小関隆著「イギリス1960年代」

小関隆著「イギリス1960年代 ビートルズからサッチャーへ」(2021年、中公新書)が、勉強になりました。

1960年代のイギリスを、ビートルズを鍵に、社会の変化を分析します。戦中戦後の窮乏期をへて、イギリスも豊かな社会を迎えます。そこに「文化革命」が生まれます(中国の政治闘争であった文化大革命とは違います)。世界の先駆者の地位をアメリカに奪われた後、ロンドンとビートルズが、文化で世界の最先端を走ります。
イギリス社会の代名詞だった階級がなくなり、マルクス主義が意味をもたなくなります。労働党が苦境に陥り、方向転換をします。他方で、伝統的な倫理が崩れます。教会に通う人も少なくなります。性や麻薬が解放されます。もちろん、伝統的な勢力からは、巻き返しもなされます。

豊かな社会を迎え、ベビーブームの若者や労働者から、生き方や生活文化が大きく変わります。これは、戦後、昭和後期の日本と同じです。というか、イギリスが先を行っていたのでしょう。
日本との違いは、階級と宗教がイギリスほど強固でなかった点でしょう。また、社会党が、イギリス労働党とは違い方向転換をせず、教条的な立ち位置で「自己満足」したことでしょうか。

著者のすごいところは、この60年代の社会の大変化を描くだけでなく、それがサッチャーを用意したと考えるところです。
文化革命、ロンドンとビートルズの先進性が、厳格だった社会に許容範囲を広めるという効果をもたらしました。それを基盤に、サッチャーが登場します。

日本についても、高度成長を経済から分析した著作は多いです。このような若者文化を含めた社会の変化を描いた作品、そしてそれが平成時代を用意したことを描いた作品はないでしょうか。私の連載「公共を創る」は、社会の変化と行政の変化(の遅れ)を描こうとしています。