「著作と講演」カテゴリーアーカイブ

ベトナム国戦略的幹部研修

今日4月22日は、政策研究大学院大学での、ベトナム政府の国戦略的幹部研修講師に行ってきました。今回の対象者は地方政府幹部で、私の講義は「リーダーシップと危機管理」です。19人の方が、熱心に聞いてくださいました。

十分な質疑の時間を取ったのですが、次々と鋭い質問が出て、予定時間を超過しました。予測はできなかったのか、予算確保の方法、塩害に遭った農地の復旧、がれき片付け、保健の問題など。地方政府でそれぞれの分野に責任を持っている人ならではの、質問がありました。
的確な質問が出ると、うれしいですね。私の話が理解されているということですから。

ベトナム政府は、大胆な行政改革に取り組んでいるとのことです。中央省庁の統合と、地方行政単位の統合です。後者は、「省・郡・社」の3層構造から「省・市」と「社」の2層構造に移行し、63ある省と中央直轄市を34(28省+6市)に再編します​。なかなか大胆な行政改革です。
人口は約1億人、面積は約33万平方キロ。日本と似た状況ですから、驚くことではないでしょう。ところで、職員の配置転換、削減はどのようにするのでしょうか。

連載「公共を創る」第220回

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第220回「政府の役割の再定義ー国家像を議論する共通基盤」が、発行されました。

政治家の役割として、この国の向かう先を指し示すことを取り上げています。
1980年代には世界有数の豊かさを手に入れ、併せて自由と平等、安全と安心も手にしました。目標を達成したのです。そこで当時も、日本は次に何を目指すべきかが議論されました。
中央省庁改革の方向を決めた「行政改革会議最終報告」(1997年)は、経済成長を達成した後、行き詰まった日本の行政システムを改革するものでした。そこでは行政の仕組みにとどまらず、「この国のかたち」の変革を求めました。省庁改革は実現したのですが、その後の目指すべき日本の姿については、政治家、官僚、識者の間でも議論は深まりませんでした。結局、明確な将来像も国家戦略も持ち得ないままに、現在まで至っています。

そのような議論をせずに、行政改革を続けました。今も、「身を切る改革」などを主張する政治家がいますが、政府を小さくしても、国民が満足する社会は実現できません。私たちが取り組まなければならなかったのは、行政改革を深化させることではなく、目指す将来像の議論であり、その中での行政の役割だったのです。

では、これから日本が目指す国家像は、どのようなものでしょうか。「国民が自由に振る舞う、国家はその条件を整える」という政治哲学では、かつての「強い日本」「豊かな日本」といった、国民が共通に目指す国家目標は、設定が難しくなりました。
石破茂首相が「楽しい日本」を提唱しました。反対意見もあります。目指す国家像は人によって異なるでしょう。

目指す国家像が人によって異なることは当然として、議論する際に前提となる「共通基盤」はあると思います。
その1は、我が国が経済発展を達成したことと、それに伴う国内の諸状況です。
2つめに、国内外の諸条件を、念頭に置かなければなりません。1990年代と現在では、「次の日本の目標」を考える際の内外の条件が大きく変わった、ということです。

コメントライナー寄稿第22回

時事通信社「コメントライナー」への寄稿、第22回「選挙投開票にも「働き方改革」を」が4月10日に配信され、15日にはiJAMPにも転載されました。
今年も夏に、参議院議員選挙が予定されています。現行制度では、投票時間は午後8時までと公職選挙法で定められています。これを午後5時までに繰り上げてはどうかと提案しました。

かつて投票時間は午後6時までだったのですが、投票率向上のため、1997年に午後8時までに延長されました。しかし、2003年に期日前投票制度が導入され、投票に行く自由度は広がりました。昨年の衆議院選挙では、投票者数のうち約4割が期日前投票でした。
現行制度でも、投票時間の繰り上げは、各選挙管理委員会の判断で可能です。昨年の衆議院選挙では、全投票所のうち繰り上げを行った投票所数は約4割にも上っています。投票日はたいてい日曜日です。わざわざ日曜の夜に投票に行かずとも、昼か期日前投票に行けばよいのです。

「個々の市町村の判断で投票時間を繰り上げればよい」との意見もあるでしょうが、難しいのが開票作業の繰り上げです。他の市町村で続いている投票に影響を与える恐れがあるので、法定の午後8時以前の開票作業の前倒しはしにくいのです。法改正をして、投票時間を一律に午後5時までとすると、夕方6時に開票作業を開始できます。

