カテゴリー別アーカイブ: 社会と政治

社会と政治

日本の労働慣行

風早正宏「ここがおかしい日本の人事制度-職務給制への転換」(2007年、日本経済新聞社)が、勉強になりました。著者は、日本の企業を経験した後、アメリカで働き、また経営コンサルタントをしておられる方です。
日本型の終身雇用・年功序列制が、経済成長期にのみ成り立ち、もはや維持できないことを、明確に示しておられます。また、欧米型の流動雇用・職務給制に移行すべきであり、それが日本の経済と社会を活性化すると主張しておられます。日本がこれまで自由主義経済で発展しておきながら、労働については規制を続けていることの不思議さを、指摘しておられます。
私も大賛成です。終身雇用・年功序列制は、右肩上がりの時に機能します。そして、みんなが横並びで出世と昇級します。能力差を隠す仕組みです。それはまた、企業に丸抱えされる代わりに、企業に抱え込まれます。いやだと思っても、転職しにくいのです。退職金制度はその典型です。この「賃金の後払い」は、職員を引き留めるための制度です。途中転職者には損ですし、企業が倒産でもしたらえらい損です。このような制度は、労働者を守っているようで、その実、労働者を守っていないのです。

日本の魅力

NHKニュースによると、ことし日本を訪問した韓国人観光客の数は、先月末で24%増え推計239万人。これに対して、韓国を訪問した日本人観光客は推計206万人で、日本への韓国人観光客が初めて韓国への日本人観光客を上回ることが確実になりました。
外国に行く日本人の数は日本の国力に比例し、日本を訪れる外国人の数は日本の魅力(と外国の国力)に比例します。これからの観光業は、パイの縮小する日本人以上に、アジアの人たちを相手にすべきです。喜ばしいことですね。

教育格差と情報開示

17日の日経新聞教育面は、志水宏吉阪大教授の「学力テスト結果公表、地域内の差こそ問題」でした。
43年ぶりに行われた、全国一斉学力テストの結果です。それによると、家庭学習時間の増加や、朝ご飯を食べる子供の比率が増加していること。都道府県格差が報道されているけれども、40年前に比べ、地域間格差は驚くほど縮小しているのだそうです。
問題は、給食費など就学援助を受けている生徒が多い学校は、学力が低いことだと、教授は指摘しています。校区の経済状況が、子供の学力に大きな影響を及ぼしているということです。一般的に家庭の経済状況が子供の学習態度や学力に影響するでしょうから、これはいわば当たり前のことかも知れません。もちろん、貧しくても勉強ができる子もいます。OECD各国の中では、日本は親の地位と子供の成績が比例する度合いが少ない国だそうです(朝日新聞12月19日経済気象台「勉強しない経済大国」)。
また、教授は、今後の方向を二つ並べておられます。一つは、テストの結果を広く公表することで競争状態を作り出し、学校の自助・経営努力のもとで、子供たちの学力を高めていこうとするもの。もう一つは、「現場の力」を信頼し、テストの結果は内部資料として使うものです。そして後者を薦めておられます。私は、前者を取ります。
教師だけでなく、保護者・地域住民・行政関係者が情報を共有し、課題に取り組む必要があること。情報を一部の関係者だけで秘匿するのは、情報公開の流れに沿っていません。みんなが課題を認識することで、予算や人員を投入し、対策を打つことができるのです。情報を隠して「予算を欲しい」と言っても、周りの人は納得しません。
次に、競争のないところに、向上と改善は望めません。学校関係者に努力を促す意味で、競争は必要なのです。ここでの競争は、生徒の競争でなく、教員の競争なのです。また、「学力テスト結果は一人歩きを始める」と指摘しておられます。私もそれを否定しませんが、それを恐れていては、次の行動を取ることができません。大学入試・高校入試において、学力の序列化は公然と行われています。

内部告発

11日の日経新聞「内部告発、もう隠せない」が、近年の内部告発で不正が明らかになった企業の一覧表を載せていました。自動車の欠陥隠蔽、食品の原料偽装や期限の改ざんなどです。結果として、社長が辞任したり、会社が倒産したりしています。
カルテルや談合を発見した場合、違反者が通報すると(たれ込むと)、「罰金」(正確には課徴金)が減免される制度あります。これも、結構機能しています。有名企業も入っています。
通報した従業員を守る制度もできています。このような制度は、あまり発動されないことが望ましいのでしょうが、これだけ偽造や隠蔽があるのなら、必要な制度なのですね。
偽造や隠蔽は悪いことです。しかし、私は、ばれたときの記者会見で嘘をつくのが、もっと悪いと考えています。内部告発があったときには、告発者(通報者)は、それだけの証拠と覚悟を持って訴えているのです。

社会の変化とお金の流れの変化

構想日本の、J.I.ニュースにある「金融の自治・分権で新たな公共の担い手を」の図を見て、考えました。
日本には金融家計資産が1,555兆円あります。ニュースで「1500兆円の資産」と言われるものです。その図では、これまでの金融は銀行任せの間接金融で、企業に回っていました。一方、財政・税制は国任せで、それが地方団体に補助金として交付されます。記事では、これを地産地消に変えようと主張しています。銀行や国に任せず地域で決定し使うこと、間接金融から直接金融へ変えること、企業だけでなく地域の起業家やNPOにも回すことです。
私が考えたのは、発展途上国から成熟国への変化が、お金の流れの変化にも現れるということです。
まず、みんなの貯蓄した資金は、産業振興や社会資本整備に使われました。銀行に預けた金は、製造業を中心とした企業に流れました。生産優先です。税金も、公共事業など社会資本整備につぎ込まれました。この他、郵便貯金は、政府の財政投融資にまわり、これまた産業振興・社会資本整備に投入されました。
次に、資金の中央集権です。銀行や郵便局に預けた金と税金は、地域で使われず、中央に集められ配分されました。
この仕組み・流れは、効率的でした。しかし、生産振興優先時代が過ぎ、変化が進みつつあります。日本興業銀行がなくなったこと、財政投融資が縮小し、郵便貯金が民営化されたのは、その象徴です。税金の分権は、移行途上です。
また、家計からすると、銀行や郵便局に預けるだけでなく、自らの判断で、より運用益の上がる商品を選ぶ時代になりました。それは、リターンも増えますが、リスクも増えます。あなた任せでなく、自己判断と自己責任が求められます。もっとも、それが嫌な人は、金利のつかない銀行預金を選ぶでしょう。
税金についていえば、その使い道について、納税者の発言が強くなるということです。政府や市役所に任せきりでなく、どこに使われるかを監視するということです。その際、国にいったん集めるのではなく、税金を地産地消することで、より発言しやすくなります。また、税金として納めるのではなく、寄付によって、自らの意図を実現する方法も広がるでしょう。