カテゴリー別アーカイブ: 政と官

行政-政と官

政治主導と官僚制のあり方

10月2日と3日の日経新聞経済教室が「政治主導と官僚制の行方」を2回にわたって取り上げていました。

2日は嶋田博子・京都大学教授の「「誠実型」実現に国民関与を」です。政治家と官僚の関わり方を、「指示からの自律性」と「政策形成への関与度」の2軸で考察しています。
1960年代までの日本の官僚を高い自律と政策形成への高い関与であるとし、「国士型」と位置づけます。70年代からは、族議員の支援の下で活発な政策形成を行う、自律性はやや下がる「調整型」です。
2014年の幹部一元管理によって、政策関与度は高いままに自律性をなくす「家臣型」を目指したと評価します。一方で90年代以降、与えられた課業だけを行おうとする「吏員型」が出現しました。指示待ち官僚です。

3日は内山融・東京大学教授と藤田由紀子・学習院大学教授による「英、官僚の中立性を守る工夫」でした。
政治家が個別官僚の人事異動に関与すると、官僚の中立性が損なわれるとともに、官僚たちが萎縮する、あるいはごますりになる恐れがあります。それを防ぐために、イギリスがたどり着いた仕組みを紹介しています。

現在の官僚たちの不安と不満を踏まえると、この論点は重要なものです。詳しくは原文をお読みください。

政治主導の実相

10月12日の朝日新聞に「基金乱立、だぶつく16兆円 5千億円計上→支出は5.6億円」が載っていました。
・・・国が根拠の乏しいなかで積み立てた基金がだぶつき、使い残しが16兆円にまで膨らんだ。年4兆円のペースで増え続けている。背景には、コロナ対応などを理由に、時の政権が、毎年「規模ありき」の経済対策を打ち、使い切れないほど規模が大きくなったことがある。似たような事業にあてる基金も乱立している・・・

これも困ったことですが、今回取り上げるのは、記事で紹介されている政治主導の実相です。
まずは、経済安全保障重要技術育成基金。
・・・この基金は2021年度と22年度の補正予算で計5千億円が計上された。ところが、22年度までに支出されたのはわずか5億6600万円・・・
・・・複数の関係者によると、21年度補正の協議では当初、基金は1千億円とする方向で調整が進んでいた。自民党の重鎮・甘利明前幹事長の右腕として経済安保を推進していた小林鷹之氏が初代の経済安保担当相に就くと状況は一変する。甘利氏らの意向を受けてまとまった党の提言通りの5千億円に、一気に跳ね上がったのだ。
21年度補正には、まず半分の2500億円が盛り込まれた。

補正予算は、想定外の緊急的な経費に限って認められているものだが、21年度どころか22年度になっても、研究の契約を1件も結べなかった。
それにもかかわらず、内閣府は22年度補正で2500億円の追加を求めた。「『総額を5千億円にする約束を早く果たせ』と、自民党から圧力があったため」(幹部)という。
予算を取り仕切る財務省が難色を示すなか、この時は、自民党政務調査会の幹部の一声で満額回答が固まった。「何を勝手に財務省が査定しているんだ。各省庁が要求した予算を全部元通りに戻せ」・・・

もう一つは、グリーンイノベーション基金。
・・・政府関係者によると、水面下の財務省と経産省の協議では、まずは1兆円を計上する。実績を踏まえてその後毎年予算を追加していき、最終的に総額2兆円に広げることで大筋合意していたという。
最初から「2兆円」を主張する菅氏の翻意を促そうと、財務省の矢野康治主計局長(当時)は1枚の説明資料を渡した。
趣旨はこうだった。要求している経産省ですら、2兆円はすぐに執行できないと言っている。そのまま補正計上すれば、無駄に基金をため込むことになる。
菅氏は手元の資料を放り投げ、声を荒らげてこう言ったという。「そんな話は聞かないぞ」・・・

財務省の陰謀?

