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地方行財政-三位一体改革

三位一体改革60

(簡単な三位一体の経緯と金額)
地方財政改革の経緯」の年表が、追加しているうちに大きくなって見にくくなりました。そこで、簡単にした「三位一体改革の経緯(簡略版)」を作りました。また、金額を簡単に整理した図表「三位一体改革金額イメージ」も作りました。「位一体改革の目標と実績」や「地方案の実現度」とともにご利用下さい。ただし、数字は丸めてあったりして正確でないこと(見やすさを優先したこと)をご了解下さい。(10月8日)
先日作成した「三位一体改革の経緯(簡略版)」「三位一体改革金額イメージ」は、森山正之係長の協力を得ました。遅くなりましたが、お礼を申し上げます。(10月12日)
(地方団体も自らに厳しく)
12日の読売新聞「論点」に、木村良樹和歌山県知事が「地方分権改革、自治体は質、効率競え」を書いておられました。「小泉政権の重要課題である三位一体改革が、ヤマ場を迎える。地方が政府に出した案に沿って改革が進むよう、郵政民営化と同様に首相の強い指導力を期待したい。同時に、政府に対して分権を主張する以上、我々にも自らを厳しく律して住民に信頼される地方政府になる責務がある。これに努力することが、分権改革の推進力になると思う」
12日の日経新聞夕刊は、「義務教育費国庫負担金。首相、削減を明言。文科相に検討を指示」を伝えていました。「首相は官邸で中山成彬文科省と会談し・・・『政府の方針を踏まえて検討してほしい』と述べ、税源移譲を念頭に検討するよう指示した」「首相は記者団に『8500億円を移譲すべきか』聞かれ、『そうですね。規定方針ですからね』と強調した」
(首相の責任)
また同紙は、「ニュースの理由」で、中西晴史編集委員が「三位一体数値目標達成に現実味」を解説しておられました。「昨年末の調整最終局面で小泉首相は『私の出番はないように』と”ドタ逃げ”した実績もある。選挙に圧勝し、郵政民営化法案成立のメドがついたことから、首相は年末の予算編成の焦点でもある三位一体改革に力を入れる」「来年度予算案で仮に目標数字を達成したとしても依然として補助金の大半は国に残る、2期改革への道筋を小泉政権の間につけられるかどうかも課題だ」
あわせて「地方の収支尻」を図表にしておられました。地方から見てプラスは、税源移譲予定の2.4兆円(予定3兆円)、マイナスは、補助金削減の3.6兆円(予定4.2兆円)と交付税等の削減2.9兆円です。(10月12日)
(審議会行政の終焉)
12日の中教審の特別部会答申案について、各紙が大きく報道していました。読売新聞は「中教審答申素案、首相と対決姿勢」。朝日新聞は「義務教育費せめぎ合い。地方自由裁量を。文科省格差を懸念」「首相の視線は未定の6000億円に」。毎日新聞は「三位一体改革。官邸、短期決着目指す」「最終攻防へ、族議員勢いなく」。日経新聞は「首相あくまで地方移管」「審議会行政曲がり角に」です。
各紙とも大きく伝えていますが、重点が異なります。読売新聞は、審議会と首相を対等に位置づけた記事でしょうか。日経新聞は、審議会行政が政治主導の前に終わろうとしていることを述べています。読売新聞は過去の日本政治の枠組みにたった記事、日経は日本の政治構造や政治過程が変わることを分析した記事、と私は思います。小泉政治を鋭く分析している読売新聞、政治主導を唱える読売新聞にしては、首尾一貫しない残念な記事ですね。
このほか、一番わかりやすかったのは、毎日新聞社説「中教審答申案、首相判断が一段と重くなった」です。詳しくは原文を読んでいただくとして、一部を紹介します。
「・・・毎日新聞は地方側の削減案について数合わせの色彩が強いことは認めながらも、発展途上時代を引きずり、中央統制が今も強い日本の教育行政を変える転機になると再三指摘してきた。その点で、素案の内容には「結局、国の権限の低下を恐れているだけではないか」と失望せざるを得ない・・・。
昨年11月の時点で、この問題は決着をつけておくべきだったのだ。むしろ、中教審は政府・与党内の対立を回避するための道具にされた感がある・・・。
今回の審議が「カネ」の話に焦点が当たり、「義務教育はどうあるべきか」という本来のテーマがかすんでしまっているのも残念なことだった。
