朝日新聞8月27日「戦後の原点」テッサ・モーリス=スズキさん「突然の帝国解体、旧植民地と未清算の一因」から。
「多くの日本人にとって、帝国が解体したログイン前の続きという歴史意識は薄いのでは」という問いに。
・・・日本は戦争に敗北した瞬間、それまでに得た支配地域を手放さなければならなくなりました。しかも、それは突然でした。大英帝国の場合、アジアやアフリカで独立運動も起き、植民地支配の終わりは少なくとも数十年をかけて進行するプロセスでした。
本は対照的です。敗戦と同時に突然帝国が終わったことは、旧植民地との間に今日まで未清算の問題が残る一因になりました。
日本では悲惨な敗戦体験もあり、責任意識より被害者意識のほうが支配的になりました。市民レベルでの旧植民地とのつながりが突然断ち切られたことも、双方の歴史認識の隔たりを広げた。日本政府は清算に積極的に取り組まなかったが、冷戦構造にすぐ組み込まれたせいで台湾や韓国の人々が日本を強く批判できなくなった事情もある・・・
これは、あまり取り上げられない論点です。歴史の教科書にも取り上げられることは、少ないでしょう。しかし、日本の政治家やオピニオンリーダー、アジアで活躍する人には、必須の項目です。原文をお読みください。
カテゴリーアーカイブ:行政
アメリカの反知性主義
朝日新聞8月18日オピニオン欄、アメリカ外交問題評議会上級研究員、マックス・ブートさんの「米共和党 愚かな党のふり、現実に」から。
・・・1950年代には、民主党の大統領候補だったスティーブンソンは「エッグヘッド(はげ頭の知性派)」、共和党の大統領候補だったアイゼンハワーは「まぬけ」、という図式が定着した。この見方は、リチャード・ホーフスタッターの「アメリカの反知性主義」でお墨付きを得た。
民主党は米国の知性派の代弁者だという印象が固まるなかで、共和党員は、政治目的のために、反知性のレッテルを受け入れた。だが、少なくとも最近まで、それは、見せかけのものだった。アイゼンハワーは安全保障問題に比類なき知識を持ち、レーガンは無能な役者に見えて、何十年も公共政策を磨き、演説原稿を自分で書き続けた。ニクソンはキッシンジャーらハーバード大学教授に内外の政策を託した。
レーガン政権時代、共和党は、アメリカンエンタープライズ研究所やヘリテージ財団のような保守系シンクタンク、ウォールストリート・ジャーナル紙、コメンタリー誌などを効果的に活用し、「政策政党」として知られるようになった。
だが、共和党と政策分野のつながりは徐々に弱まっている。かつてはアービング・クリストルやジョージ・ウィルなどの思想家が果たしていた役割を、ラジオトーク番組の司会者やテレビタレントが担うようになった。見境なく、軽率で、すべてを消耗させる怒りの感情が真っ先に漂うようになった・・・
イギリスのイラク参戦、その検証
朝日新聞8月19日オピニオン欄「イラク参戦、英の誤り」、英王立統合軍防衛研究所前所長、マイケル・クラークさんのインタビューから。
「報告書の指摘の中で何が最も重要だと考えますか」という問に。
・・・英政府全体が組織的機能不全に陥っていた、という点です。特に内閣の機能不全です。後世の歴史家はそこに着目するでしょう・・・
「中東を熟知した英情報将校「アラビアのロレンス」は21世紀にはもういないのですね」という問には。
・・・その通りです。西側情報機関はイラク軍、共和国防衛隊の指揮官らの携帯電話番号をつかみ、彼らの居場所をつかんでいた。一方でイラクの電力や上下水道などの社会基盤がいかに劣化していたかに考えが及ばず、戦後も国家機能が維持できると考えた。イラクの経済状況を全く把握していなかったのです。植民地時代には現地に長年滞在し、人脈を持ち、地域に精通した行政官が何世代も生み出されていました。植民地主義の是非はともかく、彼らは極めて有能で物事を進めるのが得意でした・・・
・・・開戦前の計画は優れたものではなかったが、適切な戦後計画を欠いたことで事態はさらに悪化した。この点について(占領政策を主導した)米国には英国以上に重大な責任があります・・・
・・・重要なのは、戦略的観点で政策を判断することです。イラク戦争の最大の勝者はイランでした。そのために英米の中東における権益維持はより困難になった。イランは域内での米英の最大の敵対相手なのですから。独裁者の除去が倫理的に正しいかどうかは別に、戦略的な計算では行動の結果、域内がより安定したかどうかが問われます。戦略的には米英が目指したものと全く逆の効果になりました・・・
審議会政治の終わり?
