日経新聞経済教室2月18日、宮川努・学習院大学教授の「賃上げ問題の論点。環境整備こそ政府の役割」から。
・・日本全体の生産性格差が広がる中で、賃金格差拡大を避けつつ、多くの人が賃金の上昇を享受する方法は2つある。
1つは、個人所得税の累進度を高め、高所得者から低所得者への分配度を強めることである。しかしこの方法は、高所得者の意欲を損ね、賃金上昇の源泉である生産性上昇そのものを抑制する危険性がある。
したがって望ましいのは、2つめの方法である。すなわち、ある程度の累進税率を維持しつつ、流動的な労働市場を活用し、より生産性が高い、賃金の高い職種・業種へ労働者が移動しやすい環境を作っていくことである・・
・・労働者への配分決定は、労働組合との協議を踏まえた経営者の重要な決定事項である。国際的に高い法人税を払い、規制によって経営戦略の制約を受けながら、さらに賃金の決定まで政府からの要請に追随する姿を見ると、経営者の役割が改めて問われているように思う。今回の賃上げ決定が、政府からの指示待ち企業を多く生み出すとすれば、それは成長戦略が目指す方向とも矛盾する・・
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経済
医療の違い、諸外国との比較
日経新聞連載「やさしい経済学」井伊雅子先生の「医療の公平性とは」2月21日から。
・・日本の地方自治体が支出する医療費を分析すると、少なくとも3~4割が高血圧や糖尿病などの生活習慣病と呼ばれる疾患に使われています。
英国、スウェーデンといった欧米諸国では、医療機関への受診は、症状が安定していれば、高血圧症で年1回、慢性心不全で6か月に1回、糖尿病で3か月に1回で、その間は専門の看護師たちが悪化しないように管理します。それでも平均寿命は日本とあまり変わりません・・
医師の考えの違いなのか、患者(国民)の意識の差なのか、医療政策の違いなのでしょうか。
官民ファンド、新しい政府の役割
2月19日の日経新聞に、「官製リスクマネー急増」という記事が載っていました。
・・政府が官民ファンドなどへの出資を通じたリスクマネーの供給を増やしている。政府出資に使う「産業投資」の残高は昨年末で4兆6069億円。前年末比13%増加し過去最大となった・・最近の財政投融資で、最も大きな変化が官民ファンドを通じた政府によるリスクマネー供給だ・・
そして、主な官民ファンドの例として、農林漁業成長産業化支援機構(2013年1月設立)、PFI推進機構(2013年10月)、クールジャパン推進機構(2013年11月)、インフラシステム海外展開支援のための機関(2014年度中を予定)が、上げられています。
「産業投資」は、記事では「政府がファンドなどへの出資金として使うお金。財政投融資の一種で、ファンドはこのお金を財源に企業に投資する。融資に比べ回収できる可能性が低くリスクマネーに分類される。財源は日本たばこ産業(JT)や国際協力銀行(JBIC)の配当金や納付金で、税金は原則使わない」と、解説されています。
財政投融資は、かつては第二の予算と呼ばれ、国が公庫や公団、地方自治体に低利な資金を融資することで、道路や住宅などのインフラ整備を進めました。郵便貯金などで集めた巨額の資金を、国策に沿った事業(法人)に低利融資します。税金では不足する予算(事業)を、融資で行うという知恵です。「国主導・追いつき型行政」の手法でした。使命を終えたということで、お金を集める側の郵政改革と使う側の財政投融資改革(資金運用部の廃止)が行われました。
この記事では、官民ファンドへの出資で、リスクマネーへの供給という、新しい時代の役割を担っているということでしょうか。こういうことを書いた財政学の教科書って、まだないのでしょうね。
市場と国家、政策の設計と意図せざる効果
最近話題になった、2つの政策を取り上げます。ある政策目的のために、民間の活動を誘導するべく制度を設計したのですが、意図とは違った結果も生んだ例です。
一つは、病床に関する診療報酬です。2月7日の朝日新聞は、「重症向け急性期病床4分の1削減へ 医療費抑制で転換」という見出しで、次のように伝えています。
・・症状が重く手厚い看護が必要な入院患者向けのベッド(急性期病床)について、厚生労働省は、全体の4分の1にあたる約9万床を2015年度末までに減らす方針を固めた。高い報酬が払われる急性期病床が増えすぎて医療費の膨張につながったため、抑制方針に転換する。4月の診療報酬改定で報酬の算定要件を厳しくする。
全国に約36万床ある急性期病床の削減は、診療報酬改定の目玉のひとつ。実際は急性期ではない患者が入院を続けるケースも目立ち、医療費の無駄遣いと指摘されてきた。急性期病床以外での看護師不足も招き、「診療報酬による政策誘導の失敗」といった批判も強まっていた・・
