カテゴリー別アーカイブ: 行政

行政

衆議院選挙投票

先日、衆議院選挙の期日前投票に行きました。
東京の小選挙区は5つ増え、杉並区は2つに分割されました。私の住んでいるところは8区のままなのですが、近所の道路で線が引かれ、その先は27区になりました。地下鉄の駅の前では、8区の候補者と、27区の候補者が演説をしていて、紛らわしいです。

期日前投票の投票所に行くと案内人がいて、「8区ですか、27区ですか」と聞いてくれます。同じ建物に、2つの投票所があるのです。これは、案内人がいないと、混乱するなあと思いました。
投票を終えて出てくると、NHKの出口調査員がいました。協力しようとすると、「27区をやっているので、8区の方は残念ですが対象外です」とのこと。

北村亘教授の官僚意識調査

北村亘・大阪大学教授が、10月5日に名古屋大学で開催された日本政治学会で、「何が官僚の業務負担感を左右するのか− 2019・2023年官僚意識調査から見る官僚の認識–」という報告をされました。先生たちが行っている官僚意識調査に基づく分析です(2023年調査)。
報告の内容は学会員でないと読むことができませんが、先生からいただいた論文を元に少し紹介します。なお、この内容は、いずれ書物として出版されるとのことです。

・・・調査直後のコロナ禍以降、官僚たちが何に対して業務負担を感じており、どのような官僚がより業務負担感や離職意思を有しているのかという点を改めて分析する必要性が生じている。
そこで、本報告では、2019年調査、2023年調査の結果を用いて、まずは官僚の属性ごとに業務負担感がどの程度、離職意思に関係しており、とりわけ離職を考えている官僚にはどのような特徴があるのかを分析する。その後、2023年調査で新たに追加した質問に着目し、国会対応と訴訟リスクという観点から官僚の業務負担感について説明する。従来から指摘されてきた国会対応のみならず訴訟リスクにも目を向けることで、政治と司法のはざまでもがく官僚像を浮き彫りにできるだろう・・・

結論
・業務負担量の認識が離職行動にやはり大きな影響を及ぼしている。
・ただし、単純にすぐに離職というわけでなく、職場環境の改善などで離職意思を緩和することが可能である。
・業務負担量を左右しているのは国会対応であることが確認されたけれども、それだけでなく、行政訴訟の要件緩和が行政への大きな圧力としてかかっている。

最後に、次のような記述もあります。
・・・ただ、2 回の調査から、議院内閣制における二大統治エリートの一角を占める行政官僚が大きく傷ついていることが明らかになった。かつてのような活動型官僚が主軸であった行政を復権させることは現実的ではないが、ただ、このままでいいとは思えない。政治主導の土台はすぐれた行政の企画立案能力と実施能力にある。いたずらに選挙目当てで、もともと少ない公務員数をさらに削って功績顕示をするようなことは政治家自らの政策能力を低下させ、拍手喝采を送った国民も苦しむことになっていくだろう。民主主義における健全な行政には官僚の健全な職務環境が必要である。
政治家の行動原理に影響を与える制度的要因が選挙制度であるならば、官僚の行動原理に影響を与える制度的要因は在職保障と業務量に連動しない給与体系を中心とした公務員人事制度である。さらに業務の執行の仕方として特徴的なことは官僚の打ち出すことには強制力が伴うということである。事務次官経験者も民間大企業の幹部職員との違いとして所管範囲とそれに見合った法令を常に意識しつつ、法的強制力を伴うことから社会への権力行使には慎重さが必要だと指摘している(岡本 2024)。こうした制度の下で、公務員数が近年まで削減されてきたのに業務だけが高度専門化し増えていると一気に彼らのモチヴェーションは低下し、最終的には離職行動につながりかねないということが本稿で明らかになったことである。民間企業と異なり、行政における組織目標を外在的に定義するのは政治家の役割である。論壇でも行政の役割をそもそもから再定義することを求める意見が強い(たとえば待鳥2024)。公務員にはできるところから少しでも職場環境を改善していくことが求められているが、なによりも根本的な点は政治家でないと解決できない。政治家には、十分に専門家の意見に耳を傾けつつ、公務員数削減競争に陥らないことが「日本の行政」にいま求められていることだろう・・・

