「政治の役割」カテゴリーアーカイブ

行政-政治の役割

大島理森先生の回顧談

読売新聞連載「時代の証言者」、10月14日から、大島理森・前衆議院議長の「政の舞台回し」が始まりました。
・・・衆院議長を歴代最長の6年半務め、上皇陛下の退位を実現した特例法成立などを手がけた大島理森さん。国会で合意を形成するため、「 政まつりごと の舞台回し」で名脇役となった議会人の生き方を語る・・・

私は麻生総理大臣秘書官の時に、自民党国会対策委員長の先生にお世話になりました。総理の国際会議出席などと国会出席とを、どのように調整するかです。しょっちゅう、先生と二人で、日程調整をしたのです。
東日本大震災では、自民党復興加速化本部長として、ご指導をいただきました。官僚では解決できない課題を、自民党と公明党が主導する形、それを官邸に提言する形で実現してもらったのです。
それぞれに困難な仕事であり、大島先生でなくては乗り切れないことがたくさんありました。見ていて、「なるほど、このように解決するのか」と、とても勉強になりました。
天下国家のことを考える政治家です。原発事故対応についても、「原発を推進した自民党と、私としても責任がある」と、正面から取り組んでくださいました。原発被災地の町村長の多くも、大島先生を頼りにして、尊敬しています。

若輩の私を、やさしく(人前では厳しく)指導してくださいました。しばしば、「それは何だ」と、厳しい声で机を叩かれるのです。
はじめは怖かったですが、懐の中に飛び込むと、解決策を考えてくださいます。だんだんと、私の持ち前の厚かましさと、先生の包容力に甘えて、いくつも難題を解決してもらいました。

ポピュリズムは進化する

9月24日の日経新聞、小竹洋之コメンテーターの「ポピュリズムは進化する 政権奪取へ異端の印象薄めに」から。

米ギャラップによると、世界の人々が訴える怒りや悲しみなどの強さを示す指数(0~100)は、2021年に過去最高の33を記録した。グローバル化やデジタル化の痛みを感じる庶民が、新型コロナウイルス禍やインフレにも苦しみ、扇動的な政党になびきやすくなっているのは事実だ。
ならば左派ではなく右派のポピュリズムが、欧米で目立つのはなぜか。水島氏は「コロナ禍とウクライナ戦争は、人々の命や安全、暮らしを守る国民国家の重要性を再認識させた。その流れにのった現象だろう」と話す。
同志社大の吉田徹教授にも尋ねた。「右派は現状の維持、左派は未来に向けた変革に軸足を置く。将来不安がはびこる先進国では『何かを得る』という左派の主張より『何も失わない。喪失したものを取り戻す』という右派の主張が訴求力を持つのかもしれない」

見逃せないのはポピュリズムの進化だ。「スウェーデン第一」を標榜するオーケソン氏は、治安の強化や移民の制限を唱える一方で、ネオナチの流れをくむSDの主張やイメージを和らげる努力を重ねてきた。スウェーデンの欧州連合(EU)離脱をもはや求めず、北大西洋条約機構(NATO)への加盟にも理解を示す。
FDI(イタリアの同胞)のメローニ氏も戦略は同じである。移民制限の立場や伝統的な家族観を維持しつつ、ファシズムに近いという印象を薄めることに腐心し、EUとの協調やロシアへの厳しい制裁を貫いたドラギ首相の路線踏襲も掲げる。
EUの世論調査によると、EUを信頼する域内の人々は22年夏に49%を占め、リーマン・ショック前の08年春に次ぐ高水準にある。様々な危機を経て風向きを変えた世論に合わせ、ポピュリストも政権入りをにらんで現実的な対応を探り始めたのではないか。

原子力規制委員会の10年

9月20日の朝日新聞「信頼への道、原子力規制委10年」、田中俊一・初代規制委員長の発言から。

――規制委は当初の狙い通りの姿になりましたか。
「発足は原発事故の翌年で、当時は原子力に対する社会の信頼がゼロでした。どう安全規制の信頼を取り戻すか。そこで打ち出したのが透明性です。審査会合をオープンにして中身をさらけ出した。今では信頼はある程度、得られたんじゃないでしょうか。でも、推進側が全然ダメですね」

――どこがダメですか。
「原子力の利用について国民は納得していませんよね。日本でどうして原子力エネルギーが要るのか、国民に考えてもらう必要があるわけですよ。特に、温暖化とかロシアの(ウクライナ侵攻に伴うエネルギー危機の)問題がある今は、議論する絶好のチャンス。それなのに、政治家も行政も、きちんと議論をやろうという人がいません」
「電力不足だから審査を迅速化しろと言うけど、規制委が許可した原発17基のうち7基は再稼働していません。まず、それを動かせば間に合うはず。規制委が許可したって原発は動かないんです。社会が受け入れられるような議論を政治がやっていないからです」

――厳しい審査をしても、新規制基準で必要な安全対策がそろえば、最後は認めざるをえないようにも見えます。
「規制委は原子炉を止めるところじゃないんです。止めるなら規制なんか要らない。原発を利用する上で大きな事故を起こさないようにするのが規制委です」

