カテゴリーアーカイブ:行政

アメリカの政治思想

2016年9月11日   岡本全勝

会田弘継著『増補改訂版 追跡・アメリカの思想家たち』(2016年、中公文庫)が、勉強になります。
「アメリカに思想などあったのか?」と思われる人も多いでしょう。プラグマティズムといった哲学、あるいは企業家の経営哲学は思い浮かぶけど、政治哲学は知らないなあと。民主主義、自由主義で、せいぜい共和党と民主党の似たもの同士の争いと思われがちです。そのような思想で、独立し国をつくったのですから。
そして、自由主義陣営の盟主として、アメリカニズムを世界に普及しているというのが、一般的な理解ではないでしょうか。そのアメリカニズムは思想と言うより、豊かな消費社会という生活文化を真っ先に思い浮かべます。
ところが、この本を読んでいただくと、アメリカが、自由主義・民主主義の範囲内で、保守から革新や伝統主義まで、個人主義から共同体主義や社会民主主義まで、幅広い議論を積み重ねていることがわかります。
そして、それらの論客やその思想を体現した政治家が、国政でも議論を繰り広げるのです。
これには、共産主義陣営が崩壊し、民主主義と自由主義の枠内で、さまざまな立場の違いや考え方の違いが表れたこともあると思います。また、人種間の格差に加え、所得の格差が無視できないようになってきていることもあります。トランプ現象です。本書では、それについても鋭い分析がされています。文庫本で読めるのも、ありがたいです。

封建制や王政の歴史を持たないアメリカで、保守や伝統主義がどのような位置づけを持つのか。その点は、本書をお読みください。保守や革新という言葉は、ヨーロッパ、アメリカ、日本では、違った意味をもちます。歴史が違うので、言葉が持つ意味が違ってくるのです。保守や伝統主義にあっても、どの過去を理想とするのか、何を「伝統」と考えるかによって、各国でも違ってきます。
日本でも、保守を標榜する自民党が着実に改革を進め、革新を標榜するグループが「改憲反対」を訴えるという、ねじれがあります。あるグループが自らを「革新だ」と表現する場合、それをそのままに受け取るのか、あるいはその国の過去や現在の政治勢力・政治思想の中に位置づけて「実は保守に分類される」と分析するのか。それが、研究者やマスコミの仕事だと思うのですが。
それらの「分類」(ラベル貼り)は、時々の政治対立や社会問題を理解するためにつくられたものですから、現実社会や政治が変化すると、その分類は切れ味が悪くなります。現在の欧米では、保守と革新ではなく、ポピュリズムや貧困層と富裕層との対立、移民と元の住民との対立でしょう。日本においても、非正規雇用や子どもの貧困、安心できる子育てが重要な課題で、保守と革新では分類できません。安全保障については、たぶん大きな対立はないでしょう。非現実的な主張を除けば。

現実政治における政治思想について、日本においては、明確になっていないようです。冷戦期には、「自民党は保守で、自由主義、資本主義。社会党は、革新で、社会主義」との対立構図でした。とはいえ、万年与党と万年野党で議論による政策選択や政権選択がない(と多くの国民が考えている)状態では、議論は活性化しません。
冷戦終結後も、与野党での政治思想対立や政策選択議論は少なく、思想の構造的対立の議論は深まっていません。社会保障や安全保障において、その時々の対立はあっても、陣営に分かれた構造的対立になっていないのです。政権交代はありましたが、「自民党にお灸をすえる」という位置づけに終わったようです。
例えば、国民負担議論(大きな政府か小さな政府か)にしても、各党もマスコミも「小さな政府」「行政改革」と「安心できる社会保障」を主張し、それでは一方では(実現が困難な)理想論に、他方では程度の問題になってしまいます。

さらに、日本では、政党と国会でされる議論、新聞の政治面での記事、大学の政治学で教えられる内容では、この視点が欠落しているように思います。マスコミは十分な分析をせず、日々の政局記事を流します。研究者は、ヨーロッパやアメリカの政治対立や政治思想を講義しますが、日本の現実政治にはあまり立ち入りません。日本でこの会田さんの本のようなものを書くとしたら、どのような内容になるでしょうか。マスコミの政治部長に質問してみましょう。

NPO3人組の活躍

2016年9月10日   岡本全勝

このホームページにしばしば登場するNPO3人組が、それぞれに活躍しています。
田村太郎さんは、毎日新聞に「社会起業家」について連載しています。本業のダイバーシティ研究所については、ホームページをご覧ください。
青柳光昌さんは、9月末に「ソーシャルイノベーションフォーラム」を開催します。
藤沢烈さんは、このホームページ9月3日に「社会起業家が新公益連盟、分野の枠超え政策提言」を紹介しました。その他の活躍については、烈さんのブログをお読みください。
それぞれに、民間の立場から、社会の課題を解決するべく、奮闘中です。いつものことながら、その熱意と行動力に脱帽します。行政も、負けてはいられないのですが。

