カテゴリー別アーカイブ: 社会と政治

社会と政治

中間層が壊れた日本

2月26日の読売新聞言論欄、駒村康平・慶応大教授の「逆風の世代 自己責任でない」から。

・・・日本の大きな問題の一つは、働き盛りの、子育て世代の中間層が壊れてしまっていることです。
厚生労働省の調査をみると、2002年には30代後半の男性の40%が月給30万円台でしたが、19年は33%に減りました。一方で20万円台は31%から40%へ増え、20万円未満の人も合わせ、ほぼ半数が月給30万円に届いていません。分布をグラフにすると、「真ん中」部分がつぶれ、「真ん中より下」が増えていることがわかります。

バブル崩壊や国際的な価格競争の中で、非正規雇用の増加と賃金抑制の流れが続き、中間層が壊れていきました。今の日本は、働き盛りで、結婚するタイミングの若者たちに「向かい風」が集中しています。それを放置し続けたことが未婚率の上昇、出生率の低下につながっているのだと思います。
中間層を再生させ、将来の展望を持てるようにすることが、少子化対策になるはずです。
統計的に、男性の未婚率は年収300万円未満で高くなっています。特に若い世代の賃金を引き上げなければなりません。労働者の賃金アップの交渉力を高める仕組み作りが重要だと思います・・・

・・・コロナ禍で、従来のセーフティーネット(安全網)に見直しの必要があることを強く感じました。「最後のセーフティーネット」と言われる生活保護は、限定的な役割しか果たせなかったからです。
経済がストップし、雇用保険を受けられる期間で再就職が決まらなかった人や、非正規で仕事がなくなった人が困りました。ただ、生活保護を受けられる収入の状況でも、申請しない世帯が多かった。

家族との関係は切れました、就労に困難な状況があります、などと「自分がいかに困っているか」を証明して初めて受け取ることができる生活保護の申請には、心理的なハードルがあるからです。
最大200万円借りられる「特例貸付」が設けられ、335万件、総額1・4兆円の利用がありました。ただ、生活保護を受けられる状況なのに申請せず、特例貸付を利用した場合、住民税が非課税でなければ返済は免除されません。今後、返済義務が生じますが、その余裕がない人も多いはずです。

生活保護より手前の段階で、別のセーフティーネットがもっと充実している、というのが望ましい形だと思います。生活困窮者を対象に家賃を支援する「住居確保給付金」の制度がありますが、もっと対象を広げる手もあります。
セーフティーネットを使いやすくすることで、再び中間層に戻ろうとトライする意欲を引き出す。そういう仕組み作りが必要です・・・

「土地は公のもの」への一歩

2月15日の日経新聞オピニオン欄、斉藤徹弥・上級論説委員の「「土地は公のもの」漸進的改革を」が勉強になりました。

明治初めの地租改正が、近代日本の強い土地所有権をつくりました。日本の土地所有権は、何をしてもよい絶対的土地所有権といわれます。これに対して、厳しい建築規制で街並みを保つ欧州は、相対的土地所有権といわれます。日本でも、土地公有化論や私権制限を強める議論もありましたが、進みませんでした。

かつては、土地は重要な財産で、一坪の土地を巡って争いがありました。ところが、山林も田畑も富を生まなくなり、管理されない土地が増えています。弥生時代以来続いてきた「土地への執着」が、崩れつつあります。
日本には、土地を放っておく「自由」もあるのです。しかし、放置されたままの土地は地域に悪影響を及ぼします。自治体では、空き家対策や、危険な空き家を取り壊す取り組みも進んでいます。政府も、所有者不明土地問題で、公共の福祉を優先した所有権の抑制に乗り出します。相続登記を義務とし、国庫帰属制度を始めます。

なかなか進まなかった、「土地は公のもの」という認識が進むきっかけになるかもしれません。

侵略されるのは嫌だけれど、自分は戦いたくない。できれば他人に戦ってほしい。

2月5日の読売新聞言論欄、井上義和・帝京大教授の「「祖国」を守る想像力 必要」から。

・・・ウクライナはこの1年間、自国の領域内でロシア軍を迎え撃つ戦いに徹してきました。焦土と化した街で市民までも武器を手に取り、兵站を支える総力戦を続けています。必然的に犠牲者は増える。それは日本が国是としてきた「専守防衛」に他なりません。
ウクライナでは、軍に入る男性が国外に避難する妻や子どもたちに向き合い、「国のために戦うよ」と語りかけています。こうした映像は日本でも繰り返し放送されました。しかし私たちは、危険を顧みずに国を守る人たちがいることを、別の世界の出来事のように捉えています。ロシアの暴挙が、文明が進んだはずの21世紀の世界でも、明白な侵略戦争が起きる事実を示しているのに。

専守防衛とは、相手から攻撃を受けたときに初めて、必要最小限度の防衛力を行使する受動的な戦略です。先の大戦を起こした痛切な反省と周辺国への配慮から、日本は専守防衛を国是とし、国民も支持してきました。一定程度持ちこたえれば、同盟国や国際社会が助けてくれるという発想です。
それは自分から仕掛けなければ相手から攻撃されることはないという信念の裏返しでもあります。戦後の日本では、外国の侵略からどう国を守るかという真剣な問いかけは忌避されてきたのが実情です。