 問題は今後だろう。中教審は文科相の諮問機関に過ぎない。三位一体改革の原点に立ち返り、内閣と地方側との協議の場で決するのは当然だ。そして「教育の地方分権」の趣旨を貫くため、いずれ小学校分も移譲を進めるべきだ。大事なのは原則である。対立する双方の顔を立て、国の負担率を切り下げてお茶を濁すという見方も依然ささやかれる。そんな妥協方式だけはとらない方がいい。」
また、12日夜には、「国と地方の協議の場」が久しぶりに開かれました。(10月13日)
(公共事業の税源移譲、理想と現実戦略)
14日の日経新聞社説は、「原点を忘れた三位一体改革」でした。
「改革の狙いは使い道を縛る補助負担金を縮小し、地方の財政の自由度を高めることにある。補助負担金はその趣旨に沿うものから順に廃止すればいい。最悪なのは裁量の余地の少ないものを優先し、廃止ではなく、補助負担率引き下げで済ませることだ。配分作業は変わらないから、霞が関のスリム化にもならない。
実際には最悪のシナリオ通りに進んでいる。昨年11月の政府・与党合意で、地方側の提案にない国民健康保険負担金の負担率引き下げを加えてから本来の軌道を外れ始めた。」
「改革が狙い通りに進まないのは、税源移譲すれば最も地方の自由度が高まるとみられる公共事業や施設整備関係の補助負担金を対象から外したのが大きい。建設国債を原資としているから税源移譲の対象にできないという理由だが、公共事業などを聖域にしたら改革は成り立たない」
その通りです。公共事業や施設整備を、税源移譲の対象とすべきです。これらのいくつかは国債が財源ですが、道路整備については特定財源ですから、「国債が財源なので税源移譲できない」という主張は成り立たないはずです。関係者は明確にはしませんが。もちろん、国債が財源であっても、それは仮の財源(つなぎ)であって、その償還財源(最終財源)は国税ですから、これも税源移譲対象になります。
もう一つの指摘については、私は、結果として「数字あわせ」的な面があっても、仕方がないと思っています。もちろん、生活保護費の負担率を下げるなどはもってのほかで、許されることではありません。
なんだかんだと理屈をつけては改革を先送りしてきたのが、日本の近年の政治です。完璧な理想を求めることは良いことです。しかし、政治の世界で、それは無い物ねだりでしょう。多くの場合、「不完全だ」とか「今と変わらない」という主張は、守旧派の隠れ蓑です。「官僚とはできない理屈を考える動物である」は、確か曾野綾子さんの名言でした。
少々不完全であっても、まずは第一歩を進めること。これが今の日本の政治に必要なのです。もちろん、大幅に骨抜きになって、当初の目的を達しないのは論外ですが。
14日の読売新聞解説欄では、青山彰久記者が「ヤマ場の三位一体改革」を書いておられました。国と地方の協議の場が、日本の政治過程に持つ意味を取り上げています。
「瞬間的に設置が決まった協議の場だが、持っている意味は重い。内政の政策立案に地方が参加することには、今も政府部内や与党内で抵抗がある。特に補助金の存廃の判断は従来、予算査定した財務省の権限で、それを頭越しにする手法は異例だった。だが、政権が分権改革を掲げた以上、教育やまちづくりなど生活に密着した政策に、現場に責任がある地方が加わるのは必然的な流れといえる。むしろ地方は責任ある立場で国と対等に協議する必要がある」(10月14日)

三位一体改革59

26日の日経新聞「経済教室・新政権に求める3」は、西尾勝元東大教授の「三位一体こそ改革の本丸」「首相が指導力を、公共事業の補助金削減も」でした。
「来年度予算の編成過程のなかで最も重要な懸案事項は『三位一体の改革』の着実な前進である」「この三位一体の改革の方が郵政民営化以上に直接的に中央省庁官僚機構の既得権益に鋭く切り込む構造改革であり、その波及効果も郵政民営化よりもはるかに広く、国・地方を通ずる行財政構造の全般に及ぶ改革である。本来はこちらの方こそ『改革の本丸』と位置づけられてしかるべきものであった」
「三位一体の改革を曲がりなりにもここまで進めてきたのは、第2次小泉内閣の功績であった・・・しかし、昨年の地方6団体の提案から政府与党合意に至るまでの混乱と迷走の過程では、遺憾ながら小泉首相の積極的な介入は見られなかった・・」
「三位一体の改革の具体案は、国の責任において改革案を策定すべきものである。そしてそれは、首相の強力なリーダーシップの発揮によって、財務省をはじめ関係省庁の官僚機構とこれを取り巻く族議員集団を承伏させなければ、実現困難な構造改革である。その反面、これを成功裏に成し遂げさえすれば、それは国・地方を通ずる歳出削減に最も有効な方策となりうる。小泉首相はその任期いっぱい、この構造改革に全力を傾けてほしい。」
