カテゴリー別アーカイブ: 政治の役割

行政-政治の役割

非常事後の増税準備

4月19日の日経新聞経済教室は、佐藤主光・一橋大学教授の「増税の時期・選択肢、検討急げ ポストコロナの財政」でした。

・・・コロナ禍のなか、大規模な財政支出が続いている。政府はワクチン確保や感染対策に加え、国民一律10万円や持続化給付金などの支給、雇用調整助成金の拡充などを補正予算や当初予算の予備費で対応してきた。
非常時には積極的な財政出動が求められる。とはいえ、国の財政悪化は著しい。2021年度末の国の債務残高は1千兆円を超えた。国・地方を合わせた一般政府の債務残高の国内総生産(GDP)比は250%超と国際的にも高水準にある。

諸外国でも財政規模は拡大している一方で、財源確保に向けた動きもある。英国は法人税率を引き上げる方針だ。米国でも10年間で総額1.75兆ドル(約220兆円)規模の歳出計画の財源として大企業の法人税率引き上げや所得税・キャピタルゲイン税の最高税率引き上げなどを検討する。
対照的に日本ではコロナ対策で膨らんだ赤字国債などの償還を巡る議論が封印されてきた。岸田文雄首相は「新しい資本主義」の一環として看護師・介護職員などエッセンシャルワーカーの賃金引き上げを含む分配政策を重視するが、ここでも財源論を欠いたままだ・・・

対照的なのが、東日本大震災からの復興経費です。当初10年間で32兆円の経費が見込まれました。これに対して、復興増税、歳出削減、日本郵政株式会社株式売却などで財源を確保しました。国民も増税に協力してくれたのです。

がん基本法、家族をも支える

4月3日の読売新聞1面「地球を読む」、垣添忠生・日本対がん協会会長の「がん基本法15年 家族も支える医療 進展」から。

・・・今年は、「がん対策基本法」が施行されて15年という節目の年である。より良いがん治療を求める患者の声がようやく政治に届き、法成立に至った画期的な出来事だった。
07年4月に法律が施行され、国は、がん対策の青写真となる「がん対策推進基本計画」を策定する「協議会」を設立した。
基本法には、委員に「がん患者及びその家族又は遺族を代表する者」を選ぶと明記した。従来なら、メンバーはがん医療の専門家や有識者だけだったろう。同月中に初めての協議会が開催され、委員18人のうち、患者と家族、遺族の代表が計4人加わった。

協議会は第1期基本計画(07〜11年度)について議論し、事務局からは、すべてのがん患者のQOL(生活の質)向上を目標にするとの案が示された。
これに対し、がん患者家族や遺族代表の委員から、「がん患者も大変だが、家族も同等、あるいは患者以上に苦しむ。家族も加えてほしい」との意見が出た。当初案は全会一致で、がん患者・家族のQOLの向上へと修正された。
がん医療は、患者と家族を、医療スタッフらが支える態勢を目指すことになった。その意義は大きい・・・

「今」を闘う7人の外相

4月3日の朝日新聞「日曜に想う」は、曽我豪・編集委員の「「今」を闘う7人の外相」でした。

・・・将軍たちはひとつ前の戦争を戦う、という。勝利を約束するはずの戦略は既に古びて、逆に時流を見誤る。日本の満州事変もドイツの2度の世界大戦も米国のベトナム戦争も、彼我の戦力差に基づく戦略への過信が国策を誤らせた。
ウクライナ侵攻において古い戦争を起こした「将軍」は、69歳のプーチン・ロシア大統領に他ならない。軍事力により版図拡大を図った国家戦略が、ネットにより国境を超えて連帯した国際社会の反抗を蹴散らせる時代ではなかった・・・
・・・他方、前ではない今の戦略を持ち得たのは例えば、G7(主要7カ国)の外相会合に集った政治家たちだったろう。
年齢を順に記せば、フランス74、日本61、米国59、英国46、カナダ43、ドイツ41、イタリア35。アラフォー世代が目立ち、女性も英加独で3人いる。2番目に年かさの林芳正外相は証言する。
「初対面でまずはSNSのフォロワー数を尋ね合う世代だ。ただ、ここで権威主義国家の横暴を許せば取り返しがつかない、民主主義国家の知恵を出すのは今だ、という共通のリアリズムがある」
確かに、バイデン米政権によるロシア軍の機密情報の積極開示にせよ、国際決済網からロシアの銀行を締め出す経済制裁にせよ、前例のない対抗措置はいずれも「今」を意識した知恵の産物だった・・・

・・・思えば、ほんの少し前まで民主主義はその「使い勝手の悪さ」ばかりが強調されたのではなかったか。
ともすれば、合意形成に時間と労力がかかり過ぎ、民意と隔絶すると政治不信が、民意に迎合すればポピュリズムが危ぶまれた。コロナ禍を巡っては権威主義国家の優位性が指摘され、中国はそれを大国への道のよりどころとする。
それもまた、ひとつ前の古い思い込みに出来るか。非軍事の連帯を紛争解決のモデルとする道は、民主主義の優位性を固め直す道でもある。平均年齢約51歳の7人の外相はその闘いの最中にいる・・・

