カテゴリーアーカイブ:社会の見方

スマートフォン歯止めアプリ

2026年2月23日   岡本全勝

2月4日の日経新聞夕刊に「スマホ依存脱却アプリ、中高生に人気」が載っていました。

・・・SNSに親しむ中高生らのスマートフォン依存に歯止めをかける日本発のアプリ「Blockin(ブロッキン)」が利用者を増やしている。累計ダウンロード数は100万を超えた。世界で広がるSNS利用のルールづくりが国内で遅れる中、率先して利用を始める未成年が目立つ。10代のスマホ利用時間は1日3時間超と5年で3割増えており、アプリの需要は今後も高まりそうだ。

「21年間、スマホを眺めて過ごす人生をこの先送ることになります」――。ブロッキンに年齢と1日のスマホ使用時間を入力すると、残りの平均寿命から今後の人生でどれだけスマホに費やすかの予想が表示される。
21年という数字は、1日にスマホを3〜4時間使う高校生が「18歳未満」の年齢ボタンを選ぶと出てくるものだ。膨大な時間がスマホに消えることになるかもしれない重みを実感してもらう狙いがある。

総務省の「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」によると、2024年度の10代のモバイル機器の利用時間は平日が平均3時間18分、休日は同4時間18分に上る。新型コロナウイルス禍前の19年度と比べてそれぞれ3割増えた。同省の「社会生活基本調査」によれば15〜19歳の睡眠時間は平均7時間56分(21年時点)であり、起きている時間の4分の1程度はスマホを見て過ごしている計算になる。

いかに「スマホ時間」が長いかを自覚したうえで付き合い方を見直せるよう、ブロッキンは利用者が指定したアプリを一時的に開けなくする機能を提供する。午後9〜11時などと使えない時間を指定したり、「1日1時間」といった形でアプリの利用上限を設定したりすることができる。
23年5月のサービス開始から2年半で累計ダウンロード数は100万を超えた。利用者の7割を中高生が占める。有料利用者は累計で数万人に上るという。受験対策の需要が大きく、夏休みの8月と受験直前の1月に使い始める人が多い。アクティブユーザー(実利用者)は月次で11万人とダウンロード数に対して少ないが、合格後に利用をやめる人が多いためだ。
中高生の9割以上が親のすすめではなく、自らブロッキンを使い始めている。運営会社ブロッキン(東京・渋谷)の山尾佳則代表は「ダウンロードされる時間は深夜が多い。夜中までSNSを見ているときにブロッキンの広告が流れてきて、まさにいまの自分に必要だという危機感から登録している人が目立つ」と説明する。

24年に約500人の利用者を対象にした調査では、スマホの利用が原因で予定していた勉強ができない経験のある人は91%に上り、意図したよりもスマホを長時間使ってしまうとの回答も89%に達した。昨今は勉強中にスマホで調べる学習方法が普及し、物理的に遠ざけておくのは難しくなっている。勉強に必要なアプリは開きながら、ついつい見入ってしまうSNSやゲーム、動画配信サービスに利用制限をかける使い方が主流だ。スマホを排除せずに活用するための現実的な対処法と言える・・・

人工知能が抱える制御不可能性

2026年2月21日   岡本全勝

2月1日の読売新聞、平野晋・中央大学教授の「AI 抱える「制御不可能性」」から。

・・・1972年、米国で欠陥車による死傷事故が起きた。フォード社が突貫で開発した小型車「ピント」は、後方から追突されると燃料漏れが起こりやすい欠陥があった。フォード社はそれを把握しながら放置した結果、火災事故が続発。メーカーの製造物責任が問われる事態となった。
「フォード・ピント事件」から半世紀。現代社会では、急速に進化するAI(人工知能)が、様々な問題やリスクを抱えながらも加速度的に導入範囲を広げている。
こうした状況に、自動車メーカーなどで製造物責任訴訟対応に当たった中央大教授の平野晋さんは、警鐘を鳴らす。リスク、欠陥を抱えたまま社会実装されるのを防ぐには、倫理的・法的、社会的な視点が必要だと訴える・・・