ぜひ全文をお読み下さい。(9月26日)
26日に小泉総理は、衆参両院で所信表明演説をされました。その大半は郵政民営化で占められていましたが、その次は三位一体改革でした。「『地方にできることは地方に』という方針の下、4兆円程度の補助金改革、3兆円規模を目指した税源移譲、地方交付税の見直しの三位一体の改革について、地方の意見を真摯に受け止め、来年度までに確実に実現いたします」。郵政民営化の次は、いよいよ三位一体改革(その1)の仕上げです。(9月26日)
27日、小泉総理は官邸に文部科学事務次官を呼んで、義務教育費国庫負担金について「地方にできることは地方に、地方の意見を尊重してやるから、しっかりやってくれ」と指示されたそうです。「地方案に沿ってやってくれという趣旨か」との問いには、「そうですね」と答えられたとのことです(28日付朝日新聞、日経新聞)。(9月28日)
4日の日本経済新聞は、「義務教育国庫負担金8500億円。首相、全額地方移管狙う」を大きく解説していました。読売新聞は、「中教審、国庫負担制を堅持。8500億円の削減、焦点に」と「調整は首相ペース。文科省は強権警戒」を2面に分けて書いていました。
いよいよ、決着をつける時期が来ましたかね。いつも書いているように、これは単なるお金の取り合いでなく、内閣のリーダーシップが各省・官僚の抵抗を乗り越えられるか、地方の意見が中央政治を動かせるか、中央集権を地方分権に転換できるか、これまでの日本型政治を改革できるかなど、日本の政治の焦点・試金石なのです。
また、夕刻には経済財政諮問会議が開かれ、社会保障制度改革と三位一体の改革が議論されました。
共同通信社によると、「小泉純一郎首相は4日夜、国・地方財政の三位一体改革で焦点になっている義務教育費国庫負担金の削減問題について『地方の意見を尊重しなければならない』と述べ、削減を求める全国知事会など地方6団体の意向に沿って2006年度予算編成を進める方針をあらためて示した」とのことです。(10月4日)
4日の経済財政諮問会議で、三位一体改革が動き出しました。竹中大臣の記者会見によれば、次の通りです。
「地方六団体の代表の方々においでいただきまして、真の地方分権のための三位一体の改革の実現に向けて、ということで、地方六団体からの御要望といいますか、お話をお伺いいたしました。地方からは、幾つかの項目が紙に出ておりますけれども、3兆円の税源移譲を確実に実施してほしい、補助金の削減等についてしっかりと地方の改革案の中から実現してほしい、建設国債対象経費である施設費についても、しっかりとそれを実現してほしい等の御要望が出されました。最後に総理は、この三位一体の改革は、地方の意見を尊重して行う、というような御挨拶をされました」
5日の朝日新聞は、「三位一体も首相ペース?補助金削減『地方案を尊重』」「族議員後退、力学に変化。中央省庁なお抵抗」という見出しで、大きく解説していました。図では、義務教育について首相対文科大臣、公共事業について岩手県知事対財務大臣、生活保護について横浜市長対厚労大臣を対立の構図として載せていました。毎日新聞も、2面に分けて解説していました。
諮問会議で地方団体代表が意見を述べるとか、首長が大臣と対立の構図で取り上げられるとか、少し前までは考えられなかったことです。それが今や普通のことになりました。政治が、確実に変わってきています。
もっとも、対立の構図のなかで、「首相対文科大臣」は事実としても、変ですよね。文科大臣の任命権者は首相ですから。(10月5日)
7日の閣僚懇談会で、官房長官が三位一体改革を進めるために、「関係各大臣には、改革案の検討を進め、その結果を10月17日までに提出していただきたい」と発言されました。
昨年と同様、三位一体秋の陣が、キックオフです。でも、昨年は、期待したほど各省からは良い回答が出なかったのですよね。(10月7日)

三位一体改革58

9月2日の読売新聞「点検公約」第5回目は、地方分権でした。「問題は2つある。一つは、バランスが取れた『三位一体』の改革を実現できるかという点だ。・・もう一つの問題は、07年度以降も改革を継続できるのかということだ」(9月3日)
読売新聞社説は「三位一体改革、国地方の役割を問い直せ」を、毎日新聞「知っておきたい政策論争Q&A」では堀井恵里子記者が「三位一体改革」を解説していました。いずれの解説も、「各党は地方分権の意義を説くが、具体的な道筋は示していない」というものです。(9月7日)
