カテゴリー別アーカイブ: 地方行財政

地方行財政

自治制度改革の方向

自治研究」5月号(第一法規)に、久元喜造総務省行政課長が、「地方自治制度改革の方向と展望」と題して、論文を書いておられます。今国会に提出している地方自治法改正を中心に、その背景や今後の方向についてつっこんだ議論をしておられます。
課長の視点は、これからの制度改正は、「単なるパッチワーク的な制度改正の寄せ集めではなく、地方自治制度の改革ともいうべき大きな流れになっていく」「小石をいくら積み重ねても岩にはならない」というものです。
私も大賛成です。これまでの自治制度の議論は、改正結果と制度の解説で、将来方向が見えませんでした。関係者の方に、これに続く論文を期待します。

新刊:交付税の資料

平成16年度版「地方交付税のあらまし」(地方財務協会、税込み800円)ができました。地方交付税制度と地方財政の仕組みを解説した図表・資料集です。三位一体改革についても、最新の資料を盛り込んであります。
元々は、10数年前に私が交付税課の課長補佐をしていたとき、講演や講義・国会議員への説明に使う資料を整理して印刷してもらったものです。その後、充実して現在のかたちになりました。毎年度4月の始めに出版しています。「わかりやすい、最新の資料」だと自負しています。ご利用ください。

三位一体改革7

4 これで地方の自由度は高まるのか。
(答)
「地方団体の自由度」には、二つの軸があります。
一つは、お金の自由度(縛り)軸、すなわち、「国庫補助負担金で国の縛りがある」か「一般財源で地方が自由に使える」かです。
二つは、仕事の自由度(縛り)軸、すなわち、「国による法令の縛りがある」か「法令の縛りがなく、地方が自由に仕事ができる」かです。
一般財源化すると、地方団体は国に対して補助金の申請をしなくてよくなり、結果についての国による検査もなくなります。その財源は、地方税か地方交付税あるいは一般財源としての交付金となるので、国の指図無しに自由に使うことができます。
しかし、その事務の仕方が地方団体の自由になるかは、別のことです。義務教育職員給与費の国庫負担金がなくなり、地方税に振り替えられても、教職員を設置する基準を定めた法律がある限りは、地方の仕事の自由度は高まりません。
今回の公立保育所負担金一般財源化の場合は、これまで国庫負担金の対象とならなかった、基準に満たない小規模・駅前保育所も財源措置の対象となり、市町村はやりやすくなります。これは、①の自由度です。
しかし、②については変化ありません。本当に自由に仕事をするためには、法令の縛りをなくす必要があります。三位一体改革その3参照
5 今回の改革で、廃止された補助金に見合うだけの一般財源が与えられない地方団体がある。また、税源移譲が進むと、都会と地方との財政格差は広がるが、どのように対処するのか。
(答)
所得譲与税は、人口で配分します。全国では、廃止する補助金総額と新たな一般財源総額は一致させるとしても、個別の団体では、補助金廃止に見合うだけの所得譲与税等が与えられない地方団体も発生します。これらの団体では、不足する分を交付税が補てんすることになります。
一方、所得譲与税等が、廃止された補助金額以上に来る団体にあっては、その分だけ交付税が減ります。「損得」はない仕組みになっています(法律ができるまで3で麻生大臣がパネルを使って説明しているのは、このことです)。
今後、税源移譲が進むと、地域間の税収格差・財政力の差は広がることがあります。それに対処するためには、
まず、なるべく地域に偏在しない税源を移譲します。現在提唱されている「住民所得課税の一定税率化」は、法人課税に比べ所得課税は偏在度が少ないこと、累進制から比例化にすることによって、偏在度が緩和されます。この他、地方消費税も偏在度が小さいです。法人課税の地方団体間での「分割基準」を見直すことでも、偏在度は小さくできます。
それでも解消されない分は、地方交付税制度で調整します。さらに、地方交付税で財源調整できない不交付団体については、譲与税や国庫補助金の譲与制限・交付制限などが考えられます。
6 歳出削減は、どこまで進むのか。
(答)
今後の地方団体の歳出は、国の基準があるものにあっては、各年度の国の予算編成によって決まります。また、それ以外のものは、地方財政計画の策定を通じて決定されます。
当面、「骨太の方針」では今後3年間で、地方公務員数は4万人削減・一般行政経費は前年度以下・投資単独事業はバブル期前に戻すこととしています。
さらなる予測は、三位一体改革その5参照
7 財源保障機能と財源調整機能は、縮小するのか。特に、財務省は財源保障機能の廃止を主張しているが
(答)
わが国の行政の仕組みを前提とすると、両機能は廃止することができません。すなわち、国が地方団体に多くの事務を義務付けているいること。一方、地方団体には十分な税源が与えられておらず、また地方団体間に税源の偏在・財政力格差があることから、財源保障機能と財源調整機能は、両方とも必要があるのです。
国が地方団体に事務を義務付けておきながら、十分な財源措置をしないことは、許されないのです。「独自課税で賄えばいい」という主張もありますが、現状の税制では、とても十分な額は確保できません。
ただし、地方団体へ義務付けた事務が縮小することによって、財源保障の範囲は縮小します。(4月10日)

