カテゴリー別アーカイブ: 官僚論

行政-官僚論

国会対応残業調査

1月20日に、内閣人事局が「国会対応業務に関する実態調査結果」を公表したことが、報道されていました。

資料の表は読みにくいので、朝日新聞の報道(1月21日)を紹介します。
「官僚が、答弁作成に着手可能となった平均時刻は、質疑がある委員会前日の午後7時54分で、答弁を作り終えた平均時刻は、委員会当日の午前2時56分。答弁作成にかかった平均時間は7時間2分だった。
国会議員からの質問通告は、与野党間で「(委員会)2日前の正午まで」と申し合わせているが、調査では、通告の約37%は前日の正午から午後6時に集中し、それ以降にずれ込むケースも約6%あった。申し合わせ通り通告されたケースは、全体の約19%にとどまった」

別の取り方では、答弁を作り終えた平均時刻は朝の4時です。これは平均ですから、もっと遅いのもあるということです。作り始めるのが、平均で前日夜の8時からですから。答弁案を作るだけでは終わらず、これを国会の会議が始まる前に、大臣や副大臣に説明しなければなりません。

これが、働き方改革を掲げている日本政府の働き方の実態です。質問通告は国会議員がするので、官僚たちは自分たちでは働き方を改善することができません。官僚たちが空しくなるのは、わかります。
緊急を要する質疑なら仕方ありませんが、1日早く質問内容がわかれば、残業をする必要はありません。あるいは官僚を巻き込まずに、政治家同士で議論をすれば、こんなことは起きません。

執筆者たちが語る『現代官僚制の解剖』

先に紹介した『現代官僚制の解剖』について、執筆者が座談会で語っておられます。
鹿毛利枝子・北村亘・青木栄一・砂原庸介「『現代官僚制の解剖』刊行に寄せて――官僚について何がわかり何がわからなかったのか」(有斐閣「書斎の窓」9月号、4ページから28ページ)。

執筆者たちが何を意図したか、何に苦労したか、何ができなかったか、今後の課題は何かを語っておられます。また、鹿毛利枝子・東大教授が執筆者でない立場で、意見を述べておられます。
調査に協力した立場として、不十分だった点については忸怩たる思いがあります。今後、内閣人事局が参画するなりして、改善して欲しいです。

25ページにわたる長文です。ご関心ある方は、お読みください。インターネットで読むことができるのは、便利です。

官僚捜査案件の見送り

6月25日の朝日新聞夕刊「惜別」、元編集委員・村山治さんによる、熊崎勝彦・元東京地検特捜部長の追悼記事から。

・・・ 1980年代から90年代にかけて東京地検特捜部に通算11年余り在籍した。副部長として金丸信・元自民党副総裁の脱税事件やゼネコン汚職事件を手がけ、特捜部長として旧大蔵省(現・財務省)の接待汚職事件を摘発した。事件の根っこには戦後日本を支えた護送船団システムの劣化があった。そこに切り込んだ特捜検察は、国民の支持を受け、輝いていた・・・

・・・「許せないことがある。10年たったら明らかにする」。熊さんが一度だけ、ぶぜんとした表情で私に語ったことがある。
大物大蔵キャリア官僚が捜査対象に上ったとき、法務・検察の幹部は「官僚システムが壊れる。立件すべきでない」と、現場に圧力をかけた。摘発は見送られ、熊さんはまもなく富山地検検事正に「栄転」した。
不祥事情報をちらつかせて捜査をつぶしたのか、と見当をつけたが、熊さんは何も語らず世を去った。「まあ、いいじゃないか」。梅雨空から熊さんの明るい声が聞こえた気がした・・・

二種類の「詰める」

新しい政策や事業を考える場合や新しい事態が起きたときに対応を考える場合、公務員はその問題点を詰めます。それは、民間企業も同じでしょう。ええ加減な詰めで、後々問題を起こしてはいけません。きっちりと問題点を指摘し、その解決方法を考えなければなりません。

その際に、二種類の公務員、特に二種類の上司がいます。新しい企画を潰す職員と、作る職員です。
潰す職員にとって、新しい企画の問題点はすぐに2つや3つは思いつきます。「前例がない」という決めぜりふも用意されています。潰すことで、彼は安心します。あるいは決定を先送りすることで、当面安心します。「新しいことをしないことで、責任を負わなくてすむ」とです。
他方、作る職員は問題点を見つけつつ、その解決方法を考えます。あるいは解決の方向を考え、関係者に指示を出します。

