11月24日の日経新聞経済欄に、林三郎・第一興商社長のインタビュー「カラオケから見る消費」が載っていました。カラオケボックスを運営している会社です。記事の主たる内容からは、ずれますが、興味深かった点を紹介します。
「少子高齢化でアルコール離れも進んでいます。カラオケ市場への影響はどうですか」という問いに。
・・夜の生活を楽しむナイトマーケットは年々着実に縮小している。全体的に酒を飲まなくなっているほか、当社がカラオケ機器を提供しているスナックやバーなどの経営者の高齢化が進み、廃業も増えている。このためカラオケ参加人口は2013年が4710万人で、直近のピークである1995年に比べると2割減少している・・人は酒を飲まなくなったとはいえ、どこかで発散する場所が必要なわけで、手軽なレジャーの場として安定需要が見込める・・確かに若者人口は減っているが、最近はシニアや家族連れの利用が増えている。ファミリーが利用したり、高齢者が歌の練習をしたり、昼間の需要が盛り上がっている・・
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家風や社風の再生産
先日の「日本人の自己認識」(11月2日)の補足です。私は、『新地方自治入門』p198で、地域の財産として次の5つを挙げ、特に見えない資本の重要性を述べました。社会的共通資本、ソーシャル・キャピタルです。
1 自然資本=自然環境
2 社会資本(施設資本)=公共施設、公共的施設
ここまでは、目に見えます。
3 制度資本=教育、医療、保険、警察、司法、保育、介護
4 関係資本=信頼などの人間関係
5 文化資本=社会としてのものの考え方、治安、風紀、助け合い、勤労を尊ぶ気風、お国柄
世間ではまたこれまでは、社会資本と言えば公共施設を指しました。しかし、ここに挙げた目に見えない人間関係は、社会で暮らしていく上で、重要な基盤です。
この記事を読んだ人の反応です。
「このような日本人の自己認識が好循環を呼ぶのは、家庭や職場、学校などでも同じなのでしょうね。朝の挨拶や、勤勉な家風が、自然と子どもや職員、生徒に伝わって、家風や校風、社風ができるのでしょう。そしてそれが、再生産されるのだと思います。教訓をいくら紙に書いても、それだけでは良い校風は育たないでしょう」。
おっしゃるとおりです。
日本人の自己認識。親切、他人の役に立とうとする。生まれ変わっても日本に
統計数理研究所が発表した、「日本人の国民性調査」結果が、各紙で取り上げられています。
日本人の長所として「親切」「礼儀正しい」が5年前の調査と比べて約20ポイントも増えて、70%を超えています。また、「勤勉」も77%です。さらに、たいていの人は「他人の役に立とうとしているか」あるいは「自分のことだけに気をくばっているか」については、「他人の役に」という人は1978年は19%に過ぎなかったのが、毎回少しずつ増加し、前回の36%から今回は45%となって、「自分のことだけ」の割合 (42%) を上回りました。
その原因として、大震災後の日本人の姿に影響を受けたのではないか、と分析しています。すなわち、助け合う被災者や支援するボランティアの活動を見て、親切や他人の役に立つことを日本人の長所ととらえる人が増えたということです。
自分たち日本人が「親切である、他人の役に立つ人たちである」という認識は、大きな社会的共通資本です。大災害時に、発展途上国だけでなく先進国でも、暴動や略奪が起きます。それに比べ、日本人の冷静さや助け合いは、すごい財産です。各個人にとっても、安心して暮らすことができます。経済活動や行政活動にとっても、「無駄なコスト」が減ります。これは、社会を安定させます。
そして、このような認識は、好循環を招くと思います。「私もそう行動しよう」と思うことで、次に良い行動が生まれます。東日本大震災は、日本人に助け合いの気持ちと行動を、さらに大きくさせたといえるでしょう。その萌芽は、阪神・淡路大震災でのボランティア元年です。
