頭は類推する。カタカナ語批判。1

なぜ、カタカナ語やアルファベット語は、理解しにくく、覚えにくいのか。人は、画像にしろ文言にしろ、連想で認識します。それは、次のようなことです。

まず、目で見る景色から説明しましょう。景色を見る場合、ぼやけた像から、はっきりした像に進みます。遠くから人が近づいてきた場合、最初は人か物なのか判別できません。だんだん近づいてきて、ぼんやりした像を見て、人だろうと判断します。さらに近づいて、服装によって男性か女性かを推測し、体つきから大人か子どもかを判断します。そして顔が見えてくると、知っている人か知らない人かを判断します。
最初から、知人のAさんだとはわかりません。それは、網膜に写った像を、頭の中の記憶にあるよく似た像にあてはめて、正解を探すのです。
テレビ番組に、モザイク画像を見て、何の写真かを当てるクイズがあります。最初は解像度の悪い画像で、何の写真なのかわかりません。だんだん解像度が高くなって、正解がわかります。私たちは、ぼやけた画像でも、記憶の中から似たものを探します。「脳の働きと仕組み、推理の能力

言葉も同じです。耳にした言葉が、はっきりしたものでなくても、よく似た言葉に当てはめます。その単語の発音に似た単語に当てはめます。外国語が聞き取りにくいのは、経験が少なく、頭の中の類似例が出てこないからです。
聞き慣れた日本語を理解する際にも、辞書で単語を引くように、発音の1音目から解読するのではありません。私たちは、耳で聞いた音声を、1音ごとに音声そのもの(発音記号)として認識しているのではありません。ひとかたまりの音声(単語)として聞いて、それを頭の中の類似例に当てはめ、正しい単語を探します。
この項続く

子ども政策、予算の効果

6月1日の日経新聞経済教室「子ども庁、何を優先すべきか」、中室牧子・慶応義塾大学教授の「縦割りの排除、自治体でも」から。

・・・社会保険、教育、職業訓練、現金給付など公共政策は多岐にわたる。だが過去50年の米国の133の公共政策を評価した最新の論文によれば、最も費用対効果が高いのは子供の教育と健康への投資だという。子供の教育や健康に投資した政策の多くは、子供が大人になった後の税収の増加や社会保障費の削減により、初期の支出を回収できていることも示されている。
とりわけ幼少期の教育投資の収益率が高いことを示す研究は多いが、あまり知られていない。英国での研究によると、子供をもつ親は、子供の学齢が高いほど教育の費用対効果は高く、幼少期の投資とその後の投資は補完関係ではなく代替関係だと認識している。
そして驚くべきことに、親だけでなく幼稚園教諭・保育士・小学校教員ですら、幼少期よりももっと学齢の高い教育段階の方が重要だと考えている・・・幼少期の教育投資の効果が特に大きいのは、貧困世帯の子供たちだ。このためノーベル経済学賞を受賞したジェームズ・ヘックマン米シカゴ大教授は、貧困の世代間連鎖を食い止めるには、所得の再分配よりも、不利な状況にある子供の幼少期の生活を改善する「事前分配」の方が経済効率がよいと主張する・・・
この項続く

自己肯定感の低い日本の若者

日本の若者は自己肯定感が低いというのは、通説になっています。NHKウエッブサイトが、就活に関して、この問題を取り上げています。「自己肯定感は、低いとダメなの?高い方がいいの?」6月2日掲載

詳しくは読んでいたただくとして。根拠のない自信も困りますが、やたらと卑下するのは健康的ではありませんよね。
なぜ日本の若者は肯定感が低いのか。専門家は次のように指摘しています。
・・・おそらく日本人は「自分が主体的に行動したことを評価してもらい、自分でもこれでいいと思えた体験」が少ないのではないかと思います。
また、日本では同調圧力があって「自分のやりたくないことにはっきりノーと言いにくい」ですよね。
それと比べると、海外ではノーと言っても受け入れられやすくて、自己肯定感を保つことができるという部分もあるかと思います・・・

