カテゴリーアーカイブ:政治の役割

総理のSNS投稿は行政文書か

2026年8月30日   岡本全勝

8月28日の日経新聞夕刊に、「首相のX投稿は公か私か 政策紹介や反論も発信、公文書に残らず」が載っていました。

・・・高市早苗首相がSNSでの発信を多用している。重要政策の紹介や世論・メディアへの反論にも使う。その投稿は政府が保存する公文書に該当しないと説明している。政権幹部の言動の記録はどう規定されているのだろうか。
「政府の取り組みをどうしてもタイムリーにお知らせしたい場合もある」。首相は4月、首相官邸で語った。記者団からSNSの情報発信について問われた際の答えだ。
首相は平日の公務時間のほか、土日もX(旧ツイッター)でメッセージを発する。投稿件数は2025年10月の就任から26年8月下旬までの300日間余りで700件を超す。「久々に5時間も睡眠を取れた」「ゴキブリが足元を走り抜けた」。公邸の暮らしを記した私的な投稿もある。

目立つのは高市政権が取り組む経済や安全保障政策、外交などに関する書き込みだ。地震や大雨といった災害時には「政府として」と記して対応や方針を示す。自民党総裁選などで中傷動画の作成を依頼したという雑誌の報道に反論をつづったこともある。
投稿は首相の公式な発言に映る。ところが木原稔官房長官は7月の記者会見で「行政文書ではない」との見解を示した。「個人アカウントによる発信だ」と説明した。一方、佐伯耕三内閣広報官が首相の活動を紹介するXの投稿への見解は異なる。翌日の記者会見で「内閣官房の職員である広報官が運用するものは公文書だ」と述べた。
違いはどこにあるのか。行政文書は公文書管理法が規定する。①行政職員が職務上作成・取得②職員が組織的に用いる③行政機関が保有――の3要件すべてを満たすものを指す。広報官の発信はこれにあたるとの見解だ。省庁が作成する内部資料やSNS「公式アカウント」の発信も同様だ。
首相も立場としては行政機関の特別職だ。だが内閣府公文書管理課はXを「1人の政治家として用いるもの」と説明する。原則として行政文書の対象にならないという。①②③のいずれでもないとの考え方だ。

同法のガイドライン(指針)は意思決定の過程の検証に必要な文書は原則1年以上、保存すると求める。文字データに加え、録音や映像なども対象となりうる。
政府は2024年度で2000万超の行政文書を保有する。同年度は新たに300万件ほどが加わった。毎年、保存期間が終了した行政文書の9割前後は廃棄される。そもそも後世になって行政や政策判断の過程を検証できないとの批判もある。
高市首相のXでの投稿はこうした公式記録としてすら残らない。発信者側の判断で削除や訂正も可能だ。ネット上に履歴を保存した「魚拓」が残るとしても、後から内容や経緯を正確に検証しにくい。海外の民間プラットフォーマーに発信の保存や管理を委ねてしまう問題もある。

政治家がSNSで発信する機会は増えている。「公式発信」の線引きと記録を巡るルールが改めて問われる。
海外では記録が進む。米国は国立公文書記録管理局が大統領の発信を保存する。14年のオバマ政権時に大統領記録法を改正し、SNSなどの電子記録を含むと明確にした。
韓国も大統領記録物管理法で大統領の職務に関するSNS発信の保存を義務付ける。英国やオーストラリアは指針などで、SNSは公的な記録に該当するとの認識を示す。英国立公文書館は14年から首相や閣僚のSNSを収集する。スタート時に「将来の世代が歴史上の出来事を理解するために閲覧できるようにする」と理由を掲げた・・・
この項続く

 

相変わらず文化予算の少ない日本

2026年8月15日   岡本全勝

7月27日の日経新聞オピニオン欄に、坂本英二・特別編集委員の「文化軽視の政治いつまで 「日本美術館」は不要ですか」が載っていました。詳しくは原文を読んでいただくとして。そこについている表に、各国の代表的な美術館の来館者数や大きさ、職員数が載っています。

職員数について。
フランスのルーブル美術館は2000人、オルセー美術館は880人。
アメリカのメトロポリタン美術館は2000人、ニューヨーク近代美術館は750人。
日本の国立近代美術館は職員数74人、東京国立博物館は114人。

