「政治の役割」カテゴリーアーカイブ

行政-政治の役割

ワクチン先進国から後進国へ、萎縮した日本の行政

5月10日の日経新聞「必然だったワクチン敗戦」から。
・・・新型コロナウイルスのワクチン開発で日本は米英中ロばかりか、ベトナムやインドにさえ後れを取っている。菅義偉首相が4月、米製薬大手ファイザーのトップに直々に掛け合って必要なワクチンを確保したほどだ。「ワクチン敗戦」の舞台裏をさぐると、副作用問題をめぐる国民の不信をぬぐえず、官の不作為に閉ざされた空白の30年が浮かび上がる。

1980年代まで水痘、日本脳炎、百日ぜきといった日本のワクチン技術は高く、米国などに技術供与していた。新しいワクチンや技術の開発がほぼ途絶えるまで衰退したのは、予防接種の副作用訴訟で92年、東京高裁が国に賠償を命じる判決を出してからだ。
このとき「被害者救済に広く道を開いた画期的な判決」との世論が広がり、国は上告を断念した。94年に予防接種法が改正されて接種は「努力義務」となり、副作用を恐れる保護者の判断などで接種率はみるみる下がっていった。
さらに薬害エイズ事件が影を落とす。ワクチンと同じ「生物製剤」である血液製剤をめぐり事件当時の厚生省生物製剤課長が96年に逮捕され、業務上過失致死罪で有罪判決を受けた。責任追及は当然だったが、同省内部では「何かあったら我々が詰め腹を切らされ、政治家は責任を取らない」(元職員)と不作為の口実にされた・・・

手塚洋輔著『戦後行政の構造とディレンマ―予防接種行政の変遷』(2010年、藤原書店)が、この問題を取り上げ、行政がなぜ萎縮するようになったかを論じています。名著です。

砂原庸介教授による政治研究新刊書紹介

最近載せていなかった、砂原庸介・神戸大学教授による、政治研究新刊書紹介を取り上げます。しばらく取り上げていなかったので、たまっています。

5月3日 政治参加
4月3日 地方自治・日本政治
3月15日 民主主義/権威主義
2月11日 日本の行政学/地域衰退

たくさんの新刊書が出ているのですね。政治・行政研究の最先端を、このように説明してもらえるのは、ありがたいです。
参考「現代日本政治、新しい研究成果

新型コロナウイルス、病床は空いているのに逼迫

5月1日の日経新聞1面「コロナ医療の病巣 機能不全の実相(上)」「空き37万床でも逼迫 非効率 改革先送りの代償」から。
・・・感染者数は欧米より桁違いに少なく、病床数も世界有数の多さを誇る日本が、またも緊急事態宣言に追い込まれた。「病床逼迫」の裏で何が起きているのか・・・

・・・現在と同様に感染者が急増した昨年末、実は全国の一般病床と感染症病床を合わせた約88万9千床のうち約37万2千床(42%)は空いていた。コロナ禍のまっただ中なのに、2019年末より約3万床増え、病床使用率はむしろ低下していた・・・当時、健康観察や治療が必要な感染者は約4万人。それを大きく上回る病床が使われないまま、年明けには2度目の緊急事態宣言に発展した。「ベッドが足りない」と悲鳴があがる一方で、大量の空き病床が発生する矛盾は、日本医療の機能不全を象徴する・・・

記事では、次のようなことが指摘されています。
・急性期病床を名乗りながら、実態は十分な診療体制を整えていない病院があること
・病院間の役割分担や連携が不十分で運用が非効率なこと
・病院内で、専門外の医師を感染症対策に回すように強制できないこと
・医師個人は応召義務があるが、医療機関は事実上診療しないことが正当化されること

そして、救急患者の搬送先が見つからない、たらい回しが起きています。

政治家の演説

4月25日の朝日新聞、社説余滴は、箱田哲也さんの「日韓を覆う演説不作」でした。

・・・鳴り物入りの訪米を果たした日本のトップは、世界の耳目を集めた共同記者会見でも「メモ読み」を貫いた。機微に触れる質問の回答が漏れたのは、事前通告に慣れすぎたゆえか。
個人の訥弁をあげつらおうというのではない。改めて憂えるのは政治家の言葉の貧弱さである。海の向こうから聞こえるスピーチはまばゆいが、日本政治家の名演説というと、すっかりごぶさたな気がする・・・
・・・政治記者の故・岩見隆夫さんは著書「演説力」で、政治家がテレビ出演や握手の回数を増やす「集票第一主義」に陥ったと指摘。「練り上げた演説文を個性的に工夫されたスタイルでぶち、肉声で訴える」ことを軽視していると嘆いた・・・

・・・韓国には比較的、演説上手が多い印象がある。
古くから武官に比べて文官が優位で、まさに「言葉が命」でしのぎを削ってきた名残だろうと、現地の政治家に聞いたことがある。そんな韓国でも最近は、名演説がすっかり影をひそめているらしい。
日韓の対立をほぐす過程に、政治家の姿が見あたらなくなって久しい。熟慮した言葉で隣国に語りかけるどころか「やりやがったなてめえ」とばかり、息巻く向きが双方に目立つ。
昨今の日韓関係の冷えこみには「演説不作」も影響しているのかもしれない・・・

新型コロナウイルス感染症、諸外国比較

4月27日の日経新聞に、諸外国の感染者数とワクチン接種率がグラフになって比較されていました。「感染封じ込め、世界で優劣鮮明
・・・新型コロナウイルスの感染拡大が続くなか、ワクチン接種や行動制限など政策の巧拙が各国の明暗を分けている。早期の接種で社会経済活動の正常化に踏み出した国がある一方、インドでは新規感染者数が過去最高になっている・・・
グラフは、3つの型に分けられています。
1 接種が進まず、感染者が増加している国。ドイツ、インド
2 接種は進んだが、感染者の減少は鈍い国。アメリカ、チリ。
3 接種が進んで、感染を封じ込めた国。イスラエル、イギリス。

日本はというと、別の欄にグラフが載っています。接種が遅れ、感染者数が増えています。
ところがよく見ると、日本のグラフだけが、メモリが違うのです。他国の接種率は100%まで目盛りがあり、日本は同じ大きさですが目盛りは5%までです。新規感染者数も、他国は10万人あたり100人まで目盛りがありますが、日本は5人までです。すなわち、諸外国と20倍の違いがあるのです。
同じ目盛りで作図すれば、日本の違いがよくわかったでしょうに。

日経新聞ウエッブサイトでは、世界との比較のグラフもあります。「人口あたり感染者数」「ワクチン接種率
ここからは、次のようなことが見えてきます。
・感染者数は非常に少ない(アジア各国を除く)。自粛や「鎖国」で、押さえ込みには、成功しています。でも、なぜ医療逼迫が起きるのでしょうか。
・ワクチン接種率も、非常に遅れている。