厚生労働省の中央最低賃金審議会が7月25日に最低賃金(時給)を全国加重平均で50円(5%)増の1054円とする目安を決定しました。
26日の朝日新聞に「官邸、こだわった5% 最低賃金1054円、過去最高50円上げ決定」が載っていました。
・・・過去最高の引き上げ幅に至る攻防には、「物価を上回る賃金」を掲げ、物価高の影響を差し引いた「実質賃金」のプラス転換を図る岸田文雄政権の強い意向があった。議論の舞台は地方に移るが、影響が大きい中小零細企業からは悲鳴も上がる。
「今回の力強い引き上げを歓迎したい」。岸田首相は25日、記者団にこう述べた。官邸関係者は「やはり5%という数字はインパクトがある」と満足そうに語った。
賃金の伸びが物価上昇に追いつかず、生活実感に近い実質賃金は過去最長の26カ月連続でマイナスに沈む。政権は、実質賃金のプラス転換を後押しする残された手段として、最低賃金を重視した。
今年6月の骨太の方針には「2030年代半ばまでの早い時期に全国加重平均1500円を目指す」と明記。実現には毎年3・5%程度の引き上げが必要な計算で、今回は目標を掲げてから初の議論でもあった。
政府は最低賃金の目安を決める中央審議会の運営には中立的な立場だが、6月の初会合から、大幅アップを求める強いメッセージを出した・・・
何度か書いているように、最低賃金を審議会で決めることがおかしいのです。内閣が責任を持って決定すべきです。審議会に委ねて、首相が人ごとのような発言をすることは変だと思いませんか。インフレ率を2%にする目標を掲げたことがありますが、それなら同時に最低賃金を2%以上挙げることとしなければ、実質賃金は目減りします。「最低賃金決定に見る政治の役割」
26日の日経新聞は「最低賃金 世界の背中遠く」を解説していました。
・・・とはいえ、上昇率は、諸外国に比べれば決して高くはない。インフレ対応でドイツは22年10月、法定最低賃金を14.8%引き上げた。英国は24年4月、21歳以上を対象に最低賃金を9.8%上げた。
世界のなかで、日本の最低賃金の水準は大きく見劣りする。内閣府が24年2月公表の「日本経済レポート(2023年度)」で示した、経済協力開発機構(OECD)のデータをもとにした分析によると、22年のフルタイム労働者の賃金中央値に対する最低賃金の比率は日本の場合、45.6%。フランス、韓国(いずれも60.9%)、英国(58.0%)、ドイツ(52.6%)を下回る。
最低賃金法第1条は、最低賃金の目的として「労働者の生活の安定」を掲げる。しかし労働者の間には、その目的を果たせる金額に最低賃金が設定されているのかという疑問がある。
23年度の大阪地方最低賃金審議会では、労働者代表委員から、「大阪府最低賃金は昨年(22年)1000円を超えたが、年間2000時間働いても200万円にしかならず、いわゆるワーキングプアの水準」という声があがった。長時間働いても低収入にとどまる現状の是正を訴えた・・・
・・・欧州連合(EU)は22年10月に最低賃金指令案を採択。加盟国に、最低賃金を賃金中央値の60%以上とすることを目安に制度設計するよう求める。英国も賃金中央値に対する最低賃金の比率を6割に高める目標を掲げ、その後、3分の2への引き上げに上方修正した。
日本も最低賃金の引き上げに向けた明確な考え方や方針を示し、それに裏打ちされた目標を再設定する必要があるのではないか。最低賃金政策の背骨の部分だ。
引き上げ幅を議論する国や都道府県の審議会で、エビデンス(科学的根拠)重視が十分に浸透していない点も問題だ。
消費者物価、企業収益の動向や春の賃上げ率、雇用情勢など、各種の経済データを踏まえた議論が、数年前に比べれば審議会で増え始めた空気は感じられる。
しかし、学識者ら公益委員が労使間の調整作業に煩わされ、落としどころを探って上げ幅を詰めていくという日本的なやり方はいまだに根強く残る・・・