カテゴリーアーカイブ:著作と講演

マレーシア政府研修講師

2026年9月30日   岡本全勝

昨日9月29日は、国際協力機構に呼ばれて、マレーシア政府行政官研修に行ってきました。去年から呼ばれています。中央と地方の公務員、初級職15人と中間管理職15人です。9月29日から10月16日まで、東京のほか大阪や京都でも研修を受けます。

私の担当は、「日本の発展を支えた行政機構」です。この内容は、外国の政府幹部に何度か講義しています。
以前は日本の発展を2期に分けていたのですが、3期に変えました。これまでは、明治維新から敗戦までを第1期(近代国家への転換)、敗戦から現在までを第2期(驚異的経済成長)と説明していたのです。しかし「経済成長外国比較」の図が年とともに伸びていくと、長期停滞を説明しなければならなくなりました。1991年のバブル経済崩壊から現在までを、第3期(成熟社会での模索)と位置づけ、説明しています。「時代は進む2」

マレーシアも発展著しく、1人当たりGDPは1万5千ドルを超えています。日本の発展の図に韓国と中国をつけてあるので、マレーシアの位置を確認してもらい、また日本の発展の要素や問題とマレーシアとを比べてもらいました。
今回は、研修生による討議も組み込みました。6班に分けて議論し、発表や質問をしてもらいました。日本の農業、教育、子育て、少子化などに関心があるようです。主催者の指示で、途中でお祈りのための休憩も取りました。
「2025年マレーシア国政府行政官研修」

コメントライナー寄稿第30回

2026年9月29日   岡本全勝

時事通信社「コメントライナー」への寄稿、第30回「政治主導を見たい」が9月25日に配信され、29日のiJAMPに転載されました。

7月に各紙が、日本版DOGE(ドージ)の結果、租税特別措置の廃止が120項目中1件だったことを伝えていました。その後に2件増えましたが、実績がないか、または少ないものです。
本家の米政府効率化省(DOGE)は、トランプ大統領が打ち出した、政府予算を大幅に削減しようとする取り組みです。有名な実業家イーロン・マスク氏が主導し、チェーンソーを持って「切り込むのだ」といった映像が流れました。しかし、いつの間にか活動を終えたらしく、その成果は不明です。腰砕けというのか、大山鳴動して鼠一匹と言うべきか。

このような政府部内での見直しで、租税特別措置や予算の大幅な廃止や縮小ができるとは、私には思えません。租税特別措置や予算は、それぞれ理由があってつくられています。そしてなによりも、それぞれの政策には利害関係者やその必要性を主張している議員がいます。その人たちを説得しない限り、官僚だけでは廃止できません。
官僚がやるとすると、全ての項目で一律削減することでしょう。もし大幅に削減しようとするなら、政治家に国会で、あるいは与党で削減対象を洗い出してもらうことです。

政治家は、「役人にはできないだろうから、私たちがやる」と言って欲しいです。官僚に重要な政策の選択と予算削減を委ねているようでは、政治主導ではありません。

連載「公共を創る」第271回

2026年9月24日   岡本全勝

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第271回「これまでの議論ー「政府・市場・社会」の三元論」が発行されました。

豊かな社会を実現したら、「人間らしい生き方への被害」という新しい弱者が発見されたことについて論じています。極めて簡単にまとめると、19世紀には労働者を発見し、次に働けない人たちを、20世紀後半に消費者を、21世紀には社会生活において自立できない人を発見したと言えるでしょう。近代の行政の歴史は、弱者を発見し、それに対する救済の方法をつくってきた歴史です。ところが「人間らしい生き方への被害」の対策は政府と個人との関係の転換を求めています。それは、憲法にも及ぶ大きなものです。

近代市民社会の考え方は、自由権を保障することが政府の役割から出発し、その後、自立できない人生活を保障することが、政府の役割に加わりました。社会権です。現在の憲法学は、この異質な二つの思想を同居させ、「接ぎ木」しています。
しかし、引きこもり、若年無業者、うつ病や自殺の増加といった孤独・孤立問題への支援は、この自由権と社会権という二つの論理には収まらないのです。支援を求める人たちは、国家に対して「××が不足しているので支援してほしい」とは主張しません。その人たちへの支援は彼ら自身の国家への請求権によるものではないのです。

近代市民社会の理想は自由な個人でしたが、後期近代には自由の進展により、孤独・孤立からくる問題が噴出してきました。それは、孤立している個人の生活の不安だけでなく、アメリカに見られるように人々を分断し共同体を壊すことによって、国家としての政治的統合や、社会の安定をも揺るがしています。
社会的包摂には、国民自身の意識と行動が必要です。社会から一部の人たちを排除しているのは、周囲の国民なのです。ここにあるのは、政府対国民の対立の構図ではなく、社会とそれをつくっている大多数の国民と、何らかの理由でそれに入れない少数派の対立です。

