オバマ大統領が、化学兵器を使ったシリアを武力攻撃すると表明しながら実行しなかったことについて、「欧米諸国による他国への軍事介入の時代が終わったのか」と指摘する声があります。
これに対して、鶴岡路人・東京財団研究員は、違った見方を紹介しておられます。「実は、イギリス議会で少人数が反対か棄権に回っただけで、結果大きく違っていたのではないか。与党保守党と野党労働党の党内事情が少し違っていたら、軍事介入は成されたのではないか」とです。
詳しくは、原文「米欧による介入主義は消滅したのか ―シリア危機と欧州」(10月29日配信)をお読みください。
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行政-政治の役割
アメリカのシリア攻撃断念。物事には裏がある。勝ったのはロシアかアメリカか
今年の8月、シリアで化学兵器の使用が確認され、オバマ政権が制裁のために武力行使を表明しました。しかし、議会の賛成を条件にしたことで、弱さを見せたと評価されました。さらに、議会の承認に手間取るうちに、ロシアの仲介で、シリアのアサド政権が化学兵器の放棄を表明し、武力衝突が回避されました。これで、ロシアの評価が上がり、アメリカの敗北とみる見方が多いようです。
ところが、実はアメリカが勝って、ロシアとシリアが負けたという見方もあるのだそうです。日経新聞、高坂哲朗編集委員の「敗れたのはロシア、シリア化学兵器問題の裏」(日経電子版10月24日配信、ニュースこう読む)。
それによると、「シリアは冷戦時代から自国軍人を旧ソ連に留学させて化学戦の技法を習得させ、冷戦後もロシアはシリアの化学兵器研究機関に物資や機材を提供していた。1997年の化学兵器禁止条約の発効後、ロシアは事実上シリアに化学兵器開発を代行させてきた。仮に攻撃があればシリアとの化学兵器協力が明らかになり、ロシアはメンツを失っていた。長年続いてきたロシアとシリアの化学兵器共同体を、一発のミサイルも撃たずに解体に追い込んだオバマ氏の手法は、なかなかにしたたかだ」なのだそうです。
では、なぜ、オバマ氏がロシアとシリアの化学兵器協力の詳細を暴露せず、あえてロシアに花を持たせたのか。それは原文をお読みください。
改革を望まないドイツ国民。良いときには改革はできない
10月20日の日経新聞「日曜に考える。メルケル首相3選、欧州の安定は」、ドイツの新聞ツァイト紙の共同発行人、ヨーゼフ・ヨッフェさんの発言から。
「選挙結果の評価について」
・・現職首相の陣営の得票率が前回より8ポイントも伸びたのは歴史的だ・・議会はかつてなく同質になる。首相会派から左派党まで4政党が左寄りの社会民主主義だ。
強く面倒見のいい国を求める合意が社会に芽ばえ、競争重視で小さな政府や低税率を追うリベラル主義の理念の選択肢が大きく埋没した。現状維持を求め、急激な変化や10年前のような構造改革を望まない国民感情がある・・
「メルケル首相の人気について」
・・まさに有権者が望む存在だからだ。冷静と安定を絵に描いたような女性で冒険も方向転換もしない。ムティー(お母ちゃん)と呼ばれるような人柄だ・・
「ドイツに改革は不要なのか」
・・2020年代を見据えた改革は当然必要だ。生産性上昇が停滞し、輸出に頼る中国のようにいびつな経済構造で、補助金頼みの雇用も多すぎるからだ。債務水準も高すぎる。いまやドイツの大学は世界50位が最高。イノベーションの能力も高くない・・
・・だが次の政権が行動を起こすのは疑わしい。現状維持こそ素晴らしいのだ。ドイツは幸運児。失業率は低く、太平でよく運営されている。良いときに変えようとは思わないのが問題だ。危機意識からしか変化は生まれない・・
日本とドイツ、戦後の近隣諸国との付き合いの違い
10月3日(すみません古くて)の朝日新聞オピニオン欄、駐日ドイツ大使のフォルカー・シュタンツェルさんの「これからのドイツは」から、日本に関する部分を引用します。聞き手は、有田哲文・編集委員です。
「戦後史を振り返ると、ドイツはずっと『経済的には大国だが政治的には小国』と言われてきました」という問に対して。
・・それは、私たちの「自制」という考え方から来るものです。
私たちは侵略者でした。戦後になると、周りの国すべてが私たちの犠牲者でした。もし、もうドイツのことを恐れてほしくない、協力してほしいと思うならば、自分の考えを他国に押し付けるのを控える以外にありません。もちろん、私たちの要求を一切言わなかったわけではありません。しかし、その時には欧州の多国間の枠組みで進めました・・
「日本にも同じような自制の態度が見えますか」という問に対しては。
・・もちろんそうです。日本もひどい戦争を引きおこし、そしてその戦争に負けた後、ドイツと似たような結論を導き出したのだと私は考えています。経済発展に専念し、国家を再建するけれども、決して自分の意思や利益を他国に押し付けることはしない。自制とは、賢い政策です・・
「でも、日本はドイツと違い、いまだに中国や韓国との歴史問題をかかえています」
・・不幸にも日本とドイツでは環境に大きな違いがあります。欧州では私たちだけでなく、フランスなど私たちの犠牲者であった国々も和解を望んでくれました。そして彼らと一緒に、EUをつくるという事業を成し遂げることができたのです。しかし、日本の場合は、アジア連合のような事業はありませんでした。中国は共産主義国家だし、韓国はかつて軍事独裁でした。これらの国は民主的なパートナーにはなりえませんでした。同じ立場に立って多角的な協力を政策として進めることは、私たちよりもずっと難しかったと思います・・
俺たちのつくった首相
10月17日の日経新聞「ニュースな人ひと」は、野田毅・自民党税調会長でした。
・・忘れられない場面がある。1980年代、税調のドンといわれた山中貞則氏が鈴木善幸首相の意向に沿った発言を繰り返した。野田氏が「あなたは首相秘書官か」と反発すると、山中氏は目を見開いて答えた。「お前の言うことは正しい。だがな、これは俺たちのつくった首相の言うことなんだ」。場が静まりかえった。豪快な言動の裏で、山中氏も首相に気を配っていたのだ・・