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社会と政治

カリフォルニア州の住民投票、ウーバー運転手は個人事業主

昨日5日書いた「住民投票で決める労働者の身分」、投票結果が出たようです。11月6日付け朝日新聞「米ウーバー運転手は「個人事業主」 カリフォルニア州で住民投票」。詳しくは、記事をお読みください。

・・・米カリフォルニア州で3日行われた住民投票の結果、ウーバー・テクノロジーズなどのライドシェアサービスの運転手が、州の「待遇改善法」の適用対象外となり、個人事業主にとどまることになった。同法は、仕事をネットで請け負う「ギグ・エコノミー」の担い手保護の先進事例とみられていたが、これに反対する企業側の大キャンペーンが奏功し、「従業員化」は実現しない見通しだ。

同州では大統領選に合わせ、こうしたサービスの運転手を個人事業主にとどめることを求める住民投票が行われた。ウーバーや同業のリフトなどの企業が計2億ドル(約208億円)超を投じて大量の広告などを出し、賛成を訴えていた・・・

住民投票で決める労働者の身分

10月27日の日経新聞オピニオン欄、村山恵一コメンテーター「グーグルは民主的なのか」に、次のような記述がありました。
・・・米大統領選の日、2社の地元カリフォルニア州では、ギグワーカーは個人事業主か従業員か、処遇のあり方を問う住民投票がある。安心して働けることは民主主義の土台だ。投票の結果がどうであれ、運転手が納得できる仕事の環境を整えるための知恵を出し続ける責任がウーバーなどにはある・・・

このようなことが、住民投票にかけられるのですね。
かつて、イギリスの町を視察した際に、町議会で、町のパブに音楽などを許可するかどうかを、審議していたことを思い出しました(2002年欧州探検記 セント・アルバン市)。

共通体験なき現代、蔓延する無関心

10月24日の朝日新聞オピニオン欄、真山仁さんによる、西田亮介・東京工業大学准教授へのインタビューから。

“今の世の中には、民主主義という言葉がはんらんしている。民主主義ということばならば、だれもが知っている。しかし、民主主義のほんとうの意味を知っている人がどれだけあるだろうか。その点になると、はなはだ心もとないと言わなければならない”
この一文は、1948(昭和23)年から53(同28)年まで、中学・高校の社会科の教科書として用いられていた『民主主義』(文部省著)を、読みやすくまとめて復刻した新書(2016年刊行)の序章にある。

会ってまず聞いたのは、同書に注目した理由だ。
「民主主義というのは、それぞれの国によって誕生の経緯も認識も違います。必要なのは、民主主義を実感できる固有の共通体験です。『民主主義』が刊行された当時、日本では、敗戦と新憲法公布という共通体験があり、民主主義とは何なのかということに、真剣に向き合わなければならない時期でした。だからこそ、教科書として意味があったのではないでしょうか」と、西田は考える。
同書は5年間で、教科書としての配布を終える。民主主義が、日本人に浸透したからではないだろう。高度経済成長に向かう中で、もはやそんな「きれい事に関わっている余裕がなくなった」からなのかも知れない。
「同書には執筆陣の主観や強い思いがにじんでいます。それが中立的ではないという批判もあったようです」

では、現代の若者が民主主義を学ぶ教科書として、同書は役立つのだろうか。
そう問うと、西田は「難しい気がします。授業で利用したことはありますが、学生からの反響があった記憶はありません」と答えた。さらに「現代の学生に、敗戦の共通体験はありません。それどころか、社会がどんどん分断されていて同世代であっても、共通体験をした実感がないのでは」と分析した。

アメリカ社会の分断

10月23日の朝日新聞オピニオン欄、フランシス・フクヤマさんのインタビュー「米国、分断克服の道は」から。

――それでも多くの国民がトランプ氏を熱烈に支持しているのはなぜでしょう。
「米国政治の変容を理解する必要があります。党派の対立軸が(成長重視の)右か(分配重視の)左か、という経済政策によるものだったのが、21世紀はアイデンティティー(帰属意識)に取って代わられました。自身の尊厳や価値観を認められたいという欲求の受け皿になるかどうかが重視される時代になったのです」
「端的に言えば、共和党は社会で徐々に存在感が薄れゆく白人層の政党。民主党は女性、人種などをめぐる様々なマイノリティー(少数者)、高度専門職に従事する白人が支持層に混在する政党になりました」

