5月25日の読売新聞「あすへの考」、エマニュエル・トッドさんの「対露敗北なら「米帝国」崩壊」から(「あすへの考」は、先日に私も載せてもらった言論欄です。すごい欄に載せてもらったのですね。同列に論じたら失礼ですか) 。
・・・まず2期目のトランプ米大統領の政治の暴力性に驚きました。ロシアの2022年2月の侵略で始まったウクライナ戦争をめぐってはバイデン前政権の対露対決から、当事者のウクライナ、同盟相手の欧州をないがしろにして、親露和平路線へと一変した。高関税措置は、中国に手厳しいのはまだ理解できるとしても、欧州に敵対的であり、枢要な同盟国の日本さえも標的にした荒々しさです。欧州と日本を従属国として扱っているかのように見えました。
トランプ現象とは何か。それを考えるために、第2次大戦後の米国主導の国際秩序を「米帝国」と捉え直してみました。米国は「帝国」の中心ですが、全体ではない。英国と英語圏諸国、米国に解放されたフランスを含む西欧諸国、米国に占領された日独両国などが「帝国」の主要構成国です。米国の軍事力が安全保障の要となっている領域ともいえます。
「帝国」はウクライナ戦争までは安定していた。米国は情報通信技術と金融資本主義で世界を支配し、モノの生産はもはや副次的で、中国や日本やドイツ任せでも構わない、というのが西洋の大方の意見でした。「帝国」は自らの国内総生産(GDP)の3%でしかないロシアに対決する決断をして経済制裁を科す。ウクライナには武器を供与し、軍事情報を提供して全面的に支援しました。
だがロシアは持ちこたえた。米国防総省が作戦計画に関わったとされる23年夏の「反転攻勢」もしのいだ。以後、戦況はロシア優位に転じ、ウクライナの敗北、つまり「帝国」の敗色が濃厚になる。経済制裁は奏功せず、「帝国」には戦争継続に不可欠の砲弾を調達する方策もないことが露呈した。戦争に深く関わった米国は敗北を感知できたのです。
ロシアを打ち破れないということは、「帝国」を揺るがす衝撃的事態です。1989年に東西冷戦に敗れたソ連の衝撃に比較できる。トランプ氏の再選は戦争の劣勢が潜在的要因です。優勢であれば、バイデン氏の後継者の民主党候補カマラ・ハリス氏が勝利したはずです。
トランプ現象は、トランプ氏の支持基盤が大衆であり、その為政が既成秩序を不安定化している点で「革命」といえます。私は1917年のロシア革命を想起します。第1次大戦の対独戦の劣勢が引き金でした。ロシアはその後、戦争継続を主張するメンシェビキと革命遂行に固執するボリシェビキが対立し、後者が権力を握り、対独戦を放棄します。トランプ氏が革命に専念するのか、対露戦を継続するのか、予断を許しません・・・