カテゴリーアーカイブ:著作と講演

連載「公共を創る」第267回

2026年8月21日   岡本全勝

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第267回「これまでの議論ー新しいリスクへの対応を」が発行されました。

前回まで、社会の変化によって新しいリスクが生まれていることを説明しました。これら新しいリスクに、政府は急速に対策を講じています。
武力攻撃、大規模災害、感染症について、日本は危機管理に目覚めたと言えます。
第2次世界大戦後の半世紀にわたり、日本では自然災害がしばしば発生しましたが、国内でも対外的にも大きな危機に直面することはありませんでした。国際的には、島国であることと、ソ連の脅威はあったものの、米安全保障条約の下で米軍が駐留し、中国や北朝鮮は日本を脅かす存在ではありませんでした。治安も良く、「日本人は安全と水は無料で手に入ると思い込んでいる」と表現されたのです。
ところが1990年代に入り、国内ではこれまでにない大規模な自然災害が発生し、国際的には北朝鮮と中国が軍事力を増強し日本への脅威が現実のものとなりました。それまで、国家の危機管理は日本政治と行政の重要な課題ではなく、対応組織も法制度も十分ではありませんでした。しかし度重なる危機に直面し、組織や法制度を順次充実させてきたのです。

政府は、新しいリスクに対して積極的に対応しています。そこには、政府自らの対応力を強化したもの(防災や武力攻撃)、再発防止策や事業者への規制(食品や製品事故)、罰則の強化(ハイテク犯罪)、国民への啓発や要請(新型コロナウイルス対策、環境保護)、救済拡大(消費者保護、健康被害)があります。ただし政府が対応してきたのは、主に古典的リスク「身体や財産への被害」と「経済社会活動への被害」です。格差や社会生活問題など「人間らしい生き方への被害」には、これらとは違った対策が必要なのです。

再チャレンジ政策を担当して、弱者支援や生活者支援という視点で行政機構を見渡してみると、三つの問題が見えてきました。
一つ目は、行政は、所掌事務にとらわれて、バラバラになってしまうことです。二つ目は、これに取り組む組織(課や局)と政策は多くの場合、事業振興やサービス確保などに取り組む各省の主たる業務ではなく、活用できる資源や人材の専門性に強みがないことです。三つ目に、生活者保護を第一の任務に掲げた役所がないことです。

再チャレンジ政策では、困っている人、もう一度挑戦しようとする人を主な対象としました。ところがそのためには、支援を必要としている人への対策だけでなく、障害となっている「制度の改正」と「社会意識や慣行の見直し」も必要だったのです。人、制度、慣習への働き掛けです。男女共同参画社会も同様です。1986年のいわゆる男女雇用機会均等法の改正から進み始めましたが、男女の平等扱いを法定しても、職場での処遇、時間外勤務の縮小、家庭での偏った役割分担、子育て支援などの社会の側の仕組みがある程度出そろって、ようやく実現し始めました。

広島県・市町幹部研修講師

2026年8月20日   岡本全勝

今日8月20日は、広島県自治総合研修センターでの県と市町の幹部研修のため、広島市に行ってきました。集合研修参加者は17人、オンライン参加者が50人あまりで、合計約70人です。

これまでこの研修は講師による講話・オンライン受講が主だったようですが、主催者にお願いして、集合研修・班別討議を組み合わせることにしてもらいました。全員が集合するのは困難なので、オンライン受講との併用です。
班別討議は、4班に分かれ、短時間のうちに課題の答えを考える必要があります。課題は、事務局と相談して、参加者に適した問を考えました。
さらに、それを発表し、ほかの班から「突っ込みの質問」があり、それに答えなければなりません。しかも、初めて会った人もいる共同作業です。皆さん、なれない作業ですが、そこは県と市町の幹部です。適確な答えと、質疑がありました。

私は、オンライン講義が嫌いです。参加者の反応が十分にわからないのです。「この人はこの話題はわかっているな。あの人はどうかな」と反応を見ながら話します。また、一方的な講義、特にオンライン研修は効果が低いと思っています。オンライン受講は、画面をつけたまま、内職ができますよね。研修は、職場から隔離された部屋でカンヅメにされる方が効果があります。そして、聞くだけでなく、参加型の負荷がかかるのがよいです。「会社員のeラーニング受講完了4割、ながら受講は8割

追記
講義で紹介したこのホームページの「明るい課長講座
明るい公務員講座」3部作

時代は進む2

2026年8月19日   岡本全勝

時代は進む」の続きです。
時間がたつと、社会が変わってしまう事例のもう一つは、講演です。国際協力機構(JICA)の依頼で、アジアやアフリカの後発国政府幹部に、「日本の発展を支えた行政機構」をしばしば講義しています。明治以来の日本の発展を写真や数字で示し、その要因のうち行政の役割と国民意識を説明しています。
明治維新から敗戦までを第1期(近代国家への転換)、敗戦から現在までを第2期(驚異的経済成長)と説明していたのです。しかし、「経済成長外国比較」の図が年とともに伸びていくと、長期停滞を説明しなければならなくなりました。質問が出るのです。そこで、1991年のバブル経済崩壊から現在までを、第3期(成熟社会での模索)と位置づけ、説明しています。次が、その講義骨子(目次、部分)です。

Ⅰ 近代日本の発展の歴史
小さな貧しい農業国が、100年で、世界の強国に発展
第1期 1867年~1945年 近代国家への転換
(1)明治維新(1867年~) 西欧国家を手本として、近代国家建設へ
(2)世界の強国に
(3)第二次世界大戦での敗北
第2期 1946年~1991年 経済大国へ
(1)廃墟からの復興と驚異的な経済成長
(2)住みよさの向上
(3)国全体で努力
第3期 1991年~現在 成熟社会での模索
(1)社会は安定、経済は停滞
(2)政治と行政の改革=官僚主導から政治主導へ、地方分権改革
(3)社会の仕組みの改革=男女共同参画、働き方改革など

