「経済」カテゴリーアーカイブ

経済

税制の社会的機能

毎年末に税制が議論され、改正方針が決まります。もちろん、どれだけの税収を得るかという課題の他に、社会の変化にどう対応するか、またその税制によって特定の政策を誘導することが課題になります。
ところで、かつて「庶民の税金を安くするために、大企業に多く課税すればよい」という主張がありました。今となっては、お気楽な主張でした。近年のように、企業が国際的に活動するようになると、法人課税を高くすると、企業は本社や工場を国外に移転させます。よって、各国で法人課税の引き下げ競争が起きています。
「金持ちから取ればよい」という主張もありました。これも、同様です。あまり高くすると、金持ちは国外に逃げるでしょう。いえ、既に逃げている人もいるようです。しかし、格差問題が焦点になっています。その際には、所得(稼いだ額)に対しどのような累進税率にするのか、資産(持っている財産)に対してどのような税金をかけるかが、課題になります(ピケティ氏の主張)。
このほか、排気ガスがクリーンな車の税金を安くして環境に優しくすること。住宅ローン控除を多くして住宅建築を促進すること。企業誘致や投資のために減税が利用されることなど。税金の社会的機能は多岐にわたっています。配偶者控除が専業主婦に有利になっていること、またその控除金額がパートに出るか出ないかの決め手になることも指摘されています。関税が、収入確保より国内産業を保護の観点から議論されること(TPP交渉)。住宅が建っている土地の固定資産税を減免していますが、このことで空き家がそのまま放置されます。
意図した社会的機能とともに、意図せざる機能もあります。税制の教科書や解説書には、どのようなモノやコトにどれくらいの税金をかけるか、そしてどれくらいの税収が上がっているかが解説されていますが、このような説明も必要です。

乗客の希望と会社の意向

私は、毎日の通勤に地下鉄を使っています。丸ノ内線も混雑しますが、銀座線はすごいです。銀座線の車両は小さく、短いようです。車内のポスターに「銀座線全面リニューアル」と載っていました。少しは混雑が緩和するのかなと思いましたが、違いました。ホームドアやトイレの改修だそうです。それもうれしいですが、乗客は混雑緩和を一番望んでいると思います。
混雑時にこれ以上列車の本数を増やすことは難しく、連結する車両を増やすしかないのでしょう。プラットフォームを延長する工事は、お金がかかるのでしょうね。

伊藤隆敏先生

日経新聞夕刊「人間発見」12月15日から19日は、伊藤隆敏・政策研究大学院大学教授の「理論の力で政策を正す」でした。この欄は、いわば私の履歴書の短縮版で、5日間で1人の人を取り上げるようです。先生の学生時代から、留学、若手研究者の頃の努力が書かれています。
先生には、経済財政諮問会議議員をしておられた頃に、親しくしていただきました。第1次安倍内閣の頃です。私は内閣府の経済財政部局で官房審議官をしていて、民間委員のお世話をしていたのです。他に、八代尚宏国際基督教大学教授、御手洗冨士夫・経団連会長(キヤノン会長)、丹羽宇一郎・伊藤忠会長でした。
これまで付き合いのない分野の方、また一流の方と接することができて、非常に勉強になりました。 身内とのおしゃべりより、異業種との交流は、面白く勉強になります。
当時は、民間委員が議論のたたき台(民間議員ペーパー)を出して、諮問会議の議論を方向付けるのです。ペーパーを作る勉強会に陪席させてもらったり、説明をしたりします。伊藤先生から経済学的な議論や諸外国との比較を教えてもらい、八代先生から規制改革の議論を学べるのです。「行政改革の現在位置~その進化と課題」年報『公共政策学』第5号p37~(2011年3月、北海道大学公共政策大学院)を書いた時も、八代先生にアドバイスをもらいました。
伊藤先生はこの連載で、「世界で戦える日本にしたい」と考えてきた、と書いておられます。先生は東大教授から、政策研究大学院大学に移られ、来年1月からは、アメリカのコロンビア大学の教授にも就任されるとのこと。ますますエネルギッシュにご活躍です。

