カテゴリーアーカイブ:社会の見方

個人による安全網、日中の違い

2021年10月12日   岡本全勝

10月5日の日経新聞オピニオン欄、本社コメンテーターの梶原誠さんによる「恒大が暴く「富む前の老い」」に次のような話が載っています。

世界の株式市場を揺らした中国恒大集団の経営危機が、世界の株式市場を揺らしています。中国国内では、深圳にある恒大本社に人々が詰めかけています。「カネを返せ」と抗議をやめない人、社屋に乗り込む人、抵抗して警官に引きずり出される人。恒大が販売した「理財商品」を購入して財産を失いかねない人たちです。
中国人には、「日本はなぜ失われた30年を、社会不安もなく過ごせたのか」と不思議に思う人もいるそうです。その背景を、梶原さんが説明します。

日本はバブルが崩壊する前に豊かになっていたから、なんとか耐え抜けた。
1990年に家計が保有していた金融資産は1000兆円強。国内総生産(GDP)の2.2倍で、一人あたり800万円強。昨年は2000兆円弱と、GDPの3.7倍、一人あたり1500万円台に増えている。中国も増やしてきたが、2018年の資産は2300兆円台でGDPの1.6倍、一人あたりは170万円弱にとどまる。
中国でのGDPに対する保険料の割合は4.5%で、日本や世界の6割以下。生命保険などの普及が遅れています。

子どもを産みにくい日本

2021年10月11日   岡本全勝

10月3日の日経新聞1面「チャートは語る」は「育児男女差際立つ日本」でした。わかりやすい図が着いています。ご覧ください。

・・・様々な社会要因のなかでも男性の育児や家事など家庭進出の度合いが出生率に影響があることは大きなヒントとなる。
女性に家事や育児の負担が偏るのは、程度の差こそあれ多くの国や地域で根強い。見逃せないのは、その差が男女で大きくなればなるほど少子化が進みやすいことだ。
経済協力開発機構(OECD)のデータ(19年)で日本と韓国の男女差が際立つ。日本の女性が家事や育児に割く時間は男性の4.76倍、韓国は4.43倍にのぼる。ともに男性の参加時間は女性の2割ほどの計算だ。両国とも急速な人口減少につながる出生率1.5を下回り、韓国は20年の出生率が0.84まで低下した。男女差が2倍以内の国ではおおむね出生率1.5以上を維持している・・・

・・・日本の場合、子育て支援に注ぐ予算が十分とはいえないことも問題視されてきた。OECDのデータ(17年)では、児童手当や育休給付、保育サービスといった日本の家族関係の公的支出は国内総生産(GDP)比1.79%。比率ではフランスやスウェーデンの約半分の水準にとどまる。
支出が多い国は出生率も比較的高い。問題はその使い道だ。ドゥプケ教授の研究では、保育所整備などを通じて母親の負担を減らすほうが父親への給付金支給より出生率の押し上げ効果が高いうえ、政策に要するコストは約3分の1に抑えられるという。
男性が家事育児に参加しやすい環境づくり、そして子育て関連予算の充実と効率的な配分――。日本の出生率向上にはこの両輪が欠かせない・・・

高齢者雇用、必要な働き方改革

2021年10月9日   岡本全勝

10月1日の日経新聞経済教室、八代尚宏・昭和女子大学副学長の「高齢者雇用どう進めるか 40歳代からの働き方改革を」から。

・・・日本の20~64歳人口は、2000年のピーク時からの20年間で約1千万人減少した。一方、この間に65~74歳人口は約450万人増えている。この年齢層が労働市場で活用されれば、人手不足の改善だけでなく、年金給付の節約や高齢者の健康維持など幅広い効果がある。これを妨げている大きな要因が他の先進国では原則禁止の定年退職制だ。
定年制の本質は、個人の仕事能力に大きなばらつきがある高齢労働者を一律に解雇する「年齢による差別」だ。雇用契約で個人の仕事の範囲が明確に定められる欧米方式では、その契約条件を満たす社員を、年齢だけを理由に解雇できない。
これが日本で容認されるのは、雇用と年功賃金が保障される下で、どのような業務でも無限定に担う正規社員という「身分」が、定年年齢で失効するためだ。未熟練の新卒者に多様な仕事を経験させて育てる日本の働き方では、個々の仕事能力についての評価が乏しい。代わりに年齢という客観的基準で、包括的な雇用契約を打ち切る「形式的平等性」が尊重されてきた。

政府は、定年制は維持したままで、65歳までの雇用を企業に義務付ける高年齢者雇用安定法を改正し、さらに70歳まで努力義務として延長した。だが定年後の再雇用は1年間の雇用契約を更新することが多く、能力が高くても企業内で責任あるポストに就くことは困難だ。その半面、賃金が抑制されても雇用は守られるため、定年を契機に企業外で活躍する機会費用を高める「飼い殺し効果」もある。
日本企業にとって現行の仕組みのままでの定年制廃止は困難だ。定年制をなくすには、40歳代から社員の多様な能力を自発的に生かすキャリアを形成し、高齢者の雇用がコスト高にならない仕組みに変える必要がある。それを支援する政府の役割が同一労働同一賃金原則と解雇の金銭解決ルールの制定だ。この働き方改革は安倍政権では腰砕けになり、旧来の雇用慣行を正当化するだけに終わった・・・

