カテゴリーアーカイブ:社会の見方

ストレンジ著「国家と市場」

2021年2月22日   岡本全勝

スーザン・ストレンジ著『国家と市場ー国際政治経済学入門』(2020年、ちくま学芸文庫)を読み終えました。1994年に出版されたものが文庫化されたのです。原著は、1988年にイギリスで出版されています。
この本で主張された構造的権力と関係的権力について私は眼が開かれ、このホームページでも何度か紹介しました。「構造的権力」「アメリカが広めたもの・資本主義経済、自由主義、多国間統治
構造的権力を勉強するために、単行本を探して読みました。20年ほど前のことでしょうか。今回文庫本になったので、寝転がって読みました。単行本だと、たぶん再読しなかったでしょう。ありがたいことです。

ストレンジの主張する構造的権力を、私は少し違って理解し、使っていることに気がつきました。この考え方は、現在の国際政治経済学や政治学では、どのような評価と位置づけになっているのでしょうか。経済学で言う「経路依存性」なども、この考え方と類似の発想だと思うのですが

ところで、単行本でも気になっていたのですが、図2が間違いだと思います。四つの構造的権力(安全保障、生産、信用、知識)の関係を説明する際、本文では「四つの面を持った三角形、三角四面体」と書かれているのですが、図では四つの三角形と一つの四角形の五面体になっているのです(文庫版p74)。

国民に負担を強いる、差をつける

2021年2月16日   岡本全勝

治療の選別」の続きであり、「世論調査項目、賛成ですか反対ですか」「憲法を改正できない国、その2」の続きにもなります。
国民に負担を強いることを考えてみます。それを喜ぶ人は少なく、どのように合意を取り付けるかが、政治の仕事になります。
それは、増税や公的保険料の値上げといった金銭負担だけではありません。外出禁止、行動制限、営業自粛など、国民の行動を制約する場合もあります。
負担そのものが反対されるだけでなく、誰にどのように負担を分配するかが議論になります。「公平」は一律に決まりません。利益を配る際にも、国民の反発を引き起こすことがあります。困っている家庭に30万円配るか、全員に10万円配るかは、これに当たります。

困っている人を助ける、それが金銭給付の趣旨でしょう。そして原資が限られているなら(通常はそうです)、なるべく効果があるように絞り込むべきでしょう。特定定額給付金の決定過程は、この問題を考えさせます。当初、収入が減った家庭を対象に30万円を給付する案でしたが、最終的には全世帯に10万円を配ることになりました。高額所得者をも、対象としたのです。

戦後日本が達成した「平等」は、他方で「国民に差をつけることができない」ことをも招いたようです。欧米をお手本に努力した時代は、国民もその憧れに向かって頑張り、また辛抱しました。経済成長期は、その果実を分配することですみました。しかし、成長が止まったとき、高齢化で負担が増える時代には、政治の役割は利益の分配から負担の分配に変わりました。そこに、政治の力量が問われます。

役所で行われる「改革」(組織人員の削減)の際の手法に、一律削減があります。予算要求の際の一律シーリング(予算要求額の上限、例えば前年比5%減とか)もそうです。「みんな一緒です」は受け入れられやすく、しかし説明、説得、判断を放棄した手法です。
その中でも官僚が編み出した「差をつける手法」が、一律削減を大きめに行い、生まれた「財源」を新しい政策や組織に回すことです。

「見えざる手」から「見える手」へ

2021年2月16日   岡本全勝

2月7日の読売新聞あすへの考、小島武仁・東大教授の「マッチング理論――行動する経済学「見えざる手」から「見える手」へ」から。
「保育園の待機児童、臓器移植のドナー(提供者)探し、そして新型コロナウイルスのワクチン接種――。こうした現代の諸課題に対し、経済学やコンピューターサイエンスの知見を基に制度を設計し、最適解を示す「マーケットデザイン」という学問がある。
この分野で「世界をリードするトップ研究者」と評される小島武仁氏が昨年秋、米スタンフォード大教授を辞し、東京大マーケットデザインセンターの初代センター長に就いた。マーケットデザインは2012年と20年にノーベル経済学賞を受賞したが、日本ではまだ聞き慣れない。注目の研究分野のトップランナーが目指す「あす」を聞いた」