・・・自我に目覚めたAIが暴走して人間を敵と見なし、人類絶滅を図る――。1984年に公開されたSF映画「ターミネーター」は、そんな近未来を描いた作品でした。
私は論文や講義で、「ターミネーター」などディストピア(反理想郷)を描いた映画や神話などを例に出し、科学技術の戒めを伝えることに力を入れてきました。科学技術への制御能力を持たなければ人間自身が窮地に立たされる、ということが現実に起こりうるからです。しかし、一部の起業家やエンジニアからは「フィクションを引き合いに出して開発を阻害するな」と批判も浴びてきました。

そんな中、登場したのが生成AIでした。指示文を入力するだけで文章や画像・動画が瞬時に生み出される利便性から急速に普及していますが、同時に深刻な社会問題を引き起こしています。
実在する人物の画像や動画を性的に加工した「性的ディープフェイク」の被害は、世界中に広がっています。政治家や著名人の偽音声が作られ、詐欺に悪用される事件も起きています。殺人兵器のアンドロイドが他人の偽音声で電話をかける「ターミネーター」の1シーンが、フィクションではなく、現実となっているのです。

懸念すべき問題はそれだけではありません。
今のAIは、予測できない判断・動作をする「制御不可能性」を抱えています。もし、制御不可能なAIを搭載した車やロボットが何らかの事故を起こしたとしたら――。製造物が事故を起こした場合の製造業者の賠償責任を定めた「製造物責任(PL)法」に照らせば、事故を起こす可能性を認識しながら、市場に送り出した製造業者の責任は免れません・・・

・・・AIの判断は必ずしも公正ではない、という問題もあります。
人事採用を例に考えてみましょう。日本でも採用面接などにAIを導入する企業が増えているようです。ある企業でAIによる面接を受けた私のゼミ生の話では、画面の向こうのアバターが面接し、採点や合否判定にもAIが使われたそうです。
確かに、AIは応募者を統一したルールで振り分けることは得意です。しかし、応募者の背景事情や潜在能力といった数値化できない情報は読み取れません。正確さを追求すると公正さが減退する場合もあることが知られています。
実際、米アマゾンで過去の応募者の履歴書を基にAIで技術者の新規採用を行ったところ、採用者が男性ばかりになるといったことが起きました。過去のデータに照らせば「必ずしも不正確ではない」と主張する人がいるかもしれませんが、決して「公正」ではありません・・・

・・・自身、AI自体を否定するものではありません。原則、どんどん研究開発を進めるべきだと考えています。事務作業に導入できれば、人間は思考やアイデアが必要な業務に時間を割くことができます。ワーク・ライフ・バランスの改善にもつながるでしょう。
では、どう開発し、社会実装につなげていくか。重要となるのが「予防法学」です。健康診断を定期的に受けて生活を改善し、病気を未然に防ぐ「予防医学」のように、AIの活用が不法行為につながったり、人間の権利を侵したりすることがないよう、事前にリスクを予見し、法的に対策するというものです。
予防法学の実践には、AIの開発者側、利用者側の双方が「倫理的・法的・社会的課題=ELSI(エルシー)」を見つけ、検討する力を養うことが求められます。
ELSIは、Ethical(倫理的)、Legal(法的)、Social(社会的)、Issues(課題)の頭文字を取った略語です。誕生のきっかけとなったのが、米国で1990年に始まった、人の全遺伝情報を解読する「ヒトゲノム計画」です。計画を進める上で、遺伝情報の解読が差別につながる懸念や、個人情報やプライバシーをどう守るか、新たな法規制が必要になるのではないかといった課題が浮き彫りになり、ELSIの研究も行われることになりました・・・

