カテゴリー別アーカイブ: 連載「公共を創る」

連載「公共を創る」106回

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第106回「産業政策の転機」が、発行されました。前回に引き続き、産業政策について振り返っています。

日本産業が世界最高水準になると、追い付き型の産業政策は終焉を迎えました。政府主導ではなく、企業が自由に行動できるように、各種の規制を撤廃することが求められました。各省が業界を指導する事前調整型行政から、事後監視型行政へと、政府と民間の在り方の変更が進められました。これ自体は必然的であり、必要なものでした。
しかし、先進国も後発国も日本の成功を見て、産業振興策に力を入れたのです。国家主導経済の中国だけでなく、アメリカもヨーロッパもです。そして、日本の経済力は相対的に低下しました。
もっとも、産業政策だけに経済の停滞の責任を負わせるのは良くないでしょう。新しいことに挑戦しない企業と社員、生産性の低い職場なども問題です。

生産性では、農業や中小企業の低さも指摘されています。農家と中小企業を保護する政策は、生産性の低さを温存したと指摘されています。
産業政策を広げて見ると、科学技術振興、通商政策などもあります。
さらに、政府による経済への介入、国民を豊にする政策には、雇用確保や労働者保護もあります。

私がここで主張したかったのは、大学で教えられている公共経済学が扱っている範囲が狭いことです。主に市場経済の欠陥是正としての財政の3機能と外部不経済を説明し、市場経済が機能する基盤整備、産業政策、国民生活の向上まで視野を広げた説明がないのです。
経済学の目的は、市場経済の分析ではなく、国民生活の向上でしょう。

連載「公共を創る」105回

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第105回「産業政策と日本の発展」が、発行されました。
前回から、政府による市場経済への介入を説明しています。今回はその3番目「国民を豊にする」政策です。そこには、産業政策、科学技術振興、雇用確保と労働者保護、社会の持続などがあります。

まず産業政策です。財政の経済安定化機能とは別に、特定の産業について計画や規制、財政や税制などの手法を用いて支援が行われます。
1991年のバブル経済崩壊後、幾度となく巨額の経済対策が打たれました。それは景気低迷を抑える効果はあったのでしょうが、日本の産業が世界の競争から落後することを防ぐには効果がありませんでした。この30年間、先進国や中進国が経済成長を続けたのに対し、日本は停滞しました。1人当たり国内総生産(GDP)で米国などに差をつけられ、韓国に抜かれました。景気刺激策と産業政策とは別なのです。

日本は明治以来、産業政策を重要な国家政策として進めてきました。それが、一時は世界第二位の経済大国を実現したのです。

連載「公共を創る」104回

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第104回「その理念的な推移」が、発行されました。新年第1号です。

連載第97回(2021年10月28日号)から、社会と政府の関係を再検討しています。
「日本社会が成熟化したのに、私たちの意識と社会の仕組みが追い付いていないことによって、社会の活力と安心が失われている。活力と安心を取り戻すためには、私たちの意識や社会の仕組みを変え、政府の役割を見直す必要がある」というのが、本稿の主張です。その議論の前提として、これまでの歴史の理念的な推移を、簡単におさらいしておきます。

極めて単純化すると、近現代史は、自立した市民像を理想とし、社会や市場に介入しないことが良しとされた自由主義の時代(19世紀)と、自由主義経済を修正し市場の失敗に政府が関与する、併せて弱者に対し社会保障を充実してきた福祉国家の時代(20世紀)から成っていると言えます。
そして、社会の担い手たちはそれぞれに、その時代の社会の問題に対し対策を積み重ね、理論をつくり、さらに対策を進めてきたのです。

市場経済への介入、社会への介入、個人・家庭への介入の三つに分けて説明します。今回は、市場経済への介入です。財政学の教科書に出てくる3機能のほかに、「市場経済が機能する基盤整備」「市場経済の欠陥是正」「国民生活の向上」などもあります。

連載「公共を創る」103回

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第103回「「通念」を変える─その方策と障害」が、発行されました。

かつて日本の経済発展や社会の安心を支えた日本独特の「通念」「社会の仕組み」が、成熟社会になって、負の機能を生んでいます。それを変えるためには、教育の内容を変えることが重要でしょう。
そして、通念や社会の仕組みは、自然とできていると考えるのではなく、国民や住民がつくるものだという意識に代える必要があります。自然に対する作為です。

近代市民革命や、国民による革命的な政権交代(韓国や台湾)を経ている国は、政府や社会は国民がつくるという経験と意識があります。それに対し日本は、長い歴史とその間変わらなかったと考えられている日本文化と社会があります。
その日本文化と社会は高い評価を得ていたので、変える際には大きな障害となります。

連載「公共を創る」執筆状況報告

恒例の、連載「公共を創る 新たな行政の役割」の執筆状況報告です。
「2社会と政府(2)政府の社会への介入」の前半を書き上げ、右筆たちに手を入れてもらって、編集長に提出しました。

国民の幸福のため、政府はどのような機能を果たしているか、いないかを検討します。その第一として、市場経済への介入から始めます。
この話は、経済学や財政学、公共経済学の分野です。しかし、私の議論から見ると、教科書が扱っている範囲と角度では狭いのです。そこで今回も、いろんな人にお知恵を借りました。

書き始める前は、1回分くらいの分量と想像していたのですが、3回分にもなりました。この3回は、来年1月の掲載になります。ひとまず、年を越せます。