「政と官」カテゴリーアーカイブ

行政-政と官

かつての政と官

日経新聞「私の履歴書」1月は、元財務次官の武藤敏郎さんでした。

15日の「政官関係」に、次のような話が載っています。
・・・細川護熙非自民連立政権の1994年度予算編成の話を続ける。社会保障担当の主計局次長として、野党自民党きっての厚生族議員である橋本龍太郎政調会長に状況を報告しなくてはと考えた。自民党本部を訪ねると、閑散として人の出入りがほとんどない。
橋本さんは「我々は野党だから、次長さんのような偉い人がわざわざ来なくていいよ」と皮肉交じりの口調で話された。真顔に戻ると「僕は自民党と大蔵省は夫婦みたいな関係だと思っていたよ。だけど、いざ下野すると、役人どもは冷たいね」とつぶやかれた。
私は「官僚は時の政権に仕える立場なので・・・」と口ごもった。橋本さんは「それはきれい事だな」と納得されなかった。自民党が大蔵省に向ける視線は厳しかった・・・

20日の「主計局長」には、次のような話が載っています。
・・・私は2001年に情報公開法の施行を控え、予算編成の透明性の向上が重要な課題になると考えた。族議員や各省と密室で調整を重ねるばかりでは、財政再建にも限界がある。国民の理解を深めるオープンな情報発信の努力も必要だと思った・・・

「官僚は政治家の道具ではない」

12月24日の読売新聞、千正康裕氏の「官僚 政治家の道具ではない」から。

・・・官僚が外に出向く時間が取れない最大の要因は、国会対応です。「質問通告」では、国会の各委員会で質問に立つ議員から事前に内容を聞き取り、閣僚らの答弁を準備します。議員の質問通告が前日に届き、深夜残業することも日常茶飯事です。直前にならないと、実際に質問があるかどうかも分からないため、夜に予定を入れることはできません。現場に行きたくても、「行けるかどうか分からない」という前提では面会のアポイントをお願いできないのです。その結果、官僚の情報収集ルートは狭くなります。

国会では、これまでも質問通告の早期化を幾度となく申し合わせてきました。しかし、依然として改善は進んでいません。かけ声倒れに終わらないように、国会の委員会の開催が決定された日時と、各議員の質問通告時刻の公表をセットで行い、可視化する必要があります。官僚は、政治家が目的を達するための道具ではなく、公共財だと考えます。与野党が利害対立を乗り越えて協力し、国会改革を進めるべきです・・・

・・・官僚の業務は、国会対応以外にも増えています。その分、増員されるわけではないので、官僚の「労働密度」はおのずと高まります。こうした環境では、勉強時間が取れません。様々な現場を自分の目で見て、自分の足で歩き、自分の頭で政策を考えることがだんだんと難しくなる。政策立案能力を高めるために、もっと官僚に時間の余裕と裁量を与えるべきです。

そもそも深夜残業が前提の働き方では、自分自身の家族と過ごす時間も満足につくることができません。官僚も今の若手の多くは共働きです。昔の霞が関のように、家事や育児は家族に任せ、夜中までずっと職場にいても大丈夫だという人は少なくなりました。
理想は、ムダな仕事を排し、国会対応も効率化し、政策立案能力に優れた官僚と政治のリーダーシップが融合することです。僕の本意は「官僚に楽をさせてあげたい」のではなく、官僚が担っている政策立案機能は社会的に大切で、その機能が「壊れる」と国民が最終的に困るから止めたいのです・・・

政治主導と官僚制のあり方

10月2日と3日の日経新聞経済教室が「政治主導と官僚制の行方」を2回にわたって取り上げていました。

2日は嶋田博子・京都大学教授の「「誠実型」実現に国民関与を」です。政治家と官僚の関わり方を、「指示からの自律性」と「政策形成への関与度」の2軸で考察しています。
1960年代までの日本の官僚を高い自律と政策形成への高い関与であるとし、「国士型」と位置づけます。70年代からは、族議員の支援の下で活発な政策形成を行う、自律性はやや下がる「調整型」です。
2014年の幹部一元管理によって、政策関与度は高いままに自律性をなくす「家臣型」を目指したと評価します。一方で90年代以降、与えられた課業だけを行おうとする「吏員型」が出現しました。指示待ち官僚です。

3日は内山融・東京大学教授と藤田由紀子・学習院大学教授による「英、官僚の中立性を守る工夫」でした。
政治家が個別官僚の人事異動に関与すると、官僚の中立性が損なわれるとともに、官僚たちが萎縮する、あるいはごますりになる恐れがあります。それを防ぐために、イギリスがたどり着いた仕組みを紹介しています。