デジタル技術を合意形成に使え

2026年2月20日   岡本全勝

1月28日の朝日新聞オピニオン欄、自然哲学者・鈴木健さんの「デジタルが民主主義を救う」から。
・・・衆院選が公示された。世界を見渡せば分断が深刻化し、「選挙で勝ったら白紙委任」とばかりに独断専横をはたらく権力者が喝采を浴びている。意見が異なる他者との対話や、熟議を取り戻す手だてはないのか。かねて社会の分断を憂慮し、「デジタル民主主義」を提唱してきた鈴木健さんに聞いた・・・

―初めてお会いしたのは12年前。複雑な世界を複雑なまま生き、誰も何も代表しないしされない「なめらかな社会」の構想にときめきましたが、いまや分断線が引かれまくりでなめらかどころかガタガタです。
「僕はトランプ氏が大統領になる前の2016年頃から米国の田舎をまわりながらアメリカの分断が加速するのを目撃してきました。アメリカの分断をどうにかして食い止められないかと試行錯誤をしてきたのですが、感情的分断が進みすぎて互いを共感できなくなってしまい、なかなかむつかしい」
「世界はどんどん専制主義に傾き、民主主義国の人口は世界全体の28%と、冷戦崩壊前の水準に戻っています。そんな中で、幸いにも母国・日本ではまだ民主主義が安定的に機能している。欧米のような激しい分断が起きていないことが大きな要因ですが、いまのうちに何か手を打つ必要があります」

―安定……。皮肉ですか?
「いえ、日本はいまや民主主義国のお手本、フロントランナーです。周回遅れで走っていたら、前を行く走者がどんどん脱落し、いつの間にか先頭にいたという感じではありますが、政治的、党派的な対立が、欧米に比べれば激しくありません」
「分断のフェーズには3段階あると言われます。政治的分極化→政治的暴力→内戦。米国はすでに第2フェーズに入り、暴動や暗殺が起きている。分断の本質的な問題は、意見が割れることではありません。たとえ意見が違っても、相手のことを尊重し、対話を通じて合意点を見いだそうとする態度が極端に希薄化し、対話不能に陥ることこそが問題なのです」

「インターネットの出現と冷戦の終結によって、情報と経済システムにおいては革命的変化がもたらされたのに、政治システムはほとんど変わっていない。これが問題の核心です。民主主義もテクノロジーのひとつなのだから、進化に応じて変えていくのは当然のことです」

―民主主義がテクノロジー? 頭が追いつきません。
「さかのぼれば、集会で拍手による『喝采』で代表が選ばれていた時代もありました。それがいつしか、誰に投票したか見られないように投票用紙に名前を書いて、後から集計する方法が一般的になった。両者は全く異なるテクノロジーです。米大統領選挙が火曜日に行われるのは、日曜日には教会に行く必要があり、投票所に行くのに馬車で1、2日かかるから。リアルタイムに人々の意見を聞くテクノロジーがなかったからそうなっているだけなのです。伝統や慣習はおろそかにするべきでないですが、それにしても、瞬時に人びとの意見を集約できるテクノロジーがあるのに、馬車の時代のやり方を続けることに理や利があるでしょうか」

―失礼ながら12年前にはやや荒唐無稽に聞こえた構想も、AIの急速な進展を目撃した今は違いますね。人々の声をAIで収集・分析し、政策立案に活用する政党も出てきています。
「自分たちの声が可視化され、国や自治体の意思決定に反映されていく仕組みを作る。声を聞いてもらえ、場合によっては政策に取り入れられる。この回路を信じられなくなると、極端な意見を欲するようになります。SNSはそうした声を増幅する反社会的な装置として機能し、最終的には人びとを政治的暴力に駆り立ててしまいます」

