「社会の見方」カテゴリーアーカイブ

大学での英語の授業

4月28日の日経新聞に「30年後の大学、留学生が3割 英語での授業当たり前に」が載っていました。
・・・日本に留学する若者が増えている。一部の大学では多国籍なキャンパスが既に実現。勢いを保てば学生の2〜3割が留学生、英語での授業は当たり前という未来が近づく。2050年の18歳人口は今より4割近く減るかもしれないが、日本で就職する留学生も増え、職場に活気をもたらすはずだ・・・
国立大学協会は、3月にまとめた将来像で、国立大学の留学生比率を2040年までに3割に高めるとしました。東大は2027年に修士まで5年一貫の新課程を創設し約半数を留学生とします。

明治維新で欧米を目指した際、お雇い外国人の教師たちで、大学は英語の授業でした。それを日本語に転換したのです。ラフカディオハーンの次の英語教師が、夏目漱石(金之助)でした。
大学院の授業や医学の授業を、英語など世界の大言語でない自国語でできる国は少ないのです。先達の苦労のおかげであり、教科書が売れるだけの需要がある人口だったからです。
日本と異なり多くの後発国では、教科書は英語であり、エリートはアメリカなどに留学します。大学、大学院まで日本語ですませられることは、ありがたいことですが、その結果、明治時代のエリートや諸外国のエリートに比べ、日本のエリートは英語が下手になりました(自らを省みて反省)。
この項続く

日本語の表記2

日本語の表記1」の続きです。今回は、縦書きと横書きについてです。
朝日新聞夕刊の「朝日新聞」という題字が、横書きになりました。もっとも、日曜日の紙面Globeは、かなり前から横書きでしたし、紙面の中には、横書きの記事もあります(Globeも、カタカナの「グローブ」でなくアルファベット表記です)。
ウエッブの画面では、どの報道機関も横書きです。公文書(行政文書)も、法令や表彰状などを除き横書きです。書物は、理科系や語学は横書き、そのほかは縦書きが多いです。

いずれ、新聞紙面も書物も、ほとんどが横書きになるのでしょう。理由は次の通り。
朝日新聞については、題字を横書きにするのですから、近いうちに本文も横書きになるのでしょう。というより、なぜ題字だけ横書きにしたのでしょうか。
多くの人は、ウェッブ画面になじむと、横書きが普通だと思うようになるでしょう。
そして一番の理由は、文章の中にアルファベットが多用されると、横書きがなじむのです。縦書きの文章に長い英単語を入れるのは、読みにくいです。アラビア数字もそうです。

私は、安易なカタカナ語(カタカナ英語)や、英単語をアルファベット表記のまま日本語に取り込むことは反対なのですが。時代の趨勢は、英単語をそのまま受け入れる方向に進んでいるようです。それを象徴するのが、会社の名前です。日本語だった会社名を英語やアルファベットに変え、新しくつくる会社名を英語または英語のような名前にすることが多いようです。
もっとも、1500年ほど前に漢字を知り、それを取り入れました。そして文字とともに、音読みも取り入れました。訓読み(従来の日本語)に加えて、外来語である漢字と音読みを取り込んで、その後の日本語ができあがりました。「日本」という国号も漢字でできていて、古来の大和言葉ではありません。今なら、「JAPAN」を国号にするようなものです。

いま、再び外来語を取り込むことになったと、見ることができます。漢文から英語に乗り換えるのです。すると、文字も書き方(縦書き、横書き)も変わるでしょう。
この項続く

異性との出会いはマッチングアプリで

5月10日の日経新聞「くらしの数字考」は、「アプリ婚、今や4人に1人 社内結婚は減少傾向」でした。
・・・こども家庭庁が2024年、15〜39歳の男女2万人を対象に調査したところ、既婚者の4人に1人が「アプリで出会った」と答えた。アプリが婚活の「主役」に躍り出たのはなぜだろうか・・・

記事によると、2022年のある調査では、30代以上は男女ともに80%が「合コンに行ったことがある」と回答したのに対して、20代前半の合コン経験者は男性は38%、女性は50%です。夫婦の出会いのきっかけについて「職場や仕事」は1992年の35%から2021年の20%台と低下しています。
対面で直接切り出すことを避けて、まずはマッチングアプリで探すのでしょうか。

他方で、マッチングアプリでは、公開している個人情報を誰が見ているかわかりません。詐欺被害にある可能性も指摘されています。警察庁によると、詐欺被害にあった男性の約3割が、マッチングアプリでの出会いがきっかけだそうです。

