カテゴリー別アーカイブ: 社会の見方

街頭アンケートで個人情報を入手

11月21日の朝日新聞社会面に「街頭アンケート、個人情報入手 6600人分、契約者探しに悪用か 住宅ローン不正申請させ詐取容疑、逮捕」が載っていました。

・・・金融機関から住宅ローンの融資金約2900万円をだまし取ったとして、警視庁は、自営業の高根沢直人容疑者(42)=東京都杉並区=ら男3人を詐欺容疑で逮捕した。捜査関係者への取材でわかった。
警視庁は3人が2019年4月~24年5月、約120人に住宅ローンを契約させ、計約33億8千万円をだまし取ったとみている。捜査関係者によると、3人は他の者と共謀して22年12月~23年2月、不動産投資目的なのに居住目的と偽り、20代男性に住宅ローンを申請させ、神奈川県内の金融機関から2890万円をだまし取った疑いがある。

3人は約120人に住宅ローンを契約させたとされる。なぜ、ここまで多くの契約者を募ることができたのか。捜査関係者によると、警視庁が押収した「名簿」には、約6600人分の個人情報が記載されていた。名簿の個人情報は、街頭アンケートで集められていたという。
「税金は高いと感じますか」「年金対策はしていますか」――。
そんな内容の街頭アンケートが2020~24年、東京・秋葉原や台場であった。声をかけられた人はその場で名前や住所、連絡先のほか、勤務先や収入、持ち家の有無まで記入するよう求められたという。
その後、3人は電話や面会で「みんなやっているから大丈夫」などと住宅ローン契約を持ちかけていた。拒否されると、「何度も説明しているのに、業務妨害だ」などと言ったという。契約者の中には、警視庁の調べに「押しが強くて断れなかった」と話す人もいたという・・・

日本外交、東南アジア重視を

11月17日の読売新聞1面「地球を読む」は、北岡伸一先生の「外交・安保の課題」でした。

・・・とはいえ、日本もトランプ政権の登場に対して、迅速かつ大きな対応が必要となる。今回は外交・安保政策に絞って検討しよう。
第一に必要なのは、日本自身の防衛能力の強化である。
第二が、日米同盟の強化である。
安全保障政策で必要な第三の点は、関係国との安保協力関係の強化だ。米国以外にも、韓国やオーストラリア、インド、さらに英国など欧州諸国との協力強化も重要である。

第四に、私が最も遅れていると危惧しているのが、東南アジア諸国との関係強化である。私は数年前から、日本と東南アジア諸国連合(ASEAN)との関係を飛躍的に強め、欧州連合(EU)のような「西太平洋連合」といったものを作るべきだと考えている。
・・・私は、ASEAN全体はもとより、一つひとつの国々と、長年の経済関係と信頼を基礎に、対等の関係を形成することを目指すべきであると考える。

東南アジア各国はみな、中国経済との結びつきを維持するため、中国と対立するのは避けたいと考えている。とはいえ、中国の従属国家になりたくはない。そのために米国のプレゼンスを必要としているのだ。
・・・EUでは、世界の多くの問題について政府や有識者が意見交換するシステムがある。西太平洋でもこうしたことができないか。

第五は、世界の途上国へのアプローチである。
途上国では、先進国の二重基準への拒否感が強い。アフリカの国々は、英仏の長年の植民地支配を忘れていない。「我々が侵略された時、先進国は何もしなかったのに、ウクライナが侵攻されたら大騒ぎする」と、苦々しく思っている。
彼らの先進国に対する反感が、グローバル・サウスやBRICSの力の伸長の背景にある。しかし、BRICSには世界をリードする力も理念もない。
法の支配に代わって力の支配がはびこる世界となって本当に困るのは、小さく貧しい国だ。そうした国々をもう一度、我々の側に取り戻さねばならない。そのために日本が中心となり、他の先進国を巻き込んで普遍的価値を再定義し、途上国に働きかけるべきだ・・・