う~ん。そんなにも差があるのですね。経済大国と言っていたのは、何だったのでしょうか。「エコノミックアニマル」という蔑称もありました。

「美術館、日本の特徴」で、博物館・美術館は、訪日外国人にとって観光名所となり、日本の文化の歴史や水準の高さを知ってもらうよい方法だと書きました。

教育の政治的中立性

2026年8月14日   岡本全勝

7月31日の朝日新聞オピニオン欄は、「「政治的中立」に潜む政治性」でした。
・・・沖縄・辺野古沖で平和学習中の生徒らが死亡した事故をめぐり、文部科学省が異例の「違法」認定を下した。「政治的中立」に反するとの判断だが、見落とされていることはないか・・・

手塚洋輔・大阪公立大学教授の「行政と現場、見解交わして」から。
・・・政治的中立は使い方や時期によっても異なり、たえず変化し、多義的です。
政権与党の考える中立、野党にとっての中立、教育現場にとっての中立と、それぞれの中身は違っていて、何が違反なのかは行政と教育現場の対話によって探り、「相場観」を作りあげるしかありません。
しかし、文部科学省の違法認定は、どう中立を判断するのかという枠組みを確立させないままであり、行政組織として拙速でした。自民党やメディアからの非難の高まりを回避するための判断だったようにみえます。学校側への聞き取りはしたものの、正式な見解が出る前に判断をし、対話を軽視してしまった。教員は、自ら省みる能力と責任を持つ専門家集団であり、その「自律性」をまずは重視すべきです。

もしも今回のことが辺野古でなかったら、政治的中立の問題ではなく、安全管理が中心に問われていたかもしれません。もしも当事者の学校法人が大学を運営していなければ、文科省ではなく、都道府県の私学担当部署に判断が委ねられていたと思います。森友学園で園児に教育勅語を暗唱させていたことなど、過去には政治的中立が問題視される事案がありましたが、文科省が是非を示すことはありませんでした。今回の判断は、様々な条件が重なった結果でもありました。

学校側の対応にも問題があったと思います。弁護士だけで第三者委員会を構成しましたが、民間企業の不祥事の対応ならば、それでいいのでしょうが、ここで問われているのは平和学習という正解が一つではない問いです。弁護士だけでなく、他校の教員や教育の専門家を入れるべきでした。
行政も学校も、教育の専門性に関する検証を放棄したことが問題で、今後の参考になりません。これは文科省と一学校法人だけの問題ではなく、広く教育に関わるからです・・・

教育基本法
(政治教育)
第十四条 良識ある公民として必要な政治的教養は、教育上尊重されなければならない。
2 法律に定める学校は、特定の政党を支持し、又はこれに反対するための政治教育その他政治的活動をしてはならない。

官民投資のあるべき姿

2026年8月10日   岡本全勝

7月28日の日経新聞経済教室、赤井伸郎・大阪大学教授の「官民投資に役割分担の設計を、民間追随なければ失敗に」から。

・・・「経済財政運営と改革の基本方針2026(骨太の方針)」では、高市早苗政権の「責任ある積極財政」路線の下、17の戦略分野について官民投資ロードマップに盛り込まれた施策パッケージを着実に実行する方針が盛り込まれた。2040年度までに累計370兆円超の投資が予定される。
筆者の整理では、官民投資における役割分担は以下の5つのポイントにまとめられる。▼政府が投資予見性を高め、民間が投資実行を担う仕組み▼民間投資のボトルネック解消を政府が担う仕組み▼官民双方で需要創出を分担する仕組み▼財政措置により政府が直接的にリスクを引き受ける仕組み▼分野横断的な基盤整備により、個別分野で投資する民のリスクを軽減する仕組み――である。

官がリスクを取る際のカギは、民の投資リスクを減少させ収益性を高められるかどうかである。そうでなければ事業選定か、リスクの取り方に問題がある。重要なことは官民が適切に役割を分担しているかどうかである(図参照)。すべての施策には不確実性・リスクが伴う。官民の適切なリスク分担で、より大きな効果が期待できる。

社会には政治の変動・政策変更や自然災害など、民ではコントロールできない大きなリスクが存在する。それが原因で民が投資できない場合には、リスクを官が担うことによって将来の期待収益がプラスとなり、民間投資が可能となる。
官が担うことが望ましいかどうかは、リスクのタイプによる。政治・政策や自然災害については一般的に官が民よりも情報を持ち、リスク許容度も高いと考えられる。しかし事業性の見極めなど、本来であれば民が比較優位を持つ判断領域において官が先行してリスクを取ってしまうと、失敗につながる可能性がある。