かつて街にも列車にもゴミがあふれていた

5月2日の朝日新聞「写真館 since1904」は「あふれるごみ ポイ捨て、今は昔」でした。
・・・日本はかつて「ごみの国」だった。
そう書きたくなるような写真の数々だ。海水浴場や動物園、観光地に向かう列車内はごみであふれ、東京の川はごみ捨て場と化した。
今ではポイ捨てを禁止する条例が各地にでき、道端のごみにも目を光らせる。時代は変わり、清潔が正義になった。5月3日は「ごみの日」・・・

そして、1969(昭和44年)の神奈川県鎌倉市の材木座海岸、1952(昭和27年)文化の日の東京・上野動物園、1968(昭和43年)の国鉄房総東線急行列車車内、1965(昭和40年)の東京・目黒川、1950(昭和25年)の東京・銀座の風景写真が載っています。
いずれも、ゴミであふれています。
日本人が公共の場でゴミを捨てなくなったのは、まだ最近のことなのです。

発展途上国政府幹部に日本の成功(行政の役割)を話す際に、日本人の清潔さ、決まりを守ること、社会的つながり(社会関係資本)が、その基礎にあったことを説明します。すると、多くの参加者から、「我が国は無理だ」との反応があります。
その際に、「いえいえ、社会の規律はつくるものです。明治初年に来た外国人は、日本人が時刻を守らずだらしない、と嘆いています。なのに、今では電車が1分遅れただけで、車掌はお詫びします。またかつては、電車の中もゴミだらけだったんですよ」と話すと、皆さん驚きます。

数十年後には、「かつて日本人は歩くときに、スマホを見ずに、背筋を伸ばして歩いていた」と写真が載るのでしょうか。

自由と平等が進むと社会が分裂した

4月27日の読売新聞「あすへの考」は、佐伯啓思先生の「「米主導」没落 文明並立へ」でした。いつもながら鋭い分析です。ここでは一部しか紹介できないので、原文をお読みください。

・・・トランプ氏が高関税など独善的政策を強行しています。特異な米大統領の突拍子もない好き放題が耳目を引きますが、私は「トランプ現象」の由来に着目します。
第一は民主党のリベラル的政策の破綻。多様性確保や性的少数者擁護を「ポリティカル・コレクトネス(政治的公正)」を盾にして一つの正義にし、反感を買った。
第二は米国東部・中西部の「ラストベルト(さびついた工業地帯)」が物語る、製造業の衰退と白人労働者らの困窮。
第三は司法・行政などの専門家に対する大衆の信頼の喪失。専門家は利己的で、公正な判断を怠っていると多くの国民が受けとめた。

私は次のように考えます。
個人の自由や権利の平等を尊ぶ自由主義は米国の中心的価値です。ただ多様性や少数者をめぐり自由と平等の徹底を図ったことで、かえって社会が分裂した。中心的価値が齟齬をきたしたのです。
ラストベルトは世界規模の経済競争の結果です。米国は鉄鋼など国際競争力を失った製造業を見捨て、情報技術(IT)と金融を最重視する政策転換を敢行した。米国型ITと金融は国際市場を制したが、一握りの人間が利益の大半を手にする事態となり、貧富格差が甚だしく拡大した。ITは虚偽情報の洪水を起こし、社会の秩序と道徳の混乱を招いた。
トランプ現象はグローバル化が破綻していることの反映です。トランプ氏が高関税で自由貿易を破壊していると見るのではなく、グローバル化で自由貿易がうまく機能しなくなる一方で、市場競争に代わる制度を見いだせない状況下で、トランプ氏は強引に事を運んでいると理解すべきでしょう。

グローバル化は東西冷戦でソ連に勝利した米国の自由主義・市場競争・IT・金融が一気に世界に拡大した現象です。米国には独特の歴史観があります。「アメリカニズム(米国型)」は普遍的であり、世界が米国型を採用し、同じ一つの方向に進めば国際秩序は安定し、人類は幸福になるという信念です。
実際には米国型は米国の風土の産物です。その担い手は「ワスプ(アングロサクソン系プロテスタント白人層)」でした。古代ギリシャ・ローマを範とするエリート主義です。この支配層が道徳観と責任感を共有し、国を動かした時代は自由・民主主義はうまく作用した。綻びが生じたのは1960年代。人種的少数派の黒人が公民権運動を通じて政治に参画するようになったことです。ワスプは米国型の人権の普遍性という建前に縛られて、自らの支配を手放す行為に至ったともいえます。以後、多文化主義が台頭し、国論の分裂・対立が常態化してゆきます。
一方、自由主義経済学の根本理念、「私益は公益なり」はグローバル化の経済には通用しなかった。企業が利益を求めて生産拠点を国外に移転すれば、国内の製造業は空洞化する。私益の追求は公益に直結しないのです・・・

・・・私見では「冷戦後のグローバル化」「100年に及ぶ米国型の普遍化」「250年に及ぶ欧州近代社会」という三つの試みが今、全て機能不全に陥っているのです・・・