために、試験を導入した自治体もあったようです。

自分と異なる意見に耳を傾ける

3月2日の日経新聞夕刊「私のリーダー論」、キャシー松井さんの「逆境が力に」から。

「管理職になったばかりのころ失敗しました。部下から別の人へのクレームがあり、なるほどと思わせる内容だったため、すぐ他方を叱責しかけたのです。『自分の言い分もしっかり聞いてくれ』。もっともな意見でした。時間をかけて聞くことが大事と反省しました」

「今後のビジョンを決めるうえでも、自分と異なる意見に耳を傾けるのが大事です。これだけ変化の大きい時代。多くの情報が入ってこそ、正しい方向性を決められます。同意できなくても、なぜこう思っているのか理解しようとするエンパシーは必要です。聞いてもらったということ自体が部下の意識を高めます」
「気をつけたいのは、立場が上になるほど、自分自身に対して厳しい見方をしにくくなることです。匿名でもいいからフィードバックを受ける工夫をすることもリーダーに必要なスキルだと思います」

「率直な意見を聞かせてくれる人の存在は、仕事でもプライベートでも大事な存在です。私は若いころから『自分だけの取締役会(パーソナルBOD)』をつくってきました。メンバーは自分が頭のなかで選んだ人たち。解決できない問題が生じると、取締役会を”招集”する。要するに意見やアドバイスを聞いてみるのです。メンバーには同じ金融業界の人もいますし、業界外の専門家もいます。男性も女性も、また昔からの友人もいます。みなそれぞれに忙しく、ネットワークを保つのには時間も手間もかかりますが、必要な投資です」

『古代豪族 大神氏』

鈴木正信著『古代豪族 大神氏 ─ヤマト王権と三輪山祭祀』(2023年、ちくま新書)を読みました。

「大神」と書いて「おおみわ」と読みます。大和盆地の南西、桜井市に三輪山があります。その麓に、三輪山をご神体とする大神神社があります。桜井市は明日香村の隣です。大神神社には、子どもの頃に初詣にも行きました。それはそれは大変な人出でした。
「大神と書いて、なぜおおみわと読むのか」、不思議に思っていました。
三輪山の周辺には、箸墓をはじめたくさんの古墳があり、また初期の大和朝廷の宮殿が置かれました。でも、天皇家の崇拝する神社は大神神社でなく、はるか東にある伊勢神宮です。

大神氏という、三輪山をまつる豪族がいたのですね。物部、大伴、葛城、蘇我などの豪族の名はよく出てきますが、大神は知りませんでした。というか、出てきたのでしょうが忘れていました。
限られた古文書、それも後世に人の手が加わっています。それと出土した遺物から、歴史を組み立てる。一種の推理小説です。しかも小説と違い、「これですっきりした」とはなりません。