カテゴリーアーカイブ:経済

経済学の「間違い」

2012年11月11日   岡本全勝

佐伯啓思著『経済学の犯罪―稀少性の経済から過剰性の経済へ』(2012年、講談社現代新書)を読みました。「犯罪」とはいささかショッキングな表題ですが、副題の「稀少性の経済から過剰性の経済」にひかれて読みました。
モノあまり、カネあまりといわれる現在、モノが足りないことを前提とした経済学の有効性が低下しています。日銀がいくら通貨を供給して低金利にしても、企業は金を借りてくれません。ケインズ経済学では、政府が需要を創出して、景気を回復させます。一度は「ケインズは死んだ」と言われましたが、リーマン・ショック対策には、効果を発揮しました。しかし、個人の需要と企業の投資は、史上初の低金利政策にもかかわらず、回復しません。
佐伯先生の見立ては、これまでの経済学は、需要はいくらでも発生するという前提に立っていた。これが間違いである、というものです。そして、供給の規制を撤廃し自由競争を導入すれば供給が伸びるという、新自由主義経済学を批判されます。
さらに、市場経済の基本命題=「自由な競争市場こそは効率的な資源配分を実現し、可能な限り人々の物的幸福を増大することができる」を批判されます。この命題が成り立つための前提が、間違っているのです。この点は、多くの人が指摘しています。
新書なので読みやすいですが、いろんなことを考えさせる本です。ここでは、ごくごく一部しか紹介できません。
私は読みながら、次のようなことを考えました。

すなわち、「経済学」は2つある。その一つは、国民の生活を向上させようとする、政策の学問です。もう一つは、いくつかの条件を設定して、経済の動きをモデルにしようとするものです。前者は政策であり、後者は理論です。そして、近代経済学が理論の精緻さを追うばかりに、現実とは離れた前提をおいたことが、2つを分かってしまいました。
特に、自由主義経済学、市場原理主義です。この考え方は、国家は市場に介入しない方が良い、と主張します(極端に表現してあります)。しかし、現在の日本の政治でも、アメリカの大統領選挙でも、最大のテーマは経済であり、政府(中央銀行を含めて)が何をすべきかが、争点になっています。そして、各国とも、産業政策に力を入れています。さらに、国内経済だけでなく、世界貿易や国際金融についても、政府の役割が大きいです。
経済の自由主義は、放っておけば効率よく動くものではなく、政府が管理しなければならないものです。レッセ・フェールでなく、「管理された自由経済」(少し矛盾していますが)です(例えば、戦後の「管理された自由な国際貿易」について、ラギー著『平和を勝ち取る―アメリカはどのように戦後秩序を築いたか』(邦訳2009年、岩波書店)第2章、第5章)。
なぜ、ここにおいて、自由主義経済学の理論が成り立たないか。それは、簡単には、次のような理由だと思います。
・個人や各企業の間に、持っているものと能力に大きな差があること。決して、平等な競争ではありません。スタートにおいて、差があるのです。
・それは、世界の各国の間にもあります。1人あたりGDPに大きな差があり、競争力にも大きな差があります。教育程度やインフラの差は、能力に大きな差を生みます。
・産業と経済は、止まっていません。絶えず動き発展しています。遅れてきた者・貧しい者は、進んでいる者に追いつき追い越そうとしています。先を行く者は、次なることを考えます。世界は常に動いているのです。理論経済学は、このあたりを過小に見ています。
このテーマは、こんなホームページの記述では説明しきれない大きなものなので、この程度で止めておきます。ただし、私は規制改革・構造改革には、意義があると考えています。それは、古い時代に適合した仕組みを変え、時代遅れになった既得権を壊すために、必要な手順であり哲学です。

