カテゴリー別アーカイブ: 社会と政治

社会と政治

保守勢力としての労働組合

6月1日の日経新聞オピニオン欄、藤井一明・経済部長の「フリーランスが崩す岩盤 働き方改革、複眼的に」から。
・・・平成が幕を下ろすのを待ち構えていたかのように、JR東日本の労働組合から組合員が大量に流出している。2018年2月に約4万6千人いた最大労組の組合員数は改元を間近に控えた19年4月で約1万1千人にまで落ち込んだ。ほかの労組も含め、加入している人の割合を示す組織率はかつての9割から3割に急落した・・・

記事には、労働組合の組織率の各国比較もついています。スウェーデンの67%を例外として、イギリス24%、日本17%、ドイツ17%、アメリカ10%、フランス8%です。
半世紀前と、全く様変わりしました。労働者の待遇がよくなり、労組に加入する利点が見えません。また、政治的には共産主義・東側に近かったのですが、冷戦の終結でその意義もなくなりました。

記事では、他方でフリーランスが増えていることを取り上げています。ここでは、それに関して、労組の問題を取り上げましょう。フリーランスのほかに、非正規社員もいます。この人たちは、既存労組に入っていません。
かつて労働組合は、「市民との連帯」というスローガンを掲げていました。しかし、その人たちとの連帯を進めることなく、正規職員の利益を守ったようです。ここに、労組が革新勢力ではないことが見えてしまったのです。

「標準型家族観」からの転換

5月28日の日経新聞経済教室、白波瀬佐和子・東京大学教授の「人口減少社会の未来図 「包摂型」へ格差に積極介入を」から。
・・・人口減少の重要な要因の一つに少子化がある。少子化とは、人口置換水準(人口の国際移動がないと仮定し、一定の死亡率の下で現在の人口規模を維持するための合計特殊出生率の水準)に満たない状況が継続することをいう。その背景には60年代の成功体験を支える家族・ジェンダー(性差)を巡る考え方がある。
79年に自民党政務調査会が提案した「家庭基盤の充実」は、男性1人稼ぎ手モデルに代表される固定的な性別役割分業体制を前提としていた。しかし今では、非正規雇用率が高まり、若年市場の悪化が進んで、家族を形成する時期が遅れているうえ、自らの家族を形成しない者も増えた。
初婚の平均年齢は60年には男性27.2歳、女性24.4歳だったが、17年にはそれぞれ31.1歳、29.4歳となった。50歳時の未婚率は、60年には男性1.3%、女性1.9%だったが、15年にはそれぞれ23.4%、14.1%と大幅に上昇した・・・

・・・日本は今なお、伝統的ジェンダー体制を基に標準型家族を前提とする社会保障制度の下で、医療、所得、雇用、福祉など社会的リスクへの制度設計は縦割りで、人々の様々な生活リスクの第一義的対応機能を家族が担う場合が多い。しかしながら現実には、病気の子や要介護の親を抱えながら、あるいは自身が何らかの障がいをもって働くことも、決して例外的なことではない。
医療や所得保障、雇用や教育の制度設計にあたり、リスクが重なり合う場面を想定せねばならない。そこでわれわれが目指すべき社会モデルの一つが包摂型の未来だ。その理由は、これまで単線的、かつ縦割り的な制度設計の中で、十分に才能を開花させる場面に恵まれなかった人々の状況を修正することにある。負の遺産を解消すべく斬新な発想を社会実現につなげ、承認・支援の環境を積極的に構築する必要がある。そこにこそ日本の未来がある・・・

・・・ここでのポイントは、評価軸が一つでないので善しあしの基準が一元的でないこと、複数の軸が単純な上下関係にないことにある。
日本がかつて同質社会と特徴づけられた背景には、この評価軸が一定で、物事の善しあしの判断が単一基準によりなされてきたことがある。しかしながら超高齢社会の日本が手本にすべき既存モデルがない中で、直面するリスクをチャンスに変えるにはまず価値のパラダイムシフト(枠組み転換)が必要となる。既存の評価軸だけでは不十分だ。
もう一つは、世の中を変えるため、既に存在する格差に能動的に介入することだ。そこでの介入を一時的に終わらせないためには一定のスケールが必要で、世の中を動かす起動力となるまで高めねばならない・・・

