カテゴリーアーカイブ:社会の見方

21世紀最初の20年、自信満々から幻滅へ

2021年2月6日   岡本全勝

1月28日の日経新聞オピニオン欄、ハビエル・ソラナ元北大西洋条約機構事務総長の「21世紀の今後を決める1年」から。

・・・いまから20年前に21世紀を迎えた時には、新しい時代への期待が高まり、特に西側諸国は大胆不敵にみえた。ところが(長い歴史からみれば)一瞬で、時代の精神は根本的に変わってしまった。21世紀は大半の人にとって、いら立ちと幻滅の時代になっている。多くの人が自信ではなく、恐怖を抱きながら将来に目を向ける。
20年前は、さまざまな問題に対する答えは、グローバル化の進展だった。正当でたたえるべき目標だったが、我々は必要な安全装置の組み込みに失敗した。2008年の金融危機や新型コロナウイルスの感染拡大のような惨事は、世界の相互依存がリスクを高めることを示した。専門化と超効率化は、脆弱さの源泉になりうる・・・
・・・21世紀への変わり目では、米国が嫉妬や不安に屈するようにはみえなかった。米同時多発テロは、まだ起きていない。ロシアは主要8カ国(G8)の一員で、北朝鮮は現在にもつながる核拡散防止条約(NPT)脱退を宣言しておらず、イランの秘密の核開発計画も明るみに出ていなかった。経済で米国に後れをとっていた中国が、世界貿易機関(WTO)に加盟したのは01年12月になってからだ・・・

・・・20年の間に、他者とのかかわり方にもかつてないほどの革命が起きた。インターネットが普及し、SNS(交流サイト)が現代の広場になった。期待された成果は得られなかったものの、10年代はじめの中東に広がった民主化要求運動「アラブの春」は、新技術が民主化をもたらす可能性を示す。
ただ、SNSなどで自分と同じ意見だけが耳に入る「エコーチェンバー(反響室)効果」が生じ、公の議論を荒廃させてきた。デジタル空間は、サイバー攻撃や大規模な偽情報の流布を含む「ハイブリッド戦争」を専門とする、破壊的な者の温床になっている。
欧州ではデジタル化の暗黒面として、移民排斥的なポピュリズム(大衆迎合主義)が前面に押し出され、二極化が社会をむしばむ。21世紀初頭の楽観主義は、ユーロ危機から英国の欧州連合(EU)離脱まで、ほぼ恒常的な非常事態へとかたちを変えた。大西洋から太平洋へと経済的・地政学的な力の移行が続いているいまこそ、緊密な連携が必要なのにもかかわらず、分断は鮮明になっている・・・

玉利伸吾・編集委員の解説
・・・自信満々から幻滅へ――確かに20年で世界は一変した。20世紀前半を思い起こさせるほどの大きな変化だ。当時、人類は途方もない犠牲を出した第1次世界大戦への反省から、新たな国際協調のしくみを求めた。だが、選択を誤り、再び世界大戦を起こした・・・この20年、徐々に現実が理想を圧してきた。自国第一主義や保護主義が広がり、国同士の融和を妨げ、国際秩序がぐらついている。バイデン米大統領が国際協調に戻ると宣言したのは一筋の光だ。内外の対立は根深く、再建は簡単ではない・・

21世紀の最初の20年については、別途書こうと用意しています。まず、世界視野からの見方を紹介しました。

自己肯定感の低さ、続き

2021年2月4日   岡本全勝

容姿を気にする」(1月23日)の記述に、読者からお便りをいただきました。

日本人の自己肯定感の低さについて、その方の仮説は「小さい成功の積み重ねが少ないからではないか」です。
小さい成功とは、自己決定、小さな成功体験、他者による無条件の承認などです。
また、評価においても、加点方でなく減点法が多いことも挙げておられます。無条件に褒められることが少ないことは、海外で子育てをした人がよく指摘することだそうです。

岡本行夫著「日本にとって最大の危機とは」

2021年2月1日   岡本全勝

岡本行夫著「日本にとって最大の危機とは?」(2021年、文藝春秋)を、お勧めします。去年4月にコロナで亡くなられた岡本行夫さんが、2017年から2019年にかけて行った講演をまとめたものです。
行夫さんが亡くなられた後、岡本アソシエイツ(行夫さんの会社)の方が、行夫さんの若者への熱い思いを何とか形に残したいとの思いで、企画し原稿を整理して、出版されたそうです。よい本を作って下さって、ありがとうございます。

1990年、湾岸戦争時の岡本さんの活躍、四輪駆動車を日本から運ぶ際の話は有名です。私もすごい先輩がおられるのだと感激し、ファンになりました。その後、大震災で、親しくしてもらうようになりました。漁港の復旧を待たず(待てず)、冷凍コンテナを贈ってくださったのです。拙著にも書きましたが、行夫さんのアイデアと実行力に、私たち役所が「負けた」のです。
この本には、そのほか、ご自身の経験や見聞による知見がたくさん載っています。

若い人たちには、ぜひ読んでいただきたい。特に、第Ⅱ章日本の国際化のために必要なこと、第Ⅲ章個人の国際化、第Ⅳ章皆さんに贈る言葉、を読んでください。
表題にあるように「日本にとっての最大の危機」を憂い、問題点と解決の方向を述べておられます。毎日、ニュースやインターネットで多量のかつ細切れの問題が伝えられますが、それは「消費財」のように垂れ流されます。官僚、企業の幹部候補生をはじめこれからの日本を背負って立つ若者たちは、日々の仕事に忙しいでしょう。本書を読んで、立ち止まって、広い視野から考えて欲しいです。

