カテゴリー別アーカイブ: 経済

経済

中小企業ではまだファックス

先日「電子化の進め方、いまだにフロッピーディスクが使われていた」を書きました。企業では取引は電子化されていると思っていたのですが、ファックスでのやりとりが、まだ多いのだそうです。5月30日の日経新聞「中小企業、なおFAXの山 40年未完の電子受発注

・・・官民挙げて「デジタルトランスフォーメーション(DX)」が叫ばれても、中小企業の事務机からファクスの山が消えない。日本では1970年代から企業間取引の「EDI(電子受発注)」システムが動き出したが、2次、3次の下請けは蚊帳の外のまま。中小企業の大多数が不在のDXではサプライチェーン(供給網)の生産性は底上げされない・・・

記事で取り上げられている鋼材加工メーカーは、約400社の取引先を抱え、ファクスで届く注文書を6人の社員がその内容をコンピュータに手作業で入力しているのだそうです。
指摘されている問題は、次の通り。
・中小企業はまだファックスを使ってやりとりしている。
・大企業は電子受発注しているが、業界によって仕様が異なり、接続できない。

日本産業の没落、ものづくりを過信

5月17日の朝日新聞オピニオン欄、諸富徹・京都大学大学院経済学研究科教授へのインタビュー「資本主義、日本の落日」から。

日本は主要国で真っ先に経済成長が滞っただけでなく、脱炭素など環境対策でも出遅れが目立つようになった。環境と経済の関わりについて研究を重ねてきた経済学者の諸富徹さんは、そこに日本の資本主義の「老衰」をみる。産業の新陳代謝を促し、経済を持続可能にする道を、どう見いだせばいいのか。

――日本は「資本主義の転換」に取り残されつつある、と指摘しています。
「世界の産業は、デジタル化やサービス化が進んでいます。経済の価値の中心は、モノから情報・サービスへと大きくシフトし、資本主義は『非物質化』という進化を遂げているのです。それなのに、日本はいまだにものづくり信仰が根強く、産業構造の根本的な転換ができていません」
「二酸化炭素(CO2)を1単位排出するごとに、経済成長の指標となる国内総生産(GDP)をどれだけ生み出したのかを示す『炭素生産性』をみると、日本は先進国で最低水準です。成長率が低いうえ、その割にCO2排出を減らせていないことを示しています。エネルギーを多く使いながら付加価値が低い、20世紀型の製造業に依存しているせいです」

――かつて日本は、環境技術を誇っていたのでは。
「1970年代の石油危機を受けて省エネを推し進め、環境先進国と呼ばれた時代がありました。日本の資本主義に活力と若々しさが残っていたころです。過程で産業競争力もつき、90年代までは、その遺産でやっていけました」
「しかし、2000年代に入っていくと様相が一変します。欧州は再生可能エネルギーに真剣になったのに、日本は不安定でコスト高だと軽視し続けました。いずれは新しい産業になり、コストも下がるとの主張にも、政財界の『真ん中』の人たちは聞く耳を持ちませんでした」

――コロナ下での経済政策は、むしろ既存の産業や雇用を守ることが重視されました。
「個々の労働者を政府が直接守る仕組みが貧弱なので、企業に補助金や助成金を出して、これまで通り雇い続けてもらうしかなかったのです。これなら失業率は低く抑えられますが、CO2を多く出したり生産性が低いままだったりする企業も温存されます。働き手も、新たなスキルを身につけるでもなく、飼い殺しになっている。コロナの2年間は、ほぼ既存の構造をピン留めしただけでした」

――一方、デジタル化に関しては、コロナ危機が日本に変化を迫った面もありました。
「日本がずっとデジタル化の入り口でとどまっていたのは、プライバシー問題などをめぐる慎重論が勝っていたからです。米国や中国は、まずはデジタル技術を社会経済に組み込み、その上で弊害に対処するアプローチで先行しました。日本もデジタル化を一気に進めざるをえなくなったのは、パンデミックがもたらした前向きな変化の一つではあります」

――ではどうすれば。
「定常状態を脱するには、伸びる産業や企業に働き手が移っていかなければなりません。同一労働同一賃金の促進が一案です。正規・非正規雇用の格差を縮めるだけでなく、生産性の低い企業が人件費カットで生き延びるのを防ぎ、産業の高付加価値化を促せるからです。環境税や炭素税の導入も、最初に例に挙げた『炭素生産性』の低い企業に退出を迫る、似た効果が期待できます」
「その際、職を失った人も生活を心配せずに新たなスキルを身につけられる安全網を整えるのが、極めて大事です。そうして継続的な賃金上昇を促していくのです」