長寿によってそぐわなくなる既存制度と意識

5月23日の朝日新聞1面に「人生100年、蓄えは万全? 「資産寿命」、国が世代別に指針 細る年金、自助促す」という記事が載っていました。

・・・人生100年時代に向け、長い老後を暮らせる蓄えにあたる「資産寿命」をどう延ばすか。この問題について、金融庁が22日、初の指針案をまとめた。働き盛りの現役期、定年退職前後、高齢期の三つの時期ごとに、資産寿命の延ばし方の心構えを指摘。政府が年金など公助の限界を認め、国民の「自助」を呼びかける内容になっている・・・
金融庁の指針案は、金融審議会の資料「高齢社会における資産形成・管理」という報告書案のようです。

・・・平均寿命が延びる一方、少子化や非正規雇用の増加で、政府は年金支給額の維持が難しくなり、会社は退職金額を維持することが難しい。老後の生活費について、「かつてのモデルは成り立たなくなってきている」と報告書案は指摘。国民には自助を呼びかけ、金融機関に対しても、国民のニーズに合うような金融サービス提供を求めている。
報告書案によると、年金だけが収入の無職高齢夫婦(夫65歳以上、妻60歳以上)だと、家計収支は平均で月約5万円の赤字。蓄えを取り崩しながら20~30年生きるとすれば、現状でも1300万~2千万円が必要になる。長寿化で、こうした蓄えはもっと多く必要になる・・・

長寿は良いことなのですが、これまで私たちが想定していた「人生モデル」が成り立たなくなっています。

心や考え方を侵略する戦争

月刊『中央公論』5月号、会田弘継・青山学院大学教授の「サイバー戦争の脅威に無頓着な日本 ピント外れの「国民投票法」改正議論」から。詳しくは原文を読んでいただくとして、2016年から世界の民主主義が変貌しつつあることを論じて。

・・・「ポスト2016」の議論には、さらに大きな意味も含まれている。新しい戦争、「サイバー戦争」がより高度な形態で、本格的に始まったという解釈だ。サイバー戦争は2000年代初頭には主として、コンピューターやネットワークに侵入し、相手国のインフラを破壊したり、機能停止に陥らせたりすることを意味した・・・
・・・ところが16年を境に概念が大きく変わった。破壊する対象は物理的インフラではなく、相手国の「政治制度」となった。相手国民の「心や考え方(ハーツ・アンド・マインズ)を変えさせて、その国の政治制度の破壊を狙うのが、サイバー戦争の主たる意味になりつつある。
「9.11テロ」を予測し、サイバー戦争も早くから警告してきたリチャード・クラーク元米大統領特別顧問は、16年のアメリカ大統領選挙について「大規模な心理戦だ。歴史上見なかった心理戦が行われ、負けた。わが国は侵略された。その政治制度が侵略され、負けた」とまで発言している・・・

新しい戦争は、陸海空の三軍の次に、宇宙とサイバー空間だと思っていました。その途中に、細菌などによるパンデミックなどもあると思っていました。ところが、この話を聞くと、戦争の空間が広がったのではなく、次元が変わったのですね。

特許制度、脱「途上国モデル」

5月14日の朝日新聞オピニオン欄「知財立国の足元」荒井寿光・元特許庁長官の「脱「途上国モデル」へ一歩」から。

・・・日本の特許裁判の賠償額は、全体的に低すぎます。2007年から17年の間で、最も高くて17億円です。一方、米国は2844億円です。中国は56億円ですが、政府は引き上げる方針です。賠償額は裁判所で決まる特許の価値ですから、高いほど勝手に使うことを抑える力になります。

日本の現状は「侵害し得、侵害され損」です。欧米に追いつき追い越せの時代には、この方がよかったからです。日本は欧米から基本的な技術を導入し、改良して安くて良い製品の輸出を伸ばして経済成長しましたが、米国から何度も特許侵害で裁判を起こされました。「侵害者」の日本としては米国の主張が認められにくい方がよく、負けても少ない賠償額で済ませたい。いわば「発展途上国モデル」を続けてきたのです。

歴史的にみれば、19世紀には新興国だった米国が欧州に対して特許を侵害する立場でした。米国は20世紀に知財大国になり、今度は中国が侵害する側になりました。その中国はいま、研究開発に力を入れ、特許の裁判や賠償制度を強化し、米国を追い越そうとしています・・・