砂原庸介ほか著 『公共政策』

砂原庸介、 手塚洋輔著『公共政策』(2022年、放送大学教育振興会)を紹介します。これは、新年度から始まる放送大学大学院の教科書です。詳しい内容は、リンクを張った授業のページを見てください。
個別分野の行政を説明するのではなく、「公共政策が社会の中でどのように形成され、社会に対してどのような影響を与えているかを描き出す」(講義概要)もので、少し高度な内容になっています。
砂原教授の説明

これまでこの科目と教科書は、御厨貴先生が編者で、砂原教授たちが分担執筆していました、代替わりしということですね。
二人は、新進気鋭の行政学者です。もう、新進とは言えない年齢ですかね。

新年度(4月1日)から始まります。インターネット配信もあります。聞かなくても、本を読むだけでも勉強になります。
「行政や公共政策をもう一度勉強してみよう」と考えておられる方に、お勧めです。

道化師政治家

3月5日の朝日新聞オピニオン欄、フランスの作家クリスチャン・サルモンさんへのインタビュー「幅利かす道化師政治家」から。
・・・トランプ前米大統領やジョンソン英首相ら、政策を語るよりも騒ぎを繰り返す政治指導者が、なぜか人気を集める。沈滞した既存の政治を転覆させる道化師のような政治家を人々が求めているからだと、フランスの作家クリスチャン・サルモンさんはみる。その道化師を、情報技術を駆使するエンジニアが操る時代なのだという・・・

――扇動や挑発を繰り返す政治家が、今の世にはばかります。なぜこうなったのでしょうか。
「多くの政治家が新型コロナ対策で右往左往しているだけに、トランプ氏やジョンソン氏、ブラジルのボルソナーロ大統領といった傍若無人な首脳の言動は、確かに目立ちます。トランプ氏はツイートをばらまき、ジョンソン氏はジョークを連発し、ボルソナーロ氏は勝手な予言を繰り返す。大げさで、人々をからかい、ののしる姿は、まるで道化師(ピエロ)が政権を握ったかのようです」
「ナチス・ドイツはイデオロギーで人々を扇動しましたが、トランプ氏らの扇動には理念の一貫性などありません。流動的な世界を巧みに渡り歩き、デジタル空間に散らばって浮遊する人々の意識を、自ら騒ぐことによって結集する。『偉大な米国』『英国の主権』といった幻想を利用して、集団をまとめようと狙うのです」
「世の中のインテリやリベラルは、あんな道化師のどこがいいのかと批判しますが、全然わかっていない。道化師であることこそが、今や政治家の成功の秘訣となったのですから」

――まじめに政策を議論する政治は、お呼びでないと。
「例えば、フランスのマクロン大統領のような政治家は、将来に希望を持てる肯定的な世界観を築こうとしていますが、あまりうまくいってません。これに対し、道化師政治家はこれまでの政治を徹底的に否定して、政治不信を高めることに成功しました。左右両派の政治に失望し、既存の政治を否定する極端な主張や陰謀論に流れた一部の有権者の意識を引きつけたのです。現代の政治運動は、民主的な議論からではなく、このような不信感から生まれます」
「支持者らは、道化師政治家を『真実を語る』などと礼賛します。でも『政治家は信頼できない』という政治家が信頼を得るのは、大いなる逆説ですね」

「ただ、道化師政治家だけだと注目を集めることはできても、大衆を動員することはできません。道化師の背後には必ず、アルゴリズムを駆使して戦略を立てるエンジニアが控え、デジタル空間での支持拡大をもくろんでいます。大量のデータを分析し、例えば政策をテーマにしたオンラインゲームを開催して若者の関心を引きつけるなどします」

――2008年にあなたにインタビューをした際、戦後の政治指導者を3段階に分類されたのが印象に残っています。国家の枠組みをつくったチャーチル英首相やドゴール仏大統領ら「国父の時代」が第1世代、石油危機以降の経済を支えたシュミット西独首相ら第2世代の「専門家の時代」、自らの軽薄な成功物語を語ることで人気を集めるサルコジ仏大統領やブレア英首相ら第3世代の「ストーリーテラーの時代」です。今は第4世代ですか。
「むしろ第5世代でしょう。ストーリーテラーの時代は、2008年から本格化した金融危機とともに去り、その被害を査定するオランド仏大統領ら『会計士の時代』に移りました。その後に到来したのが『道化師の時代』です」
「そこにはもう、民主的な手法で政策論争をしたり、首尾一貫した統治を政府が進めたりする姿はありません。かつて政治を語り合ったアゴラ(広場)はアルゴリズムに、政党はポピュリズム運動に、取って代わられました。理念が入り乱れ、イタリアでは右翼と左翼が政権をつくった例もある。もはや『政治』とは呼べない『ポスト政治』の時代。政治家は有権者に選ばれたはずなのに、全く正統性を持ち得なくなりました」
「私たちは、あらゆる政治の指標をブラックホールに投げ込んだあげく、自らもそこに吸い込まれてしまったのです。政治不信の渦は、渦自体ものみ込みました」