過去の失敗事例として、官民ファンドのクールジャパン機構(海外需要開拓支援機構)や農林漁業成長産業化支援機構(A-FIVE)が大きな損失を計上したケースが挙げられる。背景には公益性と収益性のトレードオフ問題に対する制度設計上の不備、事業リスクの見積もり・審査体制の甘さ、投資回収のコントロールの不備、高コストな組織運営、カントリーリスク・地政学リスクの直撃などがあったと考えられる。
官民ファンドの理念としては、政府が「アンカー出資者」としてリスクを先取りし、民間資金の呼び水となることが掲げられていた。しかし現実には政府出資比率が非常に高くなり、民間資金がほとんど追随せず、リスクが政府に一方的に集中する「呼び水効果の空洞化」が起きていた。
今回の官民投資ロードマップが前提とするリスク分担モデルはどうか。事業性の見極めが十分でないまま政府がリスク分野で先行投資を行うものの、民にとってはいまだ投資リスクが大きく、収益確保が見えないため、民間投資が追随しない――という落とし穴に陥る可能性がある・・・

・・・以下では、これまでの経験・教訓を踏まえ、より具体的に官民の役割分担の制度設計を考えてみたい。
第一に17分野を一律のリスク分担モデルで扱うのでなく▼研究開発の比率の高い分野(量子・核融合・次世代半導体など)▼大規模設備投資・量産能力構築が中心となる分野(造船能力増強や蓄電池・データセンターのインフラ整備など)――の2種類に区別する・・・
・・・第五に、意思決定主体の権限を明確化する。専門性と一定の裁量を持つプログラム責任者による機動的な判断(早期の見直し・撤退を含む)を可能にするガバナンス制度を設計する・・・
「クールジャパン機構、回収率低迷6割」

クールジャパン機構、回収率低迷6割

2026年8月9日   岡本全勝

7月21日の日経新聞に「統廃合検討のクールジャパン機構、回収率低迷6割 総花投資ツケ重く」が載っていました。
・・・経済産業省は官民ファンドの海外需要開拓支援機構(クールジャパン機構)の統廃合に向けた検討を7月中にも始める。累積赤字は540億円に膨らみ、投資回収率は60%と他の官民ファンドに見劣りする。コンテンツの「目利き」を欠いたまま総花的な投資に走ったツケが出ている。機構は日本文化などのコンテンツ振興につながる商品やサービスの海外展開を目的に13年に発足した・・・

・・・クールジャパン機構は政府が財政投融資を使ってリスクを取り、民間投資の呼び水となることを狙う官民ファンドの一つだ。国が1406億円と出資金のおよそ9割を出している点は他のファンドと共通する。
「官民ファンドの枠組みに無理があった」。経産省幹部はこう振り返る。官民ファンドには民間が手を出しにくい投資リスクの高い案件が集まりやすい。高い利益を出せば「民業圧迫」との批判も浴びる。民間に比べ運営に一定の難しさはつきまとう。それでもクールジャパン機構の業績は他の官民ファンドに比べて悪い。
会計検査院によると、投資実行額に対する回収額の割合を示す回収率でクールジャパン機構は24年3月末時点で60.0%だった。業績不振で26年3月に解散した農林水産省所管の農林漁業成長産業化支援機構(A-FIVE)の58.5%と同水準だった・・・

・・・要因の一つが総花的な投資だ。日本のコンテンツ振興を掲げるものの、総投資額2040億円のうちメディア・コンテンツ分野は30%に過ぎない。ライフスタイル・ファッション分野が36%と最多で、ほかに食やインバウンド観光など対象は多岐にわたる。

コンテンツ産業に詳しい人材の欠如が背景にある。専修大の松本淳教授は「業界全体で目利きできる人が少ない」として、機構が優秀な人材を獲得できなかったとみる。金融出身の人材を中心に「投資成果を上げないといけない中で総花的な投資になった」と指摘する。
社長はイッセイミヤケ社長などを歴任した太田伸之氏が初代を、18年からソニー・ミュージックエンタテインメント最高経営責任者(CEO)などを歴任した北川直樹氏が務めた。21年に就任した今の川崎憲一氏は大和企業投資の社⻑を務めた経歴を持つ。
機構の投資はアジアでの百貨店事業など発足当初から苦戦を強いられたものも多い。明治大の田中秀明教授は「『損をしない』という目標ではうまくいかない。財務相は株主として国民に還元せよと収益を厳しく求めるべきだ」と強調する。
海外に比べたコンテンツ振興の司令塔機能の欠如も目立つ。韓国コンテンツ振興院(KOCCA)は人材育成から資金調達、海外展開まで一括支援する。フランスはCNC(国立映画・映像センター)が映画入場に関する税金などを原資に製作を補助する・・・