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社会

大リーグ蜂騒動に学ぶ、おおらかさ

5月15日の日経新聞スポーツ欄に、北川和徳・編集委員の「大リーグ蜂騒動から学ぶ、おおらかさと臨機応変な発想」が載っていました。

・・・大谷翔平(ドジャース)を目当てに大リーグ中継を見ていて、トラブルが起きた時のスタジアムの雰囲気と臨機応変な対応に感心した。蜂の大群の襲来で試合開始が約2時間遅れた4月30日のアリゾナ州フェニックスでのダイヤモンドバックス戦。球場に駆けつけて蜂を取り除いた業者のマット・ヒルトンさんが、試合を救ったヒーローとして始球式の大役も務めた。
ヒルトンさんが到着したのは試合開始予定時刻から1時間以上過ぎていた。正直に言うと、中継を見ながら対応が遅いなと思っていたのだが、現地の様子は違った。蜂(bee)にかけてビートルズの「Let It Be」(なるがままにしなさい)が流れ、ヒルトンさんは待ちに待った救世主として迎えられた。
蜂の除去に成功すると大歓声。さらに始球式に登場して喝采を浴びた。テレビの前で試合が始まらないことにイライラしていたこっちが恥ずかしくなるような雰囲気だった・・・
・・・現地の報道などによると、ヒルトンさんは6歳の息子のティーボール(子ども向けの野球)の応援中に呼ばれ、急きょ駆けつけたそうだ。裏方として表舞台を支える人々への感謝と敬意を示す文化も感じた。ちなみに、掃除機のような装置に吸引した蜂は殺処分したわけではなく、別の安全な場所で放されたという。

日本ではこうはいかないだろう。自分も試合の遅延にいらだっていたが、2時間も開始が遅れれば、蜂のせいだから仕方ないとはならず、もっと適切に対応できないのかとあら探しが始まる。誰かの責任にしないとおさまらない。蜂を取り除くやり方についても、苦情や文句が寄せられるだろう。運営側はそのすべてに真面目に対応しようとする。
そんな状況では試合を救った功労者による始球式などという発想も出てこない。「上の了解は」「問題が起きたら誰が責任を取るのか」。前例のないことや予定外の試みを実行するには、多大なエネルギーを要する・・・

・・・深刻な事態でないのなら「Let It Be」と受け流すおおらかさと、現場の自由な判断による臨機応変で柔軟な対応。それは今のこの国の社会に最も欠けているものかもしれない・・・

人手不足

5月4日の朝日新聞1面「人手不足「感じる」7割 不安の最上位「医療・介護」80% 朝日新聞社世論調査」から。

・・・朝日新聞社の全国世論調査(郵送)で、「人手不足社会」をテーマに尋ねたところ、以前と比べ人手不足を「感じる」と答えた人が69%に上った。人手不足の影響が不安な分野は「医療・介護」「物流・配送」などが上位だった。外国人労働者の受け入れを拡大する政府方針には賛成62%が反対28%を引き離し、賛否が二分した5年余り前の調査から大きく様変わりした。

人手不足を感じるかは4択で尋ね、「大いに感じる」が23%、「ある程度感じる」が46%で、「あまり感じない」は27%、「全く感じない」は2%だった。
この先、人手不足の影響が不安な分野を九つの選択肢から複数回答で選んでもらったところ、「医療・介護」80%が最も多く、「物流・配送」58%が続いた・・・
この項続く。

相続人のない遺産

5月4日の日経新聞に「相続人なき遺産 10年で倍増」が載っていました。

・・・死後に相続人不在などの理由で国に入る「相続人なき遺産」がこの10年間で倍増した。金融機関で10年以上取引がない「休眠預金」の活用も増える。持ち主が不在のために、さすらう資産の行方を探った。

子や配偶者などの相続人を持たない人が遺言を残さず亡くなると、裁判所が選んだ相続財産清算人が債務を返済するなどして遺産を整理し、残りは国庫に入ることになる。この額が2022年度に768億円と、10年前の375億円から倍増した・・・

金融資産の6割以上を、世帯主が60歳以上の高齢世帯が保有しています。そして今後も、子どものいない高齢者が増えます。

世界デジタル競争力、日本は32位

人工知能の弊害」、マイケル・ウェイドIMD教授のインタビュー「AIの弊害、企業は責任ある行動を」の続きです。

IMDが64の国・地域を対象にまとめた23年の「世界デジタル競争力ランキング」で日本は過去最低の32位に沈んだ。日本がDXで巻き返すチャンスは残されているのか。

――日本のデジタル競争力は低下の一途だ。トップテン入りした韓国(6位)や台湾(9位)には差を広げられ、中国(19位)にも水をあけられている。
「日本は無線ブロードバンドの普及率が高く、学校における数学教育の水準も高い。32位という日本の順位には私も驚いた」
「時代の変化に対応するにはグローバルな動向に目を向ける必要があるが、日本では海外に比べ経営者や管理職の国際経験が著しく少ない。日本で働く外国人も、組織にうまく溶け込んでいるとはいえない状況だ」

人工知能の弊害

4月28日の日経新聞に、マイケル・ウェイドIMD教授のインタビュー「AIの弊害、企業は責任ある行動を」が載っていました。

膨大な電力消費や偽情報のまん延など、生成AI(人工知能)の弊害が目立ち始めた。課題を乗り越えて新技術を社会に定着させるには、利用者側の意識変革が欠かせない。スイスのビジネススクールIMDの教授でデジタルトランスフォーメーション(DX)の権威として知られるマイケル・ウェイド氏は企業は新たな責任を直視すべきだと提言する。

――生成AIの爆発的な普及をどうみるか。
「生成AIは仕事の生産性を大幅に向上させ、これまで2時間かかっていた仕事を10分で終わらせられる。企業のDXにとって可能性の大きさは計り知れず、非常にエキサイティングだ」
「ただ、どんなテクノロジーにも負の側面がある。AIにおける課題の一つが大量の電力消費だ。米オープンAIは無数の画像処理半導体(GPU)を使ってAIを学習させている。GPUは計算時に大量の熱を放出するため、設備の冷却にも膨大なエネルギーが必要になる」
「ユーザーが『Chat(チャット)GPT』に質問を投げかけるたびに、データセンターではコップ1杯分の冷却水が必要になる。同様に生成AIに1回画像を描かせるには、携帯電話を充電するのとほぼ同じ量の電力が必要だ。AIなどのデジタル技術は世界の温暖化ガスの排出量全体の6%を占める」

「AIの普及によってデジタルと現実世界の垣根が崩れ、今は2つの潮流が交錯するようになりつつある。両者が相いれない概念というわけではない。状況が変わったと考えるべきだ」
「デジタル技術を使う企業にも意識改革が求められる。産業界に広く浸透した企業の社会的責任(CSR)の考え方では、企業は環境や社会、次世代に配慮した行動を実践するよう求められてきた。私はこうした取り組みに加えてAIなどの先端テクノロジーに焦点を当てた『企業のデジタル責任(CDR)』という新たな概念を提唱している」
「例えば生成AIの開発企業は学習用のデータから人種的な偏りや差別的な情報を排除し、AIが出力するコンテンツに可能な限り偏見が含まれないよう努めなければならない。知的財産権への配慮も重要なテーマだ」