・・・例えば自己肯定感が低いと、「精神的にも、肉体的にもつらい状態」ですから、そこから離れようとするんですね。
具体的には、「何か/誰かに依存する」ってことが起こりえます。ゲームとか、アルコールとか、信頼できる人とか。
そうやって安定を保とうとするんですが、相手はそのつもりじゃなくても一旦冷たくされたって感じてしまうと相手が信じられなくなって、安定した人間関係が築きにくくなってしまうこともあります・・・

・・・海外の心理学者によると、子どもの自己肯定感が育まれやすいのは、「ほめると叱るのバランス」が3対1か4対1くらいだそうです・・・

2021年5月27日日本記者クラブ資料、2

2021年5月27日に日本記者クラブで使った骨子を、載せておきます。その2です。「その1

Ⅱ 対策案
制度改正でなく、運用の問題
1 官僚は政策の専門家に
課題と政策案を提示し、大臣の方針に従って具体化するのが官僚の役割
(1)政策課題の整理
成熟社会日本の課題は何か
事務次官と局長は、今後(3年から5年)取り組むべき課題群と進むべき方向を提示する。それを基に、大臣、必要なら与党と議論。

(2)制度所管思想から、課題所管思想への転換
現行制度を守ることや「それは制度にありません」ではなく、社会の課題を拾い上げ、対策を考えることを任務へ
公共サービス提供(制度整備)と産業振興から、社会の課題解決へ。 生産者や提供者側支援から、生活者支援への転換を。格差、孤立、つまずいた人、自立できない人、定住外国人・・・
前衛の役割から、前衛と後衛の役割に。優等生を育てるとともに、困っている人の支援を。多様な意見の吸い上げ。
「生活者省」を作ってはどうか。

(3)専門家の採用と育成
これまで「何でもこなせる官僚」を育てた。政策の専門性を持った官僚は少ない。
より専門性を持った官僚に。人事や部局の縦割りは必要
短期間での人事異動の是正
法学系だけでなく各政策分野からの採用
(ITや会計の専門家は、民間から採用も可能)

2 幹部官僚の育成
(1)幹部と「一般職」の区別
国民はどのような官僚像を求めているのか。エリートか労働者か。
処遇とやりがい。長時間労働、魅力の無い職場。応募者の減少
企業幹部と比べ低い幹部官僚の処遇。民間からの採用ができない。
①「一般職」は、民間労働者と同じ待遇に
働き方改革の時代に、無定量の労働を求めるのは時代錯誤
②幹部官僚は、そのための育成が必要
専門政策分野を持ちつつ、広い視野と改革思考を育成する
官邸・国会などとの関係の訓練。内閣官房・内閣府での勤務経験
③内閣官僚の育成
官邸や内閣官房で、総理を支える官僚群の育成

(2)全体最適を考える幹部官僚を
発展途上時代は、部分最適(各部門を伸ばすこと)が全体最適に
成熟時代には、部分最適は全体最適にならない
大幅赤字予算、膨大な借金
政策の優先順位付けと、負担の配分が必要

(3)やってる感でなく、後世の評価を考える幹部官僚を
毎日忙しいが、それが国民のためになっているか。
現時点での国民の評価と、10年後の国民の評価
「あの時やっておくべきだった」とならないように、常に「10年後の説明」を念頭に、取り組むべき課題を整理

3 政と官の役割分担明確化
(1)大臣との役割分担
①あるべき姿
大臣=政策の優先付けと方向性の指示、決定、官僚機構の監督
官僚=政策課題の提示、大臣の指示に沿って立案、具体化と報告
双方の意思疎通と、大臣による決定と官僚による具体化
②官僚にやりがいを持たせる
「意見を聞いてもらえる」「任せてもらえる」「改革が実現する」「社会に役立つ」

(2)政策の大小の分別
①総理が取り組む政策、大臣が取り組む政策、官僚が取り組む政策の分別をして欲しい。
・経済財政諮問会議や安全保障会議で議論する案件
・総理が大臣に指示する案件
・大臣が官僚に指示する案件
②総理と大臣には、政策体系と優先順位を示して欲しい。
個別課題の前に、全体としてどちらを向いて仕事を進めるのか。「マニフェスト」の復活も