『グローバル・ヒストリーとは何か』

パミラ・カイル・クロスリー著『グローバル・ヒストリーとは何か』(2012年、岩波書店)を読みました。『中央公論』11月号「世界史を学び直す100冊」で興味を持ったので。
歴史学の変遷や歴史の見方に興味を持って、いろいろ読んだことがあります。「歴史学の擁護

書店の宣伝文には、「急速なグローバル化が進展するなか,一国史的,地域史的な枠組みを脱して,人間の歴史を世界大,地球大で捉える歴史研究が注目を集めている.それは従来の歴史学と方法論的にどう異なるのか.いかなる理論とナラティヴを特徴とするのか.グランドスケールの歴史叙述を広く見渡しながら,新たな歴史ジャンルの特色を浮き彫りにする」とあります。

グローバル・ヒストリーは、世界史とは違うようです。各国や各地域の歴史を並べるのではなく、地球規模での「流れ」を読み解くと言ったらよいでしょうか。それぞれの地域での独自の発展とともに、共通した発展と、それらの間の相互作用を重視します。
ウォーラーステインの世界システム論や、ジャレッド・ダイアモンドの『銃・病原菌・鉄』、ウィリアム・マクニールの『世界史』などが取り上げられます。ヘーゲルやマルクスもです。

著者は、それらの視点を「発散」「収斂」「伝染」「システム」の4つに分類します。この分類は納得できます。
次に期待したいのは、これら歴史学の成果を踏まえた「世界史」またはグローバル・ヒストリーです。一冊の本にするのは、難しいのでしょうか。

解雇、金銭解決制度で透明性向上

11月1日の日経新聞経済教室、川口大司・東京大学教授の「解雇、金銭解決制度で透明性向上」から。

・・・9月の自民党総裁選では有力候補であった小泉進次郎氏が解雇規制改革を公約に掲げ、賛否両論を巻き起こした。河野太郎氏も解雇の金銭解決を訴えるなど、解雇法制の改革が国民的な関心を呼ぶに至っている。
9月半ばの日本経済新聞の世論調査では、正社員の解雇規制の緩和について「現状の規制は厳しいので緩和すべきだ」との回答は45%で「現状のままでよい」が43%と賛否が相半ばしている。本稿では解雇規制改革が必要な理由を整理し、どのような改革が望ましいのかを提案したい。

解雇法制の改革が提案される背景には、日本の解雇規制が厳しすぎるという認識がある。経済協力開発機構(OECD)が数値化した解雇規制の厳しさの指数でみると日本は平均よりも緩く、厳しくはないという指摘があるが、その指摘は必ずしも正しくない。
日本では不当解雇の救済手段として金銭解決が認められていないため、解雇の際の解決金がないとOECD指標では取り扱われている。そのため金銭解決が「月給の数カ月分」という形で定義されている大多数のOECD諸国と比べると、解雇費用が低く見える。

現実はどうかというと、金銭解決が認められていないため不当解雇に対する救済手段は原職復帰に限られる。しかし裁判を争った企業のもとに労働者が戻るケースはまれで、最終的には金銭的な解決が図られることが多い。その際の解決金の水準が不透明であり、紛争になるケースが多い。
紛争が起こる可能性自体をレピュテーションリスクと考える企業にとっては、解雇はリスクの高い選択だといえる。つまり日本の解雇規制が厳しいという認識は、解雇をしてトラブルになった際に何が起こるかわからないという不透明性に起因しているといえる。

日本における解雇規制の不透明性が、企業内での職種転換による環境適応を多くの企業に強制しているならば、制度の透明性を向上させ、各企業の事情に合わせた選択ができるような環境を整える必要がある。
日本の解雇規制の透明性を高めるためには、不当解雇が起こった時の救済手段として金銭解決を認め、その解決金の水準をあらかじめ設定する必要がある。

