カテゴリー別アーカイブ: 歴史

大倉集古館、陶磁器の悲劇

先日、大倉集古館の「海を渡った古伊万里~ウィーン、ロースドルフ城の悲劇~」に行ってきました。
「オーストリア、ウィーン近郊にたたずむロースドルフ城には、古伊万里を中心とした陶磁コレクションが多数所蔵され、かつてそれらは城内を美しく飾っていました。ところが、第二次世界大戦後の悲劇により、陶磁コレクションの大半は粉々に破壊されてしまったのです。本展では、佐賀県立九州陶磁文化館所蔵の古伊万里の名品とともに、ロースドルフ城の陶磁コレクションと破壊された陶片を展覧し、さらには、日本の技術により修復した作品などを初公開いたします」

日本と中国から海を渡り、数百年大切に保管されていた名品が、無残にも粉々にされました。戦争とはいえ(戦闘は終わっていたのでしょうが)、理解のない兵によって壊されます。持って帰るには不適だったのでしょう。
彼らにすれば、「ドイツは、膨大な数の殺人をした。私たちは、物を壊しただけだ」と言うでしょう。しかし・・・考えさせられます。21日までです。

大倉集古館は、ホテルの建て替えと合わせて、改修されました。引家をしたのです。そのビデオを見ることができます。すごいことをするものです。

古代スラヴ語

服部文昭著『古代スラヴ語の世界史』(2020年、白水社)を読みました。去年、何かの拍子で買ってあったものです。古代教会スラヴ語とも呼ばれるようです。
古代スラヴ語と言いますが、古代にスラヴ人が話していた言葉ではありません。教会から始まった書き言葉です。このあたりが、ややこしいです。
私は「古代のスラヴ語が、どのようにして記録され、読解されたのだろう」と思って、この本を買ったのですが。話されていた古代スラヴ口語は、残っていません。

古代スラヴ文語は、キリスト教会や王国の支配者によって支えられ、民族間で伝えられ、滅んでいきます。ローマ教会、フランク教会、ギリシャ正教の3つどもえのスラヴ人争奪、各民族の支配者の思惑、フランク王国と東ローマ帝国との勢力争いに、この文語が翻弄されるのです。
9世紀に、スラヴ語を書き記すために、グラゴール文字が発明されます。なかなか書きにくい絵文字のような字体です。その後、ギリシャ語を基にしたキリル文字が導入されます。ロシア語はそれを引き継いでいます。スラヴ人でも、西方の国はローマ字表記になっています。このあたりも、政治に翻弄された歴史によるものです。
この本も、「世界史」と銘打っています。その点は、興味深かったです。

「花粉症と人類」

小塩海平著『花粉症と人類』(2021年、岩波新書)を読みました。花粉症が「発見」され、どのような社会問題となったかの解説です。
花粉症の知人によると、今年は症状がきついそうです。私も、3年ほど前から毎年この時期に目がかゆくなり、鼻が詰まります。「明日香村は杉ばかりだ。そこで育ったのだから、花粉症にはならない」と言っていたのですが・・・

この本は、勉強になりました。
花粉症は大昔からあったようですが、イギリスで18世紀に流行し(発覚し)、原因から「枯草熱」(干草熱。花粉によるアレルギー)とわかりました。
ついでアメリカで、19世紀後半に「ブタクサ熱」が大流行します。この頃は、先進国の病、それも上流階級がなる病気とされたようです。ちなみに、ブタクサとセイタカアワダチソウは似ていますが、別物です。
そして日本の杉花粉症です。世界3大花粉症だそうです。1980年代後半から、爆発的に増加しました。平成になってからの病気なのですね。プロ野球の田淵幸一選手が、花粉症で引退したことを、初めて知りました。

人類は誕生以来、花粉とは付き合ってきました。干し草、ブタクサ、杉が増えたので、花粉症ができたといわれますが、縄文時代から弥生時代の方が、杉花粉がたくさん飛んでいたらしいです。環境の変化によって花粉症が増えたといわれますが、詳しい仕組みはわかりません。
この本を読んでも、よくわかりません。
杉花粉以外のアレルギーもあります。なぜ、杉花粉症が多いのか。花粉の数なら、日本では稲、ヨーロッパでは小麦がもっと多いと思います。
個人差はなぜか、そして年を取ってから突然なぜ発症するのか。
明日香村で杉に囲まれた過ごしていた子どもの時や、杉が多いと思われる徳島や富山で過ごした青年と壮年期にはなんともなく、60歳を超えた東京でなぜ発症するのか。
わからないことだらけです。