8日の東京新聞は、「義務教育費国庫負担金8500億円どちらに、議論不足の二重計上」を大きく取り上げていました。朝日新聞社説は「公務員削減、分権なしには進まない」、読売新聞社説は「指定管理者制度、地域の活性化に生かせるか」を取り上げていました。(9月8日)
9日の読売新聞は、「改革を問う、05衆院選」「データで読む争点10」で、安江邦彦記者が税源移譲を図表入りで解説していました。また、「決戦、05衆院選」で、青山彰久記者が「進まぬ地方分権改革、国との分担乏しい論戦」を書いておられました。
「地方は長い間、『地域づくりとは、国の事業と補助金を導入すること』と考えて事業を乱発した結果、財政規律を失った。膨大な借金と利用率の低い施設が残り、次の世代に負担させる構造を招いた。この体質に終止符を打ち、人口減少時代でも人々が支え合って持続できる地域にするには、まず、無駄を洗い直し、地方に自立の志が必要になる。そして、責任をもって限られた税金を住民から集め、地域の現実に合わせて効率的に使えるよう、行政と財政を分権することが不可欠になる」
「分権改革は、国と地方の責任を決め、国の『統治構造』を転換する意味があり、衆院議員の重要な仕事だ。政党と候補者は分権改革の考え方を最後まで語ってほしい」
「論点」では、谷沢叙彦英国大使館一等書記官が「学校教育改革、英に学ぶ現場重視の発想」を書いていました。「英国では、来年度から始まる教育予算制度によって、自治体は学校に3年間、生徒数を基本に国が計算した通りの金額を交付しなければならない。国が自治体から教育査定権を剥奪するようなものである。・・・だが、大半の関係者が、この改革を中央集権化ではなく更なる分権化と捉えている」
「英国の校長は、企業経営者のような存在だ。中等学校の場合、予算は年間総額350万ポンド(約7億円)程度だが、現場の校長は、どの給与水準の教員や補助スタッフを何人雇うかを含めて、学校に交付される予算の使途を自由に決定できる。そもそも『教員給与費』という区分をして国が関与するような発想自体がない。つまり、学校現場に自由があることが、今回の改革の大前提になっている訳だ・・・」
興味深い比較です。ご一読ください。(9月9日)
総選挙を受けて地方6団体が、以下のような要旨の「地方分権改革の推進を求める共同声明」を出しました。
「今回の衆議院議員総選挙において、自由民主党、公明党の連立与党が圧勝した。このことは、小泉内閣が推進してきた『官から民へ』、『国から地方へ』の構造改革に対する国民の強い支持が表明されたものと考える。地方分権改革は『国から地方へ』の改革の最大の柱であり、待ったなしの改革である。
とりわけ『三位一体改革』については、自由民主党と公明党の連立与党重点政策で『残り6千億円の税源移譲を18年度までに確実に実現するとともに、19年度以降も地方の意見を尊重しつつ一般財源を確保のうえ、地方分権を推進する』とし、全力で取り組むとの決意が示されている。
今後、新たな政権においては、小泉内閣総理大臣の強いリーダーシップの下、我々地方6団体が政府の要請に真摯に応え二度にわたり提出した地方の改革案に基づき、3兆円の税源移譲、義務教育費国庫負担金を含め国庫補助負担金の地方案に沿った改革などを実現されることを強く求めるものである。」
至極もっともなことです。昨日の開票速報中、総理は郵政民営化以降の政治課題を問われ、三位一体改革を挙げておられました。(9月12日)
総選挙の結果をふまえ、各紙が今後の政治課題などを議論しています。例えば13日の日本経済新聞は、総理の12日の記者会見を次のように紹介していました。
「『郵政民営化が実現したら後の政策はないんじゃないか?とんでもない』首相は記者会見で強調した。年金、医療などの社会保障制度改革、国と地方の税財政改革(三位一体改革)、公務員制度改革、財政再建などを列挙し『今後も改革を進めていく』と宣言した」
そして、義務教育費の地方移管、医療費の伸び抑制、公務員給与・定員見直しの3つを別枠で解説していました。
この秋の、郵政民営化の次の課題は三位一体改革であることは、共通認識になっているようです。総理の改革にかける意気込み、そしてそれを期待して投票した国民の意思が実現することを期待しましょう。もっとも、この課題は抵抗が大きく、期待するだけでは進まないので、声高に叫び行動する必要があります。(9月13日)