このほか、「もう一度生まれかわるとしたら日本に生まれてくる」が、前回の77%から83%へと上昇しています。日本を良い国だと思っているのです。日本人は、謙遜を良しとします。さらに、一部の知識人には、欧米と比べて自国を悪く言う人がいます。それを思うと、意外なほどに高い数値です。
国民は、生活の分野で、日本社会に誇りを持っています。海外旅行での体験やニュース報道で、諸外国の欠点も見聞きするからでしょう。もちろん、この日本社会への信頼は、日々行動することによって維持されるものです。努力なくしては、維持できません。そして、日本社会にも、他にさまざまな問題があり、他方で日本だけが「一国繁栄」「一国安心」で満足していてはいけません。
ブラジルの経済社会変化
10月28日の読売新聞国際面に、ブラジル大統領選挙結果の解説が載っていました。現職のルセフ氏が接戦の末に再選されたのですが、ブラジルの社会変化を背景に、政権の課題が解説されています。
それによると、現在の与党である労働者党が政権を取った2003年には、人口の過半数が低所得者で、中間層は4割にも満ちませんでした。それが2014年には、低所得層は25%に減少し、中間層が6割に達しました。政権による貧困対策、経済対策が成功したのです。記事には、変化を示す棒グラフもついています。一目瞭然です。
この急激な変化に驚きます。たぶん、かつての高度成長期の日本と同じでしょう。この経済発展によって、国民は豊かになり、平等にもなりました。しかしそれは、個人の生活だけでなく、家族のあり方や国民の意識も、大きく変化させます。それによる戸惑いや軋轢に、どう対応するか。これが大きな課題になっているでしょう。そして、政権としては、これまでの貧困層から中間層へと、支持基盤を変えていく必要があります。これは、難しいことです。
賭博は白昼堂々とするものではない。内田樹さん
朝日新聞10月21日オピニオン欄、内田樹さんのインタビュー「カジノで考える民主主義」から。カジノを含む統合型リゾート開発を推進しようという法案(カジノ推進法案)について。
・・僕は別に賭博をやめろというような青臭いことは言いません。ただ、なぜ人は賭博に時に破滅的にまで淫するのか、その人間の本性に対する省察が伴っていなければならないと思います。
賭博欲は人間の抑止しがたい本性のひとつです。法的に抑圧すれば地下に潜るだけです。米国の禁酒法時代を見ても分かるように法的に禁圧すれば、逆にアルコール依存症は増え、マフィアが肥え太り、賄賂が横行して警察や司法が腐敗する。禁止する方が社会的コストが高くつく。だったら限定的に容認した方が「まし」だ。先人たちはそういうふうに考えた。
酒も賭博も売春も「よくないもの」です。だからと言って全面的に禁圧すれば、抑圧された欲望はより危険なかたちをとる。公許で賭博をするというのは、計量的な知性がはじき出したクールな結論です・・
「十分な依存症対策を取れば、カジノ法案に賛成ですか」という問に対して。
・・賛成できません。法案は賭博を「日の当たる場所」に持ち出そうとしている。パチンコが路地裏で景品を換金するのを「欺瞞だ」という人がいるかもしれませんけれど、あれはあれで必要な儀礼なんです。そうすることで、パチンコで金を稼ぐのは「日の当たる場所」でできることではなく、やむをえず限定的に許容されているのだということを利用者たちにそのつど確認しているのです。競馬の出走表を使って高校生に確率論を教える先生はいない。そういうことは「何となくはばかられる」という常識が賭博の蔓延を抑制している。
賭博はあくまでグレーゾーンに留め置くべきものであって、白昼堂々、市民が生業としてやるものじゃない。法案は賭博をただのビジネスとして扱おうとしている点で、賭博が分泌する毒性についてあまりに無自覚だと思います・・
このほかにも、メディアの責任について鋭い指摘をしておられます。原文をお読みください。