上野誠著「万葉集講義」

上野誠著『万葉集講義』(2020年、中公新書)が、わかりやすかったです。書評欄で取り上げられているの見て、読みました。万葉集は大学生の頃、読み始めたのですが、途中で挫折しました。本棚の隅に、岩波の古典体系が寝ています。

上野先生の解説を読んで、なるほど万葉集とはこのようなものなのだ、このように読むのかと、理解できました。「令和」の原典ということから、万葉集は脚光を浴びています。またその前から、解説書はたくさん出ています。それぞれに特徴があるのでしょうが。
上野先生の主張は、次の4点に集約され、それがこの本の構成になっています。
・東アジア漢字文化圏の文学
・宮廷の文学
・律令官人の文学
・京と地方をつなぐ文学

お勧めです。いずれ時間ができたら、万葉集そのものに挑戦しましょう。

21世紀最初の20年、自信満々から幻滅へ

1月28日の日経新聞オピニオン欄、ハビエル・ソラナ元北大西洋条約機構事務総長の「21世紀の今後を決める1年」から。

・・・いまから20年前に21世紀を迎えた時には、新しい時代への期待が高まり、特に西側諸国は大胆不敵にみえた。ところが(長い歴史からみれば)一瞬で、時代の精神は根本的に変わってしまった。21世紀は大半の人にとって、いら立ちと幻滅の時代になっている。多くの人が自信ではなく、恐怖を抱きながら将来に目を向ける。
20年前は、さまざまな問題に対する答えは、グローバル化の進展だった。正当でたたえるべき目標だったが、我々は必要な安全装置の組み込みに失敗した。2008年の金融危機や新型コロナウイルスの感染拡大のような惨事は、世界の相互依存がリスクを高めることを示した。専門化と超効率化は、脆弱さの源泉になりうる・・・
・・・21世紀への変わり目では、米国が嫉妬や不安に屈するようにはみえなかった。米同時多発テロは、まだ起きていない。ロシアは主要8カ国(G8)の一員で、北朝鮮は現在にもつながる核拡散防止条約(NPT)脱退を宣言しておらず、イランの秘密の核開発計画も明るみに出ていなかった。経済で米国に後れをとっていた中国が、世界貿易機関(WTO)に加盟したのは01年12月になってからだ・・・

・・・20年の間に、他者とのかかわり方にもかつてないほどの革命が起きた。インターネットが普及し、SNS(交流サイト)が現代の広場になった。期待された成果は得られなかったものの、10年代はじめの中東に広がった民主化要求運動「アラブの春」は、新技術が民主化をもたらす可能性を示す。
ただ、SNSなどで自分と同じ意見だけが耳に入る「エコーチェンバー(反響室)効果」が生じ、公の議論を荒廃させてきた。デジタル空間は、サイバー攻撃や大規模な偽情報の流布を含む「ハイブリッド戦争」を専門とする、破壊的な者の温床になっている。
欧州ではデジタル化の暗黒面として、移民排斥的なポピュリズム(大衆迎合主義)が前面に押し出され、二極化が社会をむしばむ。21世紀初頭の楽観主義は、ユーロ危機から英国の欧州連合(EU)離脱まで、ほぼ恒常的な非常事態へとかたちを変えた。大西洋から太平洋へと経済的・地政学的な力の移行が続いているいまこそ、緊密な連携が必要なのにもかかわらず、分断は鮮明になっている・・・

玉利伸吾・編集委員の解説
・・・自信満々から幻滅へ――確かに20年で世界は一変した。20世紀前半を思い起こさせるほどの大きな変化だ。当時、人類は途方もない犠牲を出した第1次世界大戦への反省から、新たな国際協調のしくみを求めた。だが、選択を誤り、再び世界大戦を起こした・・・この20年、徐々に現実が理想を圧してきた。自国第一主義や保護主義が広がり、国同士の融和を妨げ、国際秩序がぐらついている。バイデン米大統領が国際協調に戻ると宣言したのは一筋の光だ。内外の対立は根深く、再建は簡単ではない・・

21世紀の最初の20年については、別途書こうと用意しています。まず、世界視野からの見方を紹介しました。