カテゴリー別アーカイブ: 経済

経済

外国人目線で外国に売る

5月18日の朝日新聞経済欄「選んだスタートアップ:3 海外へ和菓子、感性を目利き」から。

・・・ 淡いピンク色の小包には、桜の花びらが大きく描かれている。開けると、老舗メーカーのかりんとうやどら焼きがぎっしり。アメや抹茶のティーバッグも添えられている。
日本の伝統的な和菓子などを海外に届ける定期便「SAKURACO(サクラコ)」の春シーズン商品。仕掛けたのはスタートアップ(新興企業)「ICHIGO(イチゴ)」(東京都)だ。
社長の近本あゆみさんは、外国人観光客が銀座で日本の菓子を「爆買い」する姿にヒントを得て、2015年に起業した。前職のリクルートでECサイトを立ち上げた経験を生かせると考えた。
海外のトレンドや国内の新商品に敏感に反応する、買い手を飽きさせないよう状況に応じて工夫を凝らす……小回りが利くスタートアップならではの強みを発揮した。
菓子のセットを毎日数千個、180カ国・地域に向けて発送している。コロナ禍での巣ごもり需要も追い風に、創業から6年で年商40億円に達した。

成長を優れた人材が支えている。
菓子は、日本人のバイヤー7人が目利きして国内各地から集める。老舗の和菓子から大手の定番スナック菓子まで目を配り、開発秘話や店の歴史を紹介する冊子も添える。バイヤーを採用する際は、過去の経験にとらわれず、新たに海外向け商品を開拓できるかを見極める。外国人が多数のチームになじめることも大切にしている。
買い手となる外国人の目線も重要だ。商品やウェブサイトの意匠は東南アジア系の社員らが担う。当初、日本人に頼んでいたデザインは、かわいらしい「少女マンガ風」(近本さん)で、海外の客には響かなかった。そこで思い切って外国人にデザインを託した。
作品には「すごい」「おいしい」といったシンプルな言葉が、ひらがなで大胆にあしらわれていた。近本さんは「これでいいのか」と半信半疑だったが、採用すると売り上げは一気に伸びた。
いま従業員100人のうち8割は外国人で、国籍は欧米や東南アジアなど様々だ。宣伝コピーや冊子の文章は、米国や英国、カナダ出身者ら英語が母語の社員が表現を工夫する。言い回しが不自然なだけで、興ざめしてしまう客もいるためだ・・・

社会人への金融経済教育

5月11日の日経新聞オピニオン欄、白根寿晴・日本FP協会理事長の「社会人に必須の金融経済教育」から。

・・・資産所得倍増計画達成の成否は、将来のために資産形成を迫られている社会人の金融経済教育と、その結果として得られるファイナンシャル・ウェルネス(生活の経済的な側面を効率的に管理できる能力やその状態のこと)の実現に深く結びついている。

学校教育段階では、すでに中学校と高校で金融経済教育が始まり、時間とともに実績の積み上げが期待される。しかし、社会人の中でも国内企業数の90%以上、被雇用者数の約70%を占める中小企業の被雇用者と個人事業主は大手企業との賃金格差が大きく、これまで資産形成に取り組む余裕がない人が多かった。
資産形成に必要な知識の習得や専門家との相談の機会にも恵まれていなかった。社会人になっても毎月の給与明細書や年末の源泉徴収票の内容を理解していない人も相当数いる。内容を知ることで所得税や住民税、健康保険、年金保険制度などの理解に結びつくが、住民、顧客の相談窓口を担う公務員や金融機関職員の中にも内容をよく理解していない人が少なからずいるようだ。

生活困窮者の自立支援に取り組むように、まず自治体が将来の「生活困窮者予備軍」の発生を防ぐことが重要だ。住民がファイナンシャル・ウェルビーイング(経済的幸福感)を享受するために、社会人向けに金融経済教育の場を提供する必要がある・・・