21日に第3次小泉内閣が発足し、総理が記者会見されました。その中でポスト郵政の政策課題で、第一に三位一体改革と公務員人件費改革を取り上げ、「抵抗、反対が強いが、方針通り進める」と強調されました(22日付け日経新聞、朝日新聞など)。心強い限りです。それでも、各省は補助金廃止に抵抗するのでしょうか。(9月22日)

三位一体改革57

(時代錯誤)
27日のNHKニュースによると、「文部科学省は、不登校対策や学力向上など学校現場での教育環境の改善に向けた取り組みを直接、支援するため、小・中学校の校長の裁量で活用できる経費として、100億円余りの交付金を新たに創設することを決め、来年度予算の概算要求に盛り込むことになりました」
うーん・・、皆さんどう思われますか。そもそも市町村は、こんな支援を国に期待しているのでしょうか。(小学校は2.3万校、中学校は1.1万校あり)1校当たり、どれだけの金額になるのかは不明ですが、これくらいの金額なら市町村も捻出できます。地方団体は、教員給与費の2分の1国庫負担金2兆5千億円を要らないと言っているのです。このような数十万円の補助金を要望する市町村があれば、その団体は地方分権なんて言わない方が良いですね。
文科省は、もっと先にするべきことがあるでしょうに。地方団体が欲しいのは補助金ではなく、問題を解決する知恵や手法、アドバイスでしょう。
昨日紹介した山出市長会長の意見と、完全にずれています。地方の主張は、「基本的制度と結果の水準は国が決めて、実行は現場に任せてくれ」です。ところが文科省は「現場の個別運営に口出しをしたい」のです。小中学校は市町村立ではなく、「国立」なんですかね。
校長の裁量で使えるお金を渡すのなら、職員給与費を含め全ての運営費を、校長の責任と裁量で使えるようにしたらどうでしょうか。イギリスはそうなっているようです。(8月27日)
(知事会の行動)
27日のNHKニュースによると、「全国知事会は・・・3党のマニフェストについて『いずれも地方の声を真しに受け止め、地方分権改革が重要な柱として盛り込まれている』として、一定の評価はできるという認識で一致しました。ただ、今の三位一体の改革のあとの平成19年度以降の改革の進め方や地方交付税の確保のあり方などについては、具体性に欠けていたり、言及されていない部分もあるとして、来週30日の公示に先だって緊急声明を発表し、地方の声が反映されるよう引き続き、3党に働きかけていくことで一致しました」(8月28日)
29日の日本経済新聞は、「衆院選、郵政・年金に議論集中」「地方分権埋没、自治体が危機感」を書いていました。
「選挙の2大争点は郵政民営化と年金に絞られ、国と地方の税財政改革(三位一体改革)など地方政策は置き去りの感が否めないからだ。全国知事会は税財源移譲の拡大などを公約に盛り込むよう働きかけたが、『地方分権が郵政民営化に埋もれる』との懸念を払拭できないでいる」
「与党公約は3兆円の税源移譲を確約するだけで、政府方針の追認にとどまる。『分権改革の意思表示はあるが、具体論はわからない』と不満がくすぶる」「民主党の『約12兆円分の補助金を一括交付金に切り替える』との公約に対しても不安がでている。交付金は補助金より地方が自由に使えるが、省庁に配分権限を残しかねない」(8月29日)
(文部官僚、現場からの主張)
30日の読売新聞「論点」には、西尾理弘出雲市長が、「教育改革、地方の主体性尊重して」を書いておられました。
「教員給与費の半額を国がもつ義務教育費国庫負担金を地方へ移すことは、教育の分権を確立する重要な第一歩だと思う。憲法上の建前から、教員人件費は国が負担すべきだという議論もある。だが、憲法26条が規定する義務教育を受ける権利とは、あくまで基本目標を定めたものだ。この目標達成のため、国は地方の協力を得て財源を確保して義務教育の体制を整備する、と解釈すべきである。現実には、・・国の負担は3割程度で、地方の負担は7割に達する」
「この際、国はさらに財源を地方へ移して地方の自由度を高め、国の指導・助言の下、地方が切磋琢磨して義務教育の充実・発展を期すようにすべきである。そのためにも、知事や市長の義務教育行政への参画を認める必要がある・・・」
「文部科学省は・・・総額裁量制を導入した、だが、依然として文科省の財源配分の考え方に拘束されている。・・教育現場が、文科省に気兼ねせずに地域の特色を生かす教員配置を行えるようにする必要がある。文科省は『地方の主体性』を真に尊重すべきである」
