カテゴリーアーカイブ:政治の役割

産業政策の復権

2021年7月15日   岡本全勝

7月5日の日経新聞オピニオン欄に、西條都夫・上級論説委員の「技術革新めぐる「国家の復権」 官民の力、結集が不可欠」が載っていました。

・・・過去40年続いた民間主導の経済パラダイムが転機を迎えたのだろうか。米バイデン政権は温暖化対策や半導体のサプライチェーン強化に向けて巨額の公的資金を投入する。欧州や中国でも国家がイノベーション創出に関与するのは日常茶飯だ。日本も経済産業省の一部に政府の主導する「産業政策」の栄光復活を模索する動きがある。
6月初旬の同省・産業構造審議会の総会で配布された「経済産業政策の新機軸」と題する資料は一部で大いに注目された。「市場(ビジネス)のことは市場(企業)にまかせ、政府は市場の失敗の後始末に徹する」という従来の役割分担から大きく踏み出し、「政府こそが産業構造を転換させる主役」という世界の識者の言説をちりばめた。
▼「米国には新しい経済哲学が必要」「以前は恥ずべきものだった産業政策は、今ではごく当たり前の政策だ」=ジェイク・サリバン米大統領補佐官(国家安全保障担当)
▼「政府が教育や研究に資金提供し、ハイテク設備の主要な購買者になることで、決定的な支援を提供できる」=ダロン・アセモグル米マサチューセッツ工科大教授
▼「国家はムーンショット(月に人を送るような、とてつもない大型計画)によって、イノベーションの主導者であるべきだ」=マリアナ・マッツカート英ユニバーシティー・カレッジ・ロンドン教授
こうした言説が注目され、現実の政策にも採用される背景にはいくつかの必然性がある。一つはカーボンゼロのような遠大な目標を達成するには、個々の企業の努力の積み上げでは足りず、国家レベルでの資金供給が必要になること。もう一つはサリバン氏はじめ安全保障系の論者に色濃い視点だが、競争相手の中国が国家主導の産業政策を推し進め、人工知能(AI)や高速通信規格「5G」で一定の成功を収めていることだ・・・

・・・さて、本題に戻り、イノベーションを起こし、経済を前に動かすには国の役割が重要だ、という説を検証してみよう。新型コロナウイルスワクチンを例にとれば、国家の関与の重要性は明々白々だ。
米同時テロで炭疽(たんそ)菌の脅威に直面した米政府は感染症対策を安全保障の一環に位置づけ、手厚い助成を続けてきた。コロナ禍が襲来した昨年以降はさらに巨額の補助を注ぎ込み、驚異的な速度でのワクチン実用化にこぎ着けた。日本の厚生労働省がワクチン開発全般に後ろ向きだったのとは好対照だ・・・

記事でも主張されていますが、企業と政府どちらかが強いのではなく、企業の得意な分野、政府が乗り出すことが適切な分野があります。その目利きが、政府に問われているのでしょう。経済自由主義や小さな政府論などの主張は、一面的すぎます。

イスラエルによるシリア原子炉爆撃2

2021年7月15日   岡本全勝

イスラエルによるシリア原子炉爆撃」の続きです。
イスラエルの諜報機関がつかんだシリアの原発建設。どのようにしてそれを確認するか。アメリカとの連携が模索されます。次に、どのように対処するか。急がないと、完成してからでは、原発を破壊するとユーフラテス川に放射性物質が流れ出て、下流を汚染します。選択肢は、大きく分けて次の3つ。

1 国際社会に訴える。それは正しい方法ですが、シリアの行動を止めることはできないでしょう。建設中の原発に子どもを入れて、爆撃できないようにするだろうと予測します。
2 能力を持っているアメリカに爆撃してもらう。しかし、イスラエルの働きかけに対し、ホワイトハウスはさまざまな検討を行い、結果として拒否します。関係者の意見の違い、アメリカの置かれた立場が、浮き彫りになります。
3 イスラエルが破壊する。しかし、どのようにして敵国奥地までたどり着くか。さらに、そのことによる報復攻撃にどう対処するか。前年に、イスラエル軍は手痛い失敗をしたばかりです。