昨年4月、日本人の学生100人を対象にアンケート調査をしました。「他国が自国に攻め入ってきたら、国のために戦いますか」との質問に「いいえ」と答えた学生は32人で、「わからない」との回答は40人に上りました。
その一方で、「戦わずに、敵の侵略を受け入れた方がいいと思いますか」と聞くと、88人が「いいえ」と回答し、「できれば自分や身内以外の他の誰かに戦ってほしいですか」との問いには、47人が「はい」と答えました。
最初の質問で「いいえ」と「わからない」が多いのは、国際意識調査で示された日本の傾向と同じでした。侵略されるのは嫌だけれど、自分は戦いたくない。できれば他人に戦ってほしい。多くの日本人には、そんな本音があるのではないでしょうか。危機が訪れたとき、どこからともなくヒーローが現れ、敵を撃退して去って行くのが理想なのでしょう。でも現実の世界ではそんなことはあり得ません・・・

家族法の不平等との戦い

1月28日の朝日新聞オピニオン欄に、元選択的夫婦別姓訴訟弁護団長・榊原富士子さんへのインタビュー「夫婦別姓、闘った40年」が載っていました。

選択的夫婦別姓を求める憲法訴訟を弁護団長として率いた榊原富士子さんが、昨年、団長を退いた。「夫婦別姓」という言葉が人口に膾炙する前から始めた活動は40年近くに及ぶが、いまだに制度は導入されていない。求める声の広がりと変わらない制度の中で、何を思い、何と闘ってきたのか。

――40年、長いですね。
「まさかこんなに長い間このテーマに関わることになるとは、思ってもいませんでした。もう少し簡単に実現すると思っていましたからね」
「今思えば、見通しが甘かったですね。1990年ごろ、法制審議会の中心の委員に『夫婦別姓も審議会で扱ってください』とお願いしたら、1年もたたないうちにとりあげてくださって、『言ってみるものだ』なんて思っていたものです。法制審でもどんどん審議が進んで、96年には選択的夫婦別姓を認める答申が出て――。『いよいよ日本でも』という雰囲気もあり、その時点では訴訟をする必要も感じませんでした」

「私自身も後回しにしていた面があります。私が弁護士になった当時、家族法の中の平等違反の問題として四つあげられていました。婚姻年齢の不平等、再婚禁止期間、婚外子の相続差別、そして夫婦の姓です。私はこの中で、婚外子差別が最も深刻だと思っていました。婚姻年齢と再婚禁止期間は待てば結婚できるし、夫婦の姓も我慢すれば結婚はできる。しかし、子どもにレッテルを貼る婚外子差別は非常に悪質です。弁護士として、まずはそちらの訴訟に力を入れていました」
「ですが、今残っているのは夫婦の姓だけです。婚外子の訴訟も、95年の最初の最高裁での合憲意見には『むしろ婚外子差別は必然』という趣旨のことが書かれ、当時は『裁判官のこの感覚を変えるのは至難の業だ』と絶望的な気持ちになりました。それでも時代が進んで違憲となった。夫婦別姓を認めるかどうかも、もう理論的には出尽くした状態ですので、違憲と書ける材料はそろっています。『もう書きます』という日はいつ来てもおかしくありません」

進学できない外国人の子ども

1月7日の日経新聞1面に「公立高「外国人枠」なし73% 進学せぬ子、日本人の10倍」が載っていました。
・・・高校で外国人受け入れ枠の導入が進んでいない。2023年の入試で全国の公立高の73%が特別枠を設けないことが日本経済新聞の調査で分かった。日本語が得意でない生徒にとって一般入試は容易でない。中学卒業後に10%が進学しておらず、全中学生の10倍の水準だ。新型コロナウイルス下の入国制限緩和で外国人労働者受け入れが再び拡大しており、子どもが進学しやすい環境を整える必要がある・・・

また、社会面では、「外国人枠「来日3年内」受験の壁 公立高校、緩和の動き」を解説していました。
・・・来日した子どもの進学を巡る「壁」が解消されない。2023年入試で外国出身の生徒向けに定員枠や特別選抜を設ける公立高校は27%どまり。枠などがあっても対象を「来日3年以内」に限る地域が多く、中学入学前に来日した子どもはこぼれ落ちる。高校入試レベルの日本語習得には5年ほどかかるとされる。実情を踏まえた対応が求められる・・・
・・・専門家の間では、日常会話は2年ほどで身につくのに対し、学問的な思考に必要な言語能力の習得には5~7年かかるとの見方が強い。文部科学省も学校現場向けの資料で「外国人生徒が母語話者レベルに追いつくには少なくとも5年必要」と説明。支援団体から「特別枠を来日3年内に限るのは、言語習得の実態にそぐわない」との声が上がる・・・