現在の官僚像

2016年9月6日   岡本全勝

日経新聞9月4日「春秋」欄が、興味深いです。
・・・この夏公開されヒット中のゴジラ映画最新作「シン・ゴジラ」。大人の足を映画館に運ばせた裏に、怪獣映画にしては珍しい設定がある。ふつう巨大生物を迎え撃つ役回りは軍人か天才科学者。しかし今作では、若手の政治家や官僚ら背広姿の集団が主役を務めるのだ。
会議の手配、根回し、コピー機の搬入、徹夜の資料作り。取材を重ねた描写は細かい。首相官邸の中をのぞき見するような面白さもある。加えて怪獣との最終決戦では、詳しくは書けないが、軍事力ではなく民間企業が持つ技術力や生産能力、設備が重要な役割を果たす。それらを動員できたのも官僚の力という筋書きだ・・・
続きは原文をお読みください。

社会の課題に取り組むNPO

2016年9月3日   岡本全勝

日経新聞9月2日夕刊「パーソン」は、河野俊記者の「社会起業家が新公益連盟、分野の枠超え政策提言」でした。
・・・子どもや女性の支援、災害復興、地域活性化など社会が抱える課題の最前線で奮闘する、NPOの代表など社会起業家が「新公益連盟」を結成した。分野の枠を超えた政策提言や経営・人材育成のノウハウ共有を狙う。東日本大震災を機に社会貢献への関心は高まった。ただ個々の活動だけで社会を変えるには限界がある。そんな危機感を胸に、志を同じくする人たちが続々と集まった・・・
大震災の被災者支援、被災地の復興に際し、NPOは大きな貢献をしてくれました。拙著「復興が日本を変える」で紹介したとおりです。社会でもだんだんと認知されつつあります。
課題は、被災地だけでなく全国に広げること。被災者支援だけでなく、その他の社会の課題解決に広げることです。社会でもっと認知してもらうことです。参考、「復興がつくった新しい行政」の図3。
他方で、行政とどのように連携するかが課題です。社会の課題を解決するのが行政の任務であり、地域の課題を解決するのが市町村役場の任務です。私は、市町村役場に、「地域の課題解決のためのNPOとの連携窓口課」を作るのが一つの方法だと考えています。
河野記者、良い紹介をしてくれて、ありがとう。

日本の革新勢力がリベラルだという誤解

2016年9月3日   岡本全勝

読売新聞8月30日「リベラルとは何か」、井上達夫・東大教授の発言から。
・・・リベラリズムは歴史的に啓蒙と寛容の伝統に根ざす。その哲学的基礎は単なる自由ではなく、「他者に対する公正さ」という意味での正義の理念だと私は考える。自分の政敵に対してもフェアに振る舞うことで、政治社会を暴力的な無秩序の状態ではなく、言論と言論が戦う世界にすることだ。かつての革新が名乗る今のリベラリズムはリベラリズムに背反している。その典型が「護憲派リベラル」だ。
リベラリズムは、対立する諸勢力がフェアな政治的競争のルールを互いに守る姿勢の中に、法の支配や、憲法で権力を統制する立憲主義の基礎を求める。
ところが、護憲派リベラルは、自分たちの特定の安全保障政策を政敵に押しつける道具に立憲主義を利用している。専守防衛ならば自衛隊・日米安保条約は合憲だとする解釈改憲や、違憲だけど容認するというご都合主義に居直っている・・・
・・・9条改正の是非を「リベラル対保守」の対立と結びつけるのは的外れだ。
憲法に盛り込むものは、統治構造と基本的人権の保障だ。一方、非武装中立で行くか、個別的自衛権にとどまるか、集団的自衛権へ行くか、などは安全保障政策の問題であって、特定少数者の人権と関係ない。政策論争の問題だ。
ただし、国民の無責任な好戦的衝動や政治的無関心から、政府が危険な軍事行動に走らないよう、戦力統制規範を憲法に盛り込むべきだ・・・最低限、軍隊の文民統制と、武力行使に対する国会の事前承認は憲法で明定すべきだ。この最低限の戦力統制規範すら現憲法が欠くのは、9条により、戦力が存在しない建前になっているからだ。「9条が戦力を縛っている」は護憲派のうそ。9条のため憲法は戦力統制ができない・・・
佐伯啓思・京大名誉教授の発言から。
・・・日本では戦後、歴史と伝統の一貫性を強調しつつ、現実には日米同盟を中心に国益の実現を目指す保守と、社会主義に共感しながら労働者階級の利益を目指す革新が対立した。自由より社会主義を目指す点で、革新はリベラルとはいえない。米国型リベラルが重視した福祉や平等を現実に実現したのは自民党だ・・・
原文をお読みください。