坂根社長。日本企業、ボトムアップと現場の強さ

日経新聞「私の履歴書」11月は、坂根正弘・元コマツ社長です。11月21日の「現地化の限界」から。
・・2度目の米国駐在は、日本企業と米国企業の強みと弱みを見極める貴重な機会だった。日本企業には米国流の経営を見習って改めるべき点も多いが、逆に「日本のほうが文句なく優れている」と感じた部分もある。それは生産現場の能力の高さだ。
当時交流のあった社外の米国人の一人に、デトロイト・ディーゼル社のペンスケ会長がいた。弁舌さわやかで指導力に富んだ米国産業界で著名な人物だったが、その彼が「どんな優れた経営者もQCDの問題は解決できない」と漏らしたことがある。
QCDとは、クオリティー(品質)、コスト(費用)、デリバリー(納期)の頭文字で、製造現場の実力を測る最も重要な指標だ。ところがペンスケ会長によると、経営トップがいくら旗を振っても、それだけではQCDは改善しない。現場がやる気を出して、地道な努力を日々重ねることが絶対条件。その意味で「ボトムアップの弱い米国企業には限界がある」というのが、彼の嘆きだった・・
アメリカの会社で、坂根社長は、日本人をできる限り減らして、米国人に置き換える方針をとります。しかし、ただ一つ「これだけは現地化が難しい」と感じた職種があります。生産技術者です。アメリカでは、新機種の設計を手がける開発技術者と、工場の設備企画や改善を進める生産技術者の間にステータスの違いがあって、前者が後者より上なのです。だから優れた技術者が、工場に行きたがらないのだそうです。それに対して、日本の多くの大手メーカーでは、開発と生産が対等の立場で協力します。坂根社長の自信は、コマツを回復に導きます。詳しくは原文をお読みください。

被災地町長の増税への考え方

須田善明・宮城県女川町長のブログから。女川町は津波によって、町の中心部が壊滅しました。現在、土地のかさ上げや山を切り取って、まちづくりをしています。まさに、町全体の作り替えです。11月4日、総理官邸で開かれた消費税増税のための意見聴取に出席された際の発言です。
・・今回私が呼ばれたのは被災地の視点から、ということだと思うが、まず断っておくのは、当然ながら、私の意見は被災地の民意や被災自治体の首長の考えを代弁するものではなく、あくまで故郷復興に行政トップとして携わる一政治家としてのものである。
また、国家的な視点で行われるべきであり、その際に「被災地がこうだから」というようなことが議論の中核に挟まれることは望ましいとは考えない。ご配慮いただくのはありがたいが、誤解を恐れずに言えば、大震災での被災者は全国民の1%くらいの割合である。
但し、福島の方々については最後までしっかりしたケアが当然。こうしたことを除いての残りの99%、つまり国家全体というマクロな視点で行われるべきものであると考える。「被災者がこうだから」というようなことは別の場での議論であろう・・
・・関係して被災地の復興や経済状況等に若干触れる。
「税が上がれば被災者は大変ではないか?」と言えば大変なのは日本全国どこでも一緒で同じ。増税して喜ぶ方がいたら会ってみたいものである。
そういう中で、本町では震災から二年が経った時に介護保険料の基準額を2割以上引き上げた。町の介護保険会計が破たんしないよう、そうせざるを得なかった。町議会でも相当な議論をいただいたが、最終的に日本共産党所属以外の議員の方には賛成をいただいた。同様に、東松島市では、南三陸町もそうだったと思うが、国保の保険料を15%程度引き上げた。
被災後の状況ではあっても、パブリック(サービス)の母体となる制度をきちっと維持していかなくては、その提供すらできなくなる、という判断だった。被災地ですら、そのような判断を今の状況の中でやっている、ということを申し上げておきたい・・