カテゴリーアーカイブ:社会の見方

生産性の劇的向上はもう起こり得ない

2019年6月11日   岡本全勝

6月6日の朝日新聞オピニオン欄、経済学者のロバート・ゴードンさん「低成長時代を生きる」でした。
「画期的発明による生産性の劇的向上はもう起こり得ない」
・・・人工知能(AI)に自動運転、5G。世はイノベーションの話題で満ちているのに、いま一つ経済に元気がない。「長期停滞論」の火付け役の一人、米国の経済学者ロバート・ゴードンさんは「もはや輝かしい過去の再現はあり得ない」という。私たちはもう「低成長」という長いトンネルから抜け出すことはできないのか・・・

「私は1870年からの100年間を、『特別な世紀』と呼んでいます。電気やエンジンといった偉大な発明のおかげで、生活水準と生産性が劇的に上がりました。かつて大半の人々は農村に住み、男性は死ぬまで過酷な労働に耐え、女性は朝から晩まで家事に縛られていました。それが第2次産業革命の数十年で、都市での快適な暮らしへと移ったのです。これは人類史において一度限りの出来事で、匹敵する変化を再現することはもうできません」
「エジソンが電灯を発明したのは1879年ですが、第2次世界大戦前には米都市部のほぼ全世帯に電気が届きます。製造業の動力も蒸気機関から電気に代わり、経済の効率が劇的に上がりました。電灯とほぼ同時期に発明されたエンジンが、自動車や航空機を動かすようにもなりました。こうした発明を土台に、1970年までの半世紀は、毎年ほぼ3%のペースで生産性が伸び続けました」

――70年代に低成長に陥ったのは石油危機がきっかけでは。
「ちょうどそのころ、偉大な発明の効果がほぼ出尽くしたのです。米国ではエアコンが行き渡り、蒸し暑い南部でも快適に仕事ができるようになりました。高速道路網が整い、飛行機もプロペラ機からジェット機に代わった。以来、これら偉大な発明に匹敵する革新は生まれていません。この構図はどの先進国も同じです」
――その後も「第3次産業革命」が起きたはずです。
「デジタル革命ですね。メインフレームと呼ばれる大型コンピューターに始まり、80年代にパソコンが台頭。タイプライターも書類棚も不要になりました。みんながインターネットにつながる時代を90年代に迎え、ここで少し生産性が持ち直しました。しかし、その効果も2005年までにはピークを過ぎました。『特別な世紀』が70年代で終わったように」
――アップルのiPhone(アイフォーン)が登場したのは07年ですが。
「スマートフォンは素晴らしい発明で、消費者の暮らしを便利にしたのは疑いありません。しかし、恩恵は娯楽や通信といった分野が中心です。電気やエンジンほどには、幅広いビジネスの本質を変えたり、生産性を高めたりはしていません。むしろパソコンの発明の方が根本的な革新でした」

参考「例外時代

発掘された日本列島2019、続き

2019年6月10日   岡本全勝

昨日書いた「発掘された日本列島2019」で、大切なことを忘れていました。
本展示のほかに、特集の棚があります。その1が、「福島の復旧・復興と埋蔵文化財」です。
南相馬市、浪江町、双葉町、大熊町、富岡町、楢葉町、広野町での発掘調査結果が展示されています。

津波被災地では、高台移転のための予定地で、緊急発掘調査をしました。早く調査を終えて、住宅建設をするために、全国から調査員に応援に入ってもらいました。
発掘された日本列島展では、それらの調査成果も展示されました。参考「発掘された日本列島展2015

保守勢力としての労働組合

2019年6月10日   岡本全勝

6月1日の日経新聞オピニオン欄、藤井一明・経済部長の「フリーランスが崩す岩盤 働き方改革、複眼的に」から。
・・・平成が幕を下ろすのを待ち構えていたかのように、JR東日本の労働組合から組合員が大量に流出している。2018年2月に約4万6千人いた最大労組の組合員数は改元を間近に控えた19年4月で約1万1千人にまで落ち込んだ。ほかの労組も含め、加入している人の割合を示す組織率はかつての9割から3割に急落した・・・

記事には、労働組合の組織率の各国比較もついています。スウェーデンの67%を例外として、イギリス24%、日本17%、ドイツ17%、アメリカ10%、フランス8%です。
半世紀前と、全く様変わりしました。労働者の待遇がよくなり、労組に加入する利点が見えません。また、政治的には共産主義・東側に近かったのですが、冷戦の終結でその意義もなくなりました。

記事では、他方でフリーランスが増えていることを取り上げています。ここでは、それに関して、労組の問題を取り上げましょう。フリーランスのほかに、非正規社員もいます。この人たちは、既存労組に入っていません。
かつて労働組合は、「市民との連帯」というスローガンを掲げていました。しかし、その人たちとの連帯を進めることなく、正規職員の利益を守ったようです。ここに、労組が革新勢力ではないことが見えてしまったのです。

発掘された日本列島2019

2019年6月9日   岡本全勝

恒例の「発掘された日本列島2019展」に行ってきました。家形埴輪など、今年も、すばらしい発見がたくさん並んでいます。
今日も、文化庁の専門家の解説がある時間に行って、解説を聞きました。毎年、その前に行って、一通り見てから解説を聞くのですが。一人で見ていては気づかなかったことを、たくさん教えてもらえます。

このあと、1年かけて全国を回ります。近くに来たら見に行ってください。

セレンディピティ

2019年6月8日   岡本全勝

モートン・マイヤーズ著『セレンディピティと近代医学ー独創、偶然、発見の100年』(2010年、中央公論新社。中公文庫に再録)を読み終えました。
セレンディピティとは、幸運な、意外な発見という意味です。特に、何かを探しているときに、探しているものとは別のものを見つけ出すことです。
この本は、近代医学が、いかに偶然による発見によって進歩したかを、実例を挙げて説明した本です。

青カビからペニシリンを見つけたことは、有名ですね。ペニシリン発見の偶然も、詳しく読むと、かなり幸運な偶然です。ところがこの本を読むと、出てくるわ出てくるわ、次々と同じような例があるのです。
科学者が、それまでの知見の上に推理を重ね、実験を続けますが、うまく行きません。その分野の大家でない新人が、偶然、びっくりするような発見をします。しかし、なかなか学界では認めてもらえないのです。もちろん、素人が偶然に遭遇しても、発見にはつながらないのですが。
読んでいくうちに、あまりにそのような例が多いので、食傷気味になるほどです。近代医学の発展は、直線的でなく、偶然の積み重ねだとわかります。