カテゴリーアーカイブ:社会の見方

インスタントラーメン、イノベーションの時代

2019年3月29日   岡本全勝

3月26日の朝日新聞オピニオン欄「すぐおいしい即席麺60年」、西口敏宏・武蔵大学客員教授の発言から。

・・・インスタントラーメンは、大成功したイノベーションの一つです。即席麺を作る加工技術の発明よりも「安くて簡単ですぐ食べられる」という、それまで気づかれていなかった広大なマーケットを開発した意味が大きいと思います。世界への広がりやその速さは、生み出した安藤百福さんが思っていた以上だったのではないでしょうか。
日本でこのようなイノベーションが出てきたのは、戦後すぐから1960年代初めにかけてです。軍国主義や全体主義で押さえつけられてきた様々な能力が、産業だけでなく、文芸や映画などの芸術でも一気に花開いた時期です。国内外で市場が急拡大していたので、発明がニーズに合えば、ものすごくもうかる時代でもありました。
日本発では、インスタントラーメンのほか、トヨタ生産方式があります。参加者の意欲を引き出して作業を絶えず見直す「カイゼン」は、今も自動車産業だけでなく、サービス業や、特に英米圏での政府の仕事の仕方にも影響を与え、人類の歴史に残る貢献をしていると思います。

日本は長く欧米を追う立場でした。実際に見たり、触れたりできる具体的な課題を解決する能力にたけているため、特に製造業で追うことに向いていました。80年代後半から90年代に追いつき追い越そうというときに、満足してしまいました。目標を見失ったと言うべきかも知れません。生き残るためには「追いつき型」から脱皮し、ビジネスの仕方を根源的に変えなければならなかったのです。
逆に製造業が衰退していったアメリカは、90年代後半から一人勝ちです。起業家が新しい世界の諸資源のつなげ方、使い方を発見しようとITに向かい、イノベーションが束のように出てきました。グーグルやアップルなど、インターネットを使ったビジネスで、今や基幹産業です・・・

ボストン市民社会の文化人類学2

2019年3月27日   岡本全勝

ボストン市民社会の文化人類学」(渡辺靖著『アフター・アメリカ』)の続きです。P239以下に、「居場所の喪失」が書かれています。

ボストン・ブラーミンとボストン・アイリッシュという2つの集団。彼らの生活を支えていた「居場所」の感覚が、戦後急速に希薄になります。
ブラーミンは、経済的社会的特権地位を低下させることによって。アイリッシュの方は、経済的社会的に上昇することによってです。かつての区切られた地域から出て、他の地域に住むことや、他の社会集団と結婚することが、それを加速します。
それぞれの集団の中で助け合い、他方で他の集団とは交わらずに暮らしていた人たちや家族が、個人主義が進むことで、その結束が崩れていくのです。
「日本は欧米に比べて家族主義(家族の束縛)が強く、個人主義が育っていない」という主張がありますが、個人主義と思われるアメリカでも、結構そうではないのです。

とはいえ、人間は一人で、無色透明な空間に生きているのではないことを、再認識します。

林宏昭著『日本の税制と財政』

2019年3月26日   岡本全勝

林宏昭著『日本の税制と財政』(2019年、中央経済社)を紹介します。

大学の財政学の講義(通年)で、半期を税制に充てる際の教科書、として書かれています。
次のような章立てになっています。
1市場の失敗と税、2政府支出と税、3望ましい税とは
4所得課税論、5日本の所得税制、6日本の所得税制の論点
7消費課税論、8日本の消費税
9法人に対する課税、10日本の法人税
11所得再分配と社会保障、12フィスカルポリシーと税制、13地方財政と地方税制

確かに、租税理論や税制の全体をこのようにまとめた本って、なかなかないですね。
専門家向けの詳しい解説や、財政学の中で数章充てられている本は、たくさんあるのですが。

ボストン市民社会の文化人類学

2019年3月25日   岡本全勝

渡辺靖著『アフター・アメリカ ボストニアンの軌跡と<文化の政治学>』(2004年、慶應義塾大学出版会)を読みました。いつか読もうと思っていたのですが、思い立って。面白くて、引き込まれました。勉強になりました。

アメリカ発祥の地、ボストン。そこには、伝統的な階級社会があります。アメリカ最古で最上の名門家族である「ボストンのバラモン」。他方で遅れてやってきた、アイルランド系移民家族の「ボストン・アイリッシュ」。彼らもまた、アメリカンドリームを実現して、中流の地位を占めます。そして、その後から来た移民が、その下の階級を形成します。
アメリカは、しばしば「保守とリベラル」「白人と黒人」と色分けされますが、白人社会にも、このような階級が存在します。

著者は、アメリカ人でない(日本人留学生)という立場にもかかわらず、勇猛果敢にこの人たちにインタビューを試み、実現します。そして、時には「語りたくない話」を聞きます。
まだ、電子メールがない時代です。その苦労は、並大抵だったではないでしょう。
一読をお勧めします。この項続く

輸入思想

2019年3月24日   岡本全勝

朝日新聞1月31日の論壇時評、小熊英二さんの「富山=北欧論争 リベラルは上滑りなのか」から。
小熊さんは、井手英策さんの『富山は日本のスウェーデン』(2018年、集英社新書)を紹介したあと、次のように述べています。

・・・もっとも井手は、富山のこうしたマイナス面も著書に書いている。そのうえで彼は、スウェーデンもかつては家族総出で働く保守的で家父長制的な社会だったこと、西欧をモデルにするばかりではいけないことを指摘し、こう述べている。
「リベラルの議論がどうしてもうわうすべりな感じがして仕方ないのは、社会の根底にある土台、風土や慣習のようなものと、そのうえに据えられる政策とがうまく噛みあっていないからではないか・・・保守的な社会の土台を見つめ、その何が機能不全となり、何が生き残っているかを見きわめる。そしてその土台にしっかりと根を張れるような、まさに地に足のついた政策をリベラルは考える責任がある」・・・

私はこの指摘に納得しているのですが、小熊さんは、井手さんの主張を批判しています。原文をお読みください。

いつものことながら、古くなって恐縮です。書こうと思って、切り抜いてあったのですが、他のことにかまけていて。資料にしろ本にしろ、すぐに他の資料の中に埋もれて「行方不明」になってしまいます。それが、ひょっこり出てきて・・。