カテゴリー別アーカイブ: 政と官

行政-政と官

政と官の関係の変化

朝日新聞10月1日の「安倍政治を問う5」は、官邸主導による行政を検証しています。この20年間の政治と行政において大きく変わった一つが、官と政との関係でしょう。詳しくは本文を読んでください。

まだ、政治学も行政学も、この変化の全体像を分析することも、記述することもできてていません。官僚も、積極的な発言をしていないようです。この記事のような、事実の記述と分析が積み重なって、評価の枠組みができるのでしょう。
その場合は、次のような論点が必要です。何が、どのように変わったか。その変化は、なぜ起きたか。制度改革によるのか、運用によるのか、社会条件の変化によるのか。当事者は、どのような行動をとったか。改革の意図と結果はどのように違うか。構造として変わったのか、時の内閣によって変化するものか。マスコミと国民はどのように評価したか・・。

私も、興味を持って勉強していました。というか、私のライフワークは、これなのです。このホームページでも「政と官」という分野を作り、「行政構造改革ー日本の行政と官僚の未来」という連載もやっていたのですが。その後、忙しさにかまけて、放置したままです。いつものように反省。

政治家の役割、官僚の仕事

9月15日の読売新聞解説欄、ニック・クレッグ(前イギリス副首相)の発言に、次のような表現がありました。イギリスの欧州連合(EU) 離脱に関して、現在のイギリスとEUとの交渉についてです。
・・・メイ政権はこの夏、7本の基本方針説明書を出した。だが、どれも官僚作成の資料集のような浅薄なもので、今後の英国について、政治指導者が戦略観を示したものはゼロ・・・
官僚の端くれとしては残念な表現ですが、政治家の役割を示していると考えましょう。

なお、発言はこのあと、次のように続きます。
・・・欧州は今、米国の孤立主義、ロシアの好戦的行動、難民問題、相次ぐテロ、気候変動対応など、難問山積だ。そんな中、英国が自己中心的で、だらだら長い交渉を持ち出したことに、多くの国は仰天している。英国は何を求め、どう決着させるのか具体的に説明する責任があるが、できていない。英EU関係は今、悪化する一方だ・・・

変化した政と官の関係

8月13日の日経新聞、大石格・編集委員のコラム「変わったのは政官関係か」から。
・・・政官関係に詳しい立命館大の真渕勝教授の『官僚制の変容――萎縮する官僚』などの論考によれば、官僚の思考・行動様式は図に示した流れで変化してきた。
政治主導か官僚主導かだけが注目されがちだが、官僚が社会との距離をどう捉えているのか、すなわち政策判断を役所だけでするのか、利益団体などの意向をくみ上げようとするのかも変化してきたそうだ。
戦後しばらくの国士型官僚の代表例は、農林省の小倉武一、通産省の佐橋滋らである。佐橋に想を得た城山三郎著『官僚たちの夏』を読んだ方もおられよう。
自民党政権が長期化すると、役所と族議員が一体となって利益の配分を差配する調整型が登場する。さらに政治主導が強まると、調整は議員に委ね、言われたことしかしない吏員型に変化したという分析だ・・・
・・・政と官の綱引きは決着済みだったとすると、ヒラメ官僚が近年、急増したようにみえるのはなぜか。仮説を提示したい。それは「変わったのは官僚ではなく、政治だ」というものだ・・・

加藤創太・東京財団上席研究員の「権力の集中が「忖度」を呼ぶ〜官邸主導時代の政治ガバナンスのあり方」(8月9日)から。
・・・行政機関については、一連の「政治主導」のスローガンの下、官邸は内閣人事局を通じて幹部人事権を握った。報酬などで差異を設けづらい行政機関において、公務員の最大のインセンティブ(誘因)となるのは人事である。上司の心の内を「忖度」して動ける人間が「できる」と評価されるのは、官僚組織も企業も同じである。かつて各省庁の幹部への「忖度」を競い合っていた官僚たちが、今は官邸への「忖度」を競い合うようになったのは当然の帰結だ・・・
・・・権力集中の弊害を防ぐには、権力へのガバナンス体制の構築が何より重要となる。数年に一度の選挙による政権交代に政治行政のガバナンス(統治)のすべてを託すのではなく、各種の政治行政制度を総合的に見た上で、あるべき日常的なガバナンス体制を判断していかなければならない・・・

それぞれごく一部を引用したので、原文をお読みください。

政党政治と官僚政治

今月の日経新聞、私の履歴書は、高村正彦・自民党副総裁です。8月10日の記事から。
・・・90年代前半の政界では、政治改革の是非が最大の争点になった。中選挙区制から小選挙区制に移行すれば全てがよくなる。無責任な議論が横行した。
同じ党の中で切磋琢磨し、世代交代を図る。私は中選挙区制が大好きだった。派閥が衰退し、若手を育てる場がなくなった。最近、よくいわれる小選挙区制の弊害を私は当時から指摘していた。
ただ、柳沢伯夫さんの「政党政治を確立しないと、ばらばらの政治家は一枚岩の官僚組織に分断される。官僚政治を打破するにはこれしかないんだ」との言葉を聞いて、一理あると思った・・・

官邸と官僚の関係

7月31日の朝日新聞、松下秀雄・編集委員の「Monday解説」「「記憶ない」「記録ない」政権に寄り添いすぎ? 官僚はだれの奉仕者なのか」から。
・・・93年の非自民の細川政権誕生まで38年間続いた自民党政権下の省庁人事は、官僚自身が決めていた。
当時も人事権は閣僚にあったが、短期で代わる「お客さん」。省庁は割拠し、官邸の力は弱かった。官僚は法案を通すため、自民党の族議員やそれを束ねる派閥実力者に気を配り、議員たちは影響力をふるったが、そこに人事権はない。分散する権力のはざまで、官僚は自律を保った。
その中で育ったのが、族議員や業界とのもたれあいや癒着。90年代によくいわれた「政官業の鉄のトライアングル」だ。それは官僚の威勢の源泉でもあった。
細川政権が生まれ、政権交代の時代に入ると、三角形は崩れだす。94年の政治改革をきっかけに、官僚の後ろ盾だった派閥や族議員は次第に力を失い、官邸に権力が集中。官僚の視線も官邸に向かう。だがかつての派閥や族議員とは違い、政権は頻繁に代わる。政権に近いとみなされた官僚が次の政権で代えられる例を含め、政治主導の人事が目立つようになる。
そして首相や官房長官が部長級以上の官僚人事を差配しやすくする内閣人事局が発足。強い力をもち、長期化する安倍政権に寄り添いすぎる官僚が問題化し、同時に官邸の手法への反発も生まれている・・・

・・・牧原出・東京大教授(行政学・政治学)は「90年代は朝日新聞も含め、『横暴な官僚』をたたいたが、これからは官僚を『全体の奉仕者』に育てる方法を考えなければならない」と唱える。官僚の力を生かす道を考え、政治主導をバージョンアップする提案である・・・