続く「第4章 政府の役割再考」「2.社会と政府」(第97〜150回)では、これらの変化を念頭に、これからの政府の役割を検討するために、社会と政府の関係を見直しました。
「政府対国民」では対応できない課題も、世の中(広義の社会)は「政府・市場・社会(狭義の社会)」の三つからできている、と考えると分かりやすいです。そして、企業は私益を追求するだけでなく、その活動を通じて世の中を支えているのです。それは、慈善活動などの社会貢献ではなく、企業活動そのものが果たしている役割です。

連載「公共を創る」第270回

2026年9月17日   岡本全勝

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第270回「これまでの議論ー制度ではなく課題の所管を」が発行されました。

「人間らしい生き方への被害」というべき新しいリスクとそれに苦しむ弱者は従来の社会保障制度では救済できず、さらに憲法の考え方にも変更を迫るものです。再チャレンジ政策はこの課題に取り組んだのですが、不十分なままに終わってしまいました。
ところがその後、「人間らしい生き方への被害」「社会生活で苦しむ弱者」への対応は、政策としての統一的方針がないままに、事実上は進展しました。例えば、男女共同参画、働き方改革、子育て支援などは、政府の取り組みとともに、国民の意識の変化と社会の仕組みの転換によって大きく進んでいます。
このほかにも、社会保障制度から漏れ落ちている「弱者」への支援の動きが広がりました。民間では「子ども食堂」です。政府の中でも、2024年から内閣府に政策統括官(共生・共助担当)が設置され、厚生労働省社会・援護局が、地域共生社会の実現に取り組んでいます。

私は、「生活省」(または生活者省)の設置を主張しています。それは、ここで議論している社会生活問題に本格的に取り組むためであり、行政の任務が大きく変わったことを明らかにするためにも必要だと考えるからです。生活者、消費者、社会的弱者を行政の対象とし、その人々を守り、支援する施策です。そのような施策を任務としている課や局を、統合して一つの省をつくるのです。私が対象と想定している事務と部局は、次のようなものです。
【共生社会の実現など】内閣府政策統括官(共生・共助担当)、男女共同参画局
【消費者の保護など】消費者庁、食品安全委員会
【子育てや家庭を対象とする事務】こども家庭庁
【働き方改革】厚労省雇用環境・均等局
【社会的弱者を対象とする事務)厚労省社会・援護局
【定住外国人を対象とする事務】出入国在留管理庁在留管理支援部

公務員の仕事の仕方や発想の仕方に、二つのものがあります。一つは制度を所管するという発想であり、もう一つは課題を所管するという発想です。生活省は、各省に分かれている部局の組織と制度を一つに統合するとともに、「課題を所管する役所」にすべきでしょう。

ところで政府の在り方について、我が国は約40年、「小さな政府」を目指して、業務を切り出して民間に委託したり、民間への規制を緩和したりしてきました。「新自由主義的改革」と呼ばれるように、自由と平等を求める近代の一つの方向であったと言えます。しかし、その努力により目標はほぼ達成したように見えます。
他方で新しい社会の課題が発見され、行政需要は減るどころか、増えているようです。2001年の省庁再編時に各府省設置法に列記されていた929の所掌事務は、2026年度には1157に約2割増えています。人口は減りつつあるのですが、政府と行政への期待は膨らんでいるように見えます。経済産業分野についても、政府による関与を縮小してきたのですが、近年はそれについても政府の役割が再認識されています。

サヘル諸国講師

2026年9月11日   岡本全勝

今日9月11日は、国際協力機構の依頼で、「サヘル諸国・周辺国における地方行政能力強化による強靭な地域・社会形成」研修の講師に行ってきました。去年に引き続きで、もう4度目になります。好評のようです。
参加は、ブルキナファソ、ブルンジ、コートジボワール、モーリタニア、チャド、マリ、ニジェールから11人でした。9月日から広島市で研修を受け、東京に移動して、30日に帰国します。あいにくの天気で、富士山は見えなかったとのこと。

私の担当は、「日本の発展を支えた行政機構」です。この講義は最近しばしばやっています。それを踏まえ資料を加筆し、話す内容の重点も変えています。フランス語の通訳です。言葉より、写真や図が伝わりますね。
講義を繰り返しているうちに、日本の行政機構が機能したのは、社会にそれだけの素地があったからだと痛感しました。国民の資質と努力、社会の安定などです。公務員の汚職に悩んでいる国もあります。それらのよい条件がないと、いくら行政が頑張っても、効果が出ません。社会的共通資本のうち、関係資本や文化資本が重要なのです(「公共を創る」第256回)。そして社会の発展には、官共業のうち、共と業の貢献も必要です。

質問時間を30分取ったのですが、様々な質問が出て、20分延長しました。
講義の内容を理解してもらうことも重要ですが、日本を好きになってもらうこと、「我が国も日本のように発展しよう」と思っていただくことも重要です。