「政治の役割」カテゴリーアーカイブ

行政-政治の役割

少数与党政権、熟議の場でなく支出の拡大へ

8月6日の日経新聞経済教室「参院選後の政権の課題」は、待鳥聡史・京都大学教授の「政治の安定回復が急務に」でした。

・・・2024年10月の衆議院選挙での議席減で、連立与党は衆院で過半数を割り込み少数与党政権となった・・・
・・・25年度予算が衆参両院での修正を経て24年度内に成立するなど、一見するとこの路線は一定の成果があったように思われる。しかしその修正は維新の支持を得るための教育無償化や、立憲民主が主張した高額療養費負担引き上げの凍結受け入れなど、もっぱら与党が一部野党の政策を受け入れ財政規律を無視することで実現したものであった。
少数与党政権の下では国会が「熟議の場」になるという楽観論もあった。だが実際に行われたのは、長期展望に基づく良き公共政策のための包括的で闊達な議論でも、理詰めの政策論でもなく、財源も効果も曖昧な支出拡大だったと評価せざるを得ない。
参院でも少数与党になれば、この傾向はいっそう強まるであろう・・・

このような識者の論考を、政治家は読んでいるのでしょうか。ほとんどの経済学者は、財源を考えない消費税減税を批判しています。学者たちも、無力を感じているでしょう。
そして、このようなバラマキ合戦の結果は、誰が責任を取るのでしょうか。

政治の混迷、自民党を支える業界団体の消滅

8月10日の日経新聞「風見鶏」は、山内菜穂子記者の「現役世代、怒りの矛先は何か 減税論が示す自民党政治の限界」でした。
自民党対社会党の対立構図が、はるか過去の話となり、自民党対民主党の対立も野党の多党化で崩れました。そして、自民党を支える業界団体もほぼ消滅し、政党は社会の利害対立、国民の要求をすくい上げることができなくなっています。戦後、ある程度機能した政党政治が、機能しなくなったのです。しかし、各政党は次への転換(政策の提示、国民の不満や意見の吸い上げ、支持者の確保など)に熱心ではないようです。与野党ともに、執行部の責任を問い、交代を議論すること以上に、この役割と支持確保を議論すべきです。

・・・税金は自分たちのために使われていない――。現役世代を中心にこんな怒りが渦巻いている。

現役世代が生活苦などから減税を要求する動きは、昨年末から本格化した「財務省解体デモ」で注目を浴びた。成蹊大の伊藤昌亮教授(社会学)によると、参加者は賃上げを期待しにくい自営業者や主婦、中小企業従業員ら様々だ。
「彼らは労働者ではなく納税者として団結しているため、緊縮財政を象徴する財務省が悪者になった」。労働組合なら企業の経営サイドに要求が向かう。労組に入る労働者が2割を切った今は敵意の対象が政府になるという見方だ。手取りが減る税金や社会保険料がターゲットになりやすい。

京大の諸富徹教授(財政学)は減税の要求に別の背景があると指摘する。これまでの政策決定のしくみが機能しなくなった点だ。
自民党は業界団体が要望する政策を実現し、その見返りに票を集めてきた。組織や団体から距離を置く人が多くなった現在は、業界向けの政策では響かない。結果として「減税のように幅広い人に一挙に利益を与える政策が選ばれやすくなっている」と分析する。

税や社会保険料の負担感を減らすだけでなく、納税への納得感をどう高めていくかも重要になる・・・

移民政策の矛盾

7月23日の日経新聞一面「検証・日本の針路(2)」は、斉藤徹弥・編集委員の「外国人共生へ建前を排せ 移民政策の矛盾が露呈」でした。

・・・参院選での参政党の台頭は、在留外国人やインバウンド(訪日外国人)の増加に国民がうすうす感じている不満を顕在化させた。政府が建前では「移民は受け入れない」としつつ、現実には外国人の受け入れを増やしてきた矛盾が露呈したといえよう。
人口減少が進む日本では、外国人の力を借りなければ人手不足で社会機能を維持することもままならない。排外主義の芽を摘み、民主主義を守ってゆくためにも、建前を排して外国人の社会統合を真剣に考えるべき時期を迎えている。
参院選の終盤、政府は急きょ「外国人との秩序ある共生社会推進室」を内閣官房に設置した。その慌てぶりは、政府がこれまで外国人政策を自治体任せにし、本気で取り組んでこなかったと認めたに等しい・・・

・・・より重要なのは社会になじんでもらうための共生の充実だ。政府にも共生社会に向け中長期的な課題を挙げたロードマップはある。だが定住を前提とした移民と認めず、あくまで一時的な滞在者との位置づけでは共生にも力が入らない。
ドイツは第2次大戦後から多くの外国人労働者を受け入れてきたが、移民と認めたのは2000年代に入ってからだった。そこから社会になじんでもらう統合プログラムを始めた。
外国人がコミュニティーを形成するのは自然の流れだが、それが閉鎖的になるのが問題だ。英国は外とのつながりをどの程度保っているかを統合の指標として見える化し、社会の分断を防ごうとしている。
こうした取り組みにもかかわらず、欧州では難民危機などもあって排外主義的な勢力の台頭が著しい。日本の在留外国人は総人口の3%だが、増加ペースは年々高まり、参院選で現れたような反発もくすぶる・・・

・・・社会統合を考える際は、既存の制度をより透明でわかりやすいものにしていく視点も要る。外国人に選ばれる国になるうえで重要であり、それは日本人にとってもよいことだ。
外国人政策は対外政策の意味もある。学生支援では自国民を優遇する国も多いが、日本は平等主義が一般的だ。留学生の受け入れは各国の指導層に知日派を育てるソフトパワー戦略であると考えたい・・・

