カテゴリーアーカイブ:社会の見方

戦後民主主義の罪、2

2021年4月8日   岡本全勝

戦後民主主義の罪」の続きです。もたらした罪はいくつかありますが、大きく括ると「利己主義」「建て前と本音の使い分け」と「憲法の神格化」に、まとめることができるでしょう。
「利己主義」「建て前と本音の使い分け」は、戦後の発展に寄与しました。しかし、それもいくつかの面で限界に達しました。それが露呈したことで、「戦後民主主義」の限界が見え、評価が下がったのだと思います。

1 利己主義
新憲法が個人の尊重を定めたことにより、各自が自由に生きることができるようになりました。戦前の全体主義や、封建的な束縛(ムラやイエ)から、解き放されました。各人が努力すれば豊かになれるという、経済成長期の時代背景もこれを促進しました。
他方で、自分と家族を優先する思想と行動は、「マイホーム主義」と呼ばれました。それは、社会への貢献を重視しません。

それは、「平和主義」にも現れました。平和を唱えますが、国際貢献はしません。積極的に平和を作るのではなく、他国に守ってもらうのです。そのような中で、物を世界に売りまくるので、エコノミックアニマルとも揶揄されました。
この「ただ乗り」が露呈したのが、1991年の湾岸戦争です。石油を運ぶタンカーを中東の交戦区域に送るのに、支援物資を運ぶ船は危険だと言って行かないのです。これは、戦後日本の最大の恥辱だと思います。

私権の制限が進まないことなども、ここに原因があるでしょう。コロナウイルス感染拡大防止のための行動制限が、各国では法律で行われるのに、日本では自粛要請で行われます。国民に番号を振って、行政手続きを効率化することも、税金の手続きを簡素化することも、進みません。

かつて紹介した「橋の哲学」もそうです。美濃部都知事が、反対意見のある公共事業を中止する際に、「1人でも反対があれば橋は架けない」という言葉を引用しました。この言葉はフランツ・ファノンの言葉だそうですが、この言葉の続きにある「その代わり川を歩いてる」といった趣旨の部分を省略してあります。このような発言が、支持されるのです。
この項続く

うつ病患者の増加

2021年4月6日   岡本全勝

奥田祥子著「社会的うつ―うつ病休職者はなぜ増加しているのか」(2020年、晃洋書房)が、勉強になりました。
職場では、うつ病が増えています。報道でも伝えられ、厚生労働省もストレスチェックを義務づけるなど、対策も取られています。一方で、うつ病の診断が以前より広くなされるようになったとか、病気まではいかない人が申し出るなどの指摘もあります。
「明るい公務員講座」や連載「公共を創る」の項目としても、関心を持っているのですが、なかなか簡潔に説明した書物を見つけることができません。この本は、去年、本屋で見つけて買ってありました。

新聞記者の経験がある研究者(現在は大学教授)が、患者や専門医の協力を得て、うつ病休職者の急増を分析した本です。
うつ病で休職したことがある50人にインタビューして、その詳細な自覚症状を国際的診断基準に照らし合わせると、43人(86%)が該当しません。
さらに、うつ病休職者の10例を取り上げ、6人の専門家に「うつ病」と診断するか再診断してもらうのです。すると、6人全員がうつ病と診断する1例を除いて、残り9例については、6人の医者が「うつ病と診断しない」としたのが平均7.5事例、診断しない率は83%でした。

詳しくは本を読んでいただくとして。著者は、医者が(国際基準に該当しないと思われる患者を)うつ病だと診断するかの理由を、次のようにまとめています。
1 患者の要望。うつ病と診断してもらって、休職したい。職場から離れたい。
2 企業内制度。うつ病診断によって休職しやすい企業内制度が整っている。
3 主治医の意図。患者の要望を診断に反映させたい。抗うつ剤による治療を行いたい。