・・7対1病床は、高度医療を充実させるため2006年度に導入された。入院基本料は患者1人につき1日1万5660円。慢性期向け病床(患者15人あたり看護師1人)の1・6倍だ。全国の病院が収入増をねらって整備を進め、導入時の8倍の約36万床にまで増えた。一般的な病床の4割を占める。厚労省の想定を大きく上回る規模に膨らみ、この部分にかかる医療費は年間1兆数千億円とされる・・
これは、「7対1入院基本料」という制度です。入院患者7人当たり看護師1人という手厚い配置をすると、病院に高い報酬が支払われる算定方式です。急性期の高度医療を充実させるために、誘導策として導入されたのですが、当初の意図を超えて、必要以上に増えすぎたと批判されています。
2006年の4万床が、36万床にまで一気に増えたのですから、誘導策としては高い効果があったのでしょう。ありすぎたのかもしれません。しかし、軽症患者も入院するほか、看護師の争奪戦が起きて、看護師不足を招く一因になったという批判もあります(2月13日付読売新聞「医療費抑制へ、脱・大病院志向」)。
もう一つは、太陽光発電など再生可能エネルギーの普及策です。2月15日の日経新聞は「太陽光、発電しない672件の認定取り消しへ、経産省」という見出しで、次のように伝えています。
・・経済産業省は14日、再生エネでつくった電気を一定の価格で買い取る制度で、国の認定後も発電を始めようとしない672件の認定を取り消す検討に入った。発電に必要な太陽光パネルの値下がりを待って不当な利益を得ようとする事業者が多いためだ。
2012年に始まった買い取り制度は、太陽光や風力など5種類の再エネでつくった電気を一定価格で買い取ることを電力会社に義務づけている。太陽光は初年度に1キロワット時あたり40円(税抜き)という有利な価格が付き、参入が相次いだ。
この制度で電力会社に電気を買い取ってもらうには、事前に発電計画を提出して国の認定を受ける必要がある。認定さえ受けておけば、いつ発電を始めても20年間は40円で電気を買い取ってもらえる。太陽光パネルなどは急速に値下がりが進んでいるため、発電開始を遅らせればパネル価格の下落分だけ事業者の利益が膨らむ。
14日発表した調査結果によると、2012年度に認定を受けながら発電を始めていないなどの問題がある事業は738万キロワット分(1643件)。認定を受けた事業全体の発電容量の半分近くになった。
買い取り制度では、電力会社が電気料金に再生エネの買い取り費用を上乗せする。発電事業者の不当な利益を許せば、再生エネ普及という目的を達成できないまま、国民負担だけが膨らむ・・
これは、「認定後何年以内に事業を開始すること」とか「成果を事後評価し、一定基準を満たさない場合は、助成を取り消す」というような仕組みを組み込んでおけば、防げたのではないでしょうか。
葬式代
1月16日(すみません、古くなって)の朝日新聞オピニオン欄「葬式代、どうします?」から
ある調査によると、日本の葬儀の90%は仏教式です、費用の平均は、葬儀一式が127万円、別途お寺へのお布施が51万円、飲食接待費が46万円だそうです。
「寺は比較的新しい。自前のホールと祭壇を持ち、葬祭業者を介さない葬式を提案している。檀家は約700軒。情報公開を進め、1970年代後半から毎年、檀家に決算書を配っている。お葬式でのお布施の平均額は約26万円だ。1件ずつの内訳をまとめた一覧表がある。それを示しながら住職が語るには・・」
・・ほら、お布施が4万円や5万円の方もいらっしゃるでしょう。ああ、この3万円は生活保護のお宅でしたね。事情によっては、お布施は受け取りません。昨年は約80件のお葬式にかかわりましたが、3件はお布施ゼロです。それどころか、寺の持ち出しもあります。ここに赤い字で「13万8千円」と書いているのは、この寺が棺などの実費を払ったという意味です。亡くなったのは60代で独り暮らしの方。手元には1万円しか残っていませんでした・・
・・例えば親を長く介護していると医療費などが非常にかさみます。その末に、いよいよ最期のお葬式に100万円も200万円もかけるなんて、とてもじゃないけど無理ですよ。「もうお葬式をする費用がないけど」という方の相談にも乗っています・・
・・30~40年前までこの地域は寺も檀家も、みんな貧乏でした。私の母だって借金に走っていました。それでもお葬式となると地域の人たちが3日間、ずっと煮炊きをして食事を用意していた。地域コミュニティーは冠婚葬祭でつながっていた側面があります。しかし、高度経済成長期からお葬式はどんどん大きくなっていく。会葬者が千人規模というケースもあり、まるで家の権威を周囲に見せるためのようでした。バブル期は寺の再建ラッシュで、檀家は何十万円もの寄付を平気で出してくれました。その時期、お布施は全国的に一気に上がった。いまもその流れを断ち切れずにいるわけです・・