手続きを踏まない医療費値上げ

日経新聞夕刊「人間発見」、7月7日は天野慎介・全国がん患者団体連合会理事長の「がん患者の声を届ける」でした。
・・・全国がん患者団体連合会(全がん連)の理事長、天野慎介さん(51)は2024年末から多忙を極めた。患者が支払う医療費の上限額を引き上げる高額療養費制度の見直し案を凍結させるためだ。患者の悲痛な声を国会議員などに届け続け、政府予算案は現行憲法下では初となる迷走の末に修正された。石破茂首相は「私の判断が間違いだった」として陳謝した・・・

・・・厚生労働省が社会保障審議会の医療保険部会に上限額引き上げを議題に上げたのは、年の瀬が迫る24年11月21日。毎週、部会を開いて12月12日までの1カ月足らず、たった4回の議論で、早ければ翌年夏から上限額を引き上げることで部会の了承を得ました。
厚労省が議論を急がせたのは、年明けに開会する通常国会に提出する25年度の政府予算案に医療費削減の柱として盛り込むためです。実際、12月25日に厚生労働相と財務相の閣僚折衝で、翌年8月から高額療養費の上限を順次引き上げることで合意しました。

「上限を引き上げると患者の自己負担が増える。政府予算案では、上限引き上げで国の支出(国費)が約1100億円減ると見込んだ。報道では、自己負担の限度額を年収に応じて高くして2.7〜15%上げ、平均的な年収となる約650万〜約770万円の世帯では限度額が最終的に月額約13万8千円となり、5万円余りも増えるとされた。」

具体的な引き上げ額は厚労省の部会では示されていませんでした。私たち全がん連では実際の影響が判明してから要望書を出すつもりでした。水面下で引き上げ額が決まっていく中、やむなく12月24日に政府に対して緊急の要望書を提出しました。
要望書では「高額療養費制度は治療を受けるうえでまさに命綱」などと訴えました。上限引き上げによって「生活が成り立たなくなる、あるいは治療の継続を断念しなければならなくなる患者とその家族が生じる可能性」を指摘し、引き上げの軽減と影響の緩和策の検討を求めました。
要望書は報道機関や記者にも送ったのですが、一部しか報道されませんでした。記者から「政府予算案が決まれば年明けの通常国会で修正されることはほぼない。もう決まっていることで、要望書の提出は遅すぎる」などという指摘も受けました。

「1月開会の通常国会では冒頭、石破首相が施政方針演説でも高額療養費制度の見直しに言及した。事実上、既定路線になったとみられる中、患者の悲痛な思いを訴えた。」

従来の常識から言えば、政府予算案を修正させることはほぼ無理です。しかし24年10月の衆院選挙で自民党と公明党の与党は過半数割れしていました。「もしかしたら扉を開くことはできるかもしれない」というかすかな望みにかけるしかありませんでした。
要望書に対して、与野党の国会議員もほぼ無反応でした。「政府の方針に逆らうのか」という批判もありました。それでも患者とその家族を守らなければなりません。
まず25年1月17日から3日間で緊急アンケートを実施し、患者の声を集めました。同24日からの通常国会で質問してくれる国会議員も出ました。やっと扉が開き出しましたが、3月の政府予算案修正まで長い道のりでした・・・

生活保護引き下げ、違法判決

6月28日の朝日新聞1面、「生活保護引き下げ、違法 最高裁「厚労相の裁量逸脱」 物価下落のみ考慮、誤りと指摘」から。

・・・国が2013~15年に生活保護費を大幅に引き下げたのは違法だとして、利用者らが減額決定の取り消しなどを求めた2件の訴訟の上告審判決が27日、最高裁第三小法廷であった。宇賀克也裁判長は、引き下げを違法と判断し、減額決定を取り消した。原告側の勝訴が確定した。
一方で判決は、原告側が求めた国の賠償は認めなかった。判決は裁判官5人のうち4人の多数意見で、宇賀裁判官は賠償も認めるべきだとする反対意見をつけた。

引き下げに先立つ12年の衆院選では、野党だった自民党が保護費削減を選挙公約に掲げて政権復帰した。国は13年以降、生活保護費を約670億円削減した。
この削減では、生活保護費のうち、食費などの生活費にあたる「生活扶助」の基準額が3年の間に平均6・5%、最大10%引き下げられた。引き下げ額を決めた厚生労働相は、物価の下落に合わせて保護費を減らす「デフレ調整」を行った。
判決は、生活扶助の額は従来、世帯支出など国民の消費動向をふまえて決められていたのに、今回の調整では、「物価下落のみ」が指標とされたと指摘。指標を変えることは、専門家による社会保障審議会の部会で検討されておらず、専門的知見との整合性を欠いているとして、判断過程を誤った厚労相に「裁量の逸脱や乱用があった」と結論づけた。

訴訟では、一般の低所得世帯と生活保護世帯の均衡を図るとした「ゆがみ調整」の是非も争われたが、判決は、統計などの専門的知見と整合しないとはいえず、不合理ではないとした。
判決は、国の賠償責任について、生活扶助の指標を変える議論が過去にあった点などを踏まえ、認めなかった。
宇賀裁判官は反対意見で、「最低限度の生活の需要を満たすことができない状態を(原告らは)強いられた」として精神的損害を賠償すべきだと指摘した・・・