「経済」カテゴリーアーカイブ

経済

経済の動きを測る、構造変化への対応

滝田洋一著「世界経済大乱」(2016年、日経プレミアシリーズ新書)から。
企業が投資として認識している範囲と、政府のGDP統計での投資の範囲がずれているのです(p234)。GDPでの投資は、建物や機械などの有形固定資産(約58兆円)とソフトウエアなど(約11兆円)の合計68兆円です。無形資産の多くが、こぼれ落ちています。例えば、研究開発投資(15兆円)、ブランド力や技術力など「経済的競争能力」が7兆円です。そこでも紹介されていますが、グーグルやアマゾンの価値は、コンピュータとその施設設備ではありませんよね。このほか、海外の子会社の株式取得や企業買収も、企業にすれば投資ですが、政府の統計からは落ちています。この話は、既に新聞に書かれているので、読まれた方もおられるでしょう。「設備投資とは何か 食い違う政府と企業の認識」(日経電子版、2016年1月4日)。新聞記事には、範囲のズレが図になっているので、記事本文と一緒にそれをご覧ください。
少し話はずれますが、産業の3分類も今や機能を発揮しません。習いましたよね。第1次産業=農業、林業、水産業など。第2次産業=製造業、建設業など。第3次産業=情報通信業、金融業、運輸業、販売業、対人サービス業など。わかりやすいです。
しかし、近年の産業別のGDP構成比は、第1次産業が1.2%、第2次産業が23.9%、第3次産業が74.9%です。1.2%と75%を比べても、有意な結論は出ないでしょう。もっと違った分類基準が必要です。それぞれの指標は、考案されたときは威力があるのですが、構造が変化すると、新しい物差しが必要です。

日本と世界の経済の動き

滝田洋一・日経新聞編集委員が「世界経済大乱」(2016年4月、日経新聞出版社、日経プレミアシリーズ新書)を、出版されました。なかなか刺激的な表題ですが、昨今の経済状況を見ると、なるほどと思います。それは、読んでいただくとして。
2016年に入ってから、世界経済が変調を来しています。中国経済の減速、原油を初めとした資源安。それにヨーロッパの政治と社会の不安定化、中東の混乱、アメリカ大統領選挙の行方・・・。日本の政治経済も、これらの国際条件を抜きに、語ることはできません。
日本と世界の経済の直近の動きを知りたい人は、ぜひお読みください。日本と世界の、そして表と裏の情報を知り尽くした記者の新著です。
2008年秋、麻生内閣が発足したとき、リーマンショックが世界を襲いました。それに対して、1929年世界大恐慌を再来させないことを念頭に、主要国の首脳が連絡を取りつつ努力をしたことを思い出します。当時、アメリカは震源地でありながら大統領選挙中、ヨーロッパはサブプライムローンの影響が大きく身動きが取れませんでした。世界第2位(当時)の経済大国日本と、麻生総理に促されて、3位の中国が財政出動に動いたのです(本書p123。当時、総理秘書官としてこれに当たっていたのが、浅川雅嗣・現財務官です。本書にもしばしば登場します)。
ところで、一番新しい経済の動きは、毎日の新聞やニュースが伝えてくれます。しかし、私たちのように直接関わる仕事をしていないものにとっては、それらのニュースを追うことは、手間がかかります。他方で、学者や研究者が分析してくれるものは、1年以上も後になります。その間を埋めるのが、このような新書です。高度に分析してくれる月刊誌があれば、有用なのですが。

「日の丸」救済策に限界

4月1日の読売新聞「論点スペシャル」「シャープ買収で見えたもの」から。その2。大橋弘・東大経済学部教授の発言。
・・・アジアの産業は、かつて日本が引っ張る雁行型の発展を遂げてきた。最初は、日本の繊維が栄えた。次第に技術で追い上げられ、繊維は後発国に移る。代わりに日本では、鉄鋼、機械などが成長し、それが順に後発国に移った。つまり、電機も昔の繊維のようになったということだろう。
その後、繊維では東レや帝人などが技術革新で次の発展を遂げた。電機産業が今後どこに進むのかが今、問われている・・・
そうですね。かつて日本の電機産業は、欧米の電機メーカーを廃業に追い込みました。彼の地では、テレビを作る企業がなくなったのです。ビデオテープレコーダーは、日本がほぼ独占しました。
それと同じことが、30~40年遅れでアジアで起きています。そして生き残るためには、次の事、新しいことを考えなければなりません。シャープの液晶「亀山モデル」の歴史を見ると、どんな立派な技術でも「安住」はないと言うことですね。

優れた技術だけでなく、生活を変革する製品を

4月1日の読売新聞「論点スペシャル」「シャープ買収で見えたもの」から。石川正俊・東大情報工学系研究科長の発言
・・・シャープの液晶が優れた技術であることは間違いない。しかし、製品の根幹となる液晶のような技術を磨いていればモノが売れる、という産業モデルは時代に合わなくなっている。日本はとっくにそのことを学んでいたはずだ・・・
・・・大事なのは、技術力を磨くだけでなく、新しい社会価値を生みだす製品や市場を作ることだ。それを実現したのが米アップルの「iPhone」だ。暮らしや経済を変えるシステムを生みだした・・・
・・・私は長年、ICT分野で産学連携をしている。その体験から言えるのは、日本企業には貪欲さが乏しいことだ。私の研究成果が新聞などで報じられると、欧米、台湾、韓国の企業はすぐにメールや電話で接触してくる。日本企業は、早くて1か月後だ。社内の了解を取るのに時間を費やしている・・・

経営難の企業をどこまで支援すべきか

公正取引委員会が、3月31日に「公的再生支援に関する競争政策上の考え方」を公表しました。新聞は、「税金を投じた救済で健全なライバル企業が不利になったり、支援を期待して経営者が緊張感を失ったりしないよう、安易な支援に歯止めをかける狙いだ」と伝えています。
放っておくと企業が破綻する。そして国力や雇用の場が失われる。そのようなときに、行政は支援すべきか。他方でそれは、公平な競争を阻害します。また、好調なときは「官の関与は最小限にすべき」と主張しておきながら、困ったときは「政府が支援すべき」とのご都合主義もおかしいです。
官と民との関係、行政はどこまで経済活動に介入すべきかを考える事例です。