全国の投票所には約30万人、開票作業には約20万人が参加しているとのことです。これだけもの人を、日曜日夜に長く残業させることはやめましょう。働き方改革は、ここでも必要です。

連載「公共を創る」第219回

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第219回「政府の役割の再定義ー政治主導を阻む全会一致の慣習」が、発行されました。

各府省が作った法案を国会に提出できないという不思議なことが起きます。異論があれば、国会で議論すればよいのですが、提出ができないのです。その原因は、前回まで説明した与党事前審査と共に、与党各機関での意思決定の際の全会一致という慣例です。

政治とは、意見の異なる者たちの間で、一定の結論を見いだす過程です。その際に、権威主義や独裁主義の体制では特定の者が結論を決めて押し付けるのに対し、民主主義では構成員が決定権を持つので、まずは議論を尽くして全員が納得するように努めます。しかし、議論しても一致しない場合は、永遠に先送りはできません。そこで、最後は多数決で決めるのが通常です。
民主主義は、それと融和性のある多数決原理と一揃いになることで、初めて実際に運用できる政治形態になるとも言えるのです。国会が、まさにそういう仕組みです。
与党内に異論があると、政府の法案が提出できない、国会審議には入れないことは、日本の政治にとって不幸なことであるだけでなく、行政の運営や、ひいては国民の生活にも悪影響を及ぼしているのではないでしょうか。

次に、官僚の抵抗です。自民党総裁である首相が、与党を従わせることができない、それによって改革を進めることができないことを説明してきました。自民党のような巨大な組織にも、構成員は平等であるというホラクラシーの原理が働くのです。これに対し、官僚は首相の部下ですから、ヒエラルキー原理の下、命令によって従わせることができるはずです。しかし、現実はそうは進みません。第216回で説明した三位一体の改革では、小泉純一郎首相が各省に「廃止し一般財源化すべき国庫補助金を提出するように」と指示したのに、各省は従わなかったのです。

ドイツの社会学者マックス・ウェーバーが「職業としての政治」の中で「政治とは、情熱と判断力を駆使し、硬い板に力を込めてじわじわっと穴をくり貫いていく作業である」と述べたのは有名です。
意見の違いがある場合に、それを集約することが政治の役割です。全員が賛成している状況では、政治家は必要ありません。反対がある場合に、どのようにして正しいと考える政策を実現するか。そこに、政治家の力量が試されます。
日本は成熟社会になりました。かつてのような右肩上がりの財源の分配はできなくなり、他方で「豊かになる」という共通目標がなくなり国民の意見が多様になっています。国際社会では秩序が壊れ、安全への不安が高まっています。このような状況の中で、反対意見がある限り判断を先送りするという対応では、政治は機能せず、国民の支持も回復しないでしょう。

連載「公共を創る」第218回

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第218回「政府の役割の再定義ー政策の大転換に必要な党内の支持確保」が、発行されました。

首相や各省が考えた政策が、与党の抵抗によって進まない場合があることを説明しています。その原因は、内閣の政策決定過程が政府に一元化されず、与党にも政策決定の仕組みがあり、与党事前審査を通る必要があるからです。
それを打破しようと挑戦したのが、小泉純一郎首相でした。「自民党をぶっ壊す」と唱えて総裁選に勝ち、それまでの自民党の政策を変える改革を進め、その際には党内の反対も押し切りました。経済財政諮問会議での議論と決定は、与党との調整なしに進められることが多かったのです。その頂点が、郵政民営化です。

このような政府・与党二元制や与党事前審査制度は、日本独特のようです。国会での審議を空洞化するような仕組みですから、議会制民主主義の思想からは理解しにくいでしょう。
この問題を解消するため、旧民主党は、政府・与党の一元化を目指しました。選挙や国会対策を指揮する幹事長と、政策責任者の政調会長を入閣させ、「政府・与党一元化」を目指しました。もっとも、すべてが実行されたわけではなく、また実行しても直ちに所期の効果を発揮したわけではありません。

各府省が作った法案を国会に提出できないことが起きる原因は、与党事前審査とともに、与党各機関での決定に全員の賛成を要するという「全会一致」という慣例です。