日経新聞7月29日の総合面「真相深層」小川和広記者の「「官製」最低賃金 首相の念願。異例のスピード決着、過去最大24円上げ」が、良い分析をしていました。
中央最低賃金審議会の小委員会が、企業に義務づける最低賃金を10月から24円引き上げることを決めました。徹夜協議となった昨年、一昨年に比べ、異例のスピード決着です。それに関して。
・・・ある委員は「安倍晋三首相の発言が後押ししたのは間違いない」と振り返る。13日の経済財政諮問会議で首相は「今年度は3%の引き上げに向けて最大限努力するように」と時期と上げ幅を具体的に挙げて、関係閣僚に指示していたからだ・・・労使で決める賃金に政府は原則として介入できない。しかし、法律で義務づける最低賃金であれば政府にも介入の余地がある。内閣府中堅幹部は「労使が協議する厚生労働省の審議会で政府が3%引き上げたいとは言えない。代わりに諮問会議で首相が発言する場を作った」と明かす・・・
・・・首相の「鶴の一声」による今回の最低賃金の決め方は学者、経団連、連合の代表ら公労使による中央最低賃金審議会の不要論につながる可能性をはらむ・・・
この問題は、賃上げをどのように実現していくか、日本経済のありようや連合や経団連の役割など大きな課題を含んでいます。ここでは、審議会政治に絞って解説しましょう。
社会に利害対立がある場合、その両者と公益委員を入れた3者協議の場が作られます。国や自治体でもそのような3者審議会は、この賃金などの他にも例があります。かつては、公共料金、米価などが花形でニュースになりました。
政府の審議会は、シナリオを官僚が書くので、「官僚の隠れ蓑」と批判されました。ところが、この3者協議の形の審議会は、官僚の隠れ蓑ではなく、「政治家の隠れ蓑」と見る見方もあります。すなわち、社会の利害対立を調整するのは、本来は国会なり政治の仕事です。しかし、その調整を、省庁におかれた審議会に委ねるのです。そして、両者が意見を述べ、中立の立場の公益委員と官僚が、落としどころを探るのです。
政治が解決せず、丸投げされた官僚機構が編み出した「知恵のある解決の場、方法」だったのです。国会の場で大騒ぎにせず、審議会の場で静かに片を付ける。日本流の一つの解決方法でした。しかし、「官僚主導でなく政治主導で」という理念を実現するなら、このような審議会は不要になります。
2001年の省庁改革では、審議会の整理統合も一つの課題でした。かつてこのホームページでも、書いたことがあります(2006年11月8日)。記事の中では、「ある委員は「頭越しに目標を設定するやり方では審議会が形骸化する」と不満を漏らし始めている」と紹介されていますが、その通りです。いずれ、廃止される時期が来るかもしれません。
社会の分断、それを解決する政治
イギリスのEU離脱国民投票結果について、EU発展の視点や国際統合の視点とともに、国内の対立(スコットランドとイングランド、富裕層と貧困層、北部と南部、高学歴低学歴等)が現れたという見方があります。例えば、7月5日の日経新聞経済教室、力久昌幸・同志社大学教授「世代・階層間の分断深刻 英国解体懸念払拭できず」。(2016年7月20日の記述も)。社会の分裂が表面化したのです。国際統合という「高い理想の政治」に対し、「庶民の不満の政治」が抵抗したのです。国際政治と見るか国内政治と見るかです。
社会の亀裂を統合するのも、政治の役割です。国民を構成する集団間に格差(経済格差、政治的不平等など)や考え方の違い(宗教間対立)が大きくなり、不満がたまると、騒動や暴動になります。
ところが、イギリスの歴史は、これまでも社会の課題や亀裂を、どのようにして解決していったかの「教科書」なのです。このホームページでも詳しく紹介した、近藤和彦著『イギリス史10講』(2013年、岩波新書)をお読みください(2014年7月27日。覇権国家イギリスを作った仕組み)。
ひるがえって、現在日本の社会の亀裂は何か。私は、世代間対立(年金受給者対若者)や、都市対地方が対立軸だと考えていました。しかし、近年は、日本社会で最も大きな亀裂は、正規対非正規と考えています(2016年6月2日。現在日本社会の亀裂)。日本の政治がこの課題をどのように解決していくか。それが問われています。
ところで、社会の異なる利害を代表するのが、政党の役割です。彼らが、選挙や議会で議論を戦わせて、問題を解決していきます。しかし、イギリスのこの対立は、与野党対立に代表されていません。与党下院議員の4割が離脱を支持しました。日本においても、先に挙げた社会の課題はまだ、政党間対立の主要な争点になっていません。