カテゴリーアーカイブ:著作と講演

連載「公共を創る」第255回

2026年4月9日   岡本全勝

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第255回「これまでの議論ー成熟社会に対応した見方への転換」が発行されました。前回から、これまでの議論を整理しています。

連載第2章では、公私二元論は多くの弱者が見えなくなっていることを指摘しました。
私が社会の陰に隠れていた弱者たちに気付かされ、その人たちに対する政府の役割を考え始めたのは、第1次安倍晋三内閣で再チャレンジ政策を担当した時です。再チャレンジ政策では、次のような境遇にある人たちを支援の対象としました。
一つは、長期不況による就職難に遭遇し、経済的に困窮している人たちです。フリーターやニート、非正規労働者です。彼らは自由な社会で自らの判断で選んだ人だといわれていたのですが、そうではなかったのです。もう一つは、以前から機会の均等に恵まれなかった人たちです。子育て女性、障害者、母子家庭の子どもなどです。失業者や母子家庭について、政府はすでに支援の制度をつくっています。しかし必要になったのは、それらの制度の拡充でなく、「再チャレンジ政策」という新しい施策です
私のもう一つの体験は、「年越し派遣村事件」です。当時、多くの人が「行政は、経済発展と国民の幸福を推進するという役割を成し遂げたようだ」と考えていました。ところが、長期停滞が格差や不安を生み、他方で経済成長期にもいろんな問題が坂の下の陰に隠れていたことが見えてきたのです。

私は大学で近代立憲主義と所有権や自由権の考えを学び、労働法制や社会保障制度がその部分的修正であることも学びました。そして日本国憲法が健康で文化的な生存権を保障していることも理解していました。近代思想のそこまでの流れは頭にあったのですが、社会保障制度を完備したので、社会で起きているさまざまな問題は裁判所で争われることであって、自分の所管する事務に直接関わってくるものであるかについては、認識できていませんでした。
しかし、再チャレンジ政策に携わり、「弱者」はもっと多様に存在することを知りました。大震災からの復興では、政府による民間企業や私生活への適切な介入が必要であることを実感しました。それらの政策は、これまでの行政の政策の延長で収まらないことであり、さらに広く見れば近代立憲主義の公私の区別の考え方などにも限界があると思えるようになりました。

第2章で提案したもう一つの社会の見方の転換は、施設やサービスだけでなく人や社会が持っている文化や気風の重要性を認識することです。これまでの行政は、公共施設(施設資本)とサービス提供(制度資本)の充実と、自然資本の保護に力を入れてきました。しかし、私たちの暮らしが安全で豊かなものになっているのは、それだけではなく、関係資本と文化資本が充実しているからなのです。
関係資本と文化資本の重要性を指摘したのは、それらが良い結果だけではなく、幾つかの社会の問題も生んでいるのではないかと気が付いたからです。

ヴェトナム政府幹部研修

2026年4月8日   岡本全勝

今日4月8日は、ヴェトナム政府幹部研修講師で、政策研究大学院大学へ行ってきました。巨大災害時の政府幹部の行動、復興時の判断についてです。たっぷり、2時間半です。
中央政府と地方政府の幹部14人が、熱心に聞いてくださいました。住民の意向をどのように集約するか、政治家からたくさんの要望が来て現場では処理できないときに断ることが責任者の役割といった点に、大きく頷いてもらいました。
質疑の時間をたくさん取ったのですが、鋭い質問がたくさん出て、時間をかなり超過しました。ありがたいことです。
 

世界銀行のウクライナ復興支援講師

2026年4月7日   岡本全勝

4月6日、7日と、世界銀行主催のウクライナ復興支援プログラムで、講師を務めてきました。場所は広島市です。「「統合的都市復興と変革(Integrated Urban Recovery and Transformation)」をテーマとした都市開発実務者向け対話型研修(テクニカル・ディープ・ダイブ:TDD)

