カテゴリーアーカイブ:政治の役割

法に縛られない権力者の孤独と不安

2023年3月16日   岡本全勝

3月3日の朝日新聞オピニオン欄、池田嘉郎さんの「ロシアの破局的な時間」から。

・・・いまやらねば全てが失われ、破局が到来するという切迫感が、ロシアの歴史にはしばしば影を落としてきた。それは「破局的な時間」とも呼ぶべき時間観念である。「時間」のような普遍的に見える概念さえもが、ロシアでは権力者の存在や、権力の行使の在り方と緊密に結びついている。その不可解さは長い固有な歴史で培われたもので、文化史的観点で見ないとわからない・・・

・・・ロシアにおける権力者の地位について、米国の歴史家R・ウォートマンは著書(2013年、Russian Monarchy: Representation and Rule)で、西欧諸国では18世紀初頭から王位継承法が成立して、君主の地位や継承順を規定したのに対して、ロシアでは皇帝はそうした法には縛られなかった、と論じている。
権力者の無制限な力はその後、政治体制の変化にかかわらず、ソ連時代から現代ロシアに至るまで引き継がれる。その地位は法や規約で定められてはいない。いや、それがないわけではないが、ルールを自分でつくり、かつ一方的に変えられる点にこそ、権力者の権力者たるゆえんがある。

近代以降の西欧では、非人格的な法による支配が確立していったため、法が権力者の上位にある。別の言い方をすれば、権力者は個人としてではなく法人として存在している。この「法人概念」が西欧を特徴づけることは大澤真幸と橋爪大三郎の「おどろきのウクライナ」(集英社新書、22年)でも強調されていたが、ロシアでは事情は異なる。皇帝も書記長も大統領も、権力者は個人として力を振るっているのだ。

だが、これは彼らに重い孤独を強いる。ロシアの権力者は、非人格的に続いてゆく法や制度に未来を託すことはできない。個人の有限の人生において何事かを成し遂げねばならないからだ。
継承法や憲法が彼らの地位を担保することがないロシアでは、権力者は「超越的な力」を示すことで地位を維持しようとする・・・

男女不平等、搦め手から攻める

2023年2月28日   岡本全勝

2月19日の日経新聞「風見鶏」、大石格・編集委員の「「正当な差別」などない」から。

・・・差別をなくすにはどうすればよいか。3年前に亡くなった米最高裁のギンズバーグ元判事は弁護士時代にからめ手から攻めた。目標は女性の権利擁護なのだが、男性の権利を守れ、という訴訟を起こした。
当時、親などの介護にかかる費用を補う所得控除は独身男性には認められていなかった。結婚して妻に介護させればよい、と思われていたからだ。

男性に不利な制度はおかしいとの訴えはあっさりと認められた。最高裁は男女で扱いが異なる制度は憲法違反と判決に書いた。ギンズバーグ氏は以降、この判決を盾にして女性の扱いが不利な事例で次々に勝訴していく。戦略がまんまと当たったわけだ・・・

防衛費と子ども予算、増額は賛成、負担増は分かれる

2023年2月19日   岡本全勝

NHKの世論調査(2月13日)に、興味深い結果が出ていました。

新年度・2023年度から5年間の防衛費の総額を今の1.6倍にあたる、およそ43兆円とする政府の方針について賛否を聞いたところ、「賛成」が40%、「反対」が40%でした。増額する防衛費の財源の一部を確保するため、増税を実施する政府の方針については、「賛成」が23%、「反対」が64%でした。

少子化対策をめぐり、岸田総理大臣は子ども予算を将来的に倍増する方針です。この賛否を尋ねたところ、「賛成」が69%、「反対」が17%でした。子ども予算を増額するため、国民の負担が増えることについては、「負担が増えるのはやむをえない」が55%、「負担を増やすべきではない」が35%でした。

国内人権機関がない日本

2023年2月17日   岡本全勝

2月1日の朝日新聞オピニオン欄「「人権」日本の現実」、土井香苗さん(ヒューマン・ライツ・ウォッチ〈HRW〉日本代表)の「政策推進、国家機関が必要」から。

・・・人権の制度面でも「失われた30年」だと考えています。世界の動きから遅れています。主な原因の一つが、国内人権機関の設立ができなかったこと。「なんでないの」と、声を大にして言いたい。
国内人権機関は、政府から独立して、人権侵害からの救済と人権保障を推進する国家機関です。世界約120カ国が国内人権機関を持っています。国連からも度々、日本政府は国内人権機関を設立するよう勧告されていますが、いまだに作られていません。

環境であれば環境省という役所があり、環境政策に責任を持っています。でも、日本には、総合的に人権政策を作る機関がないのです。その結果、世界各国の政府に多数いる「人権政策の専門家」と同等レベルの国家公務員は日本にほぼいません。これでは、日本の人権政策が場当たり的で、政府高官のリーダーシップに欠けるのは必然です・・・

現代の国土計画

2023年2月8日   岡本全勝

1月30日の日経新聞夕刊に、斉藤徹弥・編集委員が「令和の国土計画、今夏に策定 実効ある土地の管理体制を」を書いておられました。

・・・令和に入って初となる、国土計画の策定に向けた議論が佳境を迎えています。人口減少で必要とされない土地は増えており、それをどう管理するかは難しい課題です。かつて不要論もささやかれた国土計画が実効ある形に「復活」できるか。今夏のとりまとめ内容が注目されます。
日本で人が住んでいる土地は国土面積の半分ほどです。人口減少が進む2050年にはその2割が無人になり、3割は人口が半減すると推計されています。
日本は土地の所有権が強く、その権利には放置する自由もあるとされました。しかし、放置されて荒れた土地が周辺に悪影響をもたらすことも増えています。
こうした土地をきちんと管理するため、国は制度を見直し、適正な管理は所有者の責務としました。それでも管理が不十分な土地には、地域や自治体による改善を後押しする制度が相次いで動き出しています・・・

・・・国土計画は1962年の第1次全国総合開発計画からおおむね10年ごとにつくり、今回が8度目です。
当初は「均衡ある発展」を掲げ、地方にインフラを整備し企業誘致を進めました。21世紀に入ると都市の人口比率の高まりなどから都市再生が重視され「均衡ある発展」は合意を得にくくなります。国土計画は曖昧になり、不要論もささやかれました。
しかし近年、国土計画は世界的に見直されつつあります。望ましい将来像を定め、長期計画に基づいて取り組む国土計画の手法が、持続可能な開発目標(SDGs)や脱炭素などに広がっているためです・・・
電子版では、さらに詳しくドイツの例なども説明されています。

昭和の後半、経済成長期には、国土計画は大きな意義を持っていました。産業が集積した太平洋ベルト地帯と取り残されたそのほかの地域との格差が広がったのです。そこで「均衡ある国土の発展」が掲げられ、国土庁という役所も作られました。「開発計画」で、インフラ整備と産業誘致が中心でした。その手法が行き詰まり、国土計画の意義は低下したようです。他方で、東京一極集中は止まらず、地方創生などが大きな政策課題になっています。
新しい計画は土地の管理に重点を置くようですが、そのようなハードとともに、人の暮らしというソフト面を入れた計画や指針を作ることはできないでしょうか。