カテゴリー別アーカイブ: 著作と講演

連載「公共を創る」第216回

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第216回「政府の役割の再定義ー地方分権改革における審議会の機能」が、発行されました。

政策を大転換するには、関係者や国民の理解が必要なことを説明しています。その場として、審議会の機能を取り上げました。
審議会を使って大きな改革を実現した例としては、中央省庁改革と地方分権改革があります。中央集権体制が、明治以来日本の発展を支えてきたのは確かです。しかし、20世紀の終わりには、経済成長を達成し成熟社会になって、地方分権体制に転換すべき時期に来ていました。しかし、それを「力」として使っていた各省は抵抗したのです。それを押し切ることができたのは、国民の認識と共に、この審議会を核にして改革を進めるという手法でした。

そのような審議会を、新しい形として制度化したのが、経済財政諮問会議です。
小泉内閣時代の諮問会議を舞台にした改革で、私が関与したものもあります。2001年に、財政再建の観点から交付税総額縮減が争点となり、交付税改革が求められました。私は総務省交付税課長として、算定方法の改革(段階補正割り増し縮小、事業費補正縮小、留保財源率引き上げ)を行いました。
他方で片山虎之助総務相は、地方分権の趣旨に沿って、国庫補助負担金の廃止と縮減、国税から地方税への税源移譲を合わせて行うことを主張しました。「三位一体の改革」です。これは、地方自治の観点からは、長年の課題でした。しかし、各省も財務省も、国庫補助金を地方自治体に対する指導力の源であると考えていたので、その削減には反対でした。

国庫補助金改革の総額は4兆円と決まり、小泉首相が各省に対象とする国庫補助金名を出すように指示しました。それでも、各省は応じませんでした。そこで、麻生太郎総務相の発案を小泉首相が採り入れ、自治体に廃止対象補助金を提出してもらうこととしました。
全国知事会は大議論の末、廃止要望補助金を決めました。なおも各省の抵抗は大きく、自治体の要望通りには進みませんでしたが、最終的には3兆円の国庫補助金が削減され、同額の税源移譲(国税である所得税を地方税である個人住民税に移す)が実現しました。

連載「公共を創る」第215回

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第215回「政府の役割の再定義ー政策の大転換に必要な意識改革とその手法」が、発行されました。

政策を大転換するために必要な、首相の取り組みを説明しています。まずは、内閣が取り組む課題と政策を大小に分別し、首相には重要課題に集中してもらうことです。次に、首相が取り組む政策体系を示すことが必要です。

各府省は主要政策の体系をつくって公表しているのに対し、内閣にはそれがありません。私は麻生首相の指示の下、同僚の首相秘書官たちと議論して、首相が目指す目標と首相が特に力を入れる政策を整理しました。内政にあっては安心と活力、外交にあっては安全と繁栄を目標とし、現在進めている政策とこれから進める政策を体系化しました。これは、内閣が取り組む政策の全体像を示したものではありません。「この内閣は、この課題を解決したいのだ」という意思を示すものです。

しかし、首相の目指す日本と主要な政策体系は、首相に就任してから表明するのではなく、首相に就任する前に示しておく必要があるでしょう。かつての自民党総裁選挙では、候補者が「マニフェスト」を発表しました。麻生首相は自民党総裁選挙に4度出馬しましたが、そのたびにマニフェストを発表していました。私もその作成に関与しました。

成熟社会に適合するように政策を大転換するためには、「課題と政策の整理」の次に、「解決への取り組み手法」を明らかにしなければなりません。成熟社会の課題は、従来の行政手法では達成できないのです。また政策の大転換には、政治家、公務員、国民の意識を変えなければならず、そのためにはそれなりの手順も必要になります。
政策の大転換には、関係者や国民の理解を得ることと、抵抗勢力を説得することが必要です。これもまた、首相指示だけでは実現しません。

ウクライナ政府幹部講義3の2

ウクライナ政府幹部講義3」の続きです。一行は10日間の講義や視察を終えて、今日はその振り返りでした。私も呼ばれて参加しました。参加者全員(次官は先に帰国)から、今回の企画についての意見と、役に立った点を発言してもらいました。

いや~、うれしかったですね。「良くできた企画だった」「講義を聞いてから現地を見たのでよくわかった」という意見とともに、「オカモトさんの説明で、全体像がよくわかった」と言ってもらいました。そして私が伝えたかった次のようなことを、何人もの方から理解したと言ってもらいました。
・復興庁の司令塔としての役割
・インフラ復旧だけでは暮らしは戻らず、産業と生業、つながりやコミュニティの回復も重要なこと
・復興計画づくりには、住民が参加することが重要なこと
・政府だけでは復興はできず、住民と企業や非営利団体の参加が重要なことなど