持田先生の新著

持田信樹東大教授が「地方分権の財政学-原点からの再構築」(東京大学出版会)を上梓されました。税源配分・地方交付税の制度設計・地方債制度の将来像等のテーマからなる「分権的な財政システムの構築」を目指す論文集です。外国での研究の成果も入っています。関係者や関心ある方には、ぜひ読んでいただきたいと思います。
このような理論的基礎に支えられ、財政の分権が進むのだと思います。改革の実行には、「研究者による理論」と「実務家によるデータの提供と選択肢の提示」と「関係者と国民の理解」と「政治の決断」が必要です。
拙著も、引用していただきました。三位一体改革が進みつつあるので、私も「地方財政改革論議」を書き換えなければと思っています。

三位一体改革6

今年度の三位一体改革に関する国会での議論
その主な質問と答を、紹介します。もっとも、答には私の解説と主張も含まれていますので、公式見解ではありません。
1 三位一体改革といいながら、地方財源が大きく減っているではないか。
(答)
三位一体改革には、2つのものが含まれています。
①その1は、国庫補助金廃止とその一般財源化です。
②その2は、交付税の縮小です。
このうち、①では地方収入は減りませんが、②で地方収入が減っているのです。
「三位一体」改革と呼ばれていますが、私は「2+1」と解説しています。「国庫補助金廃止」と「一般財源化」はセットです。これが私の言う「2」の部分で、狭義の三位一体改革、①です。これは質的改革です。補助金廃止のうち地方が引き続き行うものは、税源移譲をします。16年度は、過渡的方法として、所得譲与税と税源移譲予定特例交付金です。
交付税の縮小は、この①とは別物です。量的改革です。
①は地方の自由度を高めるためのものですが、②は財政健全化が主な目的です。拙著「地方財政改革論議」でも、地方財政には2つの課題があるとして、まず②を述べ、次に①を述べてあります。
①の部分は、それに見合う地方財源総額を確保してあります。また、個別団体についても、地方交付税によって財源保障と財源調整をしています。所得譲与税や特例交付金が必要額だけ来なくても、交付税で埋めます。だから、これによって財源が減ったということはありません。しかし、②が大きかったので、「三位一体改革で収入が減る」と誤解があったのです。
もし、「税源移譲で収入が純増する」と思っておられたら、誤解です。私は、「国にそれだけの力がない」と繰り返し言っています。「地方税財源の充実強化」も同じです。税源移譲で地方税が増え、地方財源の自由度は質的には高まります。しかし同額だけ国庫補助金が減り、合計では量的には増えません。それを増やそうとするなら、「増税」が必要です。(3月21日)
2 地方財源の削減が大きく、また突然だったので、地方団体は予算編成に苦慮している。
(答)
交付税総額は、平成15年度も7.5%減っています。16年度(6.5%減)の方が、減り方は少ないのです。それなのに悲鳴が上がるのは、臨時財政対策債の減が大きいからです。交付税総額は、この4年間減少しています。しかし、臨時財政対策債が減るのは今回が初めてで、「交付税総額と臨時財政対策債合計」が減るのは初めてなのです。
これまで地方財政計画総額が減り続けているのに、「交付税と臨財債の合計」が減らなかったのは、簡単には、「税収が減り続けたから」です。今年度は、歳出が減って、税収も減らず、財源不足額が縮小したのです。三位一体改革その参照
「交付税が減るのは予想していた。しかし、臨時財政対策債が減るとは思っていなかった」とおっしゃる首長さんが多いです。総務省も、昨年の6月の「骨太の方針」や11月の「麻生プラン」で、「交付税が減りますよ」とPRしていました。しかし、臨財債が減ることは、十分理解してもらえてなかったようです。
予算編成に苦慮しておられる地方団体のために、「地域再生事業債」を用意しました。この地方債を建設事業に充て(充当率を上げ)、一般財源を「追い出すこと」で、予算を組みやすくしようとするものです。
また、「説明不足」との批判に対しては、新年度早々、ブロック会議などに出向いて、総務省から説明をすることとしました。
3 税源移譲は、ほとんどないではないか。
(答)
今年度、国庫補助金見直しは1兆円を達成しましたが、その内訳は
①一般財源化(所得譲与税化):0.2兆円
②暫定的一般財源化(税源移譲予定交付金化):0.2兆円
③公共事業等の削減(事業量の減):0.5兆円、です。
一般財源化等は①+②で、0.4兆円です。
16年度の一般財源化等は0.6兆円ありますが、その内訳は
④所得譲与税化:0.4兆円(①と前年度交付金化したものの合計)
⑤税源移譲予定交付金化:0.2兆円、です。
この批判には、2つのものが含まれています。
その1は、「1兆円の補助金削減に対し一般財源化が0.4兆円しかない」ことです。これはそのとおりで、残りは補助金の廃止だからです。
批判の2は、「税源移譲がないではないか」です。今回の一般財源化④と⑤は一般財源ですが、確かに地方税になったものはありません。ただし、④所得譲与税は、国が徴収する地方税です。ゆえに、国の一般会計にも計上されません。地方の財源としての性格を持っています。
政府は、平成18年度までに、地方税に本格的に税源移譲することを決めています。後3年見ていてください。