文中「岡本 2024」は、「公共を創る196 政府の役割の再定義46 転換を迫られる公務員の人事政策」『地方行政』11317 号(8月29日)です。

景気対策でなく経済成長を促進する対策を

10月4日の日経新聞経済教室、植田健一・東京大学教授の「日本経済再生の針路、価格・企業活動に介入するな」から。

・・・世間では日本経済再生のために、あれもこれもとかまびすしい。だが多くは必要ない。むしろ障害となる。
とりわけ景気浮揚のための財政・金融政策は、世間で考えられているような効果はない。経済学の研究をまとめれば、景気が悪化した時に下支えするという実績は多少ある。だがあくまでその効果は、経済学的に定義される景気の悪化に関してだ。そうした景気の悪化は、世間で考えられているほど起きていない・・・
・・・安倍政権時には、戦後2番目に長い好景気、すなわちトレンドの周りでの上昇局面があった。それでも世間では景気の良さを実感しないという声が多く、それに応えて政府・日銀は長きにわたり財政赤字を続け、金融政策を緩和したままにしてきた。これは間違いと言わざるを得ない。本来、好景気時の財政・金融政策による景気対策は、不景気時とは逆に、財政黒字を出し、金利を上げるものだ。
ただし金融政策については本務は景気対策よりも物価安定だ。景気にかかわらず、2%程度のインフレ目標の達成まで緩和することは理にかなう。だが好景気時の財政赤字はおかしい。

もっとも、世間の人々の景気に対する不満は、経済学の定義する景気ではなく平均の経済成長を実感してのことだろう。実際、日本の高度成長期やバブル期、中国の2000年代以降の経済成長と比べて、安倍政権時の長い好景気でも平均の経済成長は低かった。
だが発展途上国が先進国にキャッチアップする過程では通常、先進国よりも経済成長が高くなることが経済成長の研究で判明している。その意味で、高度成長期の日本や近年の中国と、先進国になった後の過去30年ほどの日本の比較は本来すべきことではない。

そして経済政策は経済学的な知見、つまり理論と実証研究に裏付けられたものでないと、効果が不明で副作用の危険すら伴う。好景気時には景気浮揚策よりも景気抑制策が必要なのだ。
ただし、本当に必要なのは景気循環における景気対策でなく、中長期的な構造的な経済成長を促進する対策だ。財政・金融による景気対策はそれには役立たないことが判明している。効果があるのはより民間活力を引き出す構造改革だ。構造的問題の所在を確認し、市場経済がうまくいくように改善していくほかない・・・

岸田政権の先送り負担増、年3兆円規模

9月28日の朝日新聞に「先送り負担増、年3兆円規模 岸田政権の置き土産、次期政権は」が載っていました。
・・・自民党の新しい総裁に選ばれた石破茂氏は、岸田文雄政権が決めた年3兆円規模の負担増にも向き合うことになる。防衛、少子化対策、脱炭素化の三つの予算を大幅に拡充して事業が始まっているのに、国民に不人気の負担増は始まっていないからだ。
岸田首相は防衛費を5年間で段階的に増やし、2027年度は22年度比で3・7兆円多い8・9兆円にすると決めた。少子化対策でも、28年度までに国と地方の予算を3・6兆円増額する。さらに、脱炭素社会を実現するためとして、32年度までの10年間で20兆円を投じることも決めた。

これらの予算増は22年度以降、順次始まっている。計画通り進めば、三つの政策の予算は、合計で年9兆円程度増える。ただ、岸田政権は、既存の財源をやりくりするだけではまかなえないため、一部を新たな負担として国民に求めることにしていた。
防衛費増に対応するため、法人税、所得税、たばこ税で計年1兆円強の増税を打ち出した。遅くとも26年度までに始める方針だが、与党の反発で実施時期が決まらず、必要な税法の提出の先送りを重ねてきた。少子化対策では、社会保険料の引き上げで年1兆円をまかなう法律を成立させ、26~28年度に段階的に実施する。
脱炭素投資の財源は、28年度から化石燃料賦課金、33年度から有償の排出量取引制度を通じて集める方針だが、具体的な仕組みは未定だ。50年までに投資20兆円の全額を回収する予定で、単純計算で年1兆円弱の負担増になる・・・