現地視察の様子が、報道されています。「朝日新聞」「NHK福島ニュース
一行は、今晩の飛行機で、帰国の途につかれます。早く戦争が終わって、本格的に復興に着手できることを祈っています。

この企画は、国際協力機構(JICA )による「ウクライナ国緊急復旧・復興プロジェクト」第4 回本邦招へいプログラムです。
2023年3月から、技術協力「緊急復旧・復興プロジェクト」を開始し、復旧・復興にかかる技術支援及び機材供与と主要都市の都市復興計画策定を進めています。現地では、キーウ州における瓦礫処理、越冬支援(ヒートポンプ供与による電化効率化)などを実施しています。日本への招へいは、東日本大震災からの復興の経験を講義及び現場視察を通じて共有し、今後の復旧・復興に活かそうとするものです。

連載「公共を創る」第214回

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第214回「政府の役割の再定義ー成熟社会にふさわしい政策への大転換」が、発行されました。

政治家が行うべきですが十分になされていないことの一つとして、政策の大転換を取り上げています。
憲法が改正されていないことも、政策の大転換が十分に行われていないことの、一つの表れでしょう。日本国憲法は1946年に公布され、その後80年近く改正されたことがありません。世界の成文憲法の中で、改正されていないものとして最も古いものとなりました。第2次世界大戦が終わった45年から2022年までに、米国は6回、フランスは27回、ドイツは67回、中国は10回、韓国は9回の憲法改正(新憲法制定を含む)を行っています。
近年に改正された各国の憲法は、環境保護、情報公開、プライバシー保護などの新しい人権の規定を盛り込んでいます。日本も事情は同じと考えられますが、これらについて、憲法改正の動きは見られません。

他方で、条文をかなり強引に解釈している実態もあります。社会の変化に憲法が追い付いていないのです。憲法第89条は、「公の支配に属しない教育」への公金支出を禁じていますが、「公の支配に属さない」私立学校の国庫補助が続いています。
また、憲法第24条第1項では「婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立」すると定め
ています。これに関して、同性婚を認めていない民法などの規定は憲法違反だと訴訟が起こされ、多くの判決は違憲としています。しかし条文を読んでいると、無理があるような気がします。憲法制定時は同性婚を想定しておらず、「両性」と規定したのでしょう。

歴代内閣は政策課題への取り組みを怠っているのでなく、懸命に取り組み、新しい取り組みも次々と打ち出しています。では、なぜそれが効果を上げているようにみえないのでしょうか。どのように変えれば、政策の大転換が進むのでしょうか。そのためには、「課題と政策の整理」と「解決への取り組み手法」を明らかにし、それを評価し変えていくことが必要でした。内閣は、それを怠ってきたのではないかと考えられます。
各府省は、それぞれ多くの政策群を抱えています。それらを実行しつつ、首相の示す「重点」「転換」に取り組むことになります。官僚機構は、与えられた方向でそれぞれの分野での政策を考え、実施することは得意です。しかし、各組織間、各政策間での優先順位付けはできず、政策の大転換もできません。

近年の「官邸主導」も問題です。首相が取り組む重点を絞っていないこと、首相官邸の官僚が各省の活動に口を挟むことから、逆に各省の大臣と官僚がその政策分野においての優先順位の判断ができず、さらには政策を考えなくなっていま。官邸と各省との分担が明示されていない官邸主導は、弊害が多いのです。
首相には、重要課題に集中してほしいのです。首相がいかに忙しいか、首相に考える時間を確保することも首相秘書官の役割であることを、私の経験を交えて説明しました。

ウクライナ政府幹部講義3

今日2月26日は、ウクライナ政府幹部に講義をしてきました。国際協力機構(JICA)が、日本に呼んでいます。復興に向けた準備をするためです。今回で3回目です。「ウクライナ代表団への講義2

私の講義は、東日本大震災からの復興です。戦争で壊された町、また一時的に避難してから戻る町もあります。そこで、津波被災地と原発事故被災地の両方を説明しました。
言葉で伝えるより、写真がわかりやすいです。

マリナ・デニシウク地方・国土発展省次官をはじめ、13人の高官が参加してくださいました。マリナ次官が、次々と鋭い質問をされました。それに答えることで、理解が深まったと思います。