企業の場合は、新しい企画を潰したり、検討に時間をかけていると、競合企業に先を越され、競争に負けてしまいます。よって、どこかの時点で見切り発車することもあります。大きな企画で失敗すると傷が大きい場合は別ですが、小さな傷だと「そういうこともあるよ」と方向転換します。
ところが、行政の場合は競合がないので、先送りができるのです。新しい何かをした失敗は目につくのですが、しなかった場合の失敗は当座は見えないのです。参考「制度を所管するのか、問題を所管するのか

すると、有能な公務員や上司に求められることは、次のようなことでしょう。
・部下が新しい企画を考えてきたら、潰すことを考えるのではなく、一緒にどうしたら成功するかを詰めること。
・失敗してもよい程度の企画なのか、失敗してはいけない企画なのかを判断すること。

私は、「必要な場合に新しいことに挑戦しない官僚は存在理由がない」と考えていました。従来通りなら上級職は不要で、中級職や初級職の職員に任せておけば良いのです。で、しばしば職場内で「前例通りの壁」にぶつかりました。それを頭とからだを使って突破するのも、官僚の「技」です。
東日本大震災の際は、これまでにない大災害で、これまでにない政策を次々と打ち出しました。それらは私が考えたことより、部下や関係者が考えて持ち込んできたものです。それを実現するのが、私の役割でした。大震災という非常時だからできたのでしょう。政治家から「霞が関の治外法権」と呼ばれたときは、「ああ、そのような見方もあるのだ」と感心し、うれしかったです。

政策失敗の検証

5月10日の日経新聞に「デジタル「230万人」の虚実 田園都市構想で「大胆な仮説」いつか来た道か」が載っていました。詳しくは本文を読んでいただくとして。

・・・経済協力開発機構(OECD)の教育統計で、加盟38カ国のうち日本とコスタリカだけデータが空欄になっている項目がある。大学でICT(情報通信技術)を学んで卒業した人材の人数だ。2019年のデータをみると、米国は前の年に比べて10%増の9万3810人、英国は同5%増の1万8706人。日本も増えていると想像されるが、国際比較できる定量的データがない。
これは文部科学省の「学校基本調査」が十分に機能していないためだ。工学分野は「機械」「電気」「鉱山」といった旧態依然の分類になっている。
デジタル人材にかかわる「データサイエンス」「コンピューターサイエンス」を履修する学部は分類がバラバラだ。「数学」「電気」「その他」などに数えられ、デジタル分野として切り取れない。同じ国公立のデータサイエンス学部でも、横浜市立大学は「数学」、滋賀大学は「その他」に入れられている・・・

・・・経済産業省はどうか。過去には「ソフトウエア人材が足りない」と危機を叫んで動かした政策が空回りしてきた。1985年からの官民共同プロジェクト「シグマ計画」ではシステム開発の標準化を目指した。5年間で約250億円を投じたが、ソフトウエア開発ツールもシグマ仕様の専用コンピューターも迷走したあげく実用レベルに至らなかった。
89年には地方のソフトウエア人材を育てる目的で地域ソフト法が施行された。各地に第三セクター方式で設立された「地域ソフトウエアセンター」はバブル崩壊もたたって研修生が集まらず、相次ぎ廃止されている。
これらの失敗は十分に検証されていない。同省は19年、「IT人材不足は30年に最大79万人」との試算を出した。それがデジタル田園都市では「230万人」と数字ばかり塗り替えられてきた。

PwCジャパングループの21年調査によると、日本はテクノロジーの進展に対して「絶えず新しいスキルを学んでいる」と回答した人の割合が7%と最下位だ。年功序列の終身雇用の下で長らくスキルが賃金に反映されにくく、新しいスキルを身につける意欲がわかない実態がある。
デジタル人材をめぐる省庁縦割りの政策を寄せ集めても、国民の意識変革は望みにくい。地に足のついた人材育成ビジョンがなければ、デジタル田園都市国家構想そのものが「大胆な仮説」のまま消えてしまいかねない・・・