品質向上努力と売り込み

2012年11月10日   岡本全勝

11月10日の朝日新聞夕刊に、「うまいコメ、列島激戦」が載っていました。業界団体の食味検定で、平成23年度産のコメについて、5段階評価で26銘柄が最高の「特A」でした。
ニュースはこれから先です。なんと、トップ3は、北海道産の「ゆめぴりか」、奈良県産の「ヒノヒカリ」、福岡県産の「元気つくし」でした。北海道産も九州産も、これまでは、おいしくないと言われていました。さらに、我が奈良県のコメも、おいしいとは聞いたことがありませんでした(失礼)。
大和(やまと)豊作、米食わず」と聞いて育ちました。奈良県(大和盆地)は水が少なく、ため池が発達しました。奈良盆地が豊作になるような年は、他の土地では雨が多く不作だという意味です。これは食味について語った言葉ではありませんが、推して知るべしでしょう。
他方で、新潟県産の「コシヒカリ」は特Aですが、宮城県産の「ササニシキ」、秋田県産の「あきたこまち」は特Aに入っていません。関係者の猛烈な努力があるのでしょうね。
また、同日の日本経済新聞夕刊には、国産ウイスキーの輸出が増えているとの記事が載っていました。2011年の輸出額は約20億円、5年間で倍増しました。しかもかつては、台湾向けが6割だったのですが、昨年は、フランスに25%、本場イギリスに14%だそうです。
日本がどれくらい洋酒を輸入しているかも、気がかりですが、うれしいことです。舶来洋物ばかりをありがたがらず、国産も同等に評価しましょう。
目隠し試験(銘柄を隠して飲み比べる)をすると、その人の舌と鼻と喉が試されます。若いときに、失敗しました。有名な海外のウイスキーを出してもらって、「やはり××はおいしいですね」と言ったら、ボトルだけが有名ブランドで、中は安酒だったとか。こちらも、仕返しをしましたが(苦笑)。

世界の金融決済を支える仕組み

2012年10月31日   岡本全勝

10月29日から大阪で、金融業界で世界最大規模の国際会議「Sibos(サイボス)」が開かれています。主催者は、国際銀行間通信協会(SWIFT、スイフト、Society for Worldwide Interbank Financial Telecommunication)です。
世界各国の金融機関の決済を行う通信網を、運営している組織だそうです。200か国、1万を超える金融機関が使っていて、1日あたり1,500万件の送金をしているそうです。本部はベルギー、幹部はオランダ人のようです。利用者は、イギリスとアメリカがダントツです。もっとも、国内取引に利用している国もあり、日本のように国内取引は別のシステムを使っている国とは状況が違います。
ここで取り上げたのは、これが純粋に民間の仕組みということです。この決済システム(正確にはそれを運んでいる通信システム)がなければ、現在の国際金融は成り立ちません。あるいは、危険きわまりないでしょう。民間が提供する「国際公共財」「国際的共通資本」です。

フランスの売り上げを支える日本人

2012年9月22日   岡本全勝

9月22日の朝日新聞経済欄に、フランスの高級食材店フォションの最高経営責任者のインタビューが載っていました。
日本では高島屋百貨店などで売っています。日本での売り上げは年間約99億円、世界での売り上げの56%だそうです。
へ~。半分以上が日本とは。ルイヴィトンの売り上げの多くが、日本人だと聞いたことがあります。
日本人って、フランスが好きなんですよね。かくいう私も、若い頃にパリで、フォションの紅茶を買ってきました。あの金色の缶です。
かつて三越や高島屋では、イギリスフェアやフランスフェアが定番でした。次にイタリアフェアになりました。日本人のあこがれでしたが、日本も豊かになり、海外旅行も珍しくなくなって、最近はかつてほどの輝きがないです。
それでも、日本人が買っているのですね。次は、中国人が買うのでしょう。
日本が考えなければならないこと。それは、日本のおいしい食品や産物を、成長著しいアジア諸国に売り込むことです。日本の果物は、結構高い評価を得ています。日本ブランドで、もっと売りましょう。そして、国内より国外での売り上げが多いというように、なりませんかね。

学者の見立てと経営者の主張と

2012年8月11日   岡本全勝

7月23日の日経新聞に「技術交流の盛んな日本を始めよう」が載っていました。そこで、田中陽・編集委員が、次のようなことを書いておられます。
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今から15年ほど前、ハーバード・ビジネススクールが、「味の素」の経営をケーススタディーとして取り上げたことがあります。主力の調味料に始まり甘味料、加工食品、飼料用アミノ酸、医薬品など多岐にわたる事業領域の是非について、ビジネスエリートたちが下した結論は「選択と集中。多くの事業から撤退すべき」というものでした。味の素の幹部もこの議論に参加し、多彩な事業展開の必要性を説明しましたが、彼らを納得させることはできなかったそうです・・
その後、味の素の事業領域は香粧品、電子材料なども加わり、さらに拡大しています。その大半は同社の中核であるアミノ酸やバイオ技術に裏打ちされた事業であり、それぞれが切っても切れない関係にあります。そこで培われた長年のR&D(研究・開発)の蓄積が今、さらに多様な分野でいかされようとしています。株式時価総額も15年前の6400億円が現在は7500億円まで増えました。あの時、ビジネスエリートたちの言うことに従っていたら、新しい価値を生み出すベンチャー精神の芽も摘み取られてしまっていたことでしょう・・