イスラエル政府内での検討と決定、アメリカ政府内での検討と決定。さまざまな機関と政府高官が、異なる見解を戦わせます。一つの施設攻撃に、これだけもの多面的な検討がなされるのかと、改めて驚きます。そこに、この本の意義があります。
関係者には厳重な箝口令がひかれ、秘密を守る文書に署名させられます。秘密は守られます。秘密が漏れないように、資料はパソコンを使わず、手書きです。もちろん、携帯電話は持ち込み禁止。当たり前のことですが。

翻って、わが国の意思決定はどのようになっているかを、考えさせられます。
戦後70年余り、戦争に巻き込まれることはありませんでした。戦闘行為は2001年東シナ海での北朝鮮工作船撃沈事案くらいでしょう。しかし、北朝鮮と中国の軍事的脅威が現実のものとなった現在では、それへの備えが必要です。また、このような軍事衝突でなく、新型コロナウイルス感染症のような危機との戦いもあります。

その際に、だれに何を検討させるか。これも責任者の大きな決断です。そして異なるさまざまな意見を、何度も議論します。その選択肢をとった場合の利害得失、どのような反応があるかもです。最後に、首相が決断します。
私はそのような政治学として、この本を読みました。日本政府の高官にも、読んで欲しい本です。
イスラエルは、その後、イランの核施設をサイバー攻撃で破壊したとの報道もあります。

イスラエルによるシリア原子炉爆撃

2021年7月14日   岡本全勝

ヤーコブ・カッツ 著『シリア原子炉を破壊せよ─イスラエル極秘作戦の内幕』(2020年、並木書房)を読みました。2007年に行われた、イスラエル空軍による、シリアの原子炉空爆です。どのようにして秘密裏に敵国に侵入し、空爆に成功したのか。興味があって、買ってありました。
読んでみたら、もっと深い内容のものでした。戦記物ではなく、複雑な政治意思決定過程を書いた本です。

シリアが原爆作成につながる原発を建設していることを、諜報機関がつかみます。その衝撃。その情報をさらに確認します。
2007年9月6日深夜、8機のイスラエル軍機がシリア国内を超低空で侵犯し、砂漠の奥深くで秘密に建設されている原子炉を破壊し、無事帰還します。この事実だけでも、興味深いのですが、この本は、それについては大きな紙面を使いません。その決断にいたるイスラエル政府内での苦悩、同盟国アメリカとの関係、その他関係各国との関係に、記述は費やされます。

イスラエルは、この成果を公表しません。シリアも、事実を公表しません。公表すると、原発を作っていたという国際法違反がばれるからです。イスラエルは、シリアのこの反応に賭けるのです。そして、成功します。
イスラエルが1981年にイラク原発を破壊した際には、その成果を誇り、当時の首相は政治的危機を脱します。しかし今回は、国内政治で苦境に陥っているオルメルト首相は、この成果で支持を挽回できるのに、国家の利益を優先します。
この項続く

出口を考える総理と政治家

2021年7月6日   岡本全勝

朝日新聞ウエッブニュース、アナザーノート、「麻生太郎が頼ったあの男 コロナ対策と出口戦略」(7月4日掲載)

・・・13年前の12月、麻生政権を党側から支えていた園田さんの地元に、麻生首相が足を運びました。現職首相として、極めて異例の訪問です。市内のホテルで予定の日程をこなす合間、麻生首相は一室に園田さんを招き入れます。そそくさと後を追おうとする秘書官を追い払い、政治家同士だけの場を作る首相。私はその瞬間を目撃し、一体何が起きているのだろうと思いました。