・・・日本企業は新規一括採用などの雇用慣行の下で、若年労働者のスキル形成のために長期間の訓練投資を行ってきた。だが今後の低成長期に、60歳まで訓練を続けるのは過剰投資だ。少なくとも40歳代からは一般の社員は自ら選んだ専門的職種に専念する。その生産性と賃金が見合う限り、企業にとって定年退職を求める理由はなくなる。
他方、今後の管理職を含むタレント社員には、より無限定な働き方が要求される。一般社員の仕事範囲が限定されれば、緊急な仕事への対応を誰かに押し付けられない。管理職が自ら対応せざるを得ないため、それに見合った高い仕事能力が必要だ。将来、経営を担うタレント社員には、年齢にかかわらず昇進か退職かの二者択一が迫られる。

大卒社員なら、誰でも職種や地域を問わず無限定に働く代わりに、定年までの雇用と年功賃金が保障される。この働き方は、過去の高い経済成長と人口構造の下で適した慣行だった。
それが維持できなくなった以上、単に定年後の雇用対策でなく、少なくとも40歳代からの現役の働き方改革が求められる。タレント社員を目指すか、専門職にとどまるか、どの職種の技能蓄積か、などの企業内でのキャリア形成は人事部任せでなく、自ら選択できる。
そうなれば日本の雇用慣行を維持しつつ定年制を廃止し、高齢者をその多様な能力に応じて活用できる。企業による強制ではなく、自ら望む時期に退職することが、高齢化社会での望ましい働き方になる・・・

日本の近代産業を率いた人たち

2021年9月30日   岡本全勝

栂井義雄著『日本資本主義の群像 ―人物財界史』 (2021年、ちくま学芸文庫)を読みました。日本の近代産業を率いた人としては、渋沢栄一が有名です。今年のNHK大河ドラマに取り上げられ、本屋にはたくさんの関連書籍が並んでいます。

この本は、渋沢栄一を筆頭に、明治から戦前までの財界人10人を取り上げて、その仕事ぶりを紹介したものです。簡潔にまとめられていて、読みやすいです。冒頭に、財界・経済界がどのようにしてできたのかが解説されていて、勉強になります。
歴史というと、政治家や武士が中心に描かれますが、経済を動かした人たちの役割も重要です。それら以上に、一般の人がどのように暮らしていたか、それがどのように変化したことの方がより重要ですが。こちらの方は、小説やドラマにはしにくいですね。

財界人10人で明治から戦前までの経済を描くのは無理がありますが、大まかな姿や時代の雰囲気が分かります。数字だけでは分からないことです。特に、近代産業が興り、成長する時代です。この人たちが中心になって財閥がつくられ、日本の産業界を引っ張ります。富国強兵・殖産興業を大方針とした政府と軍部の関係も、描かれます。
その後、才能と意欲のある個人が事業を起こす時代から、会社組織になって経営者が育成される時代になります。すると、特色ある個人事業家は少なくなります。

ところで、歴史小説にしろこの本にしろ、多くは成功者の話です。それは面白いのですが、他方で敗者もたくさんいます。それらも書かれていると、時代の動きがより分かり、また勉強になるのですが。それは、難しいですかね。

ネクタイとスーツは伝統衣装になるか

2021年9月28日   岡本全勝

ネクタイをしている人が少なくなりました。クールビズが定着するまでは、会社員は、真夏でも、紺のスーツにネクタイをしていました。最近はお堅い銀行員や公務員も、ネクタイをしなくなりました。
紺のスーツと白のシャツは残っていますが。これは、ほかの色のものを持っていないからでしょう。いずれ、変わると思います。

この傾向が進むと、スーツにネクタイ姿は、どうなるか。
参考になる事例が、女性の和服です。私の子どもの頃は、晴れ着であり普段着でした。その後、晴れ着として残りました。七五三のお祝い、結婚式と披露宴、公式の会合にです。男性にとってスーツにネクタイも、女性の和服と同じように、ハレの場の服装になるのかもしれません。

すると問題は、スーツにネクタイに代わる、男性のおしゃれ着です。
ネクタイは機能としては意味がなく、むしろ邪魔なのですが。代わり映えのしない紺のスーツと白のシャツでは、ネクタイが唯一のおしゃれです。そして、体に合ったスーツとアイロンをかけたシャツは、しゃきっと見せてくれます。これがなくなったら、単にだらしない男性が、できあがります。

軍隊をはじめ制服は、ほかの人たちと識別する機能とともに、それを着ると気持ちが引き締まります。勤め人にとってスーツは仕事服であり、それを着ることで頭が仕事をする状態に入るのです。在宅勤務で普段着のまま、布団から出てきた姿でも仕事をすることはできますが、気分は乗りませんよね。