7月28日の日経新聞経済コラム「大機小機」、「何でも財務省の陰謀なのか」から。

・・・防衛力強化、異次元の少子化対策。さまざまな施策の財源で増税や国民負担増が取り沙汰されるたび、永田町では「財務省の陰謀」論が飛び交う。いわく財務省は増税のことしか考えていない、岸田文雄首相は財務省の言いなりになっている……。はたして本当にそうなのだろうか。
こうした見方は、いわゆる積極財政派に多い。安倍晋三元首相が回顧録で「彼らは省益のためなら政権を倒すことも辞さない」と記したこともあり、ほんの少しでも増税論を支持する議員がいれば「財務省のお先棒を担いでいる」などの言辞を積極財政派から浴びせられる。

財務省陰謀論は、かつての旧大蔵省が「最強官庁」と呼ばれた名残でもある。その最強官庁は省庁再編と政治主導への統治システム改革によって、とても首相官邸に伍するだけの存在ではなくなってしまっている。
直近の事例でいえば、少子化対策の規模は最後の最後になって3兆円から3兆5千億円へと、いきなり5千億円も官邸の主導で積み増しされた。この時、呆然とした財務官僚は多い。岸田首相が財務省の言いなりならばこんな事態は現出しない。防衛力強化の財源としての増税も、自民党税制調査会があっさりと時期を先送りした。
消費税にしても、3%の税率で導入されたのは1989年。5%になったのが97年で、8%が2014年、10%が19年。7%引き上げるのに30年を要した。本当に財務省の「陰謀」が奏功していたなら、今ごろ消費税率は20%になっていても不思議ではない・・・

・・・岸田首相も財務省の言いなりどころか、その逆を行っている。政治家が財政の健全化を考え、発言するだけで「財務省の陰謀」とされる風潮は、何かがおかしい・・・

岸田政権、政と官の関係

5月11日の朝日新聞「岸田官邸の実像」牧原出・東大教授の発言から。

――安倍政権では側近の「官邸官僚」が政策を強力に推し進めてきました。岸田政権の官邸と官僚の関係はどう変わりましたか。
安倍政権や菅政権と比べると、官邸主導で省庁にあれこれ指示して進める政策は少ないと思う。かといって、官僚が政策をどんどん打ち出していくかというと、そうはなっていない。

――なぜでしょうか。
旧民主党政権から安倍政権、菅政権に至るまで、官邸主導で官僚の頭を押さえつけるような時代が続いたことで、官僚側が自ら考え、政策の弾を込めていくというやり方を忘れてしまっているように思える。
また、官邸が省庁幹部の人事権を掌握しているから、官僚が官邸を飛び越えた政策を打ち出して、にらまれるのは怖い。なので、様子見をしているのかもしれない。

――政治主導の政策決定がうまく機能していないのは、どこに問題があるのでしょうか。
各省庁の閣僚が創意工夫して政策を打ち出す中で、内閣としての方向性を示すのが本来の政治主導だが、官僚をしっかりと引っ張って議論を主導できる閣僚は多くない。官僚が書いたペーパーをそのまま読み上げるような閣僚が多いのが問題だ。

官邸主導の欠点

4月27日の朝日新聞オピニオン欄、宇野重規・東大教授の「論壇時評」から。

・・・最後に問題になるのは、そのような日本の外交・安全保障戦略を日本国内でいかに構想するかである。日本にとって死活的な判断が、十分な国民的議論を欠いたまま決定されることはあってはならない。多様な選択肢を前提に、政治的に分厚い議論が不可欠である。はたしてそのような仕組みが日本に存在するのか。

不安にさせるのは、行政学者の牧原出が指摘する、官邸官僚が生み出す「無責任体制」である。本来の官邸主導とは、あくまで首相や大臣が能動的に政策革新を図るものである。ところが第2次安倍政権において現実に進んだのは、大臣不在のまま、「首相の意向」を盾とする官邸官僚が主導的役割をはたす事態であった。結局は誰も責任を取らないまま、各省庁の間に無気力が蔓延したという。日本外交の構想力が問われる現在、責任ある政治的決定のメカニズムの再建が不可欠であろう・・・