国会の役割、審議

9月17日の朝日新聞オピニオン欄「形骸化する国会審議」、野中尚人・学習院大学教授の「多様な意見、討論してこそ」から。

いまの与党、具体的には自民党の事前審査制度は、日本政治の大きな問題です。
法案が国会提出される前に、細かく各省庁と自民党が調整し、細部まで法案を固めます。ほとんどの場合、審議スケジュールをめぐる野党による抵抗はあっても、その法案が最終的には修正されずに可決、成立します。それが、国会、特に与党による討論を不活発にしている要因だと指摘されてきました。
そもそも、国会、議会とは何でしょう。ほかの組織とは異なる議会の本質的な特徴とは何なのでしょうか。
例えば「話し合いをする」という機能を持つ場は他にもありますが、議論をした上で、社会の全構成員を拘束するルール、つまり法をつくるのが議会です。さらに、そのプロセスで、意見の異なる人が同じ場所で公開のディベート、討論をすることが決定的に重要だとされています。

1955年の保守合同で自民党が誕生し、55年体制が成立して以降の国会では、与野党によるこうした討論が実質的に行われていません。国会は与野党ではなく、政府と野党が対決する場になっています。政府を代表する閣僚は、関係部局と調整した答弁をしますが、与党は法案を固めた後は、中身について国会では消極的な役割しか果たしません。日本の国会は、与野党の討論や熟議ではなく、政府が悪いことをしないかと野党が監視する場になっています。

自民党の政治家から聞き取りをしたり、逆に声をかけられて事前審査の何が問題なのかを説明したりといった機会がありました。異口同音に言われたのは「事前審査なしでは、とても国会を運営できない」ということです。
決してそのようなことはないと思います。ヨーロッパでも議会内で、超党派で行う立法前審査の制度があります。しかし民主主義国では、政府が提出する前の段階で完全に結論を出すような形で与党が審議をすることは、日本以外では実例が見つかりません。
特定の政党が長く与党になっている国でも、議会制民主主義国では事前審査のような制度はありません。政権交代を経ても日本で残っているのはなぜでしょう。55年体制成立前、早くも明治時代末期から、議会といった公的な場ではなく、直接政権などに要望を伝えたり、影響力を行使したりするのが与党の役得だと考えられてきた歴史もその背景にありそうです。

厳しい課題に直面するであろうこれからの日本政治では、時には厳しい決定が求められるでしょう。試練を乗り切る合意を形成するためには、多様な意見を持つ国民の代表が討論と熟議を行う国会への転換が欠かせません。そのためには事前審査の見直しが避けて通れないでしょう。

安倍政権の評価、同一労働同一賃金

9月7日の朝日新聞「長期政権からの宿題」、濱口桂一郎さんの「同一労働同一賃金」から。

――パートや有期契約、派遣といった非正社員は雇われて働く人のうち約4割。安倍政権は「1億総活躍プラン」の一環として、非正社員の待遇改善をめざして「同一労働同一賃金」を打ち出しました。当時の政権の姿勢をどう見ましたか。
一般的に労働組合団体からの支持を受けない自民党政権にもかかわらず、正社員と非正社員の格差問題を解決するというメッセージを社会に出した。これは残業時間の規制や最低賃金の引き上げなどとも相まって、政治的にとても大きな意味がありました。しかし、その結果は、大山鳴動したものの、ネズミが2匹、3匹出てきたような印象です。

――どういうことですか。
欧米諸国で言われている同一労働同一賃金の考え方に照らすと、その実現には、長年続いてきた日本の賃金の決まり方を根本からひっくり返す必要がある。ただ、実際にはそうはなりませんでした。

――欧米諸国での賃金と何が違うのでしょう。
賃金を値札に例えてみます。ある仕事で求められる内容(職務)をイスと考えたとき、欧米の場合はイスの値札がベースです。イスに座る人の経験や能力は、あくまでも加味されるものにすぎません。
日本では、主に正社員の場合、値札は人に貼ってあります。年功制や、部署の配置転換による経験によって賃金が決まるためです。これが基本で、大変なイスに座ったときの職務手当は、加味されるものです。

――ベースが違うわけですね。では、日本の非正社員はどうでしょうか。
日本の非正社員は多くの場合、年功制や配転のない制度のもとで働くため、値札はイスについています。ただ、欧米のように様々な値札のイスが用意されているわけではなく、専門職以外の多くは「その他のイス」としてくくられてしまっていて、その水準は最低賃金+αにとどまります。

――その状況下では、欧米のような同一労働同一賃金の実現は難しいということでしょうか。
賃金がイスの値札なら、同一の労働で同一の賃金かどうかを比べやすい。しかし日本のように、正社員と非正社員で賃金の決まり方が異なり、さらに月給と時給という違いもあると、比較は難しい。
つまり同一労働同一賃金を実現するには、論理的には、正社員も含めて賃金の基本をイスの値札にするか、非正社員にも年功制や配置転換を適用するかという話になります。しかし現実には、マジョリティーである正社員や企業には受け入れられにくい話です。