二つの産業政策、キャッチアップ型と開拓型

4月27日の日経新聞経済教室、矢野誠・経済産業研究所理事長の「分配と成長、高質な市場カギ 「新しい資本主義」の課題」が勉強になりました。

・・・誰もが自由に参加できる市場があり、工夫や熱意、想像力や創造力が生かされて技術開発が起きる。そうした民間活力でけん引された代表例がIT(情報技術)革命である。
とはいえ、個々の経済主体の意欲だけでは実現できない技術開発もある。その場合、初期投資の段階で研究開発や技術習得を促進する産業政策が必要になる。

古典的な産業政策は先進技術へのキャッチアップを目的とした。独立戦争直後の米国をリードした政治家アレクサンダー・ハミルトンが、保護なしには英国の先端技術に追いつけないとしたのが始まりとされる。20世紀半ばには、先端技術の学習期間短縮に向けた産業政策理論が確立し、日本の高度成長を裏打ちした。技術に大きな差があることや一定程度の市場があることが成功の条件だろう。

第2次世界大戦以来、先端技術の開発や経済構造の転換を目指す「開拓型」ともいうべき新しい産業政策が採用されるようになった。それまではワットの蒸気機関やフォードのベルトコンベヤーなど、多くの本源的技術が私的な生産活動で生み出された。それが第2次大戦期に転換され、政府主導により原子力エネルギーやコンピューターなどが開発され、戦後に有人ロケットやインターネットなどに継続された。
最先端技術の開発は、初期段階で大規模な固定費を必要とし、民間に任せていては成功しない。経済構造の転換も同じ問題がある。1960年代には根岸隆氏(日本学士院会員、東京大学名誉教授)により、収穫逓増の視点からこの問題に精緻な数学的定式化が与えられ、開拓型産業政策の基礎が作られた。それが成功するには、将来のニーズへの高い洞察力が不可欠だ・・・

記事には、「産業政策の昔と今」という表題で、キャッチアップ型と開拓型の違いが表になっています。わかりやすいです。

価値観共有が支える世界経済秩序

4月22日の日経新聞、ファイナンシャルタイムズ記事の転載、ラナ・フォルーハーさんの「世界経済秩序の刷新を 米国は「価値観の共有」重視」から。

「新自由主義」という言葉が最初に使われたのは、1938年にパリで開かれた会議で、経済学者やジャーナリスト、実業からが集まって、世界の資本主義をファシズムや社会主義から守るための方策を議論しました。
当時は、ヨーロッパは第一次世界大戦でずたずたになります。社会に深刻な分断が生まれ、労働市場や家族構成も変化しつつありました。スペイン風邪が世界的流行をし、インフレ、そして大恐慌です。貿易戦争で経済が壊滅します。

当時の新自由主義は、世界の市場をつなげることでこれらの問題を解決しようとしました。自由放任主義ではなく、新しい枠組みを提示したのです。それが実現したのは第二次世界大戦後ですが、それが半世紀以上にわたり機能しました。
しかし、この枠組みを利用しつつ、違う考えの国、中国が大きくなって、「一世界二制度」になっています。当時と現在とよく似た状況にあります。そして、経済を円滑に発展させるには、仕組みとともにそれを支える価値観の共有が重要だということが分かります。

安いことは良いことか、経済と行政

2022年1月24日付「自治日報」に砂原庸介・神戸大学教授が「公共サービスの価値と価格」を書いておられました。

・・・岸田政権が発足してから打ち出した最重要課題のひとつに、分配を進めるための公的価格の引き上げがある。看護・介護・保育などの公共サービスにかかわる人たちの給与を引き上げることが目的とされているという。20年以上にわたって、「お値段据え置き」が続き、給与にかかる部分だけでなく、さまざまなところで節約を求められてきた結果、多くの公共サービスは基本的な資産の維持管理もままならない状況となっている中で、価格引き上げを歓迎する声もある。

日本では、公共サービスの対価を取ることへの抵抗が強いと思われる。公共サービスは、低所得などで困難を抱える人々を対象にするのだから、無料とは言わないまでも低価格の慈善的な性格が強いものであるべきだという発想がある。さらに、モノを伴わずに人が何かをしてくれるサービスというものにお金を支払うべきだという観念がそもそも弱いと言われる。税を払うことへの忌避感・負担感が強く、「税金を払っている」ということで公共サービスへの支払いを行っていると見なされることも、公共サービスから対価を取ることを難しくしているだろう・・・

指摘の通りです。バブル経済崩壊後の30年間で、「安い方が良い」という信仰は、衣類や外食産業をはじめ広く製造業やサービス業に行き渡りました。それは消費者にとって良いことなのですが、そのために正規社員が非正規社員に置き換えられ、社員の処遇も上がらないのでは、社会にとって良くないことです。
この30年間、日本の給料は上がらず、韓国に抜かれました。ビッグマックは、ソウルやバンコックより東京の方が安いのです。
給与が上がらない、それで消費が増えない、そこで給与を上げない、消費が増えないという悪い経済循環に落ち込んでいるのが、この30年間、失われた30年の実態です。必要な値上げができていないのです。