―AIで意思決定を自動化するアイデアも出ていますが。
「意思決定には、不満を持っている人たちにも『納得はしていないが仕方がない』と思わせる『正統性』が欠かせません。それをAIが持つことは難しい。僕は意思決定をAIに任せるよりも、人間がAIの支援で行った意思決定を、AIを使って行政の執行を自動化する方が重要だと考えます。政策にせよ法律にせよ、意思決定通りには実行されないことがほとんどで、行政マンの裁量が入り込んで意思決定が歪曲される。執行し、苦情を集めて整理して、緊急度が高いものにはすぐに対応するようアラームを鳴らす。人間よりもAIの方がうまくやります。行政マンは市民との対話や政策デザインに時間を使えるようになります」

人災による文化財の損傷

2026年2月16日   岡本全勝

1月26日の朝日新聞が、「文化財 危機と未来 悠久の宝、災害から守るには」を載せていました。
・・・私たちは「大災害時代」を生きている。悠久の時を刻む文化財たちも例外ではない。その歩みは被災と復興の繰り返しであり、それぞれの来歴を知ることは文化財の未来を占うことに等しい。先人が残した宝を次世代に引き継ぐため、いま私たちにできることはなにか。まずは被災の歴史を振り返ることにしよう。
1949年1月26日、奈良・法隆寺の金堂壁画が燃えた。酷寒の模写作業中で電気座布団の切り忘れが原因ともいう。日本が誇るアジア仏教美術の至宝の焼損が放った衝撃は翌年の文化財保護法のスピード制定につながり、被災の日は「文化財防火デー」として痛恨の記憶を後世にとどめている・・・

そして、写真ともにその後の文化財の損傷が載っています。台風や地震は仕方ないとしても、人災、主に火災が多いことに驚きます。
1950年7月2日には、金閣寺が放火で全焼。1954年8月16日には、京都御所内の小御所が、花火大会の打ち上げ花火の落下傘で全焼。1956年10月11日には、比叡山延暦寺大講堂が全焼。1976年1月6日には、平安神宮本殿や拝殿が放火で全焼。2019年10月3日には、首里城が炎上(電気設備からか)。
せっかく長年にわたって大切に保存されてきた建物が、こんなことでなくなるとは。

新聞社社長に必要なもの

2026年2月15日   岡本全勝

日本経済新聞社は、次期社長に飯田展久専務が社長に昇格する人事を内定しました。経歴を見ると、記者の出身ですが、編集局長を経ず、情報サービス部門から就任されるようです。

新聞社の組織の中では、記事を書く編集部門が最右翼です。記事が商品なのですから。しかし、優秀な記者が良い経営者になるかというと、そうではないでしょう。求められている能力が違うのです。良い料理人が良い経営者になるとは限らない、良い選手が良い球団経営者になるとは限らないことと同じです。
新聞社も企業ですから、そしてかつてのように良い記事を書けば売れる時代でなくなったので、どのようにして「稼ぐか」が課題です。日経新聞は、それを前面に出したと思われます(間違っていたらごめんなさい)。
外国なら、会社の外から経営の専門家を呼ぶこともあります。でも、私は、記者のようにその会社の第一線の経験があり、その苦労がわかっている人が幹部になる方が、経営にも良いと思います。

この記事には「日経電子版の有料会員数は24年12月に100万人を超え、英フィナンシャル・タイムズなどを含めた有料ID数は世界3位に成長した」ともあります。
他方で、2月6日の読売新聞「民主主義 揺らぐ恐れ 米紙大リストラ メディア縮小 権力監視機能低下」は、ワシントン・ポスト紙が従業員の3分の1を解雇したことを伝えています。アメリカでは、主な日刊紙の発行部数が1980年代の6200万部から、2025年には1525万部と、4分の1に落ち込んでいます。2005年に8900紙あったのが、3500紙に減少しています。ニューヨーク・タイムズが内容を拡充し収益を多様化したのに対し、ワシントン・ポストはオンラインの収益化で苦戦したのだそうです。
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