日本的思考パターンへの苦言

川北英隆・京都大学名誉教授のブログ、5月18日の「日本的思考パターンへの苦言」から。詳しくは、原文をお読みください。

最近、1990年頃からの30年強の間、日本経済が何を考えてきたのかを、当時の指揮者であり識者だった人達にヒアリングしている。そこで分かってきたことが3つある。
1つは、90年以降の日本のバブル崩壊について、当時は何も知見がなかったことである。
2つに、日本の金融システムが揺らぐとは誰も考えなかったことである。政府の統制下にある金融というか銀行が不健全になるとは、想定外だった。
3つに、将来ビジョンを描く必要性である。
現実化したリスクに対処するには、リスクをある程度処理できたとして、その後にどのような世界を作ろうとするのか、そのイメージが明確でないと、リスクへの対処が行き当たりばったり、つまりパッチワークになる。この点は今の日本に一番欠けているというか、ほとんど誰も想定していないことではないのか。日本という経済社会の最大の抜けであり、課題である。

日本のサラリーマン社長

4月21日の日経新聞オピニオン欄、イェスパー・コール氏(マネックスグループ グローバル・アンバサダー)の「サラリーマン社長は進化する」から。

・・・日本の企業経営者はネガティブな評価にさらされることが多い。確かに日本の「サラリーマン社長」はプライベートジェットで世界中を飛び回ることが少なく、逆に会社のファクス番号が名刺に記されているケースが多い。しかし仕事を成し遂げる能力をみてみれば、日本の経営者の実績はなかなかのものである。
1995年から2022年にかけて、日本の上場企業の売上高はわずか10%しか増えなかった。しかし同じ期間に経常利益は11倍に増えた。投資や経営の経験者なら、売上高という追い風を受けずに利益を伸ばすことがいかに困難かはよく理解できるだろう。
同時期、米国の「スーパースターCEO(最高経営責任者)」は売上高が3倍になる追い風を受けつつ、利益を6倍に増やした。もちろんこの数字も誇るに値するが、日本のサラリーマン社長が利益を11倍に膨らませたのに比べるとパッとしない・・・

・・・それではなぜ、サラリーマン社長の実績が株価に反映されてこなかったのだろうか。答えは簡単だ。1995年以降、日本の上場企業の設備投資は10%以上減少した。一方、米国の上場企業の設備投資は2.5倍に増えた。さらに米国のCEOが従業員の報酬を約90%引き上げたのに対し、日本の社長は約25%引き下げてしまった。
株価は将来の企業業績に対する期待にもとづいて決まる。そして企業のリーダーが設備や従業員に投資しない限り、将来の業績への期待が生まれることはない・・・

日本経済はどこで間違ったか

川北英隆・京都大学名誉教授のブログ、4月19日の「日本経済はどこで間違ったか」から。

・・・日本経済の地位低下がますます明瞭である。国内総生産(GDP)でドイツに追い抜かれるとの観測が現実化しつつある。いずれインドにも抜かれるらしい。当然、アメリカと中国の背中は遥かに遠くなった。トップ集団から脱落するマラソン選手を見ているようだ。
何回書いたように、日本がトップ集団に位置することを切望している僕としては悲しい。それを他人事のように語る政策担当者や企業経営者が情けない。自己責任で対処するしかないようだ・・・

・・・1980年代後半のバブルの時代から金融システム危機を経て、日本経済の長い凋落が始まった。バブル崩壊の後、10年で立ち直るはずの日本経済だったのに、30年経った今も立ち直れていない。
その根本的原因は勇気を持って叫び、行動した者が少なかったことにある。目先の保身と事なかれに徹した者が多すぎた。
バブルの頃、日本に人口減少時代が到来するのは明らかな予測だった。その時代に向けて本気で対応した企業はごく少数だった。生産力人口の減少(1995年がピーク)とバブル崩壊の重りが不運だったと言えばそれまでだが、生産力人口減少の経済的な意味を本気で考える企業や政策担当者が皆無に近かったのが本質だろう。
むしろ企業は1990年代中盤まで続いた円高に恐れ慄き、海外進出を怠った。バブル崩壊に縮こまり、グローバルな競争に打ち勝つための設備投資を遅らせた。後者に関して、バブルと崩壊の主因が不動産投資や財テクと称された株式投資にあったのに、精算設備の積極的な増強と刷新まで同類とみなしたのである。羹に懲りて膾を吹いたわけだ・・・

・・・このサラリーマン的対応は近年、ますます大手を振っている。多くの対応が責任逃れ的になり、過去を踏襲し、誰も新たな決断しようとしない。これが2008年のリーマンショック以降の日本において、とくに目立つ特徴ではなかろうか。だから経済マラソンで先頭集団から置き去りにされ、後続に抜かれようとしている・・・