10月3日には「増やした、使った、後は任せた 岸田政権、財源確保は3割」載せていました。
・・・岸田文雄政権が3年の幕を閉じた。この間、物価高対策と称して巨額の補正予算の編成を繰り返したうえ、当初予算も大幅に増やし、将来にわたる歳出増を決定的にした。歴代政権は深刻な財政状況に配慮し、一度増やすと翌年度以降に減らすのが困難な当初予算は、高齢化に伴う年金や医療費などの伸びに抑えてきた。その不文律をも破ったことになる。

朝日新聞は、当初予算のうち恒常的に使われる政策の予算(国債費を除いた政策経費)が、前年度に比べてどれだけ増えたかを検証した。元参院予算委員会調査室長の藤井亮二・白鴎大教授(予算制度)の助言を受け、消費増税対策やコロナ対策の予備費など一時的な要因を除いた。
分析結果によると、岸田政権は2023~24年度に計6・2兆円、当初予算の政策経費を増やしていた。防衛と少子化対策の予算を大幅に拡充したためだ。01年度以降でみると、09~10年度(7・0兆円)に続く規模だ。当時、自民党から民主党への政権交代があり、「バラマキ合戦」になった時期だ。
岸田政権は、別枠の特別会計を用い、年平均2兆円のペースで脱炭素化の支援策を増額した。これを含めれば、政策経費の伸びは09~10年度をも上回ると見られる・・・
・・・積極財政を掲げた安倍晋三政権でも、政策経費の伸びは、最大で19~20年度の3・2兆円にとどまる。高等教育無償化などを進めたためだが、消費増税により、支出増を上回る税収増を確保していた。
一方、岸田政権が打ち出した防衛と少子化対策の強化の財源では、将来の増税や社会保険料の引き上げで確保したのは、増やした予算の3割だけ。残りは、特別会計の剰余金など恒久財源とは言えないものばかりだ・・・

岸田首相と経済財政諮問会議民間議員の座談会

9月20日に、日経新聞主催で、岸田首相と経済財政諮問会議民間議員との座談会が開かれました。23日付けの日経新聞に、要旨が載っています。マクロ経済、財政、成長力強化と人口、金融政策、エネルギー、労働市場改革にわけて、議論が交わされています。なかなか、内容のある座談会です。菅野・論説委員の司会で、突っ込みも鋭いです。例えば、ガソリンや電気などへの補助金が続くこと、消費税増税についてです。

この記事を読んだときに、良い企画だと思いつつ、次のようなことを考えました。経済財政諮問会議の議員との意見交換なのですが、経済財政諮問会議では、このような議論がなされていないのです。
まず、所要時間です。首相動静を見ると、8時34分に会場のホテルに到着し、9時48分にホテルを出発しておられます。1時間強です。他方で、最近の経済財政諮問会議は、30分から1時間未満です。6月21日の経済財政諮問会議と新しい資本主義実現会議の合同会議は、首相を合わせて出席者は21人、所要時間は37分でした。

そして、諮問会議ではこのような「自由な」議論、突っ込んだ意見交換がされていません。内閣府は、省庁改革の際に首相を支える「知恵の場」としてつくられ、諮問会議はその最たるものです。
役所の会議の傾向として、次第に儀式になってしまいます。決められた時間の中で、あらかじめ予定された結論を出す(その総理発言を報道機関に公開する)ために、事務局の官僚は全精力を注ぎます。さらに、権限が強い会議では、自由な議論をすると市場や行政に思わぬ影響を与えてしまう可能性があります。

このような場をどのように活用するか、議長である首相の考え方によります。首相にとって、民間議員との自由な意見交換は意義あるものだと思います。諮問会議ではふさわしくないとすると、首相と民間議員との意見交換を「懇談会」として設営することも可能でしょう。