 ――その中でトランプ氏が果たした役割は何でしょうか。
「多くの白人労働者層や低学歴の有権者は、トランプ氏を自分たちの価値観や尊厳を大事にしてくれる英雄だと見なすからこそ忠誠を誓うのです。トランプ氏の政治的な本能が、自分たちのアイデンティティーの承認を求める彼らを見事に結集させたと言えます」

――米国は社会の分断を克服できますか。
「大統領が交代すればすぐに分断が解消されるわけではありません。克服には長い時間がかかります。優れたリーダーシップも必要です。バイデン氏でうまくいく確証はありません。まずは地道に『良い統治』に専念することが肝要です。たとえばパンデミックを抑制する策を講じること。『リーダーが問題解決に機能している』と国民が実感できるかどうかが鍵なのです」

 ――分断の根っこにあるアイデンティティーをめぐる対立は続くのではないでしょうか。
「長い目で見れば社会は常に変化しています。たとえばポピュリズムの背景にある白人労働者層の不満には、グローバル化の受益者である大都市に対し、取り残された地方からの怒りの表明という面があります。しかし、地方の縮小を押しとどめるのは現実には難しい。今の対立構図は過渡的といえるかもしれません」

 ――未来に希望をつなぐことはできるでしょうか。
「歴史に後戻りはありません。多くの国々がいま起きている変化に対応しようとしています。なかでも民主主義がレジリエント(強靱)だと私が信じる理由は『抑制と均衡』で過ちを自己修正する機能にあります。米国はこの選挙を通じて、民主主義の強靱さを世界に示してほしいと願っています」

裏口からの外国人受け入れ

東京大学出版会の広報誌「UP」8月号に、宮島喬先生の「日本はどんな外国人労働者受入れ国になったか 改正入管法から三〇年」が載っていました。

日本は、移民政策は採らない=外国人労働者の受け入れは制限するとしています。しかし実態は、外国人労働者を受け入れる政策をとっているというのが、この論考の趣旨です。人口減少と高学歴化で、産業界から労働力不足を訴える声が高まり、さまざまな制度改正をして受け入れてきたのです。その際に、高技能や専門能力のある外国人だけに制限するといいながら、抜け道があったのです。

1989年の入管法改正では、単純労働者は受け入れないこと(受け入れはごく一部の職種)が維持されつつ、「定住者」という在留資格を新設し、日系三世に充てられました。その後2年足らずで、日系ブラジル人とペルー人の来日・滞在者数は、15万人も増えました。「マジックか、二重基準なのか」と、先生は書いておられます。
しかし、日本語教育や職業研修は行わなかったので、彼らは派遣業者に頼って来日し、非正規の雇用に就き、労働者の基本的権利がなくとも甘んじて働いた(働かされた)のです。留学生のアルバイトや技能実習生も、同様に抜け道として機能しました。

労働者の送り出し国との間に二国間協定を締結するかしないかも、取り上げられています。日本は、労働者の受け入れを表明していないので、二国間協定を結ぶことはありません。しかし、二国間協定では、労働者の受け入れ条件(待遇などの労働条件、労災・雇用保険の適用、住宅、医療、年金などの内国人労働者との平等扱い)を定め、雇用契約に盛り込み、労働者の権利を守るのです。
建前を守りつつ、実態では漸進的に変えていく。これは、しばしば行われる手法です。これが、軋轢を少なくし、そして実を取ることに有効な場合があります。しかし、このような裏口入学(先生はサイドドアと言っておられます)は、副作用を伴うことがあります。
外国人労働者受け入れでは、この労働者の権利を守らないというとんでもない行為が行われています。非正規、低賃金、保障のない雇用が行われているのです。これでは、国際社会から批判を受けるでしょう。
詳しくは原文をお読み下さい。
10月20日の日経新聞経済教室、斉藤善久神戸大学准教授「生活者としての環境整備を 外国人労働者政策の課題」も、この問題を取り上げていました。