のちに園田さん本人から聞いてわかったのですが、ここで麻生首相は、雇用対策を含む緊急経済対策をとりまとめるよう指示したのです。リーマン直後に首相の座に就いた麻生さんにとって、この経済対策の成否は政権の命運を左右しかねないものでした。
ただ、園田さんは党幹部とはいえ、いわゆる三役の一人である政調会長ではありません。格下の部下の地元までわざわざ行って指示を出す。そんな麻生首相の熱意に奮起した園田さんは早速、盟友の与謝野馨経済財政相(のち財務相も兼務)と連携し、「タマ込め」を始めます。そして翌年、巨額の新規国債発行を含む大型補正などの経済対策へとつながりました・・・

・・・実は麻生、園田コンビの政策づくりの話は、これだけで終わりませんでした。この年の12月、もうひとつ山場がありました。社会保障政策の財源をめぐる自民党と公明党のつばぜり合いです。当時、社会保障と税財政改革の全体像を示す「中期プログラム」の閣議決定を、政府・与党はめざしていました。少子高齢化が進んで社会保障政策にかかる経費は増大し、財源をどうするかは今も頭の痛い問題です。
麻生内閣は中期プログラムで、消費税を含む税制の抜本改革を11年度から実施できるよう取り組むと明記。衆院議員の任期が1年を切るなか、消費増税時期を明記するのに難色を示した公明を、麻生首相の意向で押し切り、「増税感」を強くにじませました。これは公明との交渉の前面に立った園田さんが、着地点を探った結果でもありました。
私は当時、園田さんに尋ねました。「リーマン・ショックで財政出動が必要なのに、増税の道筋も示したらブレーキを踏むことになりませんか」。園田さんはこう答えました。「馬鹿だなあ。出口を考えるのが政治ってもんだ」・・・

ぜひ原文を全てお読みください。ところで、ここに出てくる秘書官は、私でしょうね。

大きな政府、小さな政府

2021年7月1日   岡本全勝

6月26日の日経新聞コラム「大機小機」は「大きな政府 日本の事情」でした。

・・・1980年ごろから続く「小さな政府」への世界の流れは、大きな転換点を迎えつつある。新型コロナウイルス禍を機に政府の役割は飛躍的に高まった。バイデン米政権は米国救済計画に加え、雇用計画、家族計画といった大型財政政策を立て続けに打ち出して「大きな政府」へと明確にかじを切っている。
欧州はもともと日米に比べ「大きな政府」だったが、英国の欧州連合(EU)離脱でその色彩を一段と明確にした。政府は今後、気候変動対策を軸に経済社会への関与をさらに強めていくだろう。

それでは日本も「大きな政府」に向かうのかと考えてみると、事情はかなり違いそうである。その根本には、国民の政府実態への認識の問題がある。財政赤字の大きさから日本政府は大きすぎると思っている人も少なくないようだが、実態は全く異なる。
公務員の数は国際比較でみて圧倒的に少ない。財政支出の国内総生産(GDP)比が極端に低いとはいえないが、世界に冠たる高齢社会で社会保障支出が多いからにすぎない。これを除けば、日本は極めて「小さな政府」だ。新型コロナウイルス禍への対応の失敗にも、デジタル化の遅れといった要素はあるが、自治体や保健所などの人員や権限の不足に起因するところが少なくなかった・・・

・・・それでも消費税増税への反発の強さなどを考えれば、国民の間に政府の役割強化への合意が存在するとは思えない。日本が「大きな政府」に向かうとすれば、それは財政規律喪失の結果である可能性が高い。超低金利に安住して巨額の予備費が設けられるなど、財政規律は一段と緩んでいるように思われるからだ・・・

ここには、いくつかの論点があります。一つは、歳出は大きな政府なのに、負担は小さな政府だと言うことです。その差は、借金で子孫に負担を先送りしています。もう一つは、福祉など政策経費と、人件費などの業務費のどれをもって、大きさを比べるかです。
「小さな政府」という言葉は、有権者に向かっては、心地よい宣伝文句でしょう。その内実を検証せずに、宣伝文句を繰り返しているようです。