「文科省は『地方に任せれば、教育格差が生まれる』と懸念する。だが、問題なのは、現行制度が公立学校を硬直化させていることだ。結局、公立中心の地方と、私立が台頭する都会との間で学力格差を広げている」
「義務教育の財源確保は国庫負担金の方が安定するとの議論もある。だが、文科省の国庫負担金の要求は、財政当局の査定で十分認められない歴史の繰り返しだったのではなかったか。地方への税源移譲と交付税で財源確保する方が安定的だと思う」
「私は、文部省OBで最初の自治体首長である。文科省の実績は評価するが、義務教育では知事や市長をもっと信頼し、名実ともに教育分権の確立に舵を切るべきである。むしろ、そうすることによって文科省は前向きの政策官庁として飛躍できる」
説得力ある主張です。少し長くなりましたが、引用しました(このような記事がインターネットで読めるようになればいいのですが)。
文科省の現役官僚は、西尾市長の主張に対しどのような反論をするのでしょうか。官僚のさみしいところは、それぞれは優秀なんですが、立場にとらわれて、全体的な視野に立った発言、国民の利益にたった発言をしないところです。たぶん、都合悪いことには反論はせずに、無視するのでしょうが。(8月30日)
31日の日経新聞夕刊では、「三位一体改革どうなるの」を中西晴史編集委員が解説しておられました。「半世紀以上前のシャウプ博士の指摘は、今も輝きを失っていない。・・当時との決定的な違いは、補助金廃止リストまでまとめた地方が中央省庁を追いつめていることだ。相手が不要だという補助金を『必要だ』と強弁して受け取らせようというのは、嫌がる馬の水を飲ませるようなもので、納税者の支持は得られまい」(8月31日)
31日の朝日新聞「9.11総選挙、何が論点」は、義務教育改革で、八代尚宏さんと藤田英典さんのインタビューが載っていました。
八代さんの主張は明快です。「国による画一的な教育から、人々のニーズに応じた弾力的で多様な教育へと転換している。規制改革と地方分権化は小泉構造改革の両輪だ。文部科学省は『教育は大事だから国が決める』というが、大事だからこそ、保護者や子供ら教育サービスの利用者、自治体の声に従うべきだ」
「国が義務教育の水準を定めて、自治体にきちっと義務づける。それをどのような手段で達成するかは自治体の裁量に委ねるべきだ。国は地方交付税で財源を確実に手当てしさえすればよい。財政難で地方交付税が削られる恐れがあるというが、教育や福祉のミニマム(最低)保障は最優先、とすればよい話だ」
「(他の点で各党の政策は)事前規制を緩和するかわりに、その質を保障するための事後評価が不可欠になるという視点が不十分だ。・・・国で評価方法を一律に決めることは疑問だ。むしろ、学校ごとに保護者や地域住民、退職教員らで第三者評価委員会をつくり、徹底的な情報公開を求め、自分たちで考えた指標で学校を評価し、提言するといった案もある。要は国任せの発想からどう脱却するかだろう」
「教育は大事だと言われながら、教職員組合しか利益代表がないだけに、政治家からは票にならないと見られていた。だが、今回の選挙は郵政民営化を契機として業界団体との結びつきを断ち、利権政治から脱皮するチャンスだ。成功すれば、今後の選挙では、不特定多数の人が関心を持つ教育政策が、より重視されるのではないか」
藤田さんの主張は、(教員の給与の3分の1を国が持つことをやめれば) 地域や家庭の格差が広がるというものです。でも、今回の改革は、教員の数を減らそうと言ってませんよね。
「一括交付金の提案は・・・外部委託や民営化が広がり、教育の質の劣化を招く」とも主張しておられます。既に、公立学校の教育に不満を持つ親は、塾に行かせるという「外部委託」を実行し、私学に通わせるという「民営化」を選択しています。これは文部官僚も含めてです。
このHPで何度も批判しているように、教員の給与財源と教育の質を混同する(すり替える)主張は私には理解できないので、これ以上は紹介しません。(8月31日)
8月31日に地方6団体が、「平成18年度予算概算要求に関する共同声明」を出しました。
「我々地方六団体は、政府の要請に基づき、・・昨年提出した地方の改革案に引き続き、平成18年度の政府の概算要求に反映できるよう、7月20日に「国庫補助負担金等に関する改革案(2)」を提出したが、これらの国庫補助負担金改革が、概算要求に反映されていないことは、誠に遺憾である」