(3)諸外国、地方自治体も参考に
自治体の多くでは、「政と官」は問題にならず。

Ⅲ 論議の場が必要
これまで、本格的にこのような議論をしてこなかった。
単発の批判ではなく、改革に向けた議論の蓄積を
制度論でなく、運用論

1 国家行政や官僚のあり方について、議論の場がない
学会や政策共同体がない。地方行政との違い。
官僚が発言する場がない。
多くの各省各局の所管行政について、専門誌がある。しかし、国家行政全般については、見当たらない。

2 議論の蓄積を
官邸、内閣官房、各省について、概説書や解説書がない
制度解説はあっても、運用についての、事実や議論の蓄積がない
改革議論をする際にも、官僚育成をする際にも、その基礎がない

3 基礎資料の調査
先進各国は、政府が国家公務員全体の意識調査を行い、人事制度の検討をしている。また、集計データを公開している。
日本では、村松岐夫・京大教授がかつて実施されたが、中断。北村亘・阪大教授が再開。

(参考)
麻生総理の主な政策体系「私の目指す日本」
https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/8731269/www.kantei.go.jp/jp/seisaku/aso/index.html
東日本大震災被災者支援本部の記録。政と官との役割分担例
https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11125722/www.cao.go.jp/shien/index.html
北村亘教授「2019年官僚意識調査基礎集計」
https://researchmap.jp/read0210227/misc/25069932

(拙稿。行政と官僚のあり方に関して)
『省庁改革の現場から-なぜ再編は進んだか』(2001年、ぎょうせい)
『新地方自治入門-行政の現在と未来』(2003年10月、時事通信社)
連載「行政構造改革-日本の行政と官僚の未来」月刊『地方財務』(ぎょうせい)2007年9月号から2008年10月号まで、未完
「行政改革の現在位置~その進化と課題」年報『公共政策学』第5号(2011年3月、北海道大学公共政策大学院)
『東日本大震災 復興が日本を変える-行政・企業・NPOの未来のかたち』(2016年、ぎょうせい)
連載「公共を創る-新たな行政の役割」『地方行政』(時事通信社)に、2019年4月から連載中

小関隆著「イギリス1960年代」

小関隆著「イギリス1960年代 ビートルズからサッチャーへ」(2021年、中公新書)が、勉強になりました。

1960年代のイギリスを、ビートルズを鍵に、社会の変化を分析します。戦中戦後の窮乏期をへて、イギリスも豊かな社会を迎えます。そこに「文化革命」が生まれます(中国の政治闘争であった文化大革命とは違います)。世界の先駆者の地位をアメリカに奪われた後、ロンドンとビートルズが、文化で世界の最先端を走ります。
イギリス社会の代名詞だった階級がなくなり、マルクス主義が意味をもたなくなります。労働党が苦境に陥り、方向転換をします。他方で、伝統的な倫理が崩れます。教会に通う人も少なくなります。性や麻薬が解放されます。もちろん、伝統的な勢力からは、巻き返しもなされます。

豊かな社会を迎え、ベビーブームの若者や労働者から、生き方や生活文化が大きく変わります。これは、戦後、昭和後期の日本と同じです。というか、イギリスが先を行っていたのでしょう。
日本との違いは、階級と宗教がイギリスほど強固でなかった点でしょう。また、社会党が、イギリス労働党とは違い方向転換をせず、教条的な立ち位置で「自己満足」したことでしょうか。

著者のすごいところは、この60年代の社会の大変化を描くだけでなく、それがサッチャーを用意したと考えるところです。
文化革命、ロンドンとビートルズの先進性が、厳格だった社会に許容範囲を広めるという効果をもたらしました。それを基盤に、サッチャーが登場します。

日本についても、高度成長を経済から分析した著作は多いです。このような若者文化を含めた社会の変化を描いた作品、そしてそれが平成時代を用意したことを描いた作品はないでしょうか。私の連載「公共を創る」は、社会の変化と行政の変化(の遅れ)を描こうとしています。