Ⅱ 日本の成功の要因
1 社会の安定と発展の基礎
2 行政機構の役割
3 問題もあった
Ⅲ 信頼と倫理の育成

時代は進む

2026年8月18日   岡本全勝

連載「公共を創る」は、本文はひとまず書き終え、まとめに入るために、これまでの議論の振り返りに入っています。そこで、これまでの執筆を再度眺めて、考えています。すると、時代は進み、社会は変わってきたと実感します。
連載「公共を創る」は2019年から書き始めましたが、その出発点となる文章は富山県総務部長時代(1994~1998年)に始まっています。小冊子「地方自治50年 私たちの得たもの忘れてきたもの」(1997年、富山県職員研修所)に、当時の考えをまとめたのです。

交付税課長補佐時代に『地方交付税・仕組みと機能-地域格差の是正と個性差の支援』を書いて交付税の機能と成果を考え、戦後日本社会の発展と地域の発展を評価しました。ちょうど戦後50年でした。富山県に赴任し、地域の実情も確認できたので、それをも含めて考えを整理しました。「公共を創る」第41回の図表2「富山県の変化」はその時、県職員の協力を得て作ったものです。豊かな社会、全国で一律の行政サービスを達成し、次は何をするべきかを考えていたのです。

経済成長外国比較」の図も、その時から使っています。元は経済企画庁の資料です。まさに鯉の滝登りのように、右肩上がりで成長し、アメリカに追いつき追い抜きました。1991年にバブル経済が崩壊したのですが、この図では1995年まで成長しています。円ドル相場の影響もあります。当時は、「経済成長を遂げた日本」という誇りと「この経済成長が続くとして、次に何をするのか」かが、私の問題意識でした。

その後、長期停滞に入り、「経済成長外国比較」の図では1995年から横ばいになります。「経済成長の軌跡2024」も、作りました。戦後の経済成長を「高度経済成長期」「安定成長期」の2期に分けて説明し、第3期はいずれまた復活するのだろうと思っていました。ところが「失われた10年」は「失われた20年」になりました。
第1期、第2期とも偶然18年間だったので、第3期も18年の2009年が区切りがよいと思ったのですが、そうはなりませんでした。それどころか2008年はリーマンショックが起きて、さらに悪くなりました。「経済成長の軌跡2024」では、経済専門家の意見を聞いて、2012年を仮の区切りとしています。

さて、最初の議論に戻ると、「戦後日本社会の発展と地域の発展」は、最初は「素晴らしい成功を収めた日本」として書き始めたのですが、現在となっては「その後は長期停滞し、国際的にも中位の国になった」と書かざるを得ません。成長した第1期と第2期を会わせて36年です。その後の長期停滞は2026年で35年になり、ほぼ同じ期間なのです。いつの間にか、経済成長は遠い昔になりました。35年前は、若い人にとって大昔でしょう。「経済成長の軌跡2024」では4期に分けていますが、今作るなら、1991年を境に前期と後期の2つに分ける方がわかりやすいでしょう。
「公共を創る」も、書き続けているうちに、内容や主張に変化を加えなければならなくなりました。今、これまでの議論を振り返り要約しているのですが、構成なども変える必要があるなあと考えています。あらためて「時代は進む」と思います。
この項続く

連載「公共を創る」第266回

2026年8月6日   岡本全勝

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第266回「これまでの議論ー近年におけるリスクの変化」が発行されました。前回から、政府が取り組むべき社会の課題が変わったことを説明しています。その第一は、リスクの変化と新しい社会の不安です。

不安やリスクがどのように変化しているかを見るために、社会のリスクをその原因や被害の種類によって9の分野に分類し、さらにそれらを被害の形態によって三つに大括りしました。
一つ目は「身体や財産への被害」です。 武力・テロ、自然災害、事故、犯罪などは、国民の身体、生命、財産に対し直接に物理的、経済的な被害を与えます。病気と環境問題は、直接・間接に健康に被害を与えます。
二つ目は「経済社会活動全体への被害」です。経済社会システムの混乱は、経済社会活動を根底からひっくり返す危険を含んでいます。個別の財産への危険もシステムへの不信を呼び起こしますが、それよりも、不特定多数が参加している経済社会活動全体への被害をもたらします。
三つ目は、「人間らしい生き方への被害」です。格差と社会生活問題は、もちろん身体や財産に被害を与えますが、それよりも尊厳ある生き方をできなくさせてしまいます。各人にとっての危険であるのは当然ですが、「人間らしい生き方」を支えているはずの社会の側に問題が起こっているということでもあるでしょう。

ここには、技術と経済の発展が生む新しいリスクとともに、従来あったリスクが再認識されたものもあります。また、社会生活問題などのリスクは、豊かな社会になって顕在化しました。パワハラ、セクハラ、幼児虐待、高齢者虐待、ヤングケアラーなどは、これまで耳にしなかった言葉です。事実は昔もあったのですが、社会問題と認識され、対応が必要な課題として新しい言葉が定義され、意識を深めることになってきたのです。児童虐待や自殺は昔もあった事件です。ただし、それらは個人の責任であって、本人や家族が、場合によっては親類や近所の人たちが解決すべき問題と考えられてきました。しかし、児童虐待も自殺も、今や社会の問題と認識されるようになりました。

古典的なリスクは、担当する役所や学問が確立されているのですが、「人間らしい生き方への被害」には、まだそれが確立されていません。