筆者と東京大学の川田恵介准教授はその水準を、労働者が今の企業で働き続けたら得られたであろう生涯所得と、転職した際に得られる生涯所得の差とする「完全補償ルール」を提案する。その水準が退職時の月給の何カ月分にあたるかを計算した(表参照)。
この大きさは勤続年数に応じた賃金増加に依存するため、勤続年数が長いほど大きくなる。また勤続に伴う賃金増加は大企業のほうが大きいため、大企業ほど解決金も大きくなる。
日本の多くの正社員は、雇用保障と将来の賃金上昇を見越して長時間労働に耐え、全国転勤にも応じ、スキル向上に励んできた。
これをご破算にしようというような解雇規制の緩和は公正性を欠くし、政治的にも困難だ。日本の雇用慣行を踏まえた現状の解雇法制の大枠には手を付けず、金銭解決制度を導入して制度の透明性を向上させるのが現実的だ。
この制度を採用したうえで、勤続年数と賃金の関係の変化など客観的な指標に基づきつつ、解決金の水準を調整していく仕組みを導入することが望ましい・・・

政治家の「経済オンチ」?

11月15日の日経新聞夕刊に、「「経済オンチ」は一体誰か?」が載っていました。
・・・第2次石破茂内閣が11日、30年ぶりの少数与党として発足した。自民党が10月の衆院選で大敗した理由として政治資金問題ばかりに目を向けては本質を見誤る。もう一つの要因は「経済無策」という野党の批判に抗しきれなかったことにある・・・
・・・野党2党首が選挙戦で批判したように石破政権の経済政策方針は矛盾に満ちている。石破首相(自民党総裁)は衆院選で「最優先すべきはデフレからの完全脱却だ」と主張した。一方でそのために掲げたのは「物価高を克服するための経済対策」だった。
デフレなのか物価高なのか。消費者物価指数の上昇率は、インフレ目標である2%を2年半にわたって上回り続けている。生活者の物価感をデフレかインフレかの二択で示せば、今はインフレだろう。

首相は「経済オンチ」というより確信犯的な政治レトリックを使っているとみるべきだ。インフレ対策なら、金融・財政とも不人気な引き締め策に向かわざるをえない。
ところがデフレという単語は曖昧に解釈できる。「デフレ=経済停滞」と広義にとらえれば、ガソリン補助金のような物価高対策に大義名分が生まれ、有権者にアピールする財政出動に道が開ける。

野党の勇ましい主張も曖昧な経済用語を逆手にとった確信犯的なレトリックに満ちている。国民民主の玉木代表は「賃金デフレ」という言葉を使う。それが指すのは「1996年をピークに下がり続けている実質賃金」だという。
実質賃金は、実際に生活者が受け取る賃金(名目賃金)から物価上昇分を差し引いて計算する。2023年の実質賃金は前年から2.5%も下落した。生活者の不満が与党の大敗の根底にあり「手取りを増やす」という国民民主の躍進につながった。
ただ、実質賃金が下がった最大の理由は手取りが減ったからではなく、消費者物価(持ち家の帰属家賃を除く総合)が3.8%も上がったからだ・・・

・・・本来なら引き締め的な円安対策を講じるのが王道だ。玉木氏はそれを「賃金デフレ」と言い換えることで、所得税の非課税枠拡大といった大幅減税案で有権者の歓心を買うことに成功した。
衆院選で議席を増やしたれいわの山本代表は「30年不況」という厳しい言葉を繰り返す。経済論議の中で「不況」とは通常、景気循環上の悪化局面を指す。
実際の日本経済は、1993年から2020年までの5回の景気循環の中で拡張期は245カ月、後退期は74カ月と成長期の方が大幅に長い。長期トレンドとして「低成長」の状態にあるが、マイナス成長を続けているわけではない。
不況期であれば、失業者の増加を防ぐ即効性のある財政出動と金融緩和が必要になる。山本氏がいう「消費税減税」も検討対象の一つになるかもしれない。
経済状態が不況でなく低成長であれば処方箋は変わる。成長企業に働き手を移す労働市場改革や国際競争力の高いハイテク産業の育成など、複雑な構造改革こそ求められる。野党のように「減税」の一言で政策を語ることはできなくなる・・・