「とりわけ義務教育費国庫負担金については、平成16年11月26日の政府・与党合意において、税源移譲額2.4兆円の内数として、地方の改革案どおり8,500億円を税源移譲の対象とするとされているにもかかわらず、文部科学省は、平成17年度暫定措置4,250億円を復元し、国庫負担率2分の1とした約2兆5千億円を要求した。このような概算要求は、地方の改革案に反するのみならず、政府の一員として当然尊重し守るべき政府・与党合意を全く無視したものである」
「また、その他の国庫補助負担金についても、各省庁は、地方分権改革の意義を理解せず、国庫補助負担金の一般財源化を行うことなく、依然として国に権限と財源を残すため、交付金化や統合化している」
この主張の通りです。官僚の一人として、各省の行動に恥ずかしくなります。(9月1日)

三位一体改革56

月刊「文藝春秋」9月号「インタビュー、ポスト小泉の資格を問う」に、宮崎哲也氏による、麻生太郎総務大臣へのインタビューが載っています。
宮崎:それでは、いつまで経っても自民党をぶっ壊さない小泉政権に点数をつけるとすれば、何点でしょうか。
麻生:もともと、変人、奇人と思っていましたからね。その点を除けば、僕は結構高い及第点をとっていると思いますよ。・・・後世に間違いなく残る実績を挙げれば、有事法制、国民保護法制・・。総務省に関係あるところを挙げれば、三位一体という名の改革を強烈に進めて、「地方分権、地域主権へ」という流れを作った。・・・
宮崎:中でも、三位一体改革は麻生さんが、所管大臣として先頭に立って主導されました。党内的にも、抵抗がかなり大きかったんじゃないですか。
麻生:廃止しようとしている国庫補助金には既得権益が横たわっているんですから、そりゃ大変ですよ。それに、これだけ税収が減っている最中に、3兆円を国の財政から引き剥がして地方に税源移譲するというんだか
ら、もちろん激しい抵抗に遭いました。「うまくいく」と考えていた国会議員や役人は、おそらく一人もいなかったんじゃないかなあ。
宮崎:逆風の中、初年度で8割、2兆4千億円の税源移譲を達成できた。
麻生:3兆円の税源移譲を先に決めるという決断と、減らす補助金の内容を地方に考えさせるという、2つのアイデアを持ち込んだのが私であることは認めるけれど、事実、このアイデアを実現できたというのは、大きかったんじゃないでしょうかね。
「私は、三位一体改革を実現するために、総務大臣を引き受けたんです。ですから、最後の最後はちゃんとこちらの言う通りにやっていただきます」と言って、その通りにやっていただきました。(8月22日)
22日の朝日新聞「9.11総選挙、小泉改革の行方」は、三位一体改革で、神野直彦東大経済学部長へのインタビューでした。
「内閣発足時、既に国から地方への機関委任事務は廃止され、地方分権の残された課題は、自己決定権を財政面で確保する税源の移譲だった。国の税収が減るため昔から財務省が反対しており、首相のかけ声で税源移譲が論じられるようになったのは高く評価できる。『霞が関』をねじ伏せた点は大きい」「・・基幹税で行うはずの税源移譲は暫定的なままで、政府は早く恒久化を実現して欲しい」
文科省が、義務教育費国庫負担金の廃止・税源移譲に反対していることについては、「米国では、よい先生を集めようと教育税を高くする地方もある。国は教育政策で何度も失敗してきた。結果責任を負うのは国民で、国民の手が届くところで教育のあり方を決めるべきだ」 (8月23日)
24日の朝日新聞「9.11総選挙、郵政対決を越えて」では、内田晃記者が「三位一体、具体策足踏み。首相が自ら道筋描け」を書いていました。
8日夜解散直後の小泉首相の記者「会見は、郵政一色だった。小泉政権は『官から民へ』と並び、地方分権を象徴する『国から地方へ』を二枚看板としてきたが、この日の会見で首相が『地方』に触れることはなかった。このままでは、三位一体改革は郵政民営化に埋没してしまうー。知事たちは危機感を強めた。」
「前回03年総選挙では、三位一体改革に弾みがついた。初のマニフェスト選挙となり、民主党が『5つの約束』の冒頭で『4年以内のひも付き補助金全廃』をうたった。自民党も『06年度までに補助金4兆円廃止』を盛り込んだ。・・・数値目標は、自民党族議員や既得権益を守りたい省庁の抵抗を押し切る武器になった。『突破口』を開けた小泉首相の手法は斬新だった。」
「ところが、具体策作りの段階になると状況は一変した。・・・首相は事務方への『丸投げ』が目立つようになった。・・・首相自らが開けた突破口の先にどのような社会をつくるのか、そこまでの道筋を含め、示す責任がある。」