現在の官僚たちの不安と不満を踏まえると、この論点は重要なものです。詳しくは原文をお読みください。

政治主導の実相

10月12日の朝日新聞に「基金乱立、だぶつく16兆円 5千億円計上→支出は5.6億円」が載っていました。
・・・国が根拠の乏しいなかで積み立てた基金がだぶつき、使い残しが16兆円にまで膨らんだ。年4兆円のペースで増え続けている。背景には、コロナ対応などを理由に、時の政権が、毎年「規模ありき」の経済対策を打ち、使い切れないほど規模が大きくなったことがある。似たような事業にあてる基金も乱立している・・・

これも困ったことですが、今回取り上げるのは、記事で紹介されている政治主導の実相です。
まずは、経済安全保障重要技術育成基金。
・・・この基金は2021年度と22年度の補正予算で計5千億円が計上された。ところが、22年度までに支出されたのはわずか5億6600万円・・・
・・・複数の関係者によると、21年度補正の協議では当初、基金は1千億円とする方向で調整が進んでいた。自民党の重鎮・甘利明前幹事長の右腕として経済安保を推進していた小林鷹之氏が初代の経済安保担当相に就くと状況は一変する。甘利氏らの意向を受けてまとまった党の提言通りの5千億円に、一気に跳ね上がったのだ。
21年度補正には、まず半分の2500億円が盛り込まれた。

補正予算は、想定外の緊急的な経費に限って認められているものだが、21年度どころか22年度になっても、研究の契約を1件も結べなかった。
それにもかかわらず、内閣府は22年度補正で2500億円の追加を求めた。「『総額を5千億円にする約束を早く果たせ』と、自民党から圧力があったため」(幹部)という。
予算を取り仕切る財務省が難色を示すなか、この時は、自民党政務調査会の幹部の一声で満額回答が固まった。「何を勝手に財務省が査定しているんだ。各省庁が要求した予算を全部元通りに戻せ」・・・

もう一つは、グリーンイノベーション基金。
・・・政府関係者によると、水面下の財務省と経産省の協議では、まずは1兆円を計上する。実績を踏まえてその後毎年予算を追加していき、最終的に総額2兆円に広げることで大筋合意していたという。
最初から「2兆円」を主張する菅氏の翻意を促そうと、財務省の矢野康治主計局長(当時)は1枚の説明資料を渡した。
趣旨はこうだった。要求している経産省ですら、2兆円はすぐに執行できないと言っている。そのまま補正計上すれば、無駄に基金をため込むことになる。
菅氏は手元の資料を放り投げ、声を荒らげてこう言ったという。「そんな話は聞かないぞ」・・・

財務省の陰謀?

7月28日の日経新聞経済コラム「大機小機」、「何でも財務省の陰謀なのか」から。

・・・防衛力強化、異次元の少子化対策。さまざまな施策の財源で増税や国民負担増が取り沙汰されるたび、永田町では「財務省の陰謀」論が飛び交う。いわく財務省は増税のことしか考えていない、岸田文雄首相は財務省の言いなりになっている……。はたして本当にそうなのだろうか。
こうした見方は、いわゆる積極財政派に多い。安倍晋三元首相が回顧録で「彼らは省益のためなら政権を倒すことも辞さない」と記したこともあり、ほんの少しでも増税論を支持する議員がいれば「財務省のお先棒を担いでいる」などの言辞を積極財政派から浴びせられる。

財務省陰謀論は、かつての旧大蔵省が「最強官庁」と呼ばれた名残でもある。その最強官庁は省庁再編と政治主導への統治システム改革によって、とても首相官邸に伍するだけの存在ではなくなってしまっている。
直近の事例でいえば、少子化対策の規模は最後の最後になって3兆円から3兆5千億円へと、いきなり5千億円も官邸の主導で積み増しされた。この時、呆然とした財務官僚は多い。岸田首相が財務省の言いなりならばこんな事態は現出しない。防衛力強化の財源としての増税も、自民党税制調査会があっさりと時期を先送りした。
消費税にしても、3%の税率で導入されたのは1989年。5%になったのが97年で、8%が2014年、10%が19年。7%引き上げるのに30年を要した。本当に財務省の「陰謀」が奏功していたなら、今ごろ消費税率は20%になっていても不思議ではない・・・

・・・岸田首相も財務省の言いなりどころか、その逆を行っている。政治家が財政の健全化を考え、発言するだけで「財務省の陰謀」とされる風潮は、何かがおかしい・・・