国際人に必要な資質として他人への優しさ、そして組織として多様性の重要性が、具体事例を挙げて説かれます。「寧ろ牛後となるも、鶏口となるなかれ」(国語の試験では間違い)「欲窮千里目 更上一層楼」は、なるほどと思います。

講演録で、読みやすいです。分量も多くありませんが、読み終えて熱くなります。日本を思う気持ち、世界の困っている人を思う気持ち、思うだけでなく実行する行動力。
私には、「全勝君、まだまだ若いのだから、頑張ってよ」という、行夫さんの声が聞こえてきました。「追悼、岡本行夫さん

五百旗頭真ほか編「岡本行夫 現場主義を貫いた外交官」(2020年、朝日文庫)もお勧めです。

脳の働きと仕組み、推理の能力

2021年1月30日   岡本全勝

乾敏郎・坂口豊著『脳の大統一理論ー自由エネルギー原理とは何か』(2020年、岩波科学ライブラリー)を書店で見かけて、読みました。難しいところ(自由エネルギー)は、飛ばしてです。なるほどねと納得するところがあり、脳の働きについてはまだほとんどわかっていないのだなというのが、読後感です。

自由エネルギーによる統一理論は、脳が推論をする(物を見て事物を認識するにしろ、コップを取るために筋肉の動かすにしろ、推論に基づいて行われています)際の方法を説明する理論です。私の理解では、「脳が推論する際には、最も省エネの方法で行う」です。これは納得できました。
他方で、まだこんなことしか、わかっていないのかとも思います。脳が細胞からできていることは周知の事実ですが、脳細胞・神経細胞を解剖しても、脳の働きはわかりません。でも、細胞はどのようにして、私たちの認識、判断、行動を生んでいるのでしょうね。

推論の方法で、次の説明が役に立ちました。私たちは、仮説を立て検証する方法として、帰納法と演繹法を学びました。もう一つの方法があります。仮説形成(仮説生成、アブダクション)です。脳はそれを使っているようです。
ウィキペディアの説明を借りると、
演繹は、仮定aと規則「a ならばbである」から結論bを導く。
帰納は、仮定aが結論bを伴ういくらかの事例を観察した結果として、規則「aならばbである」を蓋然的に推論する。
それに対し仮説形成は、結論 bに規則「aならばbである」を当てはめて仮定aを推論します。帰納が仮定と結論から規則を推論するのに対し、アブダクションは結論と規則から仮定を推論します。

私たちのふだんの行動や仕事は、この仮説形成ですよね。遠くから人を見てぼんやりとした姿から、「Aさんかな、Bさんかな」と推論します。そして近づいて、「やはりBさんだった」と確認します。
中学生の数学、因数分解の授業を思い出します。適当な数字を当てはめてみて、正解を探します。私は数学は演繹法だと思っていたので、解を見出すとき「(論理的に出てこないのに)なぜそのような解を思いつけばよいのですか」と先生に質問しました。田中先生は「直観サバンナ」と一言答えられました。当時、マツダ自動車の宣伝で「直観サバンナ」という表現が流行っていたのです。私は「へえ~」と感心し、納得しました。50年前の事ですが、よく覚えています。

仕事で案を思いついたとき、「なぜそのようなことを思いついたの?」と聞かれても、「ひらめいた」としか答えられないのです。帰納法でも演繹法でもありません。
もちろん、脳は無から有を生じませんから、いくつもある蓄積の中から、新しい事態に当てはまりやすい仮説を立てるのでしょう。いくつか仮説を立てることができるかどうか、そしてその仮説が当たっているかどうかは、その人の経験と能力によるのでしょう。私たちは日頃の仕事で、その能力を磨いています。

合理的バブルが終わるとき

2021年1月27日   岡本全勝

1月22日の日経新聞「エコノミスト360°視点」、中空麻奈・BNPパリバ証券グローバルマーケット統括本部副会長の「合理的バブルが終わるとき」から。

・・・足元で起きている資産価格と実体経済がかけ離れる「バブル」は、世界の中央銀行による金融緩和で生じたため「合理的」らしい。1990年代の米国が「根拠なき熱狂」に沸いたのとは異なるということだ。合理的に生じたものは合理的に終わると期待され、妙な安堵感も広がる。

しかし、合理的か非合理的かにかかわらず、バブルはいつかはじける。
良く引き合いに出されることだが、電気自動車世界最大手、米テスラ株の時価総額が日本車メーカー9社合計を上回った事実一つをとっても、資産価格の上昇はすでに説明がつかない。警戒感を持ってバブルの波から早く降りれば崩壊に備えられる。とはいえ、まだ株価が上昇するとすれば、指をくわえて見ていられないのが投資家の宿命だ。

問題は合理的か非合理的かではなく、①このバブルは何をトリガーにして②いつ終わるのか――という2点だ。
効率的市場仮説に基づいて価格が決まっているのだとすれば、そこから生じたバブルの限界は、「その価格では転売できなくなった時」か、現実世界の資源の有限性がネックになって「その価格が成立しなくなった時」である。

しかし、前者については、中央銀行が最後の買い手となると市場は理解している。中央銀行の出口戦略がきっかけになるとの声は多いが、極端な政策を取るとは思えない。そうなると、今回のバブルは現実世界の「崩れ」が原因で終わる公算が大きいのではないか。トリガーとなり得るポイントを3つ指摘する・・・
原文をお読みください。