24日の日本経済新聞社説「05衆院選、改革を問う」は、「補助負担金廃止の規模で違い際だつ」でした。
「自民党の政権公約は6月に小泉内閣が決めた『骨太の方針2005』の域を出ていない・・。地方側が求めている2007年度以降の第2期の改革についても、『地方の意見を尊重』にとどめ、実施の約束はしていない。これに対し、民主党は18兆円の補助負担金の廃止を打ち出した。そのうち5.5兆円を地方に税源移譲し、12.5兆円を一括交付金に改める。」
「補助金を通じた地方統制という集権型体制の部分修正で済まそうとする自民党と、補助金廃止で分権型社会への転換を図ろうとする民主党の違いは際だっている。政権選択の争点として、議論を深める価値はある」
この社説の主張の通りなんですが、問題は金額の次に、というか金額の多寡以上に「どの補助金を」と、「どの税金で」なのです。民主党の主張はありがたいのですが、どの補助金を廃止するのか不分明なのと、どの税金を移譲するのか不明なのです。そこが一番苦労しているところなんですがね。金額が大きいだけでは、喜べないのです。(8月24日)
(教育に関する国の責任と地方の責任)
26日の朝日新聞「私の視点」では、山出保全国市長会長が「分権改革、もっと地方に任せよ」を書いておられました。「この選挙では、郵政改革に注目が集まりがちだ。しかし、それでも仮にも『国から地方へ』の分権改革が後退するようなことがあってはならない。むしろ、選挙を機にいっそう推進されることを強く期待する」
「国は地方の教育力を信頼すべきだ。学力の到達目標を明示し、到達度を把握するのは国の責任としても、その目標に至るカリキュラムや授業時数などは柔軟に地方に任せてほしい。国と地方の役割分担を明確に法律に書き込めばいい」
「義務教育は国の責任と言いながら、国の負担は既に3割を切っている。これを維持することが、なぜ、国が責任を果たすことになるのか。重要なのは、教育水準と費用に地域間格差を生じさせないための担保を法令上どうするかなのだ」
その通りですよね。これまで行政・官僚は、入力(インプット)ばかりに力を入れて、結果や成果(アウトプットやアウトカム)を測ってきませんでした。教育の場合は、予算額と教職員の数を増やすことに力を入れて、教育の成果である学力や生徒が身につけるべき生活力、本人や父兄の満足を測ってきませんでした。今の文部行政・学校に、国民や父兄が満足できない理由はこれです。(8月26日)
(マニフェストと分権)
26日の新聞各紙に、民主党の全面広告(赤い枠取り)が載っていました。「民主党、8つの政策です」という表題で、1は行革、2は年金、3が教育で、4が分権でした。
「4 分権革命~地域のことは地域で~地域の工夫を引き出すために、ヒモつき補助金18兆円を、地方の財源に切り替えます。」
5がイラク支援、6が農業、7が道路公団、8が郵政改革です。
分権は、高い優先順位にあります。少なくともこれで、分権改革は後退はしません。ここまで来たことを、まずは評価しましょう。問題は、どうして進めるかです。(8月26日)
(政府の方針に反する省の行動?)
朝日新聞26日夕刊に、内田晃記者が「義務教育国庫負担金、文科省と総務省が再び火花」を書いていました。「国と地方の税財政改革(三位一体改革)の焦点である『義務教育費国庫負担金』をめぐり、対立してきた文部科学省と総務省が、06年度予算の概算要求でも火花を散らしている。昨年秋に決まった05~06年度での暫定的削減に反発する文科省が2兆5千億円の満額を要求。地方への税源移譲を進めたいとする総務省は、予定通りの削減を前提に要求する」
ご承知の通り、「政府・与党は昨年11月、激しい議論の末、同負担金2兆5千億円のうち8,500億円を2年間で暫定的に削減することで合意。これを受けた05年度予算では削減額の半分に当たる4,250億円がすでにカットされた」ものです。
まだ正式に決められたことではないようですが、もしそうだとすると、文科省が政府が決めた方針に反する行動をとるとは、「すごいこと」ですね。先だって、総理の郵政民営化方針に反するとして、総務省幹部が更迭されたことは、記憶に新しいところです。同じく「造反した」国会議員も、党公認を受けられませんでした。
このような例を出すまでもなく、政府が決めた方針に反する行動を大臣と官僚がとって良いものなのか、許されるものなのか、注視しましょう。日々、これまでにない日本政治の教材を見せてくれますね。(8月26日)