ウクライナからは、30人近くの政府と自治体の幹部が参加しました。
私の出番は、次の通り。
1日目。Re-imagining and reconstructing cities after crisis – urban regeneration and job creation (危機後の都市の再構想と再構築 ― 都市再生と雇用創出)での基調講演と質疑。主に津波災害からの復興を話しました。インフラだけでなく、産業(働く場所)の復旧が重要であること。国と市町村との役割分担、住民意向の把握などです。
2日目。Best practices, examples and tools for strategic planning and investment prioritization and sequencing (戦略計画、投資の優先順位付けと順序付けに関するベストプラクティス、事例、ツール)での講演と質疑。こちらは、原発被害からの復興について話しました。時間がかかること、区域を分けて進めていること、避難が長期になると住民は戻らないことなどです。

皆さん関心は高く、住民の意向をどのように聞いたか、政府は自治体をどのように支援したか、財源はどう確保したか、工事はどのような順で進めたか、住民が戻らなかったのはななぜか、などの質問が出ました。
10日には、締めくくりの総括が東京であります。
桜のきれいな時期に来てもらったので、日本を楽しんでもらいたいです。

シン・みらいチャレンジプログラム交流会

2026年4月5日   岡本全勝

今日4月5日は、シン・みらいチャレンジプログラム 交流会に出席のため、福島県郡山市に行ってきました。
サントリーグループは、東日本大震災からの復興支援を、長年続けてくださっています。特に被災3県での地域活動に、助成と助言をしています。行政の手が及びにくい、地域の課題が対象です。ありがとうございます。私は、その審査員を引き受けています。

今日の催しは、助成先代表による成果発表と、助成先団体の交流会です。参加団体のいくつかを紹介します。
大船渡市母子寡婦福祉協会母子部つばめカフェ松島町しおかぜホーム会津若松市ロータス、郡山市しゅふコミ、郡山市ブルーベリーミュージアム、福島市ビーンズふくしま・・・。

それぞれの団体の活動は、ひとり親家庭の母親支援や子どもの居場所つくりなど異なります。献身的な活動に、頭が下がります。ふだんは相互の連携がないのですが、それらの方々に連携を取って協働してもらえないかという試みです。

明日朝から、広島市で出番があるので、夕方東京駅に戻り、続いて新幹線で向かいます。

『地方公務員月報』3月号に寄稿しました

2026年4月3日   岡本全勝

地方公務員月報』3月号に、拙稿「働き方が変える「この国のかたち」」が載りました。この雑誌は、総務省公務員部公務員課が編集していています。省庁が関与している出版物としては珍しいでしょう。

時事通信社の専門誌『地方行政』に、「公共を創るー新たな行政の役割」を連載しています。私の問題意識は、私が採用された頃「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言われた日本経済がこの30年の間に地位を落としたこと、また世界一とも評された官僚組織の評価が低下したことです。
なぜ、そうなったか。それは、日本の経済や暮らしが大きく変化したのに、社会の仕組みと国民の意識が追いついていないこと、そして何より官僚と行政がそれに先回りして対処できていないということです。経済発展期にできあがった社会の仕組みが、成熟社会になった現在の日本には適合しなくなり、「この国のかたち」を、成熟期のものに転換している途中なのです。
その象徴的な場面が、働き方です。そこで、私が国家公務員になってから約半世紀、働き方がどのように変わったかを、体験に基づいて整理してみました。職員研修で述べていることなども、盛り込みました。若い人が読むと、理解できなかったり、笑うかもしれません。

見出し(目次)を並べておきます。
長時間労働を自慢した。偏った生活。「男女共同参画」がやってきた。少子化の原因。不満な従業員。職場管理をしてこなかった。人事政策がなかった。管理職を育ててこなかった。管理職は別に育てる。日本的雇用慣行の終わり。やる気と努力が責任と処遇に反映される仕組みへ。

この間の変化とともに、人事政策関係者に苦言を呈しました。拙著『明るい公務員講座』3部作が、結構売れています。それはうれしいのですが、そもそも人事の専門家でない私が書いた本が売れること、そして人事課にそのような本を書く人がいないことが問題なのでしょう。また、管理職研修の講師に呼ばれることが増えたのですが、主催者が一様に言う悩みは、「管理職研修の定番がない。講師もいない」です。

地方公務員の環境の変化と在り方に関しては、過去に次のような文章も書きました。今回はそれらの総集編でもあります。
「不思議な公務員の世界ーガラパゴスゾウガメは生き残れるか」『地方自治』2008年5月号(ぎょうせい)
「安心国家での地方公務員の役割」『地方公務員月報』2011年4月号(総務省自治行政局公務員課)