変えなければ変わらない

2021年4月5日   岡本全勝

「東日本大震災は日本を変えたか」という問いがあります。私は、拙著「復興が日本を変える」(2016年)の「はじめに」で、次のように述べました。
・・・「東日本大震災が大きな被害をもたらしたのに、日本社会は変わっていない」という人もいます。しかし、私は、この言い方について、次の2つの面から疑問があります。
まず、大災害が起きたら、社会は変わるものでしょうか。確かに、大震災は日本社会に大きな衝撃を与えました。大津波はたくさんの街並みを飲み込み、多くの人命を奪いました。原子力発電所の事故は、原発の安全神話を吹き飛ばすとともに、科学技術への信頼も揺るがしました。自然の脅威や科学技術への信頼について、国民の意識を変えたことは、間違いありません。しかし、社会に大きな衝撃を与え、国民の意識を変えたとしても、それだけでは社会は変わりません。無常観や不信感が広がるだけです。その衝撃をきっかけに、国民が行動を起こし仕組みを変えなければ、日本社会は変わりません。
第2次世界大戦の敗戦は、日本社会を大きく変えました。それは、戦後改革が行われ、民主化や自由化が進んだからです。阪神・淡路大震災で、ボランティア活動が社会に認識されました。それは、多くの若者が支援活動に駆けつけたからです。社会が変わるには、私たち日本人が変えようとしなければならないのです。
次に、東日本大震災によって、日本社会は実際に変わったのかどうか。私は、日本社会は変わったし、変わりつつあると考えています。その中で、私たちには今、何をどのように変えようとしているのかが、問われているのです。「大災害が起きたら社会は変わる」というだけでは、何がどう変わるかがわかりません・・・

3月27日の読売新聞夕刊「東日本大震災10年 変わらぬ日本 考える人作り」では次のように書かれています。
・・・東日本大震災から10年を機に、多くの報道があふれた。批評家の東浩紀さんに、この10年の日本を振り返り、課題を挙げてもらった。
「震災で日本は変わるのかなと思っていた。脱原発社会やライフスタイルの変化などが盛んに吹聴され、デモも行われるようになった。だが、ほとんど何の結果も出せず、社会は何も変わらなかった」・・・

3月29日の朝日新聞社説「若者の力と社会課題 大震災後の潮流を育みたい」は、次のように述べています。
・・・その東日本大震災は、もう一つ、いまに連なる変化が顕著になった節目でもある。日々の生活で抱える様々な問題は、災害など非常時に深刻さを増す。課題に直面する人たちへの支援を行政任せにせず、自らかかわりたい。そんな思いを持ち、実際に動く人が目立ち始めた。
特に注目されるのが、若い世代の意識と行動だ・・・

鎌田浩毅先生、新著

2021年4月3日   岡本全勝

鎌田浩毅先生が、中学生向けの新著を出されました。新しく始まった、岩波書店のジュニアスタートブックスで、「地震はなぜ起きる?」(2021年3月)です。

岩波書店には、既にジュニア新書があるのですが、中学生向けに学習入門シリーズを作ったようです。ジュニア新書はちくまプリマー新書とともに、わかりやすく、私も時々購入します。これを、中学生は読まないと言うことでしょうか。確かに、シリーズの中には、「これを中高生がわかるかな」というようなものもありますが。
専門的な話を、一般の人特に中高生にわかりやすく説明するのは、難しいことです。そこで、力量が試されます。

先生は、この春に定年退職で、京都大学レジリエンス実践ユニット特任教授、京都大学名誉教授になられました。ホームページを見ると(アドレスが変更になっています)、相変わらず精力的にご活躍です。

番記者の弊害

2021年4月2日   岡本全勝

3月28日の朝日新聞「日曜に想う」は、曽我豪・編集委員の「新聞記者は蛇、角栄氏の言葉」でした。

・・・派閥番記者が常態化したのは、岸信介氏の後継に池田勇人氏を選出した1960(昭和35)年の自民党総裁選が契機という。権力闘争が派閥単位で行われる現実に合わせた措置で、戦後昭和期の自民党長期政権時代に特有の産物だった。
それなら平成に入ってその時代がいったん終わり、政権交代可能な二大政党制が旗印となった時点で、古いならわしも見直すべきだった。派閥取材偏重から脱皮しようとする今の現場の記者たちの努力を見るにつけ、あの時にもっと早く変わっていればと悔やまれる。

むろん、当事者に肉薄して事実を暴き取材体験を積む意義はいつの時代も同じだ。例えば、批判の声を聞かず国民の心に届く言葉を持たない政権は危機にもろい。その「官邸病」の過去例を元に今の政権を監視すれば、どこに支持を失う落とし穴があるかを早めに報じられよう。
それでも、長く継続的に番記者を続けないと本当のことが聞けない取材文化はおかしい。ただでさえ、取材する側もされる側も圧倒的に男性が多い歴史が長く続き、政治報道は中高年男性の目線に偏しがちだったと思う。派閥番記者に象徴される閉鎖的な取材文化を変えぬまま、窮屈な新規参入を女性や若い世代に強いるのなら、それこそ本末転倒だ・・・

表題にある「新聞記者は蛇、角栄氏の言葉」は、この文章のあとに出てきます、原文をお読みください。