・・・経済学の父、アダム・スミスの話から始めさせてください。
彼は、人や企業が自らの利益を求めて行動すれば、需要と供給のバランスで価格が調整され、「見えざる手」に導かれるように経済成長がもたらされると説きました。このように伝統的な経済学は、市場の仕組みを「他から与えられたもの」と捉え、その働きを外側から分析する学問です。
対してマーケットデザインは、市場を「設計(デザイン)できるもの」と考えます。関係する人々の希望や動機付け(インセンティブ)を酌みとりつつ、課題解決に向けて新制度を提案したり、実務の内側で制度を改善したりします。
大きくは、1990年代の米国で携帯電話の電波利用権の競売に成功した「オークション理論」と、比較的最近になって注目された「マッチング理論」に分けられます。私が特に力を入れているのは後者です。
マッチングはもともと数学の理論ですが、様々な条件の下で「人と人」「人とサービス」を結びつけ、限られた資源を効率よく、不満なく、適材適所に配分できる情報処理手順(アルゴリズム)を研究します。好みなどを入力して恋人を探す「マッチングアプリ」がイメージしやすいでしょうか・・・
・・・マーケットデザインが力を発揮するのはこのように、政策的要請や倫理性、公平性などの理由で価格メカニズム、すなわち「見えざる手」が機能しない「市場」です。
例えば、売買が禁じられ、価格が「ゼロ」に固定された移植臓器の提供にも活用されています。海外では約1万件の腎臓移植がマッチングにより実現しました。日本では年間約1万人の研修医と全国各地の病院とのマッチングで活用されています・・・

・・・かつて世界では資本主義が社会主義に勝利し、決着がついたと考えられていました。しかし格差の広がりなどを受け、国内外で「資本主義の限界」や「社会主義の再評価」が言われるようになりました。冷戦時には存在しなかったSNSは、分断をさらに深刻なものにする恐れもあります。
イデオロギーの対立を再び繰り返すのではなく、発展的に解消する知恵が必要です。資本主義の行きすぎで機能不全に陥った「市場」があるなら、それはマーケットデザインの出番です。「見えざる手」が働かなければ、「見える手」で望ましい配分を実現し、修正すればいいのです・・・

人文知応援フォーラム

2021年2月11日   岡本全勝

人文知応援フォーラムが、2月28日に、第1回人文知応援大会「コロナという災厄に立ち向かう人文知」を開催します。オンラインで見ることができます。ご関心ある方は、お申し込みください。

佐々木毅先生の基調講演「ポピュリズムとコロナ禍の社会の中で」のほか、五百籏頭眞先生の「コロナ危機と国際政治~リベラルデモクラシーは普遍的価値たり得るか~」、福岡伸一先生の「科学技術にとって人文知とはなにか」などが予定されています。

非正規労働者の安心を確保する手法

2021年2月8日   岡本全勝

1月30日の日経新聞オピニオン欄、村山恵一さんの「進化系ギグワークの知恵」が参考になります。

・・・登録者が160万人に達した単発アルバイトのマッチング会社タイミー(東京・豊島)。2017年設立で、都合のいい時間に働くギグワークを日本に広めてきた。ネットで迅速に労働力を確保したい企業1万3000社が使う・・・一方でギグワーカーは保護されにくく、「職の安全」が揺らぐとの懸念がついてまわる・・・
・・・特色である機敏性・柔軟性を生かしつつ、職の安全を守れないか。タイミーは「雇用型ギグワーク」を提唱し、注力し出した。
ギグワークは業務委託契約が一般的で、雇用に関する保護がおよばない。タイミーは企業と働き手が雇用契約を結び、最低賃金や割増賃金、労災保険などの対象となるよう切り替えた。契約はアプリで完結し、勤怠管理や給与の計算、振り込みまで自動で進む。いま案件の95%が雇用型だ。
指揮命令できる雇用型の方がギグ化しやすいと企業が考える仕事は多い。倉庫や飲食店での作業などだ。万が一、ケガをした場合も雇い主といて責任をとれる体制なら企業の評判を傷つけない・・・

非正規雇用は、労働者保護の仕組みが少なく、多くの場合劣悪な状況におかれます。企業が経費削減のために非正規雇用を増やした結果、既に労働者の4割が非正規雇用です。
その人たちと家族の生活が引き下げられるだけでなく、社会全体が不安になります。これを「保護」するのは、政府の責任です。労働組合は、あまり機能していないようです。

他方で低賃金の非正規雇用が増えると、経済も活性化しません。企業が自社の経営を優先することが、経済を悪化させるのです。また、非正規労働者の労働条件を悪いままにしておくと、その企業の評価も下がります。経済の仕組みとして、非正規労働者であっても安心が確保できるようになると、政府が介入しなくてもよくなります。